「焼畑型」というか「往復びんた型」というか
いや、捏造自体が「またか」なのももちろん。もともとそういうものじゃんという声があるのもいってみればその通りで、「ウソをウソと見抜けない者には」という話は、テレビについても残念ながらある程度あてはまる。今回のはフジ系(制作は関西テレビで実際は外部制作会社に外注)だが、テレビ東京も今回の件と同じ制作会社に外注した番組で花粉症対策に関する同様の捏造事件があった。NHKも「プロジェクトX」、日本テレビも「ニュースプラス1」でのイセエビ、TBSも「NEWS23」で世論調査の件で捏造事件とか疑惑とかがあったし、テレビ朝日も、ちゃんと探せば何かしらその類のことはあると思う。
ただ、この件に関する今のマスコミの取り上げ方のほうが、どうも納得いかないのだ。こうした不祥事の報道一般にいえることではあるのだが、どんな組織でもたくさんの人が関わっていれば、程度の大小こそあれ、この種のことがある確率で起きることは事実上避けられない。銀行の行員が使い込みをしたり、保険会社の社員が査定をごまかしたり、メーカーの社員が欠陥を隠そうとしたり、医師がずさんな治療をしたり、公務員が談合に関与したり。他の産業にもそれぞれある。必ず、ある。だからしかたがないなどというつもりはないが、ただ「あってはならないこと」ですむ話でもない。それが重大であればあるほど、単なる精神論ではない「システム」としての対策が必要になる。そこまで突っ込まなければいかにも消化不良だ。
というのも、少なくとも同業のテレビ局なら、今回のケースを他人事と扱うことなどできるはずがないからだ。「打落水狗」ということばもあるが、このケースにはあてはまらないだろう。もとより叩けば同じ埃が出る身。しかもマスコミへの信頼という観点ではむしろ一蓮托生だ。そういう自覚があれば、なぜそういうことが起きたのか、どういうやり方をすれば再発しないのか、自分たちの手痛い経験から出てくる分析があるはずだ。身を切るような反省から出てくることばがあってしかるべきだ。コメンテーターのタレントさんに「あってはならないこと」とかしたり顔で言わせるなんて、ちょっとどうかしてるんじゃないかとすら思う。
さらに、品性に欠け根性もねじ曲がった私はどうも、納豆がダイエットに効くともてはやすのも、その元データが捏造だったと騒ぐのも、どこか「一連の流れ」みたいな印象を受けてしまう。すべてをネタとし、わっと押し寄せ、消費し尽くして次のターゲットへと去っていく感じ。どこかで誰かが「イナゴの大群」にたとえていたような気がするが、それはあまりにひどいので、「焼畑型」とでも呼んでみようか。あるいは持ち上げてとりあげ、けなしてまた取り上げということで、「往復びんた型」という表現のほうがいいか。要するに、「どうせ火がついたんだから徹底的に燃やさないと損」感がつきまとっていて、それがどうにもやりきれないわけだ。
あまりにいつまでも同じ構図が繰り返されるので、虚無に食われそうになるのだが、やはりここは踏みとどまっておきたい。自らの利口さを誇示するためにシニカルぶるのではなく、よりよくメディアと付き合っていくために、メディアの情報への盲信は慎もう。多数に向けて情報を発信するメディアの責任が重いのはいうまでもないが、それは情報を受け取る個人の側がなんら責任を負わないということを意味しない。もちろん私も、「納豆に含まれるイソフラボンを原料とするDHEAにダイエット効果がある」かどうかを判断する力はない。たぶん大多数の人はそうだろうと思う。ただ、そもそもダイエットがいかなるものであるかについて、2007年1月21日付朝日新聞に載っている群馬大学高橋久仁子教授のコメントが基本的に正しいであろうことは常識的にわかる。
摂取エネルギーを消費エネルギーより少なくすれば体重は減る。
わざわざ専門家に聞くまでもないほどとも思える単純なコメントだが、これを専門家が繰り返し言わなければならないことにこそ、私たちは問題意識を感じるべきだろう。たとえDHEAを知らなくても、納豆を食べるだけでやせるわけなどないことは、まともに義務教育の内容を身につけた人なら常識で判断できておかしくないことではないか。とすれば、「嫌いな納豆ムリして食べたのに」なんてコメントが出てこようはずがない。品格とかいう前に、美しい日本人とかになる前に、中卒程度の常識を大多数の成人が備えていることのほうがはるかに、はるかに大切だと思う。
※2007/1/26追記
この記事には連日多くのトラックバックが寄せられ、そして次々と削除されているのだが、いくつか残しているものもある。その中の1つをみたら、
納豆ダイエットに騙されたあなたにはこちらがおすすめです。 豆乳おからダイエットクッキー 「ズシッとした満腹感」で楽々ダイエット!
