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October 22, 2006

アメリカの皆さんは何にaddictしているのか

スタンフォード大学のニュースリリースで、「Internet addiction: Stanford study seeks to define whether it's a problem」なんてのがあった。アメリカ人のインターネット中毒の話。

こう始まる。

Is spending too much time online a prevalent and damaging condition, or simply a bad habit among a select few? Stanford University School of Medicine researchers have taken an important step toward resolving the debate over whether compulsive use of the Internet merits a medical diagnosis.

ううむなかなかそそる書き出し。読みたくなるではないか。意外にも、この種の調査は初めてなんだとか。その結果、

“Our telephone survey suggests that potential markers of problematic Internet use are present in a sizeable portion of the population”

なんだとか。で、

“We often focus on how wonderful the Internet is—how simple and efficient it can make things,” elaborated lead author Elias Aboujaoude, MD. “But we need to consider the fact that it creates real problems for a subset of people.”

なんていってる。「We」って誰よ?そんなことみんな知ってるってば。アメリカでもきっとそうだと思うんだがちがうんだろうか。とはいえ、「知ってる」のと「確かめた」のとはちがう。それを科学的に実証するのはもちろん大切なこと。で、確かめたところ、

"a small but growing number of Internet users are starting to visit their doctors for help with unhealthy attachments to cyberspace"

だったんだそうだ。こういうのを医者(精神科医、なんだろうなやっぱり)に相談するのがアメリカらしい。"Unhealthy attachments"だって。他人事じゃないよ皆さん。具体的にどういうのかというと、

"these patients’ strong drive to compulsively use the Internet to check e-mail, make blog entries or visit Web sites or chat rooms, is not unlike what sufferers of substance abuse or impulse-control disorders experience: a repetitive, intrusive and irresistible urge to perform an act that may be pleasurable in the moment but that can lead to significant problems on the personal and professional levels."

こういう人、けっこういると思うがどうか。最近だとmixiとか。5分おきにチェックしないと気がすまない人の話をどこかで見かけたが、別に珍しくもないだろう。しかしmixiは、増えたとはいえ会員数600万人とかそのあたりだろうから、影響の大きさという点では断然それよりも携帯電話だな。電車に乗ると、皆いっせいに携帯電話を開く。「マナーモードに切り替えの上通話はご遠慮」だから、メールやらゲームやらはいいわけだ。しばし片手でかちゃかちゃと。で、閉じると3秒もしないうちにまた開く。何かやり忘れたのか。でまたしばしかちゃかちゃ。で、閉じると15秒くらいでまたがまんできなくなって開く。だったらずっと開いてろよ、と見ていて言いたくなるが、まあ他人事だしどうでもいい。

本題に戻る。この研究では、こうなっちゃうのは30代白人男性が多いらしい。

"According to preliminary research, the typical affected individual is a single, college-educated, white male in his 30s, who spends approximately 30 hours a week on non-essential computer use."

週30時間。1日4時間ちょっとか。これってそんなに問題か?皆さんはどう思われるだろうか。これって、家でテレビの代わりにしてるということなら、それほど騒ぐようなことじゃないのではないかと思うのだが? 確かこの層の人々はあまりテレビを見なくなってる、という話をどこかで読んだ記憶がある。だからテレビ広告からネット広告へ、という文脈の話だったような。それに、ちょっと考えていただきたいのだが、1日4時間テレビを見たとしたら、「テレビ中毒」と呼ばれるのだろうか?1日に4時間なんて割とすぐじゃん?

手元にインプレスの「インターネット白書2006」があったのでちょっと見てみる。これはインターネットユーザが対象だからちょっとちがうが、調査対象者全体でみると、約25%の人が1日3~5時間インターネットを利用、約18%が5時間超。計で約43%。日本のインターネットユーザは2006年2月時点で約7600万人、人口の6割ぐらいだから、国民全体に対する割合でいえば、約26%が1日3時間以上インターネットを利用という計算になろうか。アメリカよりよっぽど「深刻」ってことになるじゃないか。

またまた本題に戻って、2,513人に対する電話アンケートの結果はこんな感じ。

◎13.7 percent (more than one out of eight respondents) found it hard to stay away from the Internet for several days at a time (これはテレビでも新聞でも携帯電話でも同じではないかと思う)
◎12.4 percent stayed online longer than intended very often or often (テレビでもそうだし、デパートなんかでもそうだと思う。「デパ地下中毒」とかいうんだろうか)
◎12.3 percent had seen a need to cut back on Internet use at some point (たばこ。酒。脂っこい食事。やめたくてもやめられないものは尽きない)
◎8.7 percent attempted to conceal non-essential Internet use from family, friends and employers (家族や友達に見られたくないの、あるよねぇ。それにemployerは当然でしょうクビになりたくないもん)
◎8.2 percent used the Internet as a way to escape problems or relieve negative mood (これも他と同じだよなぁ。それにこれはインターネットじゃなくて、"problems"や"negative mood"の原因となっているものが問題だろうに)
◎5.9 percent felt their relationships suffered as a result of excessive Internet use (まあこれは確かに問題だな)

要するに、これだけ見たところで「インターネットの過剰利用は深刻な社会問題だ」みたいな結論に飛びつくのは早計ということだ。ゆめゆめ「ほろみろ、インターネットばかりやってるからこうなるんだ外に出て運動しろ云々」なんていう話につなげないこと。いやもちろん深刻な問題もあるわけだが、この件はそもそもその前に「何が医療として取り組むべき深刻な問題なのか」をこれから解明しようという流れであることをお忘れなきよう。この研究をした人たちは当然そのことをわかっていて、

While the numbers indicate that a subset of people might have a problem with Internet use, Aboujaoude stressed that it’s premature to say whether people in the sample actually have a clinical disorder. “We’re not saying this is a diagnosis—we still need to learn a lot more,” he said. “But this study was a necessary first step toward possibly identifying something clinically significant.”

なんていってる。今後研究を続ける由。ぜひそうしていただきたい。日本との比較研究もしていただきたいね。「ニホンジンハミンナネットチュウドクデース!」(こんなガイジンいないって)なんてことになるんだろうか。

私にいわせれば、アメリカの皆さんにとっては、インターネットよりも「過食」へのaddictionのほうがよほど深刻だろう。こっちは成人の60%が体重超過、なんていうニュースがあったから、疑問の余地なく深刻な問題だ。原因も(たぶん対策も)わかってる。でも解決しない。「深刻」というのはそういうことだと思う。医療に携わる方々は、「なんでアメリカの料理は何でも山盛りのフライドポテトを添えないと気がすまないのか」とか、「なんでトーストにジャム塗ってその上に砂糖までふりかけないと満足できないのか」なんてあたりに取り組んでいただくといい。実際のところ、あれって、「compulsive eating」とでも呼んだほうがいいくらいではないかと思うのだ。

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