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February 06, 2007

ホワイトカラー・エグゼンプションに関するメモ

ご専門の方は当然ご存知だろうが、いわゆるホワイトカラー・エグゼンプションについて、諸外国の制度を比較しているページが厚生労働省のウェブサイトに出ている。眺めてみるとなかなか面白いので、抜書きしてみる。

件のページは「諸外国のホワイトカラー労働者に係る労働時間規制の適用除外」。元ネタは労働政策研究・研修機構の「諸外国のホワイトカラー労働者に係る労働時間法制に関する調査研究」報告書。アメリカのほか、ドイツ、フランス、イギリスの制度についてまとめている。

おおざっぱに眺めた範囲内では、アメリカ以外の制度は幹部職員みたいな人たちを主にイメージしているようだ。アメリカの場合は管理・運営職でない専門職まで対象にしているところが特徴、ということか。最初に出てきているところからみても、今回日本での導入が検討されている制度はこれをベースにしたものだろう。

アメリカの2004年8月23日施行となったホワイトカラー・エグゼンプションの新規則では、3つの類型がある。
・「管理職エグゼンプト」
・「運営職エグゼンプト」
・「専門職エグゼンプト」
いずれの類型についても下記の(1)一般的要件(ブルーカラーでないこと)及び(2)俸給要件(食事・宿舎その他の便益供与分を除いて、週当たり455ドル以上等)を満たす必要であり、また、各類型ごとに(3)各類型別の職務要件を満たす必要がある。

週455ドルってことは、仮に1年52週、1ドル120円とすると年で280万円強、ぐらいか。アメリカのホワイトカラーの賃金水準を日本と直接比べても意味はないが、とはいえまったくかけはなれているというほどでもないから、おおざっぱにいえば日本の案に出ている例の「年収400万円」という数字とそれほど遠い水準ではない、ということなんだろう。

具体例が挙がっている。

(1)運営職エグゼンプトの例
・「金融サービス業に従事する被用者」
・「重要なプロジェクトを成し遂げるために組織された被用者のチームを指導する被用者」
・「管理職アシスタント又は運営職アシスタント(秘書)」
・「人事部門の管理職」
・「経営コンサルタント」等
※「検査官」、「試験員」、「格付員」等については、使用者の管理又は事業運営全般に直接関連する労働ではないので、一般的には該当しない。

それぞれちゃんとした定義があるだろうから、ちゃんとチェックしなきゃいけないんだろうが、厳密な文章ではないので省く。そういうつもりで読んでいただければ。まあこのあたりは読む限り自然に納得できそうな感じ。続いて専門職の具体例。

(2)専門職エグゼンプトの例
 ア「学識専門職エグゼンプト」(資格認定・免状交付が要件)
 ・「登録・認定医療技術者」
 ・「正看護師」
 ・「歯科衛生士」
 ・「医療補助者」
 ・「公認会計士」
 ・「シェフ」
 ・「アスレチックトレーナー」
 ・「埋葬業者」
 ・「死体防腐処理業者」等
※「弁護士補助職員」、「法務アシスタント」は、高度な専門的学位は前提基準とされていないことから、一般的には該当しない。

専門職はさらに3つに分かれる。最初のは学識専門職。医療関係はともかく、「シェフ」とか「アスレチックトレーナー」とかが入っているのがなかなか興味深い。考えてみると確かに労働時間が長そうだよなぁ。あと「埋葬業者」「死体防腐処理業者」も。こちらは休日朝晩関係なし、ということか。

 イ 「創造専門職エグゼンプト」
 ・俳優、ミュージシャン、作曲家、指揮者等
  (筆耕者、アニメーター、写真の修正係等は該当しない)
 ・ジャーナリスト(テレビやラジオの報道、インタビュー、公知の情報の解釈又は分析、論説等の場合)
  (定期的に配信される又は公知の情報の収集・整理・記録といった職務に従事している場合、送り出すニュースに対して独自の解釈や分析を加えるものではない場合には、該当しない。)

次に創造専門職。クリエーターってわけ。日本のアニメファンの皆さんは、アニメーターが創造専門職でないことについて、何か意見があるかもしれない。いやあれはまさしくクリエーターだろうとか、いや企画の人以外はむしろ職人に近いからこれでいいとか。アメリカのアニメーターの労働時間についてはよく知らないが、おそらく日本ほどではないだろうことは想像に難くない。しかも日本では、月給制で雇用されるより契約制で出来高払いを選ぶ人が多いとも聞く。そうなっちゃったらWEも何も関係ないわけで。おそらくかなりちがうであろう収入の水準も併せ、いろいろ考えさせられるところはある。あと、ジャーナリストの「送り出すニュースに対して独自の解釈や分析を加えるものではない場合」というのは、放送局のアナウンサーみたいな人を指しているんだろうか。

