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December 20, 2006

「天下りがなぜ悪いか」より前に「なぜ天下りがあるのか」だと思う

昨日、天下りについて取り上げた文章に、「公務員の方のご意見をお聞きしたい」と書いたら、Bewaad Institute@Kasumigasekiさんが詳細な分析をしていただいた。ていねいにお答えいただいたので、こちらとしても礼を尽くさねばならないと思う。

というわけで、たまにはブログらしく、人の記事にもう一段つっこんでみることにする。

念のためだが、「公務員叩き」とかそういう目で見る人がいたら、それはちがう。私の、政府や公務員に対する基本的な考え方は、以前書いたこのあたりとかこのあたりとかにも現れていると思う。昨日のものも、単に公務員が悪いとかいいたいのではない。

bewaadさんは「なぜ天下りが悪いのか」をまず問うべきとしておられるのだが、私としては、「なぜ天下りが悪いか」を問う前に、「なぜ天下りがあるのか」を考えるべきだと思う。天下りというのは、単に公務員が定年前に退職することではない。公務員の人事制度運営を円滑に進めるために、定年前に(定年後の場合もある)多くのキャリア公務員、少なからぬ数のノンキャリア公務員を関連諸団体、関連産業の諸企業などに転職させること、そのために公務員のマンパワーと権力を使って有形無形の支援をしたり斡旋をしたり推薦をしたり圧力をかけたりなど、事実上組織的な関与をしていること、そうした一連のシステムをいう。

多くの企業にも再就職支援のしくみはある。組織が支援することももちろんある。その意味で民間と変わりないではないかとの議論はありうる。問題は、それが政府によって行われているということだ。bewaadさんは、この問題を生涯賃金と公務員人件費、別の角度からみれば公務員のモチベーションと行政サービス水準との関係で論じておられる。なるほど。ただ、私は、公務員の処遇が民間企業より高くてもかまわないと考える。そもそも仕事がちがうのだから、給与とかを直接比較しても意味はないのだ。それに、他の人はどう思うか詳しくは知らないが、公務員の中に優秀な人がかなりいるという点については、常識的にはかなり共有されうる認識なのではないかと思う。だから、別に給与水準自体でどうこうとは思わない。実際、めちゃめちゃ優秀な人がたくさんいるのだ、公務員には。

むしろ私が気にするのは、現状が公務員組織の「効率と効果のぎりぎりのバランスをとる努力」から出たものではないと感じられるからだ。政府は、いってみれば独占事業体であって、組織内ではいろいろな競争はあっても、民間企業がさらされているような組織間競争はあまりない。こんなことはわざわざいうまでもないが、企業は、ただ人件費を減らそうとしているのではない。従業員給与は従業員の重要なインセンティブであって、企業は財布の都合やらさまざまな制約条件やらを横にらみしながら、それをいかに使ったら最も効果的かを考えて配分しようとする。企業のパフォーマンスを高めそうな人には多く、そうでない人にはそれなりに。配分に失敗すれば、企業全体が競争に負け、業績が悪化するというかたちでそのツケを払わされる。そしてそれは従業員自身にも間接的に反映するのだ。だから、民間企業から他の組織への「天下り」類似行為も、その範囲内でのみ行われる。

そうしたフィードバックシステムの働く余地が、公務員の組織には相対的に少ないように感じられる、というのがポイントだ。だから、年功序列的性格が強くなる。忙しくても楽しても給与はたいして変わらない。自分たちだけにしか通用しない慣行を頑なに守ろうとする。それが、不公平感を生む。天下りは、その典型例なのだ。私が定年前にみんな辞めてしまう慣行を問題にしたのは、それが天下りを必要とする背景なのではないかと思うからだが、それを許しているのは、公務員であるゆえのそうした「特権的立場」だと思う。仮に政府が2つあって、税金と行政サービスを競い合う関係にあるとしたら、天下りを強要する政府とそうでない政府のどちらが選ばれるだろうか。乱暴にいえば、そういうことだ。

公務員のモチベーション低下による行政サービス低下も気になるところだろうが、民間企業も同じ問題を抱えている。民間企業にはまがりなりにもできていることが、政府にはできないという理由は納得できない。それは競争にさらされない立場ゆえの「甘え」ではないか、というのが昨日の文章の趣旨だ。給与や労働条件そのものではなく、「努力の度合い」のイコールフッティングを求めたいのだ。

公務員が皆定年まで勤めたら人件費が増える、という危惧もあろう。私は、必要なコストならかけるべきと考えるタイプなので、それが本当に有効に使われているなら総人件費が増えてもいいと思うが、同時に、人件費増を抑えるための方策は、給与システムを変更することである程度は可能だとも思う。民間企業に話を聞けば、そうした工夫の数々がすぐにわかるはずだ。それらが最適な方法であるとは限らないが、少なくとも努力の成果ではある。それと、あまりいいたかないが、官僚の「ライフサイクルコスト」も考えたほうがいいかも、という思いもある。天下りさせて給与負担が減った分そっくり天下り先財団への委託費が増えるだけならまだしも、天下り先企業への工事発注で無駄な公共事業が発生しとなったら、全体としてどちらが安くつくのかはわからなくなる。

