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いじめもゲームのせいになる、という話

2006年11月15日の朝日新聞朝刊に、「いじめ、テレビやゲーム漬けが影響か 京大など調査」という記事が出ていた。脊髄反射しそうになるのをぐっとこらえて、ここは冷静にいきたい。

まずは記事から。最初の段落はこう。

全国高校PTA連合会と京大大学院の木原雅子助教授(社会疫学)は14日、いじめに関する調査結果を発表した。高校生6406人が対象。しつこくからかったり、無視したりするなどの「精神的いじめ」は加害者、被害者の立場が入れ替わりやすく、テレビやゲーム漬けがいじめを助長する可能性があるという。

問題は3番目の文章。「入れ替わりやすく」、まではいい。その次だ。「テレビやゲーム漬けがいじめを助長する可能性があるという。」とある。またか、というのは簡単だが、それだと「また素人が」と片付けられるのがオチ。ちょっとマジで考えなきゃ。

記事をさらに読むと、こういうくだりがある。

1日のテレビ視聴が1時間以内の子に比べ、4時間以上の子がいじめをした経験は、高校男子で1.2倍、同女子で1.4倍多かった。ゲームの時間や携帯電話のメール交換頻度でも同じ傾向が出た。

あれ?テレビ、ゲームの他に携帯メールも出てるじゃん。「同じ傾向」なんでしょ?どうしてこれで携帯メールが消えて「テレビやゲーム漬け」になるの?さらに記事はこう続く。

木原助教授は「テレビやゲーム漬けの状態が攻撃性を育て、人間的なつながりの薄さが精神的不安定を引き起こすことで、いじめが生まれる可能性があるのではないか」と分析。「学校や保護者が加害者と被害者の意見に耳を傾け、テレビ、ゲームに触れる際のルールづくりが必要だ」と話している。

携帯メールはすっかり抜け落ちて、テレビとゲームだけになってる。「テレビやゲーム漬け」は「人間的なつながりの薄さ」と整合的だが、携帯メール漬けだとむしろ相互依存みたいな感じになって、つながりの薄さと結びつけにくいからか?携帯メールと攻撃性もつながりにくそうだし。でも同じ傾向なんだよね?携帯メール漬けの子はいじめをしやすいんだよね?どうして携帯メールを落とすんだ?それに、ゲームといったって、オンラインのとオフラインのとではちがうじゃん?ちゃんと区別したのか?

わからないので、京大のニュースリリースをみてみる。最初にこうある。

(社団法人)全国高等学校PTA連合会と京都大学大学院医学研究科 木原雅子助教授(同会健全育成委員会協力委員長)の研究グループは、全国の高校生の「精神的いじめ」についての実態調査を実施し、このほど調査結果を『見えない暴力-「精神的いじめ」の実態調査について 2006年度 全国高校生の生活・意識調査結果より』としてまとめました。

社団法人全国高等学校PTA連合会が京都大学大学院医学研究科木原雅子助教授(同会健全育成委員会協力委員長)と共同で、独立行政法人福祉医療機構の助成を受けて、全国の高校生の「精神的いじめ」の実態調査を実施したもの、ということらしい。このリリースでは、調査項目が示されているだけ。関係のところを拾うと、こう。

「メディア・IT」
 5. 「精神的ないじめ」(小学生)とゲーム利用との関連
 6. 「精神的ないじめ」(小学生)とテレビ視聴との関連
 7. 「精神的ないじめ」(小・中・高)とテレビ視聴との関連
 8. 「精神的ないじめ」(高校生)と携帯電話/インターネット利用との関連

こちらだと、ゲーム、テレビ、携帯/インターネットの順となってる。おそらくこれが当初の仮説、とみた。それが記事ではテレビ、ゲーム、携帯メールときて、それをさらにテレビとゲームにしちゃってるわけ。今回の発表時と比べて順番が入れ替わっているし、取捨選択が行われたりしてるようだが、当然これにはなんらかの理由があるはず。

