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December 05, 2006

返せばすむっていう問題じゃないんだが

「雑種路線でいこう」の記事「近未來通信からの広告売上は没収して被害者救済に充てよ」に注目。

時間の問題だろうと思っていた近未來通信への捜査だが、いよいよ開始らしい。上記の記事では、同社の広告をでかでかと掲載していたマスメディアに対して、片棒かついだ以上半ば共犯のようなものではないかと憤っている。

推察するに多くの詐欺被害者はMTCIや近未來通信を信じたのではなく,彼らが出稿した大手メディアを信じただけではないか.

確かにそういうところはある。新聞とかテレビに広告を出してるだけで信じちゃう人はけっこう多い。というか、それがマスメディアに広告を出す大きなメリットの1つだったりするわけだ。その意味で、片棒担いだという批判はけっこうあたってる。で、この記事では、ただ憤るだけではなく、ちゃんと対策を提案している。これがまた目からウロコ。

・自転車操業のMLMが摘発された段階で,彼らの過去数年分の出稿について,広告を受け付けたメディアから過去に遡って広告売上を没収し,被害者救済に充てる.
・こうすれば被害者救済の原資を確保できるだけでなく,メディアが疑わしい広告主を自発的に調査し,広告出稿を受け付けないインセンティブになる.
・手口を突き止めればメディアは広告出稿を拒否するだけでなく広く報道するだろうから,詐欺の早期摘発・被害最小化にも繋がる.

あ、そうか。その手があったか。

ただ、没収というよりは、自主返納のほうがいいのではないか。これは、権利義務の問題ではなく「道」の問題だからだ。広告を掲載したメディアは、広告主のビジネスの内部事情まで知る由もないし、知らない以上その責任を負う必要もない。だから、広告を出した企業がその後どうなろうと、広告料を没収されるいわれはない。全然、ない。しかしだ。社会正義を追求する(はずの)メディアが、だからといって何もしないでいるいわれもないはず。今はやりのことばでいえば、「品格」の問題ってことだな。

たとえば新聞協会のサイトには、「新聞広告倫理綱領」や「新聞広告掲載基準」といったものが掲載されている。前者にはこうある。

本来、広告内容に関する責任はいっさい広告主(署名者)にある。しかし、その掲載にあたって、新聞社は新聞広告の及ぼす社会的影響を考え、不当な広告を排除し、読者の利益を守り、新聞広告の信用を維持、高揚するための原則を持つ必要がある。

「新聞広告の及ぼす社会的影響」をちゃんと自覚してるわけだ。後者には、掲載しない広告として、こんなものが挙がっている。

3. 虚偽または誤認されるおそれがあるもの。
誤認されるおそれがあるものとは、つぎのようなものをいう。
(4) 取り引きなどに関し、表示すべき事項を明記しないで、実際の条件よりも優位または有利であるような表現のもの。
15.詐欺的なもの、または、いわゆる不良商法とみなされるもの。
16.代理店募集、副業、内職、会員募集などで、その目的、内容が不明確なもの。

新聞社の広告担当の方の目にどう映ったのか知らないが、少なくともある程度の技術的知識のある方にとっては、このビジネスモデルがきなくさいのではないかと疑う余地は充分にあったらしい。私も、確信はないけどなんかちょっと変だよ、とは思っていたし。果たしてこの「新聞広告掲載基準」に沿ったものといえるんだろうか。

たとえば政治家は、献金者が後で逮捕されたり摘発されたりすると、そこから受け取った政治献金を返金したりする。赤字会社の場合みたいに政治資金規正法で決まっているものもあるが、そうでない場合でも、世間の評判を気にして返すわけだ。私は返せばすむとかすまないとかいう問題ではないと思うんだが、メディアではそれで当然みたいな議論がよくあるような印象がある。とすれば、メディアが同じ基準を自らに適用すればいい。

近未來通信がどのくらいの広告費を払っていたのか知らないが、相当な額だったろう。2006年7月期の「売上」が245億円だったそうだから、仮に全部でこの10%ぐらいかけていたとすると24億円。数年分みればその数倍。被害額は一桁多い(3000人から400億円、なんてテレビで言ってた)みたいだから充分とはいいがたいが、それでもないよりはるかにまし。何より、マスメディア各社には返金できないはずのない金額だ。これだけの金額が確実に回収できて、被害者への弁済原資にあてられるのであれば、その価値は決して小さくない。

となれば、「品格」を重んずる新聞社の皆さんが、こうした企業からの広告費をそのまま自社の収入として計上したままでいることなど、とうてい耐えられないはずだ。即刻、返金しなければ、という議論が社内で沸き起こっているにちがいない。新聞社だけでなく、テレビにも広告は出ていたわけだから、当然、高い公共性を標榜するテレビ局の皆さんが、このような不名誉な事態を見逃していいなどと思っているはずがない。当然、これも返金の方向、だよねぇ。

まさか、返金の予定はない、なんて言わないよね。政治家に対しては言うもんねぇ。「品格」のない私に「品格」を語る資格は本来ないんだが、もし、「美しい日本」にふさわしい「品格」のある企業、なんてものがあるのだとしたら、それはこういうあたりに現れるのではないか、という意見はありうると思う。少なくとも、つまんないイベント主催するよりはずっと公共性高い、ぐらいのことはいえそうな気がするがどうだろう。

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Comments

拙ブログがリンクさせていただきました。内容は若干ずれておりますが御容赦下さい。
トラックバックできません故コメントにて失礼します。

Posted by: inowe | December 07, 2006 04:13 PM

inoweさん、コメントありがとうございます。
トラックバックの件すいません。同じIPでスパムさんがいたんでしょうね。教えていただければ個別対応で解除しますが。

Posted by: 山口 浩 | December 08, 2006 12:02 AM

全く同感です。

詐欺業者の宣伝にマスコミが一役かってるケースは多いですがいつもマスコミは知らん振りです。

最近つかまったニセ薬業者の話では
大手新聞に出した広告で客が集まったといってるようです。

これらのニセ薬業者から得ていたお金も
マスコミは返金すべきと思います。

Posted by: とりばち | December 14, 2006 11:41 AM

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返せばすむっていう問題じゃないんだが 本当だ。マスメディアが自ら範を示すチャンスだよ。 [Read More]

Tracked on December 10, 2006 02:44 PM

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