キャリア公務員が年下の上司に仕えるのをよしとしないとした点について、「そんなことはない」とのことだが、ではなぜキャリア官僚の間で定年までにほとんどの人が辞めてしまう事実上の慣行があるのだろうか、と質問させていただきたい。慣行の存在自体は、国会での議論にも何度も登場しているし、首相の答弁書でもはっきり書かれているから、否定はできないはず。もちろん公務員人事の裏事情など知る由もないが、報道などで一般に伝えられるものを見る限り、昇進レースから外れた順に外に出て行く、という見方が多い。これが記者の思い込みということなのだろうか。もちろんそういう可能性もあるだろうが、こうした記者は、多くの官僚たちから長い時間かけていろいろな話を聞いているはずだ。それに、私の個人的経験でいえば(bewaadさんよりはるかに少ないだろうが)、私のこの見方に対して官僚の方々からこれまで明示的な否定を受けたことはなかった。というわけで、この見方が官僚の間に広く受け入れられているのではないかと考えたのだがちがうのだろうか。

もちろん、これを正面から理由として言う人はいない。当たり前だ。その点については、待遇面やその他の「priceless」部分についても同様。郵政民営化のときも、私の拙い理解では、最大の抵抗ポイントは公務員としての身分を失うかどうかだったように思う。この点も、これまた私の個人的経験でいえば、勲章の問題、年金の問題、肩書きの問題みたいなあたりは彼らの意思決定においてかなり大きな要素を占めていると認識している。意識の高い官僚の方にとってみれば「なにをバカなことを」ということなんだろうが、公務員にもいろいろな人がいる。民間企業にいろいろな人がいるのと同じように。少なくとも私は志が低いほうのタイプなので、彼らの気持ちが非常によくわかるのだ。

「全体としての効率化の余地は、業務そのものからの撤退といったようなことをしない限り、それほど大きなものはないでしょう」とのご指摘は、確かにそうだろうと思う。業務そのものからの撤退については別の問題になるのでここでは取り上げないが、「努力の水準」に関しては、まだいろいろ余地があるように思う。

最後に念のためしつこく書くが、公務員の方々を叩こうという意図はない。bewaadさんがいわれる「公務員に反論権はない」という点はたいへんお気の毒に思うし、あんまりじゃないかとも思う。私としては、公務員の仕事の多くは必要、有益かつ効率的だと思うので、自分が適切と考える範囲内で公務員の方々をむしろ「擁護」する文章を書いてきたつもりだ。ただ、この「定年前に1人残して皆辞める慣行」については、そろそろ考え直したらどうかと思う。そのほうがかえって気が楽になるだろうし。嫌かもしれないが、慣れればそんなに気にならないのでは?と。

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Comments

なぜ天下りがあるのか

優秀な人に国の将来を任せるのがキャリア制度。
キャリアならば、軽く癒着して第2の人生を満喫できるだけの権限を持ちますし、そのくらいの権限がなければ国の将来を担うことは不可能です。しかし癒着されては国民のためにならないし、かといって所得水準では民間エリートに遠く及ばない。

だから、天下りがあるんじゃないんですか?妥協の産物というのはあってると思いますが、私は天下りした個人と天下り先の組織に対するチェック機能がなさ過ぎる点が本質的な問題と考えます。

また、おっしゃるような「定年までにやめる慣行」が問題ならば、定年まで働かせた場合のデメリットを解消する仕組みづくりが先に必要なのです。「他に良いやり方ができた→じゃあ天下り禁止」となるのだから、良いやり方をまず示すべきです。

私はキャリアに民間トップクラス以上の給料をあげて斡旋も続行すべきと思います。当然チェック機能の強化は必須ですが、エリートをお国のために働かせるなら、それくらいはするべきです。(私は高額納税者ではないですが汗)
これだけでは人件費増で終わってしまいますが、それ以外の国・都道府県・市区町村の職員は、トータルで3割カットくらいが妥当とも考えます。(ただ、警察や消防などでは、民間水準をキープします)
バイトでもできそうな仕事を年収700万とかでやっている現実は無駄遣いに他なりませんから、安い労働力を雇えばいいのです。

Posted by: 非国民 | December 20, 2006 03:26 AM

非国民さん、コメントありがとうございます。
キャリア官僚の中でも優秀な方は民間ならものすごい高給をとってもおかしくないような能力の方もいらっしゃるわけで、そういう方を適切に遇するのは賛成です。
ただ、そういう方はたとえ辞めても自分の力でそれなりの職場を見つけられますから、わざわざ斡旋する必要はないのではないかと。弊害もあるわけですし。

Posted by: 山口 浩 | December 20, 2006 01:21 PM

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» [government]官僚人事の効率化を通じた天下り廃止私案 [bewaad institute@kasumigaseki]
一昨日山口浩さんのエントリを題材に天下り問題について論じましたが、それを受けて再度山口さんにこの問題を取り上げていただきました。ご丁寧な対応ありがとうございます。そこでの問題提起に、webmasterなりの考えを述べたいと思います。 山口さんのご提案は、概要以下のとおりです。 天下りを廃止し、定年まで勤めるようにする(必然的に、年少の上司に仕える者が出てくる)。 必要な総人件費の増加は許容するも、民間での人材管理手法�... [Read More]

Tracked on December 21, 2006 07:14 PM

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