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March 11, 2007

20代がグラビア誌を買わなくなってきている、という話

小学館に「Sabra」という雑誌がある。たいてい表紙に水着のお姉さんの写真が出ていて書店で手に取るにはちょっと恥ずかしかったりするが、別にそういう内容ばかりというわけでもない。先日そこのインタビューを受けたのだが、それ自体は本題ではなく、そのときに編集部の方から聞いて、思わずいすから飛び上がって「ほんとすか!?」と叫んじゃった話。

Sabra」のようなグラビア誌の読者というと、典型的に想像するのは「血気盛ん」な若者、と考えるのがふつうではないかと思う。この雑誌は1999年創刊のため私自身の20代には間に合わず、私は買ったことがないのだが、想像するに、10代は「週刊プレイボーイ」あたりだから、「Sabra」は20代かな、みたいな。そういう先入観で世間話を始めたら、ちがうのだという。グラビア誌の中心的な読者層はいまや30代から40代あたりになっていて、20代の人たちはあまり読まなくなってきているのだそうだ。

実際、グラビアアイドルが登場するイベントなんかをやっても、押しかけてくるのは30代や40代が多くて、握手だとか一緒に写真をとるとかみたいな「お楽しみ」においても、20代の人たちよりずっと積極的(というかずうずうしくというか)なんだそうな。

当然気になるのは「なぜ?」というあたりだが、編集部の人たちもよくわかっていないらしい。私もうかつで、それが「Sabra」関係だけの現象なのか世の中のグラビア誌一般に共通するのか、聞きそびれた。

いろいろな仮説を考えることができるだろう。ひとつは単純に「Sabra」の読者が高年齢化していっているのではないかというもの。一般に雑誌というのは対象読者として特定の年齢層を想定したりすると聞くが、読者の側はそういう意識ではなく、自分の世代の雑誌ということでずっと同じものを読み続けるのかもしれない。自然、記事やグラビアの内容もだんだんそれ向きになっていって、下の世代の読者層がついてこない、みたいな。

しかし、もしこれがグラビア誌一般の現象だとすると、もっと大きな構図が浮かんでくる。たとえば、「雑誌」という媒体自体が今の30代以上のものとなりつつある可能性。20代の人たちは紙媒体からネット中心に移行していると。これをデジタルデバイドとしてとらえる見方もあるかもしれないし、若い層は必ずしも「所有」にこだわらない(これはSabra編集部の方の仮説)、ということもありうる。

あるいは、雑誌を書店なりコンビニなりで買うということ自体が20代以下にとっては恥ずかしい、ということもありうる。より上の世代はなんらかの理由(雑誌とかビデオとかしかない時代を経験しているとか歳とってすれっからしてるとか)によって恥ずかしいと思わないことが、かっこわるいことをきらう若い世代にはとてもできないとか。ほんとかどうか知らないが、今の若い世代は自分を守ろうという意識がきわめて強い、みたいな話も聞くし。

もっと考えると、20代以下はグラビアアイドルそのものに対してあまり魅力を感じないのではないか、という仮説もある(これも編集部の方の仮説)。「Sabra」に出てくるややギラギラ系のグラビアアイドルがお好みでないという可能性もあるし、あるいはいわゆる「三次元」ではなく「二次元」に向かっているのかもしれないし、そもそも女性に興味をもたない方向へ向かっているのかもしれないし。

もちろん真相は私にはちょっとわかりかねる。仮に20代男性が女性への興味を失いつつあるとしても、これが問題だ、という取り上げ方はどうかとは思う。女性が「産む機械」でないというのと同じで男も「産ませる機械」ではないわけだし。とはいえ、もしそうだとしたら、いやぁよかったよかった、という話でもないとは思う。別に何か結論を出したいわけではないから、ふぅんそうなのか、でもなんでなんだろう、というあたりで止めておく。何か事情をご存知の方がいたら、ぜひ教えていただければ。

