« 時代の「顔」 | Main | 勢力を拡大しつつある中国がなぜアジアの支配者になれないのか、という話 »

September 14, 2006

小画面革命

たぶんもうどこかで書かれていて、たくさんの人が口には出さないけど思っていて、という類の話だと思うのだが、自分として、忘れないでおこう、と思ったので書く。

まずは、音楽を持ち歩くようになったのウォークマン以降、と大胆にも言い切ってみる。ソニーが初代ウォークマンを発売したのが1979年。それまでもポータブルラジカセ(ラジカセって懐かしい響き)とか、ポータブルラジオとかはあったが、携帯性とか、音質とか、いろいろ問題があった。しかし何よりも大きなポイントは「習慣」だ。歩きながら音楽を聴く、つまり「音楽を持ち歩く」という習慣。ほとんどの人には、これはなかった。ウォークマンによって、われわれは教えられたのだ。「歩きながら音楽を聴いてもいいんだ」と。要するに、ウォークマンの革新はハードウェアでも(狭義の)ソフトウェアでもなく、使用者のマインドセットのシフトにあった、ということだ。

で、覚えておこうと思ったのは、今似たようなことがリアルタイムで起きているのではないか、という感覚。今私たちが身に付けようとしている習慣は、「動画を持ち歩く」ことだ。

折りしもアップルが映画の配信サービスを始めるというニュースが流れている。ニュースなんかでみると、「リビングルームへの進出」みたいなとらえ方なんだろうか。iTunesで映画をというのはもちろんリビングへの流れとしてわかるが、端末としてのiPodのほうは、せっかく持ち歩ける大きさなんだから、やはり持ち歩く方向で考えたほうがよさそうな気がする。というわけで、ここではiPodみたいな携帯端末で動画を持ち歩く、という点に絞って考える。

アーリーアダプターの皆さんは「そんなのとっくじゃん」というだろうが、ここで念頭においているのはマジョリティの皆さんだ。持ってると注目を集めたりするような段階ではなく、そこらじゅうで誰もが、という段階。ゲームの世界では一足先に実現していた(ゲームは動画コンテンツだよね?)わけだが、一般的な映像コンテンツについては、今まさに進行中、なのではないか。携帯電話、ワンセグ用の端末、そしてiPodとその類似品の皆さん。最新の携帯ゲーム機だってそっち目的を忘れちゃいない。思い起こせばウォークマンも、普及にはしばらくかかった。最初は目立ったが、しばらくするうちに、誰も気にしなくなったのだ。携帯動画端末は、今はまだ目立つ。でも、けっこういろいろなところで見かけるようになった。もう3年もしたらどうなるだろうか。

で、この変化が同時にもたらすのではないかと思うのが、「小さい画面で動画を見る」という習慣。言い換えれば、「小さい画面で動画を見る」ということを不自然に思わないマインドセット。当たり前の話だが、けっこう重要じゃないかと思う。思うので、これまた大胆にも「小画面革命」なんてことばを考えてみた。携帯電話や携帯情報端末などへの動画配信について、こんな小さい画面では見る人などいない、と何人もの人にいわれたのが1~2年前だった記憶がある。今だってそう思う人は少なくないだろう。しかし「まあこれでいいじゃん」と思う人は、着実に増えているのではないか。通勤・通学時間の電車やバス、職場や学校の昼休み、そして旅行先。ああここで見られたらいいのに、と思うシチュエーションはけっこう多い。

「いいじゃん」派が一定の閾値まで達したら、作り手が変わってくるだろう。小画面で見る人が増えてくれば、小画面でもきちんと見える作り方をするようになるはずだ。引いたショットは少なくなるかもしれない。セリフやナレーションが増えるかもしれない。ステレオヘッドフォンで聞くのがデフォルトだから、音楽や音響には凝るだろう。どうなるかわからないが、とにかくいろいろ変わるのではないか。ウォークマンの登場で音楽が変わったという話は不勉強にして知らないが、舞台と映画、映画とテレビで、それぞれ演技のやり方、演出の仕方がちがうのは当たり前のはず。もちろん媒体の差からくるわけだが、それはつきつめれば演技者と観客との距離や視界の広さなどの差ということだ。となれば、「小画面革命」によって画面の大きさ、目と画面の距離、音の臨場感が変わってくれば、表現に影響が出ないはずがない。ワンセグがサイマル放送から解き放たれる2008年が、ひとつのメドになるのではないか。

