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法令をわかりやすくしたかったら

自慢じゃないが(ほんとに自慢にならない)、法学部出身だ。だから何だといわれそうだが、だからこそいわせてもらいたい。法令の文章、いったいどうにかならんもんだろうか?

法令というのは、なんでも文章で書く。一部表を使うところもあるが、ごく一部だ。しかも、ひとつの文章がやたらに長い。そうでもないものもあるんだが、特にひどいのが税法だ。骨格部分はシンプルなのに、そこに枝葉を山ほどつけるから、全体の構造がわからなくなってしまう。

ちょっと事例を。

所得税法施行令第六十一条(所有株式に対応する資本金等の額又は連結個別資本金等の額の計算方法等)第2項第二号(分割型分割)のイ

当該分割法人の当該分割前事業年度又は当該分割前事業年度の前事業年度(当該分割型分割の日以前六月以内に法人税法第七十二条第一項 (仮決算をした場合の中間申告書の記載事項)又は第八十一条の二十第一項 (仮決算をした場合の連結中間申告書の記載事項)に規定する期間についてこれらの規定に掲げる事項を記載した同法第二条第三十号 に規定する中間申告書又は同条第三十一号の二 に規定する連結中間申告書を提出し、かつ、当該提出の日から当該分割型分割の日までの間に同条第三十一号 に規定する確定申告書又は同条第三十一号の三 に規定する連結確定申告書を提出していなかつた場合には、当該中間申告書又は連結中間申告書に係る当該期間)終了の時の資産の帳簿価額(当該分割型分割に基因して法人税法施行令 (昭和四十年政令第九十七号)第九条第一項第四号 (利益積立金額)又は第九条の二第一項第四号 (連結利益積立金額)に掲げる金額が生じた場合には、当該金額に相当する金額を含む。)から負債(新株予約権に係る義務を含む。)の帳簿価額を控除した金額(当該終了の時から当該分割型分割の直前の時までの間に資本金等の額又は連結個別資本金等の額が増加し、又は減少した場合には、その増加した金額を加算し、又はその減少した金額を控除した金額)

全部読んだ人はほとんどいないだろうから書いておくが、これは列挙の一項目だ。「条件Aの場合には、BからCを控除した金額」というのが骨格。このAやらBやらCやらがやたらに長くて、しかもカッコが幾重にもついてるのでこうなってしまうわけ。「条件A」の部分は「以下の条件を満たすとき」として条件を列挙すればもっとわかりやすくなるし、控除のくだりは代数で数式を書いて、定義を付記すればいい。なんのために中学で全国民に方程式を教えてるんだ?

こんなのも。

所得税法施行規則第九十九条(たな卸資産の評価の方法)第1項(原価法)のうち、「ホ 移動平均法」を説明するカッコ書き。

(たな卸資産をその種類等の異なるごとに区別し、その種類等の同じものについて、当初の一単位当たりの取得価額が、種類等を同じくするたな卸資産を再び取得した場合にはその取得の時において有する当該たな卸資産とその取得したたな卸資産との数量及び取得価額を基礎として算出した平均単価によつて改定されたものとみなし、以後種類等を同じくするたな卸資産を取得するつど同様の方法により一単位当たりの取得価額が改定されたものとみなし、その年十二月三十一日から最も近い日において改定されたものとみなされた一単位当たりの取得価額をその一単位当たりの取得価額とする方法をいう。)

これで1つの文章。「みなし」が場合分けで3つも列挙されてる。

ついでに「チ 売価還元法」も。

(期末たな卸資産をその種類等又は通常の差益の率(たな卸資産の通常の販売価額のうちに当該通常の販売価額からその取得のために通常要する価額を控除した金額の占める割合をいう。以下この項において同じ。)の異なるごとに区別し、その種類等又は通常の差益の率の同じものについて、その年十二月三十一日における種類等又は通常の差益の率を同じくするたな卸資産の通常の販売価額の総額に原価の率(当該通常の販売価額の総額とその年中に販売した当該たな卸資産の対価の総額との合計額のうちにその年一月一日における当該たな卸資産の取得価額の総額とその年中に取得した当該たな卸資産の取得価額の総額との合計額の占める割合をいう。)を乗じて計算した金額をその取得価額とする方法をいう。)