あと、「Sabra」の読者には「理系」職の人がけっこう多い、という話も聞いたのだが、こちらも原因不明。ぜひご教示いただきたく。

※2006/3/11追記
コメント欄やはてブなどに、いろいろなご意見をいただいている。多謝。全体としては、該当層の方々からの「確かに最近買わないよなぁ」系の体験談と、「だってネットがあるじゃん」系の分析といったところか。組み合わせると、「今の20代の人たちは、それより上の世代と同様、グラビア誌にあるような情報(画像とかテキストとか)に興味をもっているが、それらはネットで格段に容易に安く入手できるので、雑誌は買わない」といったところか。「マンガ雑誌で足りる」みたいなご意見もあった。確かにマンガ雑誌にもグラビアページはあるし、そっち系のテーマをとりあげたマンガもたくさんある。

もちろん、これらはたぶん、サンプルが偏っているので、これで全部を語れるわけではないはず。2ちゃんねるあたりを見ると「二次元でないとだめ」みたいな発言があふれていたりするのでついそう思ってしまいがちだが、それが全体の傾向という保証もない。今の20代以下はネット世代というよりはむしろケータイ世代だろうが、「ネットは使わずケータイだけ」な人々の動向もよくわからないし。全体としてどうなんだろうなぁ、が知りたいわけだ。

はてブのコメントで挙げられていた、「エロ本編集者の憂鬱と希望」には、グラビア誌を支えていたのが団塊ジュニアだったのではないか、という仮説が提示されている。これは確かになるほど!と思う。そもそも数が多いから、市場への影響力が大きいのも理解できる。やはり「Sabra」だけの現象ではなかったということか。とはいえ、これだけでは、では今の20代の人たちが「そっち系」のコンテンツをどのメディアに求めているのか、またそれはなぜかというあたりはわからない。引き続き情報求む、ということで。

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Comments

私がまさに「20代の雑誌を買わない男性」なので少しコメントしますね。

私達の世代が雑誌を買わない、というのはその通りだと思います。
友人と待ち合わせたとき、電車の中、本屋の立ち読みコーナーで、
特にグラビアアイドルが表紙になった雑誌を読む20代男性はあまり見かけません。

理由はいろいろあるのでしょうが、
やっぱりインターネットの普及で、雑誌の相対的価値が下がってしまったからだと思います。
情報にしてもエロにしても、もっとディープな、もっと自分の趣味に合ったものがネットで容易に探し当てられ、
さらにひとつの情報についても投稿者だけでなく、様々な意見がコメントとしてついているわけですから。
少なくとも私は、お金を出してまで雑誌、特にグラビア誌を買おうとは思わなくなりました。

私は通勤途中は小説を読んでいることがほとんどですが、
ときどき顔をあげて電車の中を見ていると、
同年代の男性はジャンプやマガジンなどの漫画雑誌を読んでいる人が驚くほど多いです。
私達が10代の頃はまさにこの2誌の黄金期だったので、
こちらを読み続けている人も多いのかもしれませんね。

Posted by: みなみ | March 11, 2007 07:03 AM

やはり単純にネット中心に移行しているからというのが最大の要因ではないでしょうか。今は無料でゲットできる情報量が多いですから、グラビア雑誌に限らず出版物全般に言えることかもしれないです。ただ単行本や新書についてはそうでもないように見えます。著作権などで規制されている関係からでしょうか。もちろんグラビア等にも著作権はあるようですけど、事実上垂れ流し状態で、やはり事情が違うんでしょう。。単に知識を得るだけならWikiなどが相当網羅していて、辞書や百貨辞典類に関しては売れなくなってるかと。ネット社会の進展につれ情報一般の価値は上がるのではなく急速に低下しているのが実情だと思います。もちろんその中で希少な情報なり価値なりを見つけ出す能力のある人が金儲けに長けていることは言うまでもないでしょうね。

