教育的に正しい「どんぐりころころ」を考えてみる
小ネタ。最近の童話が昔のものから改変されてる、という話をよく聞く。さるかに合戦でも最後にさるがかにに謝って一件落着、みたいな。教育的配慮というやつだろうか。ふと気づいたのだが、童話がそうなら、童謡も同じような配慮が必要なはずだ。というわけで、ちょっと考えてみようと思った。作詞の才能なんてこれっぽっちもないんだけど。
題材として、「どんぐりころころ」を取り上げてみる。擬人化されたどんぐりが池に落ち、これまた擬人化されたどじょう(どんぐりに対して「ぼっちゃん」と呼びかけるところからみて、大人なんだろう)と遊ぶが家に帰りたいと泣く、というのがまあ「あらすじ」になるわけだ。…ちょっと考えただけで、教育上好ましくないではないか。問題ではないか。なんとかしなければではないか。
では。
♪どんぐりころころ どんぶりこ
ここはあまり変えたくないな。いきなりちがっていたら同じ歌と思われないかもしれないし。問題は次だ。「おいけにはまって」なんてことになると、「さあたいへん」なのは池の管理者だ。ここが公園だとすると、管理者は地方自治体ということになるかもしれない。「池の周りにフェンスを設置しなかった」「管理人を常駐させなかった」なんていう批判が集中するにちがいない。市民派の市長もいっしょになって、担当課の課長を責め立てたりするかもしれない。記者会見の場で○○新聞関西支局の社会部記者が居丈高に「どう責任とるんやわれ」とすごむかもしれない。これはたまらん。ひょっとしたら、どんぐりの保護者にも矛先が向かってしまうかも。「なぜ幼いどんぐりから目を離した」「保護者としての責任を放棄していたのではないか」なんて陰口を叩かれてしまうかもしれない。「前からあそこの奥さんは」なんて陰口を叩かれてしまうかもしれない。断じて許容できない。ではどうするか。
まず、「どんぶりこ」をなんとかしなければ(コメント欄参照。ご指摘いただいたタケさん、あsdさん、多謝)。おいけにはまっていないのに「どんぶりこ」とはいったい。というわけで、これはどんぐりの名前であることとする。このどんぐり、姓は「ころころ」、名は「どんぶりこ」という。女の子の名前のようだが、れっきとした男の子だ。名前もジェンダーフリーの時代。最後に「こ」がつくのは男の子の名前だなんて思い込んではいけない。それに、わが国の歴史をひもとけば「小野妹子」という前例だってある。由緒正しい伝統的な名前、ではないか。強引だがこれでいこう。これで安心。
さて、で、おいけをどうするか。たとえばだ。
♪おいけはあぶない ちかづくな
きっとお池のまわりには柵も作られているであろう。「いけに はいっては いけません」なんて看板も立っているであろう。これなら行政の方々も保護者も安心だ。
しかし。問題は、これだけではない。公園には、いろいろな人がいる。知らない大人が子どもに近づいてくるかもしれない。そうなのだ。もし「ぼっちゃんいっしょに あそびましょ」なんて声をかけてくるどじょうがいたら、怪しいとしかいいようがない。まさに不審者以外の何者でもないのだ。接近の意図はいったい!?危うしどんぐり坊や!不審者情報が地域の防災無線を通じてかけめぐることになる。「今日午後4時半ごろ、おいけの浅瀬にて、不審などじょうが目撃されました。目撃情報によると、どじょうは30~40歳位。身長12cm位。黒っぽい服装で、長いひげが特徴。どんぐりの男の子(7)に『いっしょにあそびましょ』と声をかけ、池の深みへ連れ去ろうとしました。」とか。
いやいやそんなことではいかん。そこでだ。
♪どじょうがなかから パトロール
実は、どじょう氏は警察官だったのだ。くぬぎ公園派出所勤務の巡査部長。任官12年目の中堅。秋田県出身、柔道2段(寝技が得意)。特技の水泳を生かして、危険が多い池の中をパトロールしている。これならどんぐり坊やが万が一池に落ちても安心だ。一方、地上は新人のスズメ巡査が空からパトロール中。
♪ぼっちゃん5時には かえりましょ