でも、このほかにも、こんなのも要因の可能性が調査されてるようだ。

「人間関係」
 9. 「精神的ないじめ」(高校生)と学校の人間関係(友人・先生)との関連
 10. 「精神的ないじめ」(高校生)と家族の人間関係(保護者・祖父母)との関連
「家庭生活の規律」
 11. 「精神的ないじめ」(小・中・高)と家の手伝い状況との関連
 12. 「精神的ないじめ」(高校生)と食生活との関連

個人的には、テレビでもゲームでも携帯メールでも利用時間が長いといじめ傾向が強いという点に注目する。長時間そうしたものにふけることができる生活環境ってなんだ?という点。それから、「テレビ漬け」の子と「ゲーム漬け」の子と「ケータイ漬け」の子がどのくらい重なってるのかにも興味がある。設問をちゃんと見ないとわからないが、「1日のテレビ視聴」時間が「4時間以上」でかつ「1日のゲーム」時間が「4時間以上」でかつ「1日の携帯メール」時間が「4時間以上」、なんて子はそんなにいないのではないかと。1日12時間もできないって。だとしたら、「テレビ漬け」、「ゲーム漬け」、「ケータイ漬け」はそれぞれ別の子なわけで、それらが共通していじめ傾向を持つなら、もう一段前の共通因子があるのではないか?と思うのが自然ではないか。だとするとテレビやらゲームやらに着目するのが本当に適切なのか?という疑問がわいてくる。今回の発表ではそのあたりが全然出てきてないが、関係ないという結果にでもなったのだろうか。まさか、やってないなんてことはないだろうけど。

まだわからない。わからないので、京大の木原雅子助教授にメールを送って、報告書を見せて欲しいと頼んでみた。回答によると、今回の記者発表は、全国高校PTA連合会の都合により、近々いじめ調査の結果に対する全国講演を始めるのだそうで、報道の混乱を避けるために緊急で行ったものだそうだ。記事になった発表の内容は、分析途中の未完成のものとのこと。

未完成のまま全国講演を始めちゃうのか?まあ講演ができるぐらいにはまとまってる、のだろう。どうやら全国高校PTA連合会、急いでいるらしい。連合会サイトに出ている平成18年度の事業計画をみると、こう。関係ありそうなところを太字にして下線を引いてみた。

平成18年度 事 業 計 画
Ⅰ 基本目標及び事業方針
今日、多くの高校生は明るく伸び伸びと健やかに成長している一方、高等学校での爆発物傷害事件、管理人両親殺人事件、実兄刺殺事件、異性友人殺人事件、母親劇薬殺人未遂事件等、高校生による相次ぐ凄惨な事件が発生し、その問題行動は憂慮すべき状況となっている。また、日本の高校生は、世界的に見て、学校以外の勉強時間が大変短く、テレビ漬け、ビデオ漬け、ゲーム漬け、パソコン漬け、ケイタイ漬けによって、心身がガタガタになってきていることが大きな問題となっている
本連合会が、昨年10月、全国高校2年生6000人を対象として行った「全国高校生の生活意識調査」でもその実態が明らかになった。
それによると、学校外では全く勉強しない生徒が48% 存在し、1時間以内を含めると80%に達する。一方、1日3時間以上テレビを見る生徒は43%、2時間以上を含めると77%となっている。同時に行った保護者への調査でも、53%の保護者が、自分の子どもに満足していない点の第1位として、「勉強をしない」ことをあげている。
規範意識や生活態度においても看過できない問題が出ている。調査によると、高校2年生の出会い系サイトの経験者は5%、援助交際の経験者は1.3%いるが、女子だけだとさらにこの数値は高くなる。また、万引の経験者は14%、自傷行為の女子の経験者となると男子の倍の10% に達している。
この調査結果でもわかるように、今、子どもたちは、急激に変化する社会の中でその意識も行動も大きく変わってきている。しかしながら、今の子どもたちを育て上げたのは、我々親であり、学校であり、社会である。長野大会で紹介された高校生の「携帯を作ったのも大人、与えたのも大人、金儲けのために人を陥れようとしているのも大人」の言葉にもあるように、われわれ大人の責任は重大である。
このような状況の中で、本連合会は、子どもたちの健全育成のため、そして親としての自覚を高め責任を果たすために、全国約4500校の単位PTAを基盤に、50都道府県市高P連、9地区、そして全国組織として各種の研修・研究活動、啓発活動、広報活動、シンポジウムや大会開催を行ってきた。
以上のことを踏まえて、平成18年度は次の事項を重点とする。
1.子どもたちの健全育成のための調査・研究・啓発活動
2.子どもたちの基礎学力と学ぶ意欲・態度の育成に向けての調査・研究・啓発活動
3.情報機器への対応に関する調査・研究・啓発活動
4.研修・啓発活動のための研究会・シンポジウム・大会の開催
5.家庭・学校・地域、行政との協働連携
6.情報共有化のための広報活動の充実