Posted by: すなふきん | March 11, 2007 08:49 AM

40代です。以前雑誌関係の仕事をしていたので感じたことを書かせて頂きます。
まず活字離れというのは、これまでは良く売れてたプラットホームへの固定観念ではないかと思います。なので、その原因を考慮することで克服できるかも、です。
(駄洒落的ですが現在は活字ではなくフォント熱中でしょうか。ブームというには注目されませんし環境的な改良も良くありません。)
地層体積のように時代が転換しているのか、と最近は考えており、例えば、マナーの悪さは世代ではなく時代区分がセグメントとしては見られるので、フォーストコンタクト時の対応がコダマ/ヤマビコするのではないかと仮定してます。
実際に人気雑誌は読者層の持ち上がりと共に変身して生き残ろうとしますが、読者か雑誌かどちらが振り落とされてしまう失敗例がたくさんありました。
また個人の嗜好性へのカスタマイズされた市場への移行も起きていると考えます。それは必ずしもネットだけに限りません。
もちろん日経に「飲む、打つ、買う」を最近の男子は知らないと書かれてたのも「20代がグラビア誌を買わなくなってきている」一因ではありましょうけど。
マスが提供する/で提供される情報ではない選択肢へのファーストコンタクトの記録を観察して、それらが生み出すファーストインプレッションのコダマ/ヤマビコへの対応とするのが面白いと今の私は考えています。

まとまり無く失礼しました。

Posted by: katute | March 11, 2007 11:06 AM

30代です。
ネット依存になった、というのと、携帯に金を使い、
購買能力が低下しているということが挙げられると
思います。
また、駅や街中のゴミ箱の撤去により、気軽に
雑誌を買って廃棄できなくなっている事も遠因では、
と思います。駅のKIOSKで雑誌を気軽に買っても、
いざ、廃棄となると、捨て場所がありませんから、
ゴミをずっと持ち歩くならば最初から買わない、
という選択肢もあると思います。
当方はゴミになるという理由で雑誌を買わなくなりました。

若者の活字離れという観点は、新宿のジュンク堂や
紀伊國屋書店に行ってみるとあまり感じません。
土日の若者の割合が結構、多いように思えます。

Posted by: longhorn | March 11, 2007 11:36 AM

コメントありがとうございます。

みなみさん
なるほど。雑誌は読まない、と。ただマンガ「雑誌」は読む、ということですね。ちょっとご質問ですが、「エロ系」はネットとマンガのどちらに依存しますか?

すなふきんさん
なるほど。やはりネットですか。ここでとりあげているのは、体系化に価値がある「情報」というよりは、個人の好みが優先する類のものですが、その場合、ネットへの「移行」のパターンがちがったりするんですかね?どうなんでしょう?

katuteさん
なるほど。雑誌側の努力である程度回避可能かもしれない、と。その点で、女性誌なんかでは、読者層の加齢に伴って雑誌をどんどん新しく作っていってますよね。あちらのほうは比較的うまくいっているのでしょうか?

longhornさん
なるほど。携帯に金を使ってる、という理由もありえますね。捨てられないから買わない、というのはちょっと面白い視点かと思いました。ただ、活字離れではない、ということですか。携帯電話で小説とか読んでますしね。メディアのちがいは文体に影響する、という話はよく聞きますけど、グラビアアイドルのあり方にも影響したりするんでしょうかね?

Posted by: 山口 浩 | March 12, 2007 02:12 AM

ご質問があったので引き続き。
また個人的な話になってしまいますが、ご参考になれば。

私個人としては、エロの依存はネット中心にシフトしました。
もちろん、中高生の間はグラビア誌の「袋とじ」をわくわくしながら開いたりもしたものですが、
大学生になりネットサーフィンをするようになると、
そこには袋とじよりずっと刺激的で多様な、「濃い」コンテンツが溢れていました。

特に、日本のメディアでエロを配信する場合にはいろいろ規制がありますが、
ネットの場合は事実上その制限がなかったため、
もっと自分の好みのジャンルの、もっと濃いエロを味わい続けてしまいました。
結果、ネットに比べて薄味なグラビア誌のエロには興味を惹かれなくなったように思います。

以下やや蛇足気味かもしれません。

僕の周囲を見ている限り、の話ですが、
二次元じゃないとダメだ!とか、実際の女性には興味がもてなくなってしまったとか
そういう話はまず聞きません。
勿論個人の趣味の話なので、口に出さないだけかもしれませんが。

結婚は30歳ぐらいになってからでいいな、といった話はよくしますし、
私個人もそう思いますので晩婚化の傾向は感じられますが、
エロのネットシフトも晩婚化も、今の20代男性が経済的に余裕がない状況であることがひとつの理由だろうな、と
当事者でもある私は感じます。

Posted by: みなみ | March 12, 2007 07:11 AM

20代は可処分所得少ないけど、30代40代は多いというんでおkでは?