 ウ  「教師」

 ・正規の学校教師、幼稚園若しくは保育園の教師、職業学校教師、自動車教習所の教官等

これはまあ日本もほぼ同じ状況なんだろうが、「自動車教習所の教官」もこの仲間なわけね。へぇ。

ここまではいいとして、これに対する注釈みたいについてる「考慮すべき事情等」が面白い。面白いと思ったところに下線を引いて太字にしてみた。

考慮すべき事情等
アメリカにおいては、適用除外制度の対象者数が多く、かつ、健康確保措置が制度上義務付けられていないにもかかわらず、過労死や過労自殺といった長時間労働の弊害は、少なくとも日本におけるような問題にはなっていない
アメリカにおけるホワイトカラー労働者は、労働時間は長いとしても、日本人に比べてよりメリハリのある働き方をしており、長時間労働の蓄積による過労を防止できるのではないかとの仮説が考えられる。この点を基礎付ける統計資料は入手し得なかったが、インタビューによれば、アメリカのホワイトカラー労働者はよく働いてはいるが、休暇はきちんと取っているとの指摘がみられた。
より重要な背景であると思われるのが、労働市場の違いである。アメリカでのインタビューにおいて、日本における過労死や過労自殺をもたらすような働き方の例を紹介したところ、しばしばみられた反応は、そのような働き方を強いられると労働者は転職してしまい、使用者も人材確保のためにはそのような働き方を強制できないので、日本におけるような問題は起きないのではないかというものであった。ここでは、転職が容易な労働市場が労働者が過酷な長時間労働を強いられるような状況の発生を防止する一助となっていることがうかがわれる。

FLSAの下での適用除外制度は、適用除外に該当しない労働者を適用除外者として扱った場合には倍額賠償制度のもとで集団訴訟が提起されたり、政府から訴訟を起こされたりするおそれがあり、また、いわゆる訴訟社会であることがそれに拍車をかけることになる。
こうした制度的背景のもとでは、適用除外制度の法的ルールに違反することのリスクは大きくなるので、使用者としては、ルールの遵守のために十分な注意を払わざるを得なくなると思われる。
アメリカで過労死や過労自殺が日本より少ないのかどうか、私は知らない。そもそも過労死の統計自体存在しないのではなかったか。ただ、長時間労働する者の割合が日本より低いというデータもあるし、オックスフォード英語辞典のオンライン版が「karoshi」を新語として加えたことなどからみても、日本におけるほど注目される状況でなかったというのはまあそれほど違和感なく受け入れられるだろう。とはいえ、「アメリカのホワイトカラー労働者はよく働いてはいるが、休暇はきちんと取っているとの指摘」とまでいわれると、証拠はあるんかいえぇ?みたいに言いたくなる部分はある。あと、訴訟リスクがあるという指摘もああそうかと思わなくもないが、実際に訴訟の件数とかを調べたわけではないので、これも本当なのかよくわからない。

このくだりがどういう意図で加えられたか知らないが、もし仮にこれらが正しいとすると、アメリカで導入されていたとしても、アメリカは事情がちがうから、それをそのまま日本に持ってくるのはおかしい、という方向にならないんだろうか。それとも、そういう配慮も同時にした上で導入したい、ということなんだろうか。もしそうだとしたら、上に挙げられた中で一番効きそうなのは訴訟リスク、だな。ホワイトカラー・エグゼンプション導入の際に決めた条件を企業が守らなかった場合の救済手続きを簡単に、かつ訴えを認定しやすくしておけば、よくいわれる弊害のかなりの部分は解消されるってことになるのではないか。逆にいえば、このあたりは企業側にとって一番「痛い」ところのはず。残業料の割り増しよりよほど効果的だろうと思う。

あと、これもリンク。
経団連の提言
経済同友会の意見書

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Comments

確かにアメリカの場合は訴訟リスクが相当程度のものであろうことは、日本でも揶揄されるぐらいですよね。日本で同様の状況になれば中小企業はバンバンつぶれ・・・てなことになりかねないんじゃないですか。それで非効率な企業が淘汰されるならいいんだという考え方もありえますが。印象論からすればわが国でそうなることは考えにくいんですが・・・。まあそのへんはよくわからないところではあります。

Posted by: すなふきん | February 07, 2007 07:14 AM

個人の働き方を法律で決めるのもどーかと
思っています。

不満があるのであれば、(スキルを磨いて)
ステップアップ(転職)すればいいだけの
話では? なんて思ってしまいます。

私は、日本のメーカー -> 外資 -> 外資 と
職場を移ってきましたが、外資といっても、
そこで働いているのは、"日本人"です。

で、同じ日本人が働いているのに、なぜ、

一方では、残業しなければ生活できなくて、
一方では、給料が良くて定時に帰ろうと思えば
帰れるのか?