数年たったときに、電車の中で携帯電話をいじっている人が相変わらず多いとしても、見ているのはひょっとしたらメールやゲームではなく映画やテレビドラマかもしれない。それが当たり前になっていて、「そんな小さい画面で見て楽しい?」とか聞いたら「なんだこいつ」と思われたりするかもしれない。というわけで、今のうちに書いておこう。そうなったときのために、覚えておこう。さて、どうなることやら。

「小画面革命」の旗手はこれ、なんだろうかやっぱり。電源の持ちが悪いとの評価をよく聞くが、ある意味それも期待の裏返しだったりするわけで。

|

« 時代の「顔」 | Main | 勢力を拡大しつつある中国がなぜアジアの支配者になれないのか、という話 »

Comments

 あまり好きではなかった音楽も、ウォークマンで聞くと耳にダイレクトに入ってくるせいか、いつの間にか好きになっていることがあります。
 小画面で見る映像が多少粗くても、臨場感あふれる音声ならば、画像の粗さなど気にならなくなるかも知れません。

 ところで今、私はインドの所得格差をテーマに勉強しようとしているのですが、「世界のジニ係数を並べてみた」では123カ国中インド92位と、スイスやフランスよりも低いことに驚きました。
インドはカースト制で所得格差が大きいと思っていたのですが…。
 古い話題になってしまいすみません。

Posted by: れそじ | September 15, 2006 10:11 AM

こんにちは。
タイトル、「小顔革命」に見えました(ハハ)。これで女性読者急増と思ったり。:p

それはさておき、“小画面”方向とはいっても、人はやはり大きく観たいもののようですね。

----
ワンセグに関して各テレビ局の担当者に聞くと、まっ先に返ってくる問題点がある。それは「画面を縦にして見てもらえない」という話だ。実機をお持ちでないと意味が分かりにくいだろうが、要するにデータ放送部分を表示しないで番組だけを表示しているケースがほとんどだということだ。
http://it.nikkei.co.jp/digital/column/functions.aspx?n=MMITel000029082006
----

MSの「ズーン」は3インチだそうですね、少しでもでっかく。
まあそういう勝負でもないとも思いますが。:)

Posted by: ゾフィ | September 15, 2006 11:46 AM

いつも一方的にお世話になっております。
今回のエントリ、非常に共感しました。
で、自分のブログにて紹介させて頂きました。

http://blog.smatch.jp/takkun/archive/66

何も言わずに見ろ的な感じで恐縮ですが。

Posted by: たっくん | September 15, 2006 10:35 PM

コメントありがとうございます。

れそじさん
なるほど。ウォークマン向きの音楽もあるんですね。私の場合も、歩く速さのビートの曲なんかは、歩きながら聴くのにいいや、と思っているふしがあります。
ジニ係数については、単に上の人と下の人の差をみているというものではなくて、上の人の所得が全体のどのくらいを占めているかといった感じなので、そのへんのところが影響しているのだと思います。

ゾフィさん
そのあたりも、利用者側がどう使うかという慣れの問題がけっこうあるのではないかと思います。今はできるだけ画面を大きくしたいわけですよね。作り手の方の工夫も必要かと。上下分割して下にデータというやり方自体も、長期的には変わってくるのかもしれませんね。

たっくんさん
ご紹介ありがとうございます。最近デジカメで動画が撮れるのに気づいて、これならビデオいらないじゃんと思っていたのですが、やはり片手では難しいんですかね。

Posted by: 山口 浩 | September 16, 2006 08:23 AM

The comments to this entry are closed.

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 小画面革命:

» [ビジネスモデル的]iPodは映画関連ビジネスに革命を起こすか [だから問題はコミュニケーションにあるんだよ by com-lab]
30分&1000円 映画一本をダウンロードするのに必要な時間とコストである。AppleとAmazonが映画のネット配信サービスを始めた。これはもしかしたら、映画産業に対してとんでもない影響を与えることになるかもしれない。 タイミングよくHiroshi Yamaguchiさんが『小画面革命』... [Read More]

Tracked on September 23, 2006 07:38 AM

« 時代の「顔」 | Main | 勢力を拡大しつつある中国がなぜアジアの支配者になれないのか、という話 »