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September 01, 2006

オーマイニュースについて(1):現状分析

オーマイニュースに関するシンポジウムに出ることになっている。それなりに考えがなくもないのだが、何も準備をしてないとうまく説明できないかもしれないので、あらかじめ少し書き出しておくことにした。

色眼鏡でみられるとやりにくいのであらかじめ書いておくが、批判や非難が目的ではない。この新しいメディアが社会に受け入れられていくためにどうしたらいいか、を前向きに論じたい、というのが動機。

まず、オーマイニュースとは何か、を考える。

市民記者が書くニュース。プロの編集者による編集。韓国で成功したサービスの日本版。ソフトバンクの出資。

こういう属性を生かしていかないと、と前に書いた。だが、少し方向性を修正する。考えなければならないのは、上に挙げた属性のうち、読み手にとって価値のあるものは何か、だ。

ない。

これらのいずれもが、「書き手」側の事情だ。書きたい人は韓国にも、日本にも、他の国にもたくさんいる。問題は、読み手だ。読み手にとっては、誰が書こうが、誰が編集しようが、もとがどこの会社だろうが、誰が出資しようが、関係ない。鳥越編集長は「実名による責任ある言論」を掲げているが、記者が実名であるかどうかも、おそらくはあまり関係ない(今の新聞だって大半は無署名の記事だし)。要は誰が、ではなく何を書いたか、だ。(RSSリーダーをお使いの方であれば、マスメディア、市民メディア、ブログといった帰属の別が関係なくなっている世界を実感できると思う。)

ここで、韓国でオーマイニュースが成功した要因に立ち返ってみる。オ・ヨンホ代表はここで(他の機会でも似たことを言っているはず)いくつかの理由を挙げているが、そのうち1番目の理由は「大衆の伝統メディアに対する不信感」だ。市民記者が書くから、ではない。

既存メディアへの不信感は日本でも同じじゃないかというご意見の方もあろうかと思うが、必ずしもそうではないと思う。日本は先進国の中で、新聞に対する信頼度が最も高い(「社会実情データ図録」を参照)という調査結果がある。この調査では韓国もけっこう高いからこれだけではあまり参考にはならないが、おそらく上記の「不信感」とは、「信頼できない」という意味ではなく、「読みたい記事がない」という不満と解釈すべきなのだろう。確かオーマイニュースが登場したころの韓国の新聞は、当時の政府への批判があまり載ってなかったのではなかったか。要するに、韓国の人々は、オーマイニュースが市民メディアだったからではなく、マスメディアでは読めない記事をオーマイニュースで読めたからこそ支持した、ということなのではないかと思う。

この観点から日本の状況をみると、日本では、マスメディアの中でもさまざまな言論が飛び交っていて、当時の韓国とはだいぶ事情がちがうように思われる。とすると、単に市民メディアであるからといって、市民に受け入れられるだろうと考えるのは甘すぎる、ということになるのではないか。ニュースを読むなら、別にオーマイニュースである必要はないのだ。いろいろな論調のマスメディアがあるし、いまや読み応えのあるブログだってたくさんある。2ちゃんねるにも独自の価値がある。市民記者によるジャーナリズムとしては、これまでJanJanとかライブドア(パブリックジャーナリスト)とかがあったが、あまり成功しているという印象はない。それも同じ理由だろう。書き手の論理だけでは、広くは受け入れられないのだ。

市民記者の書く「市民感覚」の記事と、鳥越編集長をはじめとするプロのジャーナリストによる編集とのミックスがどんなものであるのか、私たちにとってどんな価値を持ちうるのか、私にはまだ見えない。発足当初の記事を読んでも、この感想は変わっていない。今のところ、オーマイニュース日本版の位置づけは、客観的にみても「もうひとつの左翼メディア」といったところではないか。「左翼」という表現が気に入らないならほかの呼び方をしてもいいが、とにかく特定の思想の色がかなり強いということは否定できまい。これでは、「マスメディア vs. 市民メディア」といった対立軸でオーマイニュースを位置づけることはできない。どことはいわないが、「左翼」メディアは、他にもたくさんあるし、それらに比べてオーマイニュースの記事が格別優れているというわけでもないからだ。その意味でも、現在のオーマイニュースに独自の立ち位置を見出すことはできない。

