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「ウェブ人間論」

梅田望夫・平野啓一郎著「ウェブ人間論」、新潮新書、2006年。

いただきもの。「ウェブ進化論」で「大ブレイク」した梅田さん、今度は作家の平野啓一郎さんと対談、という趣向。もともと小説はほとんど読まないので、平野さんの作品も読んだことがない(名前ぐらいは知ってたけど)のだが、表紙の裏を見ると「1975年愛知県生まれ。京都大学法学部卒。在学中の99年に「日蝕(山口注:へんがちがうがご容赦)」で芥川賞受賞」とある。しょうもない感想で申し訳ないが、なんだかすごい作家さんらしい。

ともあれ対談。全編にわたり、この2人の意見はけっこうくいちがっている。世代的には40代の梅田さんに対して30代の平野さんだが、通俗的な世代論と反対に、「ウェブ」に関して、あるいはウェブと人間のかかわりに関して、平野さんは梅田流の技術に対する信頼やら人間に対するオプティミズムやらへの疑問を投げかけ続ける。本当にそうなのか?それでいいのか?結局だめなんじゃないか、と。これに対して梅田さんは、質問に答えるスタイルで切り返していく。いやそうじゃない。ここはこういうことだ。重要なのはそこじゃなくてここだ、と。ことばがていねいなので安心して読めるが、ここに書かれた対立はけっこう根深いものがあると思う。

結局、この対立は最後まで解消しない。当たり前だ。そんなに簡単に解消するぐらいなら、とっくの昔に解消しているはずだから。それでも、この対談には大きな意味がある。現在の状況下で、対立する「典型的」な2つの立場(もちろんもっとたくさん考え方はあるし、この2つがすべての面で代表的というわけでもないが)がぶつかり合うことで、その境界あたりに「ぎりぎりの線」が見えてくる。片方からだけ光を当てると、影になった部分はよく見えない。でも両方から光を当てると、その全体の姿がはっきりわかるようになる。よく「光と影」なんていうが、この意味で、片方からだけ見た「光と影」では全体像がわからないんだな、たぶん。

梅田さんは梅田さんなりの、平野さんは平野さんなりの目で、ネットのいいところ、悪いところを語っている。それぞれ、なるほどと思うし、いや待てよとも思う。どちらも「正しい」のだ。それをお互いに認め合った上で、やはり意見は分かれる。それは着目点の差でもあり、当人の置かれた立場の差でもあり、好みの問題でもあり、また人生経験の差でもある。だから、これは「結論はこうです」という本ではない。明快な結論が欲しい向きには不満が残るだろうが、これはこれでいいのだと思う。ポイントは、2人が議論をかみ合わせようとする努力を最後まできちんと続けていることだ。2つの考えがただぶつかり合うだけでなく、からみあっていくから、「ぎりぎりの線」の上に、これからの社会のあり方、人間のあり方についての重要なヒントがいくつも含まれている。それを読み取るのは読者の仕事だし、どう読むかは読者の自由だ。

そういう意味で、1冊の本として完成された状態なのは当たり前だが、これが2人の論考の最終着地点ではもちろんないはず。この刺激的な対談を経て、それぞれの考えをさらに発展させていくだろう。完全に一致したり、どちらかが勝ったり負けたりすることもなさそうな気がするが、それもまたよし。ともあれ「彼ら」はさらに「上」の段階へ行く、読者はどうか、というやや挑発めいた編集意図を感じなくもない。読者の全員ではないかもしれないが、少なくともその一部には、この対談に大いなる刺激を受けた人がいるはずだ。そういう人の出現を、お2人は歓迎するのではないかと思う。

蛇足だが、この対談のスタイルを、ネットでの議論の際の参考にしたらどうかとも思う。改めていうまでもないが、「私はあなたと意見がちがう」ということをていねいなことばで説明し、「私の方が正しい」ということを礼儀正しく主張することはできるのだ。意見がちがうからといって、相手を「バカ」だの「低能」だの「逝ってよし」だのとののしるのは、議論の妨げにはなっても助けになることはない。もちろん面と向かってそういうことを言う人はあまりいないだろうが、ネットでは言っていいというのもおかしい。それが慣習として定着していて皆が納得している場が存在するというのは理解するし、当事者同士がそれでいいなら外から文句をいう理由はないが、世の中にはネットでの罵詈雑言を不快に思う人のほうがたくさんいるのだ。それに、衆人環視のネットという場で、相手がどう感じるかを考えずにむき出しの感情をぶつけて攻撃するのは、およそ「議論」とか「対話」とかとはかけ離れているし、少なくとも第三者の読者にとって意味のあるものではない。

ともあれこの本、「ウェブ人間」の方々と、ウェブ時代の「人間論」に興味のある方々にお勧め。知的刺激を受けたい方にも。

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Comments

はじめまして!こんにちは!
内容がとても興味深かったので、記事掲載させていただきますm(__)m

Posted by: 涼微 | January 06, 2007 at 02:54 PM

涼微さん、コメントありがとうございます。
いろいろな人がいろいろなことを書いていますね。多くの人にとって考えるきっかけになったのだと思います。

Posted by: 山口 浩 | January 06, 2007 at 07:48 PM

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