私の狭い範囲での経験からの推測ですが、
報告書の言及と同じように、(外資系では)
労働条件が過酷であれば、転職してしまい、
人材の確保が難しくなる、という面がある
からではないかと思います。

その職場で働いている人が、転職に対して、
心理的な抵抗感があるのかないのか。

そういったところが、給与、待遇の善し悪し
に繋がっているような気がします。

わたくし、個人の経験でも、一番、心理的
なハードルが高かったのが、最初の転職
(日本のメーカー -> 外資)でした。

おわってみればどーということもないのですが、
最初の転職活動は、かなりドキドキでした。

まぁ、緊張感をもって仕事をするために、
何年かに1度、転職するのがよいのでは
ないかと、今では考えてます。

同じ所でずーっと働いていると、そこでしか
通用しない人間になってしまう、という
リスクがかなり高くなるのではないかと思っ
てます。そうはなりたくない、と個人的に
は思っています。

Posted by: ひろん | February 07, 2007 10:58 AM

コメントありがとうございます。

すなふきんさん
訴訟でつぶれるような企業は訴えられません。たぶん。それじゃ無駄手間ですし、働いている人の利益にもなりません。訴えられるのはそれなりの「余力」のある企業でしょう。そもそも、きちんとしてれば問題ないじゃないですか、といわれると、企業としても反論しにくいのでは?

ひろんさん
個人の働き方を法律で決めるというのはおかしいですよね。ただ、個人の働き方に影響を与える法律はたくさんあります。雇用の安定と職業選択の自由のバランスは、それぞれの社会の中で「総意」として選択され、それが制度に反映するわけです。
WEの話はどうも、残業料ちゃんと払わねぇのによくいうぜ、みたいな反発の部分が大きいのではないかと思います。そんなのフェアじゃない、と感じているんでしょう。「効率よく働いて早く帰宅」というのも企業実態からすれば嘘くさい、と見抜かれているわけです。その点がなければ、必ずしも悪い話ではないと思いますがね。

Posted by: 山口 浩 | February 08, 2007 01:29 AM

> 必ずしも悪い話ではないと思いますがね。

私も、発想自体は、悪くないと思っております。

日本のメーカーに勤めていると、基本給が安くて、
残業しないと生活できない、という面があります。

# 理系離れや、物づくりの衰退を嘆く声を聞いたり
# 読んだりすると、"だったら、給料上げろよ"
# と思ったりする..


残業代が無いと生活できないということは、会社
に長時間居ないといけない、ということでもあり
ますから、拘束時間と収入がリンクした状態なの
で、これは、あまりよろしくないかと思います。

で、以下のような、

新しい基本給 = 現在の安い基本給 + 現在の残業代

の年俸制にすればいいのでは?と思っております。

仕事に仕方は、裁量にまかす(残業する、しない、は、
能力次第)+ 会社に貢献した or 成果が上がったら、
ボーナス払うよ、というような感じ。
(アバウトで申し訳ありませんが)

でも、


> 残業料ちゃんと払わねぇのによくいうぜ

という(不満がある)のであれば、勉強して
(スキルアップして)転職すればいいのに...
とも思うわけです。

Posted by: ひろん | February 08, 2007 09:20 AM

ひろんさん
>新しい基本給 = 現在の安い基本給 + 現在の残業代
今提案されているホワイトカラー・エグゼンプションというのは基本的にこの考え方です。水準がどのくらいかという問題はありますが。

転職すればいいのにというのは、転職を厭わないタイプの方には通用しますが、世の中にはそうでない人たちがたくさんいます。そういう人たちは虐げられてかまわない、ということではないだろう、と。それはいじめ問題について、いじめられている側がいじめる側から離れれば問題は解決する、というのと同じですから。そういう解決法は必要だし、できる人にはそう勧めるとしても、問題の抜本的な解決も同時に目指していったほうがいいように思います。

Posted by: 山口 浩 | February 09, 2007 12:06 AM

you wrote
> 転職すればいいのにというのは、転職を厭わない
> タイプの方には通用しますが、世の中にはそうでない
> 人たちがたくさんいます。

...と、と、と....
そうでした。その通りです。
I completely agree with you です。
私の視点からは、その観点が抜けてました。

you wrote
> 問題の抜本的な解決も同時に目指していったほうが
> いいように思います

そうですね。私もそう思います。

Posted by: ひろん | February 09, 2007 07:54 PM

ひろんさん
日本経団連の提言書と経済同友会の意見書の内容のちがいにもご注目いただければと思います。推進の方向という点では共通ですが、ニュアンスがちょっとちがってます。

Posted by: 山口 浩 | February 10, 2007 12:36 PM

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