というわけで、現在の状況のままでは、オーマイニュース日本版が社会に広く受け入れられ、社会がその存在によって大きな利益を受けるようなことにはならないのではないか、というのが現時点での危惧だ。存続はできるかもしれない。しれないが、「先駆者」たちと同じように、「そういうのもあったっけね」という以上の認識を持たれる存在にはなりにくいのではないか、と。それでいい、というなら結構だが、見聞する限り、少なくとも創刊の理念はもっと大きいはずだ。

以上をふまえて、じゃあどうすればいいんじゃい、という点に関する私の考えについては、また明日。

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Comments

山口先生、明日のシンポジウムについて、中継やチャットに参加したいのですが、やり方がわかりません。どこに行けば、中継やチャットに参加できるのかお教え願えれば幸いなのですが…。

あと、私の意見として手短にいいますと、2ちゃんねるが問題にしているのは、右とか左という問題ではなく、市民を装って言論誘導がなされる可能性を払拭できないことだと思います。
だから、たしかに東アジア関連もあるけど、電通関連も彼らはかみついている…。
本体の韓国での成功は、他のメディアが言論誘導的であったのに対して、オーマイニュースは、スタンスが明確だったことだと思っています。

ということで、どこでライブ中継が見れるのか、チャットはどこで参加できるのか、ぜひともお教え願えれば幸いです。

Posted by: スポンタ | September 01, 2006 07:08 AM

スポンタさん
チャットについては私はよくわかりません。
「ガ島通信」かオーマイニュースのブログとか、に案内が出るのではないかと思いますが。
私も何かわかったら書きます。

Posted by: 山口 浩 | September 01, 2006 09:17 AM

かつての韓国三大紙(朝鮮日報・東亜日報・中央日報)はみな保守系です。2代続けて左派から大統領が出たように、韓国では最近10年ほどの間に保革の勢力逆転が起きたにもかかわらず、三大紙の論調が全て保守系だったところに、革新系メディアとしてオーマイニュースが支持を集めた理由があります。ただし活字系メディアこそ保守に偏っていた韓国も、テレビは社会の空気を読んで核心寄りのスタンスを示していたわけですが……。
http://www1.doshisha.ac.jp/~kasano/FEATURES/2003/ohyonholecture.htm

Posted by: 徳保隆夫 | September 01, 2006 09:28 AM

結局、読む側にとって価値のある情報が掲載されるかどうか、という点に尽きるのでしょうか。

それが既に一般に知れ渡っている二次情報だったとしても、読む当人がまだ目にしてなかったものであればそれは「ニュース」足り得るのですし。

個人的には、ニュースソースも取材能力も持たない(アマチュア)個人記者が書けるのは「ニュース」ではなく「記事」であり、それはオーマイニュースである必然性を持たないという点において広がりに限界を持ちそうに感じています。

ただし同時に、大勢が読む価値があると判断されるような個人ブログの『記事』をオーマイニュースが掲載することによって、その記事を『ニュース』化することは可能でしょう。新聞の中の記事や社説も本質的には同じかと。

Posted by: 名無之直人 | September 01, 2006 04:36 PM

山口さん こんにちは
中国からの読者です。
ブログに書いた:
「もうひとつの左翼メディア」とはちょっと説明します。
Ohmynews日本は香港BLOG NEWS団体 INMEDIAも報道された。http://www.inmediahk.net/


「較早前, 日本有一個以 Ohmynews 為藍本的民間記者網, JanJan, 搞了多年, 卻不太成功. 其中一個解釋是文化上日本人比較含蓄, 但日本Ohmynews 的執編Hideki Hirano於較早前 (7月中於南韓民間媒體會議) 跟我說, 他認為 JanJan 之所以失敗是因為其主編有一個較鮮明的自由左派立場, 而這個政治取向, 在日本是沒有市場的. 相反日本 Ohmynews 有 Softbank 商業背景, 在文化工業上, 更可能大展拳腳. 他又認為民間記者的實踐, 可以改變日本人含蓄的國民性, 所以除了商業元素外, 也是一場文化改造.」