列挙されてる事業計画のうち3.に、こんな項目がある。「福祉医療機構」の名があるから、たぶんこれなんだろう。

(2)独立行政法人福祉医療機構補助事業による「子育て支援事業」の実施
事業名:「子どもを取り巻く人間関係の回復と社会環境の充実」事業
近年、社会の豊かさとは対照的に、子どもたちを取り巻く環境が根本から大きく揺さぶられている。子どもたちの様々な問題(各種犯罪行為、薬物使用、飲酒、喫煙、性行動、自傷行為、引きこもり、自己肯定感の欠如、やる気の喪失等)の根幹には、メディアやITからの有害な情報の氾濫、さらにそれらを適切に判断処理するのに必要な基本的な人間形成の遅れや未発達があり、それら全ての背後に家族関係をはじめとする社会全体の人間関係の希薄さがあるのではないかと考えられる。
このような考えに基づき、本年度より新たに3カ年計画で標記事業を開始すべく、福祉医療機構に申請した。
平成18年度テーマは、「子どもを取り巻く人間関係の回復と社会環境の充実」― 家庭や学校における人間関係と言葉の影響 ― とした。
身体的な暴力は外から見えるため、比較的発見される機会があるが、言葉の暴力は当事者間のやりとりのため、外からは全く見えない。また言葉の暴力を発している側もその自覚がない場合が多く、問題の発見が遅れる原因となっている。
「身体の傷は時間と共に癒えるけれども、心の傷は一生消えない」ある子どもの言葉である。このような問題の実態を調べるともに、それに対する保護者や学校の対処の方向性を探ることを目的とする。

で、平成18年度の年間行事予定をみると、11月、12月に各地区で「子育てシンポジウム/文科省シンポジウム」なるものを開催するらしい。全国講演というのはこれに関連するイベントなんだろうか。とすると、これに間に合わせようということなんだろうな。

たいへん立派なことである。ぜひがんばっていただきたい。とはいえ、事業計画の中に既に「テレビ漬け、ビデオ漬け、ゲーム漬け、パソコン漬け、ケイタイ漬け」なんて表現があるから、今回の調査項目自体がこの事業計画からくる「決め打ち」っぽく見えなくもない。それに、「根幹」に「メディアやITからの有害な情報の氾濫」があってさらに「さらにそれらを適切に判断処理するのに必要な基本的な人間形成の遅れや未発達」があってさらにその背景に「家族関係をはじめとする社会全体の人間関係の希薄さ」、なんていうのはあまりに広すぎないか。それじゃ「根幹」じゃないだろうに。ここで根幹というなら、「家族関係をはじめとする社会全体の人間関係の希薄さ」とみるのが自然じゃないのかね。

まあ、調査結果を見ないうちにかみついてもしかたがない。記事は当然ながら記者が書いたものなので、そこでなんらかの情報操作が入った可能性は充分にあるし。報告書は年度末ごろに完成する予定で、完成したら送っていただくことになっている。ぜひじっくり読ませていただきたい。そのうえで上記の疑問が解決できればそれでよし。もしできなければ、…さてどうするかね。

当面のところは、その全国講演とやらに行ってみるぐらいしかないか。どこにも出てないんだが、そのうち情報が出るんだろうか。

年度末までがまんできない、という向きは、CESAの「テレビゲームのちょっといいおはなし3」の24ページ以降あたりをお読みいただければ。いや、これは関係ない話なんだけどね。なんか、思い出しちゃうんだよねなぜか。