これも1つの文章。要するに「A×B」ってことだ。数式で書けよ、といいたい。

文章の長さという点では、建築基準法施行規則あたりも忘れちゃいけない。

(確認申請書の様式)
第一条の三  法第六条第一項 (法第八十七条第一項 において準用する場合を含む。第四項において同じ。)の規定による確認の申請書は、別記第二号様式による正本及び副本に、それぞれ、法第六条第一項第四号 に掲げる建築物については次の表一の(い)項に掲げる図書を、同項第一号 に掲げる建築物については同表の(い)項及び(ろ)項に掲げる図書を、同項第二号 及び第三号 に掲げる建築物については同表の(い)項、(ろ)項及び(は)項に掲げる図書(用途変更の場合においては同表の(は)項に掲げる図書を、国土交通大臣があらかじめ安全であると認定した構造の建築物又はその部分に係る場合で当該認定に係る認定書の写しを添えたものにおいては同表の(は)項に掲げる図書のうち国土交通大臣の指定したものを除く。)を添えたもの並びに別記第三号様式による建築計画概要書とし、これらの図書のほか、さらに、法第二十八条の二 の規定により居室内における化学物質の発散に対する衛生上の措置を講ずべき建築物については同表の(に)項に掲げる図書を、法第三十五条の二 の規定により内装の制限を受ける建築物又は内装の制限を受ける調理室等を有する建築物については同表の(ほ)項に掲げる図書を、法第五十二条第八項 の規定の適用によりその容積率が同項 の規定の適用がないとした場合における同条第一項 及び第七項 の規定による限度を超えるものである建築物については用途変更の場合を除き同表の(へ)項に掲げる図書を、同条第九項 の規定の適用によりその容積率が同項 の規定の適用がないとした場合における同条第一項 及び第五項 の規定による限度を超えるものである建築物については用途変更の場合を除き同表の(と)項に掲げる図書を、同項 の規定の適用により同項第一号 に掲げる規定が適用されない建築物については用途変更の場合を除き同表の(ち)項に掲げる図書を、同項 の規定の適用により同項第二号 に掲げる規定が適用されない建築物については用途変更の場合を除き同表の(り)項に掲げる図書を、同項 の規定の適用により同項第三号 に掲げる規定が適用されない建築物については用途変更の場合を除き同表の(ぬ)項に掲げる図書を、法第五十六条の二第一項 の規定により日影による高さの制限を受ける建築物については用途変更の場合を除き同表の(る)項に掲げる図書を、法第六十七条の二第六項 の規定により防災都市計画施設(密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律 (平成九年法律第四十九号)第三十一条第二項 に規定する防災都市計画施設をいう。以下同じ。)に係る間口率(法第六十七条の二第六項 に規定する間口率をいう。以下同じ。)の制限及び高さの制限を受ける建築物については用途変更の場合を除き同表の(を)項に掲げる図書を、次の表二及び表三の(い)欄各項に該当する建築物についてはそれぞれ表二及び表三の(ろ)欄の当該各項に掲げる図書(用途変更の場合においては表二の(一)項及び(二)項並びに表三の(一)項の構造計算の計算書を、国土交通大臣があらかじめ安全であると認定した構造の建築物又はその部分に係る場合で当該認定に係る認定書の写しを添えたものにおいては表二の(一)項、(二)項、(四)項、(五)項及び(七)項並びに表三の(一)項の計算書並びに同表の(六)項に掲げる図書のうち国土交通大臣の指定したものを除く。)を添えたものとする。ただし、表一の(い)項、(へ)項、(と)項、(ち)項、(り)項、(ぬ)項、(る)項又は(を)項に掲げる図書は、併せて作成することができる。

下から4行目の「ただし」の前までが1つの文章。「○○の場合には××をつけろ」を列挙したものだから、表にすればすむはずなのに。

という具合に法令の文章はわかりにくいわけで、だからこそ解説書とかが売れるわけだ。しかしこの種の解説書の著者によく立法担当者自身が入っていたりするのは、事情はわかるがちょっとかちんとくる。わかりやすく説明できるんなら条文自体をわかりやすく書いてくれ、と。そういうのを「マッチポンプ」と呼ぶ人だっているぞ。法令の条文には形式があって、なんてことは百も承知だが、その形式とやらがどれだけ大切なのか、もう一度考え直してみるといい。本当に変える余地はないのか、と。

すべての日本国民は、少なくとも中学までの教育は終えている。かなりの人数が高校や大学も行く。表や数式の読み方を理解できないはずがない。そもそも表や数式を理解できないなら、あの文章はもっと理解できないはずだ。法律のほうは比較的わかりやすい文章になっていることが多いが、施行令とか施行規則とかはダメダメだ。きっと議会のチェックが入らないからだろう。あの文章のままだったら、理解できない議員さんたちが続出だろうから。しかし、法律の実際を決めるのは、施行令や施行規則なのだ。法律の精神はそうした細部に宿る。

もし条文自体を変えるのが難しいとしても、立法担当者に解説書を書く暇があるなら、その解説書そのものを法令の添付文書にすればいい。業務時間外で書いてるというなら、その分の残業代を払って書かせるべきだ。今はどうか知らないが、かつてその種の解説書の印税は立法担当者のお小遣いになっていたはず。国に帰属すべきとかいう前に、それは無料で広めるべきものではないだろうか。

素人は読まないからいい、というのはあたらないと思う。私たちの社会を律するルールだ。むしろ、素人が読めるような法令を心がけるほうがスジではないか。裁判員制度だって、法を身近にしようとする手段の1つだろう。私に言わせれば、法を身近にさせたかったら、裁判員制度なんて国民に負担をかける制度を作る前に、法令をわかりやすくする努力をもう少しやってもらいたい。

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Comments

あまり法令を分かりやすくしてしまうと、それを飯の種にしている方々(時給ウン万円取るサービス業とか)がお困りになってしまうので、産業保護のためにあえて難解にしているのでは、と邪推してみたり。