このHideki Hiranoさんがこの文章の作者と南韓民間媒體會議で出会った。
Hideki Hiranoさんの話では、JANJAN失敗した理由はJANJANの鮮明的な自由左派の位置であり、日本では受け入れられない、その代わりに、Ohmynews日本は、SOFTBANKの商業背景を持って、文化工業でもっとやれることが出来る。また、民間記者のその実行は日本人の含蓄的な国民性を変える。ビジネス以外に、Ohmynews日本も文化改造である。
全文はここhttp://haowai.blog67.fc2.com/blog-entry-165.html(私のCOPY@PASTE BLOG)

Ohmynews日本はどこへいくのか、中国いるの私も見てます。

以上 宜しくお願いします。

Posted by: adorewb | September 01, 2006 06:18 PM

山口先生、ご返答ありがとうございます。

それでは、ガ島通信さんか、このブログか、どうちらかでチャットおよび中継の告知がされることを待っております。

先ほど、私の記事が「ニュースのたね」というオーマイニュースのコーナーに掲載されました。たぶんこれは生木・薪という部分にあたると思うのですが、TBはおろか、コメント欄も設置されていません。これでは、生木は放置されたままです。同様に市民記者同士の交流もない。このような状況は、JANJAN、ライブドアPJと同じ状況なので、あえて問題を指摘するような無駄な所作を控えますが、21世紀のメディアを考えるときに最低限必要な機能だと思っています。

実際に記事を投稿してみたら、やはり運営者に聞いてみたいことができてしまいました。とはいえ、それが具体的に動いていかないのなら、仕方のないことです。

愚痴ってしまい、失礼いたしました。
ご無礼・ご立腹の段ありましたら、心よりお詫び申しあげます。

Posted by: スポンタ | September 01, 2006 07:19 PM

コメントありがとうございます。

徳保隆夫さん
ご指摘ありがとうございます。確かそんな話があったよなぁ、とうろ覚えで書いてしまいました。新聞のほうが、「世論を導く」意図が強いんですかね。日本もそうなんでしょうか。

名無之直人さん
そうだと思います。「市民が書く」ということは読み手にとって必ずしも価値ではありませんので。

adorewbさん
中国の方ですか。遠いところからご覧いただきありがとうございます。「自由左派」が「日本では受け入れられない」とは思いませんが、偏った言論が読み手を選ぶのは当然かと思います。日本語がおわかりになるのであれば、日本の人々がいかに多様な意見を持っているか、ぜひ中国の方々にもお伝えください。私も、中国にはさまざまな考え方の人々がいることを、微力ながら伝えていきたいと思います。

スポンタさん
なるほど。「ニュースのたね」にはコメント欄がありませんね。未編集の記事を「炎上」から救おうという「ご配慮」なんでしょうか。ともあれ、市民記者の皆さんは「部内者」なわけですから、編集部と直接お話をされるのがよろしいかと思います。

Posted by: 山口 浩 | September 02, 2006 03:12 AM

日本のマスコミは、韓国マスコミをうらやましがることが多いのですが、それは「韓国ではマスコミが日本と比較にならないくらい絶対的な発言力を持っており、政治家や市民らがとても批判・反論できない」からとのこと。

実際に個人的に韓国メディアから取材を受け、記事化されたことは多いのですが、彼らの記事は基本的にフィクションです。取材はそのフィクション化するに当たってリアリティをかもし出すための材料に過ぎません。(日本とは比較にならないほどひどいものです)

そんな韓国ですから、カウンターメディアとしての「オウマイニュース」は確かに当時は存在価値があったかも知れません。

しかし、日本では今や2chやブログが存在し、マスコミが韓国ほどの特権階級として君臨していない現状で、どれだけ存在価値が出せるのか?

当分は生暖かい目で傍観させて頂こうかと思います。

Posted by: 2ch記者 | September 04, 2006 05:23 PM

2ch記者さん、コメントありがとうございます。
つまり、韓国ではマスメディアのレベルが低かったから、オーマイニュースの記事のレベルが相対的にあまり低いと考えられなかった、ということなんですか?ふうんそうなんですか。

>当分は生暖かい目で傍観させて頂こうかと思います。

そうですね。私もそう思います。

Posted by: 山口 浩 | September 05, 2006 02:16 AM

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