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September 15, 2006

勢力を拡大しつつある中国がなぜアジアの支配者になれないのか、という話

GLOCOMサイトから。「Why Rising China Can't Dominate Asia

書いたのはRobert Sutter氏 (Professor of Asian Studies, Georgetown University)。

ぜひ原文をお読みいただきたい。最初に登場するのは、筆者が中国政府高官から聞いたというこのことば。

"China can't dominate Asia; there are too many governments in Asia."

してその心はというと、というくだりが続く。要するに、いろいろ注目されるところはあるが、いいところと同様問題点もいっぱいある、というしごく当然の指摘。手放しで賞賛もせず、いたずらに過小評価もしない冷静な分析。中国の最大の問題点がナショナリズムにあるという指摘がある。日中だけしか見ていない向きには期待できない視点だと思う。

Heading the list of limitations and weaknesses of China's rise in Asia is strong Chinese nationalism; this seriously complicates Chinese relations with Japan and Taiwan, and causes significant difficulties with South Korea, Singapore, and India, among others. Chinese territorial claims are a serious concern in the East China Sea, a major drag on improving relations with India, and an underlying concern in Southeast Asia. China's authoritarian political system is unattractive to many, though certainly not all, of China's neighbors.

これもけっこう目ウロコだと思うが、中国政府が八方美人というか、他国との関係で問題を先送りする体質であるとの指摘もある。「few exceptions」組である日本では「中国は戦略的に着々と手を打って」的な見方が多いと思うが、「little to resolve differences or deal with issues」とばっさり。

China's "win-win diplomacy" focuses on common ground, which receives great positive publicity but does little to resolve differences or deal with issues. With few exceptions, China does not do hard things; it carefully avoids major international commitments or risks.

中国を貶めて溜飲を下げたい向きにおあつらえ向きに見えるかもしれないが、別に中国がだめとか言っているのではないことに注意。アメリカの中で今は過大評価される傾向があるが冷静に見よう、というのが主旨だ。中国も日本も、域内をリードすることも互いに協調することもなかなか難しいから、結果として米国の役割が大きくなる、という我田引水ながらいたしかたない結論になる。

日中どちらの国でも、もちろん米国でも、ちゃんとした専門家や研究者は、きちんと実際の姿をとらえているのだろう。しかしそうでない人々もいて、そういう人々がいろいろ騒ぎ立てる。それに乗っかる人々がいる。そっちのほうが声が大きいから、ついそちらに引っ張られてしまう人々がいる。このあたりも各国共通だが、これこそがその国の弱点になる、というのがこの文章から得られるインプリケーションだと思う。だから、世論が冷静になれば、その分だけ優位に立てる。あっちがそうくるならこっちは、とかばっかりやってると、結果としてあぶらげをさらわれるはめになる。

日本の優位を願う人は、ぜひ冷静に。

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Comments

 はじめて書きこみ致します。
 素敵な記事の素敵な紹介で感心しました。
 (イヤ自分の予断に合致する部分の多い記事だったので好意的なバイアスがかかっている可能性は否定できないのですが。)
 "hedging is the name of the game"というのはたいへんおもむき深い言葉ですね。
 あと興味深かったのは、この記事でAsiaという時に西アジアは恐らく入っていないのだろうな、そして西アジアの問題を含めないことで話の焦点がよりクリアになっているのだろうな、という点でした。
 色々教えられるところ多かったです。
 トいったことを「ほめる技術」エントリを見つつ書いているわけであります(笑)

Posted by: いわん | September 21, 2006 11:30 AM

いわんさん、コメントありがとうございます。
私見ですが、この人にとってAsiaはアジア全体をあいまいに指しているのではないでしょうか。特段に意識することなく、ときに東アジア、ときにもっと広いアジア全域と使い分けていて。「hedging」ということばからすれば、インドをまったく意識していないということはないと思います。

Posted by: 山口 浩 | September 21, 2006 09:46 PM

 あ、誤解を招く書き方だったようで、すいません。
 西アジア(ここではイラン及びそれ以西、ほどの意)とすべきでした。
 その上で、「特段に意識することなく、ときに東アジア、ときにもっと広いアジア全域と使い分けていて」というのは、なるほどいわれてみればそのとおり、とおもいます。

Posted by: いわん | September 22, 2006 10:12 AM

いわんさん
なるほど。たぶんこの著者にとっては、西アジアは「Middle East」とか「CIS countries」みたいに意識されているのではないでしょうか。こっちのほうがまちがえにくいですから。

Posted by: 山口 浩 | September 22, 2006 10:51 AM

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