Posted by: はぐれバンカー | November 23, 2006 at 02:40 PM

はぐれバンカーさん、コメントありがとうございます。
そう邪推したくなりますよね。もちろん厳密さを追求するためとかいろいろあるんでしょうが、つきつめると「法律は誰のものか」について、根本的な認識が私たちとはちがっているのだと思います。

Posted by: 山口 浩 | November 24, 2006 at 03:17 AM

一時期、いわゆるインターネットプロバイダで働いていましたが、電気通信事業法の読み難さには辟易しました。
なんでHTMLで書かないのか。
あんなにアッチコッチ飛ばされて、いちいち目視で追うなんてやってられーん!と思うことが山ほどありました。
条文を場合分けして表(というか状態遷移図)にしてみたら未定義の場合が出てきちゃったりして。いろんなところに聞いて、総務省にまで聞いて結局よくわからなかったり。

法律を扱う人は、数学(とくに論理と集合)を勉強すべきだ。

Posted by: いんたーねっと屋 | November 24, 2006 at 07:11 PM

いんたーねっと屋さん、コメントありがとうございます。
激しく同意、です。ハイパーテキストは、法令文書にはけっこう適していると思います。
というか、XMLで書くぐらいの構造化をきちんと進めれば、格段にわかりやすくなるはずです。
少なくとも、現状に問題があるという認識だけはもっていただけるといいんですけど。

Posted by: 山口 浩 | November 25, 2006 at 02:40 AM

主張は分かるのですが,例が良くないでしょうか。

所得税法施行令第61条第2項第2号のイについていえば,括弧を外すと,「当該分割法人の当該分割前事業年度又は当該分割前事業年度の前事業年度終了の時の資産の帳簿価額から負債の帳簿価額を控除した金額」となりますから,「代数で数式」を書くまでもないように思います。括弧書が煩雑というのであれば,項を変えて但書にすればよいのです。

移動平均法,売価還元法についていえば,会計用語としての一般的な定義を前提に,税法上の定義をしているのであって,会計担当者が,会計用語としての定義を念頭に読む限り,特に難しいところはないように思います。数式で一から説明を始めたら,簿記の教科書になってしまうのではないでしょうか。

建築基準法施行規則第1条の3についても,表2,表3は,山口さんの言われるような「Aの場合」「Bをつけろ」という対照表です。表1に関してのみ,「Aの場合」が本文にあり,「Bをつけろ」の部分が別表になっているのであって,何か理由があるのではないでしょうか。

Posted by: 通りすがり | November 26, 2006 at 02:41 PM

通りすがりさん、コメントありがとうございます。
例が悪かったですね。すいません。時間がなかったので、目星をつけて所得税法施行規則をあたりました。他にいい例があったらぜひご紹介ください。

Posted by: 山口 浩 | November 27, 2006 at 11:32 AM

こんばんわ。初コメントです。
法令文については、立案者の権限ではなく
内閣法制局の審査によって決まっていますよね。

他の法令と整合性が取れているか、
過去の法令と単語の使用法が一致しているか等など
突っ込まれては直すことの繰り返しだそうです。
法改正のときに担当にあたると、
正月以外土日もほとんど休めないと聞きますので、
とにかく面倒な作業なようです。

近年は法令文の簡略化が進んでいますので、
かつてよりは、ずっとわかり易くなりましたよ。
ついに監獄法もなくなりましたし、
民法も平仮名になりましたからねえ。

Posted by: natsu | November 30, 2006 at 12:12 AM

natsuさん、コメントありがとうございます。
わかりやすくなったというのは知っています。努力はしている、というのも。法制局の方々の話もある程度は。
それで充分だもう改善の余地はない、ということではないと思うので書いてみました。
まさかと思いますが、当局の方々は現状に改善の余地がないなどとはゆめゆめ考えていないでしょうし。
少なくとも私には、法令文の表現のしかたには改善の余地がかなりあるように思います。
法律は、社会の動き方を規定する「プログラム」であるわけですね。今法制局の方がやっているのはそのたとえでいえばバグ取りです。
私がいいたいのは、「機械語」の部分とユーザーインターフェースの部分を分けて考えたほうがいいのではないかと。
コンピュータサイエンスの専門家の知恵を借りる余地があるのではないかと思うんですが。
そういえば、刑法はまだでしたね>ひらがな化
いったい何年かかるんでしょうか。

Posted by: 山口 浩 | November 30, 2006 at 09:39 AM

刑法は1995年にひらがなになっています。数学教育史上重要な改正です。(私のサイトを参照)

まだなのは、抜け殻状態となった「商法」の後ろの部分。

Posted by: みやど | January 02, 2007 at 07:45 PM

みやどさん、コメントありがとうございます。
ほんとですね。すいません。すっかり思い込んでいて、ちゃんとチェックしませんでした。とはいえ、ひらがなになっても不親切さはたいして変わらないというあたりが本当の問題だったりするのかもしれません。

Posted by: 山口 浩 | January 03, 2007 at 03:14 AM

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