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December 25, 2006

高校生のうちに準備しておくべきいくつかのこと

どの大学にもあるのかどうかは知らないが、少なからぬ大学の教員には「地方営業」がある。各地の高校に行って模擬授業とかをやるというものだ。多くの高校では、進路指導の一環として、大学やら専門学校やらといったところから教員やら入試担当職員やらを呼んできて説明会みたいなことをやる。いろいろな大学から集まった教員が控え室で出番を待つあたりはまさに「営業」にふさわしい趣だが、教室での高校生たちに接することができる機会というのもなかなかないので興味深い。

以下は、そういう場で受けた質問に対して答えた内容を思い出しつつ書いてみたもの。

質問は、「貴学部に入学したいと思った生徒は、どんな準備をしておけばよいか」というものだった。残念ながら生徒からではなく高校の先生から。何も質問がないとまずいと思ってとっさに口にしただけなのかもしれないが、私は一瞬つまった。入試問題の傾向みたいな話ではないだろう、というのはとっさの判断。そういうのはすでに必要な範囲で公開されているし、それ以上を明かすのは(仮に何か知っているとしても)まずいし。となると、どんな生徒に来てほしいか、みたいな話を期待しているのではないか。ここまでくるのに約2秒。気を取り直して、ふだんから考えていることを話してみた。

私の職場はメディアについていろいろな方面から学ぶというふれこみの学部なわけだが、だからといって入学前に別にメディアについて特別な勉強をしておいてほしいとは特段思わない。高校生が政府とジャーナリズムの関係について意見をもっていてもネット広告市場の可能性について考えていてももちろんかまわないしおおいに勧めたいところだが、別にそれがないからといってだめということはない。

今の時代は、単なる情報としての知識にはあまり意味がない。そんなものはネットで検索すればあっという間に出てくる。もちろんそうはいっても情報の取捨選択やら何やらそれなりに難しいことはあるし、大半の高校生にとっては情報との付き合い方自体も勉強の対象だったりするわけだが、それでも、単にある情報を「知っている」ということの価値は、かつてないほどに下がってしまっている。それに、大学で学ぶべき内容は大学で学べばいい。

高校生のうちにやっておかなければならないのは、高校生のうちにしかできないこと、高校生のうちにやっておいたほうがいいことだ。高校の勉強をきちんとすること。クラブ活動に打ち込むこと。たくさん本を読むこと。高校生活を思い切り楽しむこと。規則正しい生活習慣を身に付けること。こういうことは、生半可な知識よりはるかに価値がある。それから、親元から離れた大学に行くつもりなら、最低限の家事は練習しておくにこしたことはない。

それからもう1つ、「自分の頭の中に『トゲトゲ』をたくさん作っておくことを挙げておきたい。「トゲトゲ」は何といったらいいのかよくわからないが、好奇心とかこだわりとかのポイント、といった感じのものだろうか。高校までの授業科目とちがって、大学ではかなり広い選択肢があって、自分でその中から選び取っていかないといけない。そういう選択の際に必要なのが、ここでいう「トゲトゲ」だ。「トゲトゲ」があれば、そこにいろいろな情報がひっかかる。自分なりの理解や問題意識が生まれる。だから、「トゲトゲ」はたくさんあったほうがいい。たくさんの引っかかりができるからだ。要するに、いろいろなものごとをキャッチするためのアンテナをたくさん作っておこうということ。小腸の中には栄養吸収効率を上げるための絨毛があるが、あれと似ている、といえなくもない。

こういうのがないと、大学の授業は、右から左へ流れていくだけになる。最小限の努力で単位をとって、あとは遊べばいいというのもひとつの手ではあるが、それだけではあまりにもったいないように思う。どんな分野であれ、一定期間集中して体系化された知識を習得するということは、単にネットで検索して情報をつまみ食いするのとはちがった価値がある。