「いっしょにあそびましょ」というのは、どんぐり坊やの聞き違い。5時になったら帰宅する。よい子の習慣である。子どもを犯罪から守るのは、現代の世の中では第一に考えられるべきことであろう。
続いて2番。
♪どんぐりころころ よろこんで
1番が変わってしまったので、いったい何をよろこんでるのかよくわからなくなってしまったが、まあしかたがない。
とにかく喜んでいるわけだ。大人にとって最も都合のよい子どもは、いつも何かしら喜んでいて機嫌のいい子どもだ。身近な幸せに気づく感受性を備えた情緒豊かな子ども。
♪しばらくマリオと あそんだが
どじょう巡査部長は勤務中であり、いっしょに遊んであげることはできない。まあそこらにどんぐりの仲間もいるであろうから、仲間たちと遊んでいてほしい。といっても、何をして遊んでもいいというわけにはいかない。「失神遊び」はもってのほか。「鬼ごっこ」も鬼を不当に差別し異種の仲間へのいじめを助長しかねないものであるから、あまり好ましくない。かくれんぼは人目につかないところに隠れて思わぬ被害に遭うおそれもあるし。球技は得意でない子もいるであろうから、結果として差別につながりかねない。いや困った。しかたがない。ニンテンドーDSで「スーパーマリオブラザーズ」でもしていただきたい。ゲームばかりしていると、なんてお説教もありそうだが、DSはWiFiもついているから、通信対戦もできる。時間を決めて友だちと交流しながらゲームを楽しんでいるどんぐり坊やを誰が非難できようか。
♪やっぱり脳トレ やりたいと
やはり時代は脳トレである。まだ子どもであるどんぐり坊やは、脳年齢のほうが実年齢よりも高いであろうが、やはり子どものうちから脳を鍛えて、次世代を担うりっぱなどんぐりに成長してもらいたいものだ。とはいえ。
♪ないてはどじょうを こまらせた
うむこれはいかん。勤務中のどじょう巡査部長に脳トレをおねだりするとは。どじょうも困ってしまうではないか。
しかしまあ、地域の目で見守られ、すくすくと元気に成長するどんぐり坊や。好ましいではないか。望ましいではないか。教育的に正しいではないか。これなら、子どもに聞かせても問題がない。はずだ。たぶん。
最後に続けて。
♪どんぐりころころ どんぶりこ おいけはあぶない ちかづくな どじょうがなかから パトロール ぼっちゃん5時には かえりましょ
♪どんぐりころころ よろこんで しばらくマリオと あそんだが やっぱり脳トレ やりたいと ないてはどじょうを こまらせた
…やっぱり作詞は向いてないな。なんか、めちゃくちゃ、萎えた。
どんぐり坊やが楽しんだのはこれ。
そういえばこんな本もあったっけ。
この本はどうなんだろう。
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Comments
>♪どんぐりころころ どんぐりこ
♪どんぐりころころ どんぶりこ
が正しいのでは?
Posted by: タケ | November 23, 2006 05:57 AM
正しくは
どんぐりころころ どんぶりこ
ですよ。
Posted by: あsd | November 23, 2006 08:12 AM
ご指摘ありがとうございます。>タケさん、あsdさん
確かにその通りですね。思い込みというのはおそろしいものです。長年そう信じていたのですが。「おもいこんだら」系ですね。さっそく修正したのですが、そうすると「どんぶりこ」の意味が問題になりますね。さてどうしましょう。
Posted by: 山口 浩 | November 23, 2006 08:37 AM
どんぶりこは、池に落ちた瞬間の音を表していたはずです。
Posted by: とおりすがり | November 23, 2006 12:20 PM
とおりすがりさん、コメントありがとうございます。
>どんぶりこは、池に落ちた瞬間の音を表していたはずです。
ええ、そうでしょうがそれが何か?
Posted by: 山口 浩 | November 23, 2006 12:29 PM