後者はとりあえず買っとけ、という余裕だと思いますが

Posted by: まお | March 13, 2007 01:02 AM

コメントありがとうございます。

みなみさん、まおさん
なるほど、「興味はあるが金がない」ということでしょうか。それと「ネット」のネタのほうが制約が少ない分よい、と。

そのあたりが最大公約数ぽいですね。まあ常識的な答えといえましょうか。ただ、じゃあ今度さらに景気が拡大して若年層の所得が向上したら雑誌は復活するのか?とか、みんなネットやらケータイやらに移行したらコンテンツの作り手は大丈夫なのかとか、ネット対ケータイの争いがあるとしたらエロ系はどっちの味方かとか、そっち系への興味を失った若年層がいるとしたら実際のところどのくらいの数なんだろうとか、いろいろわからないところはまだまだあります。

Posted by: 山口 浩 | March 13, 2007 09:35 AM

数日前に返信をしたつもりでしたが、ポストに失敗したようです。
お蔭様でひとつ気付いたことだけ記しておきます。
雑誌の作り手側の変化は白夜書房・末井昭を調べて頂くとして(警察の取調べは御自身が多数経験してるので情報はあると思います)、時代背景としてはビニ本全盛期まで、以降の古本屋の衰退など予期せぬ状況には、私は部外者ですが、印刷現場が嫌ったという事情もありましょうし、乱立する商品が互いの販路(歴史的な用語!)を奪ったことも考えられます。
さて、気付いたのは、当時の末井昭が未だ現在のような進化したデバイスを予感することもならなかった状況において、既に、早朝の東京で絵の具を被ってストリーキングをしていたということは、擬似ホログラムのメタファーとして記憶しておくべきと思うのです。
ちなみに、食品安全論者から、環境ホルモンが生殖欲を奪うという話もありますが、実証されてはいません。

Posted by: katute | March 15, 2007 10:03 AM

私は29歳ですが、グラビア雑誌や青年漫画といった従来の「若者向け」の雑誌は第二次ベビーブーム世代以上のものになってしまっている感があると思います。

20代以下の人々が好むのは大ヒットした涼宮ハルヒシリーズなどライトノベル的なものではないでしょうか。

Posted by: Piichan | March 15, 2007 10:40 PM

コメントありがとうございます。

katuteさん
ごめんなさい。意味がよくわかりません。

Piichanさん
なるほど。ではどうしてそうなったのでしょうか。

Posted by: 山口 浩 | March 15, 2007 11:38 PM

山口様、スミマセン。
どうも私には説明能力が欠けているようです。。。

この話題での雑誌側の読者維持努力に関しては、御存知の「安田理央の恥ずかしいblog」http://d.hatena.ne.jp/rioysd/
を御参照ください。

以下は脱線になります。

読者側に関しては、日経に「最近の男子は飲む・打つ・買うがわからない」と書かれたくらいなので、あるいはそうかもと思います。何でも白日の下に曝そうとする意識が悪を生む式なのかと。

日販東販に上がらずに一般書店が扱わない、それ専門の流通経路(持込みだったり、専門問屋だったり)が以前には別にありました。印刷に付す経費よりも作成データを販売できるメディアが市場を獲得して以降は、扱い商品が紙ではなくなっているようです。
また現在ではルールに則れば正規の流通に乗ってしまうこともあります。
なので(?)サービスビューローでハードコピーを取る事もなくなりサービスビューローの深夜需要が変わったと「そっち系の人」に聞いたことがあります。

一般誌出身の私としては、「出版の志」理念型事業モデルが市場を席巻してるので、むしろ収益目的の雑誌発行を計画することに関して”学識経験者”渡辺仁さんにプロジェクトファイナンスが考えられるか聞いて見たいところです。

また相当にズレたことを書いてしまいました。

Posted by: katute | March 16, 2007 01:28 PM

katuteさん
すいません。やはりよくわかりません。ともあれ、コメントありがとうございます。

Posted by: 山口 浩 | March 17, 2007 12:33 AM

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