ではその「トゲトゲ」をどうやって増やしたらいいか。体系だった方法もあるのかもしれないが、私が思いつくのは、「自分の好きなこと」を追いかけていくことだ。人間は、自分が好きなことをしているときに最も真剣になれるし、最大の能力を発揮できるのではないか。好きなことに関する情報には、とても敏感になる。たとえばサッカーが好きなら、サッカーに関するニュースを追いかけてみるといい。それだけで、人権や格差の問題、国際政治や経済、リーダーシップ論やマーケティング、心理学やキャリアデザイン、その他いろいろなことへのとっかかりを得ることができるはず。あるいは逆に「これはきらい」というのでもいいかもしれない。少なくとも、何でも「どうでもいい」とやりすごしてしまうよりははるかにましだ。

興味というと、すぐ将来の就きたい職業とかそういったものと結びつけて考えてしまいがちだが、別に将来の希望が決まっていなくてもいい。私自身がそうだったからだが、高校生のうちに将来のビジョンとか職業に関する展望とか、そういったものがしっかり固まっているなんて、ちょっと信じられない。ほんとかよ、なんて思う。もちろん「○○になりたいから△△を勉強したい」なんていう人がいても一向にかまわないわけだが、全員がそうであるなんてはずがない。それでいいではないか。自分の将来をあらかじめ縛っておく必要はない。とりあえず進んでいけば、また新しい道を見つけることもできるからだ。野球が好きな人の中で、プロ野球選手になれる人はほんのわずかだが、プロ野球ビジネスに関わる職業はもっと門戸が広い。趣味や余暇として野球を楽しむなら、誰にでもできる。そういう柔軟さがあったほうがいい。

というわけで、トゲトゲのいっぱいついた頭の高校生がたくさん来てくれることを希望しつつ、本日ここまで。

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Comments

賛成!

これらは、社会人になる前に準備しておくこと、
とも一致しますよね。

you wrote:
> 「知っている」ということの価値は、かつてないほど
> に下がってしまっている。

まったく同意。時と場合にもよりますが、物事を正確
に知っておく必要が無い場合が大半です。

うる覚えで十分。正確さが必要なときは、ググれば
いいのですから。むしろ重要なのは、膨大な検索結果
から、必要な情報をピックアップする能力であると
思います。


you wrote:
> 最低限の家事は練習しておく

男であっても、料理くらいできないと。

you wrote:
> 自分の頭の中に『トゲトゲ』をたくさん作って
> おくこと

賛成。


あと、社会人としてこれらが出来ると得をする場合
が多いというものを具体的に挙げると以下があると
思います。

1. PCのリテラシー
表計算を使いこなせて、プレゼンテーションが
出来ると得をする場合が多い。

2. 語学のリテラシー
英語が出来ると得をする場合が多い。
(これからは、中国語というのもありかも)

3. 金融(ファイナンス)のリテラシー
これを知っているといないのでは、将来大きな差
がでると思う。毎月5万円積み立てて、5% の複利
で運用し、20年たつと... なんと、2千万円を超
えます。

この低金利時代に 5%なんて、と思うかもしれませ
んが、外貨MMFや、株式で運用すれば 5%以上は、
軽くいきます。20年なんて、と思うかもしれない
が、22で卒業して、42歳でこれだけになります。

実際、私が社会人になって最初に勤めた会社の同期
で、月々10万を貯めている人が居たけれど、彼が運用
というものを知っていた今頃とてつもない差がついて
いたと思います。惜しむらくは、低金利の時代に財形
貯蓄をしていたということ。私が転職してからは、
疎遠になったので、その後どうなったのかは知らな
いけど。

まぁ、学生のうちは時間がいっぱいあるのですから、
好きなことを好きなだけやって、上記3項目をちょ
こっと勉強すればいいのかな。

なんか、脈絡がなくなってしまいました...


Posted by: ひろん | December 25, 2006 11:50 AM

ひろんさん、コメントありがとうございます。
社会人でも、トゲトゲがいっぱいある人はいろいろと「発見」があって楽しく過ごせるでしょうが、ともあれ高校生のうちにしたほうがいいことを高校生のうちに、ということです。

Posted by: 山口 浩 | December 25, 2006 10:26 PM

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Tracked on December 26, 2006 12:45 PM

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