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December 19, 2006

天下りを云々する前にやっておきたい小さなこと

天下り論議がまたしても噴出している。何度も出てくるのは何度やっても成果がないからで、何度やっても成果がないのは何を決めても同時に抜け穴が用意されるからで、何を決めても同時に抜け穴が用意されるのは本気でやってないから、というあたりまではもはや公然の「秘密」ですらない常識。

もちろんそのまた裏には、「天下りのしくみは必要だから」というそれなりの「本音」があるわけだ。確かにそれもわからなくもない。人には職業選択の自由があるし、せっかく蓄積したノウハウを生かさねばもったいない、というのも道理。問題はそれを天下りでやろうとするといろいろな弊害がついて回ること。難しいよねぇ、となる。

しかしちょっと待て。私たちは1つ忘れていることがあるように思う。ちょっとした、しかしとても大きなことを。

もったいつけるほどたいしたことではない。ただ、公務員の人事慣行の中で1つ、民間とは大きくちがっている点がある。この点については、私がいくつか見渡した範囲内では、なぜか議論の「前提条件」となっていて、それ自体としては特に問題視されていないようだ。

それは、特にキャリア官僚に特徴的な、「定年前に『自主的』な退職」という慣行だ。キャリアだと、同期のうち定年まで勤められるのは1人だけで、そのほかは昇進の可能性がなくなった時点で辞めていったり出向したりする、というあれ。ノンキャリアでも、課長あたりまで行くと出向して労働期間の半分くらいは出向先で過ごす、なんていう人は少なくないと思う。

このしくみがいったいなぜあるのか正確なところはよくわからないが、どうも突き詰めると、年功序列制めいたものに行き着くのではないかと想像する。同い年の、あるいは年下の上司に仕えることをよしとしない考え方だ。特にキャリア官僚の人事は、年次をもって語られることが多いと聞く。同期の誰それがこのポストに就いたから、あいつはそろそろ出向だな、みたいな感じ。中高年が辞めていかないと人事が硬直化する、という議論もよく聞くが、これも年功序列型のプロモーションシステムを暗黙裡の前提としている。

このような考え方は民間でもないわけではないが、今はかなり変わってきているのではないだろうか。

実力主義だの成果主義だのを持ち出さなくても、業績を競う民間企業では、年齢に必ずしもこだわらない人事運営を行う度合いが公務員に比べてはるかに高いように思う。ぶっちゃけた話、「年下の上司」に使える社員は、かなり多い。もちろんそれにはいろいろな問題があって、いろいろなご苦労が伴ったりするのも知っているが、背に腹は代えられない。一部の大企業を除けば、多くの民間企業には「天下り」する先などないのだ。その企業で定年まで勤め上げなければならない。年下の上司とだって、なんとか折り合っていかなくちゃ。住宅ローンだって残ってるしまだ娘が大学行ってるし。つらいけどしかたないよねぇ…。

こういう人たちの目から見れば、公務員の定年前退職の慣行は、「甘え」という以外の何者でもないはずだ。さらに勘ぐれば、天下りを前提として定年前退職の直前に昇進するなんていう慣行もあるんじゃないか、なんてことも考えられる。「殉職で二階級特進」じゃないが、いってみれば「高く売る」戦略というわけだ。転進前のポストが窓際の閑職であるより、「部長」だの「課長」だのついていれば、より箔がつくから高い処遇が期待できる。これもやはり「甘え」だ。

折りしも、2007年問題とかもあるし、中長期的にも労働力不足が問題になるご時世だ。ノウハウのある「貴重な人材」たちをそう簡単に放出してたまるものか。とことんまで使い倒していただこうではないか。

というわけで、天下りについて論議するなら、その前にまず、「公務員は定年まで勤める」という慣行を前提としてもらいたい。要するに、「年下の上司に仕える」ことを当たり前にしよう、ということだ。これは法制度をいじるという話ではない。ただの慣行だから、変えると決めれば今すぐにでもできるはずだ。