だって。懲りないね。こういうのは、そうだな、「火事場泥棒型」と呼ぶか、あるいは「悪徳金融型」と呼ぶか。これにもだまされたら次はどこへ行くのかね。
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Comments
踊らされる側が、「へっ、分かってて踊ってやってるんだい!」くらいであれば救いもあるのですがね。
何かこれをネタにした記事書こうと思ってましたが、この報道が流れた直後くらいに近くの大きなスーパー行ったら納豆がほぼ完全に売り切れていて愕然としちゃって、その気が抜かれてしまいました。
が、しかし!
スーパーが大量発注しちゃった在庫処分に困る今こそ買い時!?(普段から食べてた人達にとっては)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070122-00000011-mai-soci
Posted by: 名無之直人 | January 22, 2007 10:10 AM
こんにちは。
当家にとって納豆は朝食の必須アイテムですが、手にはいらうず。。
livedoor newsのこんな記事・・・
http://news.livedoor.com/article/detail/2977621/
http://news.livedoor.com/article/detail/2978159/
これが本当だったら、「あるある大辞典」はコマーシャルですかね。。。。
Posted by: 渡邉 | January 22, 2007 04:45 PM
>中卒程度の常識を大多数の成人が備えていることのほうがはるかに、はるかに大切だと思う。
ほんと、しっかりした中卒の学力があれば、たいていのことはできるようになってます。
なんだかんだ言っても、日本の教育はよく出来たシステムかと。
海外旅行だって、出来ますもんね。。
Posted by: ひろ | January 22, 2007 08:16 PM
コメントありがとうございます。
名無之直人さん
納豆業界の中にはあらかじめ放送予定を知らされていた会社もあったらしいという情報も流れてるようですね。
http://tvmania.livedoor.biz/archives/50737162.html
その割には品切れになって商機を逃しているというのはちょっと解せませんが。いずれにせよ、一度に大量に食べるのはいかがなものかと思います。
渡邉さん
私は、放送内容を先に業界に流すことがいけないとは必ずしも思いません。納豆製造会社からお金をもらって虚偽の情報を流したのなら話は別ですが。そのほうがブームが盛り上がるだろうということなんでしょうが、もし捏造でなければ消費者のためになるわけだし。ともあれ、ふだんから食べていた人にはとばっちりですね。
ひろさん
いやほんと、中学までの学習内容をちゃんと身につけていると、かなりのレベルのところまでいきますね。あ、今のゆとり教育だとどうなのかよく知らないや。
Posted by: 山口 浩 | January 23, 2007 01:10 AM
>放送内容を先に業界に流すことがいけないとは
>必ずしも思いません。
いけないと思いますよ。
一部の人だけが利益を得るという問題です。
放送の電波は国民のものであり
特定のテレビ局や業者のものではありませんから。
これを許すととんでもないことになると思います。
今回の納豆でもすべての業者がしらされていたならともかく
そうではなく一部の業者だけしってて得をするという
形でしょう。これは許されるものではないと思います。
Posted by: とりばち | February 09, 2007 07:44 PM
とりばちさん、コメントありがとうございます。
放送は免許によって放送局に許された事業ですが、民放は基本的に民間企業です。その事業内容については、放送法や各種の規制、業界や会社独自の規定や基準などで決まっていますが、それを守る限り、自由であるべきです。放送番組を作る際に、タイアップとして関係者を巻き込む手法はこれに限らず一般的に行われているものです。民間放送は政府ではありません。放送内容が偏ったりまちがっているならともかく(今回はそのケースですね)、一部の納豆業者に知らせたこと自体が問題とは思いません。
Posted by: 山口 浩 | February 10, 2007 12:33 PM