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August 02, 2006

だから法律のヒトってヤなんだよね

少し前に「個人情報保護法セミナー」みたいな感じのものを聴きにいった。大学における個人情報の取り扱いについてのもので、聴衆は皆大学の教職員、講師は別の大学の法律の教員。この人はいってみれば「中の人」で、この法の解釈に関してはほぼ「完璧」な回答が期待できるはずだ。

わけなんだけど、ね。

私はこの問題について素人だから、これで正しいのかどうか確信はないが、講演の中にこんなくだりがあったように記憶している。法に対する「過剰反応」が目立つと。個人情報に配慮して大学のウェブサイトに学生の映った写真は出さないようにしました、という学校があるが、それは過剰反応であると。法にいう「個人情報」とは個人が特定できるようなもの、整理されたものであるから、たまたま誰かの姿が写真の中に映っていたからといって、個人情報保護法に違反するわけではない、だから安心して写真を出していいのです、と。

私を含め、聴衆みんながうんうんとうなずきメモをとる。なるほどそうなのか。目からウロコが落ちるようだねぇ、と。

しかし、だ。

いやぁ勉強になったななどと思いながら帰って数日たった後に気づいた(数日かかるところが私のだめなところ)。あれちょっと待てよ。

個人情報保護法ではOKだとしても、肖像権みたいなものがあるだろう。そっちの方では本人の同意は必要ではないのか。とりあえず著作権情報センターのサイトにあるQ&Aをみてみたら、ちゃんと「人物の肖像権は、その人物に属します(中略)。したがって、(中略)肖像権者(中略)に対して、使用についての許諾を得ることが必要です」と書いてあるではないか。

これだ。だぁから法律のヒトってのはヤなんだよね。

ご講演いただいた先生は、もちろんまちがったことは言ってない、のだろう。学生の写真を大学のウェブサイトに載せても個人情報保護法には抵触しない。それはわかった。しかし個人情報保護法と関係なく、肖像権の問題で、やはり写された学生の許諾は必要なのだから、それは私たちの求める「正解」ではない。私たち制度の利用者が知りたいのは、「○○が△△法に触れないか」ではなく、「○○をやって何らかの法に触れないか」だ。たとえ個人情報保護法に触れなくても、肖像権の点で許諾が必要なら、「本人の許諾が必要」が求められる答えのはず。どうせ肖像権で許諾が必要なんだから、そのときに必要なら別の許諾だって取れるわけで、本来なら「本人の許諾が必要か」という問題設定が適切だろう。「プロ」なら講演の依頼を受けたときにそうアドバイスしてくれてもいいではないか。これってある種「典型的」な態度、だと思う。まったくもう。

一般化すれば、顧客が求めるのはツールではなくソリューション、ということになる。ソリューションを求める顧客に対してツールをぽんと渡してはいどうぞ、とすましているなんて、企業なら顧客のニーズを省みないダメダメ企業といわざるを得ないのではないか。困ったもんだ。

…とここまで他人事のように書いてきたが、ひょっとしたらこれは法律の教員だけでなく、教員一般にいえることだったりするのかもしれない。他人の振り見てわが振り直せ、ということなんだな。気をつけようっと。

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Comments

風景写真に写りこんだ人物とかだと肖像権は無いんじゃないでしたっけ?
その教員の方はそう考えての発言か、とも思ってしまいました。
(こちらの見当違いだったらすみません)

Posted by: みぞ | August 02, 2006 07:23 PM

みぞさん、コメントありがとうございます。
なるほど、そういう可能性もありますね。ただ、説明では風景と同化していればとかいう説明は一切ありませんでした。それに、風景と同化していても個人が識別できる場合はあるわけで、しかも何をもって「同化」というのかというのは不明確です。専門家が示すべき基準は「ここまではいい、ここから先はだめ」という実用性のある指針であるべきではないでしょうか。もちろん明確に示すことは難しいでしょうが、だったらこういうケースがあってこれはだめだったとかそういうふうに説明すべきだと思うんですが。

Posted by: 山口 浩 | August 03, 2006 12:18 PM

はじめまして。
私は法学部出身でしたが、全く同じ感想を持ってました。
刑法にひっかからなくても民法にひっかかるなんでざらなんですよ。
要するに捕まるか、否かというのと賠償しなくちゃいかんか、否かというのとは別なんだけどそれを教えてくれない。
"法"の学部じゃなくて"法学"の部になってるように感じました。

Posted by: よしくん | August 03, 2006 10:46 PM

よしくんさん、コメントありがとうございます。
私も法学部出身です。本文で書いたことは、半分以上は「頼む側」の問題なんだろうとは思います。こういうのも受け手としての「リテラシー」の一種ですね。とはいえそれはやはり「自衛手段」なのであって、サービスの提供者側の方々も、もう少し考えてくれたらいいな、と思ったりします。

Posted by: 山口 浩 | August 04, 2006 02:11 PM

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» 「顧客の真の要望」についての対照的な二つの反応 [アンカテ(Uncategorizable Blog)]
私たち制度の利用者が知りたいのは、「○○が△△法に触れないか」ではなく、「○○をやって何らかの法に触れないか」だ。(中略) これってある種「典型的」な態度、だと思う。まったくもう。 一般化すれば、顧客が求めるのはツールではなくソリューション、ということになる... [Read More]

Tracked on August 03, 2006 04:29 PM

» [law]「法律のヒト」の弁明 [bewaad institute@kasumigaseki]
少し前に「個人情報保護法セミナー」みたいな感じのものを聴きにいった。大学における個人情報の取り扱いについてのもので、聴衆は皆大学の教職員、講師は別の大学の法律の教員。この人はいってみれば「中の人」で、この法の解釈に関してはほぼ「完璧」な回答が期待できるはずだ。わけなんだけど、ね。私はこの問題について素人だから、これで正しいのかどうか確信はないが、講演の中にこんなくだりがあったように記憶している。法に対す... [Read More]

Tracked on August 04, 2006 03:10 AM

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