もちろん、副次効果を考えれば、いろいろ併せて変えたほうがいいところも出てくるだろう。高齢の公務員が増えてくると、たとえば給与体系も、より年功性を薄くしていかないと人件費負担が重くなるかもしれない。民間だったら、一定年齢に達したらあとは給料が下がっていく、なんてしくみのところも少なくないはず。それから、心理面も考慮して、ポストオフした後のためのそれらしい「肩書き」を用意してあげるなんてのもあったらいい。このあたりは法改正なんかも必要かもしれないから、数年のスパンでやってくれればいい。与党があれだけの議席を持ってるのだから、通らない法案なんかなかろう。「美しい国」の公務員制度には必要な改正だと思うぞ。

定年後の生活も気になるだろう。ぜひ再雇用制度を作ったらいい。大手企業なんかの再雇用制度をみると、再雇用の待遇は派遣社員とそう変わらないレベルのものがけっこうある。年金が支給される年齢なら、当然その支給額も計算に入れた上で報酬を考えればいい。知識もノウハウもあり、労働意欲にあふれた高齢公務員を安く使えるとなれば、たいへんけっこうではないか。当然、再雇用時に選考を行って、いい人だけを採用することも必要だろう。これらは、いずれも民間企業ではそれほど珍しくない制度だ。公務員で実現できない理由があるなら聞きたい。

それはどうしてもいやだという人がいるなら、ご自分でがんばって再就職先を探していただこう。組織の口利きが必要ないほどの実力の持ち主なら、自分で適当な転職先を見つけるにちがいない。そうでない人たちは、給料が下がっても年下の上司に仕えても、公務員であり続けることにより大きな価値を見出すのではないか。年金だの公務員宿舎だのといった、公務員であるがゆえのフリンジベネフィットの部分がけっこう大きいということもあるが、そもそも「公務員である」ということ自体が重要なのだ。ぶっちゃけた話、公務員の方々のモチベーションの中には、「勲章」とか「娘の結婚式の際の肩書き」とかいう類の「priceless」なものが占める部分がけっこう大きいのではないかと思うがどうだろう。

というわけで、少なくとも、天下りの議論をする際に、「定年までに1人残してみんな辞める」ことを前提とするのはやめてもらいたい。それは、公務員には常識であっても、一般国民からすれば非常識だ。別に終身雇用を押し付けるわけではない。「年下の上司に仕える」可能性を受諾してもらいたい、と言っているだけだ。ちょっとしたことだが、けっこう大きなインパクトがあると思う。これが「天下りの大半を不要にするしくみ」ではないかと思うからだ。逆に、これができなければ、どんな天下り防止メカニズムを作っても、必ず骨抜きにされてしまうだろう。多くの公務員が「不本意」に職を辞さなければならない状態がある限り、やはり天下りが「必要」という考えは必ず生き残るだろうからだ。

以上は部外者の妄想。この件、公務員の方々のご意見もぜひ聞きたい。コメントなどいただければ。

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Comments

公務員ではないのですが、コメントいたします。
先日、人事院の方に「若手の官僚が起業したり、政治家に転身するなどで人材の流出が激しいですが、何か対策をとっていらっしゃるのですか?」と質問すると、きっぱり「何もしてません」との答えが返ってきました。やはり、人材を留めておく考えはないようです。

Posted by: yuji | December 19, 2006 02:52 AM

自主的にやめるのは止めようがないだろ・・

Posted by: おはる | December 19, 2006 10:05 AM

 年功序列にあると想像するのであれば、各年齢別のピラミッド図を示していただけませんか?具体的なデータを示していただけなければ、何ともいえません。

Posted by: アイアムアボーイ | December 19, 2006 12:15 PM

コメントありがとうございます。

yujiさん
職業選択の自由がありますしね。一般論として、中高年労働者の存在をどう考えるかはいろいろな要素があります。スキルとノウハウの宝庫であり、人件費の面で重荷でもあり。官僚の場合は、政治家なんかへの転進がけっこう多いですから、してもらったほうが官庁の勢力拡大につながる場合もあるでしょう。少なくとも民間企業の場合、自発的に辞める人は会社として引き止めたい人である場合が多いのではないかと(私は例外)。

