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August 05, 2006

2年間で変わった、のか?

2006年8月5日付の朝日新聞朝刊にこんな記事が出ている。「東京地裁『番組のネット転送 適法』:TV局の中止申請 却下」。

これは「実態」の差なのか、それとも判断の「個人差」のレベルなのか。大きな変化なのか、それともたいしたことはないのか。

記事によると、概要はこう。

このサービスは永野商店(東京都)の「まねきTV」。ソニー製の市販装置を使い、テレビ番組を、専用ソフトを組み込んだパソコンなどにネット経由で流す。利用者が購入した装置を入会金3万1500円、月額利用料5040円で預かり、約50人にサービスを提供していた。

この記事からすぐに思い出すのは、「録画ネット」のことだ。

「録画ネット」については、以前こんなことを書いたことがある。このサービスは、要するに、ユーザーが買った録画機器を会社が預かって管理し、それで録画した内容をネットでユーザーに送る、というものだった。テクニカルな点とか細かいあたりはわからないが、サービスの本質的な特徴は、上記の「まねきTV」とほぼ同等のように思われる。

「録画ネット」は、機器の管理・支配の実態がサービス提供企業側にあるとして、私的複製ではないから著作権法違反、とされた。これが、2004年10月のこと。東京地裁の決定だ。その東京地裁が、2006年8月4日付で出した決定はこう。

高部裁判長は、装置の所有権はサービスの利用者にあり、永野商店は装置の管理行為を代行しているにすぎず、放送局の著作隣接権(送信可能化権)を侵害していないと判断した。

上記を読む限り、2004年の決定では「管理・支配」に着目して違法としたものを、2006年の決定では「所有」に着目して合法とした、というように読める。ケースがちがう以上ちがった判断が出てくる可能性はもともとあるから、これも「誤差」の範囲内なのかもしれない。今回テレビ局側は即時抗告しているから、今後は知財高裁あたりで続いていくんだろう。そこで判断がひっくり返る可能性は充分にある。

とはいえ、今回の決定が、2004年のものに比べて、最近の技術やビジネスの流れにより沿ったものであるという印象はあるようにも思われる。推移に要注目、ということだな。

ただ、ひとつわからないことがある。記事にある、政策研究大学院大学の岡本教授のコメントだ。

業者や利用者にとっては、機器の所有権が利用者にあれば、著作権が及ばないようなビジネスモデルが作れるという画期的な判断だ。ただ、著作権者にとっては、音楽配信などに同種のビジネスモデルが広がれば、重大な影響をもたらすだろう。

わからないのは後半部分。「音楽配信」?このiPodの普及したご時勢に?いやもちろんiTMSだって音楽配信だが、「録音代行」みたいなサービスが考えられるのか?ここで問題になっているのは日本の著作権法だ。日本の利用者が海外で日本の音楽を聴くためにこの種のサービスを利用すると?それとも海外の外国人が利用する?金のある人は正規版を買い、ない人は海賊版を買うマーケットにこのサービスが割り込む余地はそもそもあるのか?わからない。いったいどういうビジネスモデルを想定すればいいのだ。専門家のコメントだから、きっと何かあるんだろう。でも、申し訳ないが、ぜんぜん、わからない。降参する。どなたかぜひ教えていただければ。

私にとっては、「録画ネット」のことを書いたときにいただいた「イワサキ」さんのコメントのほうがはるかに説得力がある。

ギリシャオリンピックの映像を、時差の関係で合衆国のどの地上波より早く放送するNHKの番組を、ネット経由で全世界どこからでも無料で見られる環境が存在すれば、合衆国のケーブルテレビはOUTです。それだけでなく、オリンピックにおける放映権ビジネス自体が崩壊する可能性があり、今回も多額の放映権料を支払っていたNHKが、他国のメディアに気配りしながら、国内メディアの音頭を取って潰しにかかったと理解しています。

オリンピック中継かどうかは別として(オリンピック中継はどの国も自国選手を中心にやるからあまりかぶらないと思うが)、著作権が、したがってそれに基づく許諾が国単位で行われている実態との整合性が問題の本質なのではないかというご指摘は、なるほどと思うところがある。放送局の関与なくネットで海外に配信されることはこうした権利ビジネスの根幹をゆるがす問題というわけだ。問題がビジネスということなら、少なくとも法よりは融通がきくはず。うまく利用と保護をより高いレベルで両立する工夫を期待したい。

※2006/8/5追記
「音楽配信」に関する疑問に対して、トラックバック先(「■[著作権]東京地裁判決が生み出す新しいビジネスモデル」)に、レンタルCDとの連携の可能性が指摘されている。なるほど、と思いかけたが、やはりどうもしっくりこない。5年前とかならいざ知らず、今の時点でこうしたサービスにニーズがあるのか?テレビ番組とちがって、音楽はもう「ずっと貯めておける」コンテンツだ。しかもその配信にはすでにネットが大規模に使われ始めている。レンタル業者が配信サービスに乗り出したとして、それが現状のレンタルビジネスを飛躍的に上回る規模に成長するのか?しかも消費者がそのために機器を購入する?わざわざ?うーんちょっと。私ならやだ。それに、それが成立するなら、レンタル用CDの販売価格は大幅に上がるだろうし、音楽産業自体がそれをやるだろうし。いや無理だというのではないが、「重大な影響」というのがどんなものなのか、まだちょっと想像がつかない。

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Comments

以下で少し触れられてましたよ~

音楽配信メモ 東京地裁の高部眞規子裁判長が著作物流通を促進(?)する画期的な判断を下す
http://xtc.bz/index.php?ID=368

Posted by: f | August 05, 2006 11:34 AM

fさん、お知らせありがとうございました。

Posted by: 山口 浩 | August 05, 2006 05:25 PM

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» [著作権]東京地裁判決が生み出す新しいビジネスモデル [memorandum]
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