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August 30, 2006

なぜ「マジカルバケーション」に注目すべきか、という話

NINTENDO DS用ゲーム「マジカルバケーション 5つの星がならぶとき」が話題になっているらしい。

といっても、話題になっているのは、このゲームの特徴を解説したマンガ「君とアミーゴ」。2ちゃんねるの紹介サイト「痛いニュース(ノ∀`)」では、「萌える」とか「進研ゼミの匂いがする」とか、このマンガに対して2ちゃんねるで盛り上がっているさまが紹介されている(「任天堂マジカルバケーションの漫画が萌えすぎてGK完全脂肪 」)。微妙に「身近」っぽい絵柄、ベタなストーリー、説明色満開のセリフ、それにありえねーくらいのハッピーエンド。いや確かに、進研ゼミのマンガにとてもよく似ている。突っ込みを入れながらついつい最後まで読んでしまうあたりも。

上記の2ちゃん紹介サイトには、「なんでマンガ?」という疑問が渦まいている。「任天堂終わったな」なんていうコメントもあるようだが、私はそうは思わない。むしろこれは、ものすごい「正攻法」でかつ「戦略的」なのではなかろうか。

このマンガはおそらく、進研ゼミのマンガと同じ目的、同じ位置づけのものだろう。つまり、未経験者に対して、勧めようとしている対象がどんなもので、何がいいところなのかを仮想体験させるためのマンガだ。

このゲームでは、DSのアドホック通信機能を使って、身近にいるユーザーと交信できる。これを「すれちがいつうしん」という。前作「マジカルバケーション」でも通信機能はあったが、ゲームボーイアドバンス用だったから通信ケーブルを使う前提のものだった。通信できるのは2人。しかし新作のほうはワイヤレスで最大6人。近くにいれば勝手に通信する。ただしチャットはできない。あらかじめ入力しておいたメッセージを交換するかたちだ。

もちろんDSの通信機能は、他のゲームでも使われている。「おいでよ どうぶつの森」でも、4人までだがほぼ同様の「すれちがい通信」(こっちは「つうしん」でなく「通信」であることに注意)機能があるし、あちらはチャットもできればWiFiで遠隔地ともつながるから、よほど高度だ。「DSでMMO」を展望しても、あと一歩、といったところだろう。では「マジカルバケーション」はどう考えればいいのか。

そこで注目するのが、このマンガだ。進研ゼミの匂いぷんぷんのこのマンガは、明らかにこのゲームの対象顧客が小学生あたりから中学生あたりまでぐらいであろうことを想像させる。この点は、「おいでよ どうぶつの森」がこの世代だけでなく、大人をも対象顧客としていることからみると、このゲームの特徴といえよう。しかも、サイトを前作のものと見比べると、微妙に色合いや絵柄が変わっているあたり、女の子を意識しているようだ。例のマンガも女の子を主人公にしているし、明らかに女の子向けの内容になっている。女の子がメイン顧客ではないかもしれないが、少なくとも前作以上に女の子ユーザーを取り込みたいはず。

オンラインゲームというサービスは、他のユーザーと交流できるというのがウリの1つなわけだが、めんどくさかったり、難しかったりで、実際にはそれがけっこう高いハードルになったりする。特に女の子には。だからまずは知っている友達と。で、慣れたら徐々に他の人たちとも。「すれちがいつうしん」は単に近くにいるだけで勝手に行われるから、難しくない。友達と交流できる楽しさ、仲良くなりたい誰かとをとりもつチャンス、知らない誰かと出会うかもしれないドキドキ。このゲームには、ユーザーをオンラインゲームの楽しさへ次第に誘導していくしくみが内包されている。

このゲームがチャット機能を持っていないことは、この世代の子供たちがターゲットであると想定すると、特別な意味がある。きっと「まだ早い」のだ、任天堂的にいうと。オンラインゲーム(コミュニティサイトなんかでもあるけど)とかに関して指摘される問題の中には、犯罪に巻き込まれるおそれが、といったものがある。ゲーム内に「predator」たちが紛れ込んでいるのではないか、というわけだ。この種の人々が誘いをかける代表的なツールがメールとチャットなわけで、特にターゲットになりやすい女の子を対象顧客とするゲームなら、そうした懸念への対処が不可欠だ。それがあらかた封じられていれば、「お子様にも安心」ということになろう。こうしたメッセージを伝える手段の1つがあのマンガだ、ということではないだろうか。あの世代の女の子が、あるいはその親の世代が、「また来たよ」とか言いながらついつい読み込んでしまうあの進研ゼミスタイルのマンガ。

このゲームで任天堂は、小学校、中学校の子供、特に女の子向けに、「オンラインゲーム」とはどんなものかを「教育」しようとしているのではないか。この年齢の女の子は、放っておけば、かなりの確率でゲームから離れてしまう。こういうゲームで慣れていけば、ゲームから離れていかず、「おいでよ どうぶつの森」みたいなゲームに自然に移行していく。やがて任天堂がDSで使える本格的なMMORPGを出した際にも、すっとなじむことができるだろう。つまり、任天堂の戦略におけるひとつの戦略的な動きであり将来へ向けた布石であり、ということなのかもしれない。

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