おはるさん
そうですね。私が問題にしているのは、事実上退職を勧奨する慣行のことです。

アイアムアボーイさん
ピラミッド図が存在するのかどうか不勉強にして存じません。上記の議論は「そういう慣行がある」という一般的な認識に基づいています。これは社会の中でかなり共有化された情報だと思いますので、この程度の与太話には充分な根拠かと。ちなみに、2006年5月29日に衆議院に提出された江田憲司議員の質問(質問第283号)に対する同6月6日の小泉首相の回答書に、「各府省において、国家公務員が定年前に勧奨を受けて退職し、後進に道を譲るといういわゆる早期退職の慣行がある。」とか、「国家公務員の早期退職慣行を是正し、国家公務員の定年までの勤務を可能とすることについては、『早期退職慣行の是正について』(平成十四年十二月十七日閣僚懇談会申合せ)に基づく現在の取組を進めつつ、国家公務員への有能な人材の確保や官民の人材交流の状況を考慮しながら、公務員人事の在り方全体を見直す中で検討してまいりたい。」とかいう記載がありますので、政府としても一般的な認識かと思います。
http://www.shugiin.go.jp/
itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/
b164283.htm
具体的なデータはなかなか出されない傾向にあるようですが、2006年2月16日の衆議院本会議での田村謙治議員の質問で「三千九百八十七の外郭団体に二万二千九十三人もの役職員が天下り」というくだりがあります。どうやって調べたのか、どの範囲のことなのか、そもそも正しいのか知りませんが、そこそこの人数はいるということのようです。
http://www.shugiin.go.jp/
itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/
000116420060216007.htm

Posted by: 山口 浩 | December 19, 2006 04:38 PM

退職後厚遇してくれる受け皿があるから慣行が止まらないのだと思います。慣行をやめるべきか、受け皿を制限、規制して行くべきかというのは鶏と卵的な議論ですね。また、「慣行」であるがためコントロールが難しいとも思います。

Posted by: yu | December 20, 2006 06:09 AM

 40歳から天下り開始で70歳までするとして2万2千人なら各年次平均で1千人ですか。1年次にキャリア官僚がこんなに沢山いるとは思えませんが、読んでみます。

Posted by: アイアムアボーイ | December 20, 2006 12:23 PM

コメントありがとうございます。

yuさん
退職後厚遇してくれる受け皿は、合理的な理由がある場合も多いでしょうが、公権力や国家予算を横にらみしている場合も少なくないわけです。結果としてどういうやり方をするかはいろいろあるでしょうが、私のいいたいのは、とにかく「1人残してみんな辞めるから」を前提条件にして話をしないでくれ、ということです。

アイアムアボーイさん
2万2千人というのは、1年間に天下りした「フロー」の人数ではなく、過去の分も含めた「ストック」の人数かと思います。それからたぶん、キャリアだけでなくノンキャリアも含まれているのではないかと推測しています。

Posted by: 山口 浩 | December 20, 2006 01:27 PM

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またか、とお考えの向きも多いかもしれませんが、山口浩さんからご自身の考察とともに、この件、公務員の方々のご意見もぜひ聞きたいとの言及がありましたので、それにお応えしたいと思います。基本的には下記において何らかの形で触れたことの再構成ですから、既にご覧の方々は適当に読み飛ばしていただければ。 「『天下りあっ旋全廃に反対したらもう自民党には票を投じない』バトン」への懐疑(12/10付) 官僚にとってのインセンティヴと天下�... [Read More]

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