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日本人すべてが「中流の上」になる10の方法

最近自民党幹事長に就任した衆議院議員中川秀直氏がこのほど出版された著書「上げ潮の時代―GDP1000兆円計画」の新聞広告に、非常に興味深い部分があった。

これがまたすごいんだ。

本自体については、なにせ読んでないので知らない。GDP1000兆円といえば現在のほぼ倍だから、現代版「所得倍増計画」みたいなものなんだろうか。どなたか読んだ方の解説を待とう。私が興味深く思ったのは広告のほうだ。何がすごいって、帯にも出ているが、「日本人すべてが『中流の上』に!」というキャッチフレーズ。

こんな感じ↓

アマゾンをみたら、こんな感じの本らしい。

GDPが2倍になる必然/増税はかぎりなくゼロに/財政再建を成功させる「黄金比」/借金を増やさず成長する路線/わずか0.9%の差が変える未来/名目4%成長の実現性/100年に1度のチャンスをつかんだ国/有望分野が目白押し/均衡ある発展から分権国家へ/官僚との凄まじい攻防戦の始まり/道州制で生まれる地方の活力/官民の待遇格差をどう解消するか/地方公務員も聖域ではない/利益誘導政治の終わり/潮目の変化は大チャンス
内容(「MARC」データベースより)
経済・外交・政治など日本のあらゆる面で「陰」から「陽」への反転が始まっている。そうした変化をいち早くつかみ、大きな流れに成長させていく責務を負うと自認する著者が、格差是正のための更なる経済成長の必要性を説く。

なんだかとても鼻息が荒い。ぜひがんばっていただきたいわけだが、まあそれはおいといて。

まずはいわずもがなから。日本がどれだけ経済成長を遂げても所得格差を是正しても、日本国民すべてを日本の社会の中で、一般的な意味における「中流の上」にすることはできない。「中流の上」というのは、日常的な言語感覚からすれば、国民の間に生活水準の差があることを前提として、その真ん中からちょっと上くらいの生活水準を指す相対的な指標だからだ。「クラス全員を100点に」は可能だが「クラス全員がクラス平均を超えるように」は不可能なのと同じ。

まじめに言えば、広告や帯は著者というより編集者が書いたものだろうから、中川議員に対して特段の意見はない。もちろん編集者だって、まさかそんな文字通りの意味で書くはずもなかろうから、「中流の上」の定義がちがうのであろうことは想像がつく。きっと「中流の上」は、横に書き添えてある「衣食住・心が豊かな国」における生活水準、みたいな意味なんだろう。

とはいえ、「中流の上」と「衣食住・心が豊かな国」とは、誰がどうみてもちがいすぎる。前者は全体の中での生活水準の順位ないしそれに対する意識であり、後者は衣食住心という4つのクライテリアに関する充足度合いを示す概念だからだ。もちろんまったく関係ないとはいえないわけだが、「衣食住・心が豊か」という状態を「中流の上」と呼ぶのは、こぶたに「うまそう」という名をつけるのと同じくらい、「位相」がずれているように思う。さらにいえば、「豊か」ということばも「中流」と同様、相対的な度合いを示す。「豊か」という状態は本来、比較対象としての「豊かでない」状態を前提としなければ存在しえないから、全員が「豊か」になるのは、一般的な意味では、不可能だ。

ちなみに、かつて「日本人の中流意識」として知られていたのは、最高時で5割の人々が自らの暮らしぶりを「中の中」と答え、「中の上」と「中の下」を合わせて9割が「中」と考えていた、という話だ。だから、日本人すべてが「中流の上」と自らを考えていた時期など、歴史上のどの時代においても存在しない。もちろん、かつて日本人すべてが「衣食住・心が豊かな国」に住んでいたという歴史も存在しない。

となると、これはいわゆる「釣り」というやつにあたるんだろうか。私はまんまと釣られてしまったわけだ。どこかで「ネタニマジレスカコワルイ」とか言ってるのかもしれない。とはいえ、文句をいいっぱなしでもどうかと思ったので、自分でも考えてみることにした。日本人すべてが「中流の上」になる方法について、だ。

いくつもありうるだろうが、とりあえず3分半ほど考えたら、10ぐらい思いついた。思いついた順に。

1 「中流の上」の前にこっそりカッコ書きで「世界の中で」と付け加える。
「世界の中の日本」としてみれば、大多数の日本人はかなり上のほうにくるだろう。でもこれだと「中流の上」というより「上」に近いかもなぁ。それに、日本の中で相対的に生活水準が低い状態というのが、生活水準が低めとされる国の一般的な生活水準と比べて実際のところどんなふうにちがうのか、不勉強でよくわからない。

2 「すべての」ということばを「一部の」という意味に変える。
これは国語審議会から頑強な抵抗がありそうだな。

3 日本人の全階層を「中流の上」と名づける。
すっごい無理やりだが、「かの国」ではよくありそうな方式。政府が宣言しちゃうとか。実務的にはこれが一番簡単かも。

4 実態にかかわらずすべての日本人に自らの生活水準が「中流の上」であるという幻想を植え付ける。
かつて日本政府はこれに近いことに成功した。高度成長なしに同じことをもう一度できるかどうか。

5 すべての日本人が海外に移住し、そこでがんばってそれぞれの国で「中流の上」になる。
小松左京方式、とでも呼んでみようか。これは難しそう。経済的にも、政治的にも。

6 日本の国土の上に「日本2.0」とでも名づけた別の国を作り、「中流の上」以外の日本人にはそちらの国民になってもらう。
とりあえずバチカン方式、と呼んでおこう。でもこれは我ながらあんまりだと思う。

7 外国人労働者を大量に受け入れ、中流の上以外の階層をすべて外国人が担うようにする。
これもあんまりだ。しかし一方で、外国人労働者をより大規模に受け入れていくという発想は、実はこれに近いものがあるという現実を忘れてはならないと思う。

8 日本人はすべて川の中流の上に家を建てて住む。
だじゃれかよ。

9 「中流の上クラブ」という会員組織を作って全日本人をその会員にする。
やるのは簡単だろうが、そこまでするかね。

10 「中流の上」かどうかを判断する領域を、所得や生活水準だけでなく「内心の満足度」「余暇時間の多さ」など多様化する。すべての人がいずれかの領域で「中流の上」となるまで、領域数を増やしていく。
SMAPの歌が聞こえてきそう。

他にもいろいろ案はありそうだが長くなるのでこのあたりで。

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