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Comments

最近、『ダメな議論』という本を読んだのですが、典型的に当てはまりそうな記事ですね。
こんな稚拙な論理構成で、しかも完了していない調査結果を基に記事を書き世間に公表してしまう大新聞の体質にこそ恐れ入ります。

揚げ足を取るというかダメ出しをする記事を書いてOhMyNewsにでも投稿してみようかしらん。

ゲームのオンライン/オフラインの区別もそうですが、テレビにしたって家族で見てる割合/有無とかを換算するだけでかなり論旨が危うくなってくるような・・・。

しかも勉強漬けでは心身ガタガタにはならないと言い切ってるような事業方針にも唖然とさせられます。人間関係も(以下略・・・

Posted by: 名無之直人 | November 16, 2006 05:46 PM

学界も流行に敏感でないと目立てないんですよ。

Posted by: 佐藤秀 | November 16, 2006 08:39 PM

いじめられる側は、不細工+ウンチ(運動音痴)=弱い からかと。
いじめる側は、いじめ=強さ見せる場+ストレス解消 からかと。


先生に相談しても無駄。いじめ救済方法なんて先生こそが知りたいって。
監視カメラ(便所含む)設置以外に解決方法はない。
むろん芸能人や、美談をこよなく愛するスポーツ選手が「いじめはいけません」と言っても無駄。

学校という閉鎖空間で力を見せる場=いじめ

いじめ解決方法は、殴り返ばいい。
10発殴られたら3発は返す。
いじめは喧嘩ではない。必要なのは、猫を噛む鼠…ではなく、人形だから。
ま~バックに仲間、先輩は付き物だから、それらに絡まれたらおとなしくやられる。
そんでまた、同級生のいじめになったら殴り返す。

1発も殴れない人は、勉強しましょう。
そんでイケメン(金持ち)になりましょう。
餌(金)を与えれば、大抵のペット(女)は嫌でもついてくるでしょう。
今では、手すら口すら目すら出せない、未来の女に思いを馳せましょう。

Posted by: ばっちゃん | November 17, 2006 10:26 AM

コメントありがとうございます。

名無之直人さん
報告書が待ち遠しいですね。専門家の書かれたものですから、こちらも「本気」で読ませていただこうと思います。ご指摘の通り、勉強のしすぎでいじめに走る、という可能性を最初から排除するのはおかしいのかもしれませんね。

佐藤秀さん
予算がつく、というのもけっこう大きな要素だとは思います。

ばっちゃんさん
監視カメラはときとして有効ですが、トイレはどうかと思います。カメラより「人の目」なんでしょうね。殴りかえしたり、勉強して見返したりできる人であればそもそも大きな問題にはならないわけで、それらが解決策になるとはあまり思えません。

Posted by: 山口 浩 | November 17, 2006 06:02 PM

「いじめをした経験」って、そもそもいじめって加害者の意識と被害者の意識にずれがあるってのは常識では。
加害者は全く意識していない場合も多いでしょうし、逆に、からかうのもいじめになりうると考えれば、実際はいじめではなくても「やっちゃったかも」と過去を振り返る思慮深い高校生もいるはず。

この調査でいう「いじめた経験」はいじめの実件数とか実状とかとはだいぶ食い違うような気がします。意識調査としては無意味ではないのでしょうが……。ゲームに結びつけるそれ以前のところからなんかヘンだな、というのが私の印象です。

Posted by: はる | December 22, 2006 01:35 AM

はるさん、コメントありがとうございます。
調査方法の詳細はわかりません。そのうち発表されるでしょうから、その節によく読んでみたいと思います。「いじめ」といっても人によっていろいろな定義がありうるでしょう。そうしたバリエーションがあること自体は、ある程度はやむを得ないものと思います。ちがいをはっきり意識していて、それに応じた使い方をしていればいいわけですね。このケースはどうなんでしょうか。

Posted by: 山口 浩 | December 22, 2006 05:41 PM

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