« 都知事選予測市場(3/24):接戦 | Main | 都知事選予測市場(3/25):乱戦 »

March 25, 2007

「質のよい粉飾決算」について考える

署名記事なのでかまわないと思うが、朝日新聞の「西山貴章」という記者が、2007年3月23日付同紙夕刊に、こういう文章を書いている。

ライブドア事件がより悪質なのは、損失隠しが主な目的だった過去の粉飾決算と違い、株価つり上げのために有望企業を装ったことだ。

これ、皆さんには自明なのだろうか。私には、どうにもよくわからない。

上記の引用の出所は、ライブドア事件に関連して起訴された公認会計士に対し1名実刑、もう1名は執行猶予の有罪判決が出た、という記事の解説。カネボウの粉飾決算事件で起訴された公認会計士3人に対して同じ東京地裁が昨年8月に出した執行猶予付き判決と比較してのものだ。この件についてはいろいろな事情があり、いろいろなご意見があろう。私は別にライブドアシンパではないが、この事件については私なりの考えがある。とはいえそれは本題ではないので、、ここでは上記で引用した部分に焦点を絞りたい。

損失隠しとしての粉飾決算は、株価つり上げのための粉飾決算よりも質がいいのだろうか。

記事には、はっきり書かれている。損失隠しでなく株価つり上げが目的であるため、より悪質であると。裏返せば、損失隠しのための粉飾決算は、株価つり上げのための粉飾決算よりも相対的に質がいいということだ。

粉飾決算にもより悪質なのとそうでもないのとがあるという点自体はわからなくもない。「粉飾」という表現は意図的になされたという前提のものだが、どの程度意図されていたのかよくわからないものもあろうし、なんらかの情状を斟酌すべき場合があるかもしれない。

比較ということでいうなら、税逃れのための粉飾と比べるならまだわかる。税逃れのために売上を実際より低く計上することと、利益を水増しするために売上を実際より高く計上することとの比較だ。どちらがより質が悪いかについては、価値観によりけりという部分があるかもしれない。税逃れのほうは市場ではなく政府を欺くという意味で「罪」が軽いという考え方もあろうし、利益水増しのほうが余分に税金を払うという意味で「罪」が軽いという考え方もありうる。会計原則からすれば、保守主義の観点から利益水増しのほうが悪質と考えるべきなんだろうが。

上記の引用文に関していえば、これはどちらも業績を上向きに粉飾している。にもかかわらず2つを異なる性質のものととらえているのはなぜか。記事を読む限りは、利益水増しをして投資家から資金を集めたことが、損失隠しをして株価の下落を防ぐことより悪質である、という考え方をとっているように見える。

わからない。全然、わからない。そもそも株主は平等だ。新規の株主と既存の株主を区別する根拠がいったいどこにあるというのか。株式市場というのは、株主がいつでも自由に株式を売却することができる(買主がいればだが)というのが前提となっている。当然、すでに株主となっている人が買い増すことも。この件が「資本市場に対する信頼を損ねた」ことへの断罪である以上、それが損失隠しであろうが、利益水増しであろうが、なんら変わるところはない。偽情報で投資家(既存株主も将来の株主も)の判断を誤らせたのであれば、同様に悪質だ。

これがこの記者自身の考えなのか、あるいは判決に書かれていた内容なのか、よくわからない。いずれにせよ、これが成り立つというとしたら、なんらかの理由があるはずだ。少し考えてみたのだが、1つだけ思い当たった。それは、「損失隠しは会社を思ってのこと」という、昔よくあった例の論理だ。損失が露呈すれば銀行から融資を引き上げられ、会社が倒産してしまうかもしれない。そうなれば会社のみんなが路頭に迷う。それでは困る。みんなのために、泣く泣く粉飾に手を染める。いやなんとも美しい心情ではないか。同情すべきではないか。罪が軽いではないか。そんな感じだろうか。

そうだとすると、株価つり上げであっても、会社のためにしたのであれば罪が軽くならなければおかしい。具体的にどんな状況なのかはすぐにはイメージしづらいが、ありえないことでもなかろう。これっていうのは、つきつめると、会社の「外側」にいる株主より「内側」にいる社員とかのほうが大事、という価値判断に他ならないのではないか。株主に損害を与えるより、社員に損害を与えるほうが悪質ということだから。

会社は誰のものかというよくある議論の中で、会社は株主だけのものではない、全てのステークホルダーが大切だという意見はよくある。等しく大事というならそれを必ずしも否定はしないが、もし株主よりも社員のほうが大事というのであれば、ちょっといかがなものかと言いたい。株主が資本家という階級闘争的な見方は、もはやあてはまらない。株主の中には、個人や中小企業だってたくさんいるのだ。

というわけで、「損失隠し」のための粉飾決算より「株価つり上げ」のための粉飾決算のほうが悪質であるという理屈は、私には理解できない。どなたか教えていただける方はいないだろうか。ご本人に聞くのがスジなんだろうとは思うが、これ読んでないだろうし。わざわざ電話するのも大人げないし。

|

« 都知事選予測市場(3/24):接戦 | Main | 都知事選予測市場(3/25):乱戦 »

Comments

>新規の株主と既存の株主を区別する根拠がいったいどこにあるというのか。

ここから続く文、全く意味不明。誰も区別なんかしていないと思うけど。

Posted by: 佐藤秀 | March 25, 2007 05:52 PM

そうですか? その前提になってる記事の解釈があるから、ちゃんと意味とおってると思いますけど。

Posted by: Koshian | March 25, 2007 08:48 PM

コメントありがとうございます。

佐藤秀さん
すいません説明不足でしたか。この事件は有名なのではしょってしまいましたが、記事では、この「株価つり上げ」を「偽情報で投資家の判断を狂わせ、資金を集めたという詐欺的な行為」と表現しています。一方、損失隠しのほうは、新規株主というよりはどちらかというと既存株主の利益につながるかと思います。この点をふまえて、本文記載の通り「利益水増しをして投資家から資金を集めたことが、損失隠しをして株価の下落を防ぐことより悪質である」という判断と理解しました。一般に、株価の上昇は、既存株主と新規株主とで反対の効果をもたらすわけですが、どちらを優先すべきというものでもなく、どちらを欺くのも等しく背信的ではないか、というのが本文での主張です。新規株主の利益を優先することは、すなわち新規株主と既存株主を区別しているということではないか、というわけです。で、その後は株主間ではなく株主対社員の方へ話題を転じている、と。

Koshianさん
自分の思い込みだけで書くと、論理が飛躍してしまうことがありますよね。人それぞれに「理解のツボ」というか、そういったものがあると思います。そこをはずすと全然意味不明になるようなポイント。そういうのを先回りして過不足なく押さえられるのがいい書き手、なんでしょう。まだまだ修行が足りませんね。

Posted by: 山口 浩 | March 25, 2007 09:18 PM

>「偽情報で投資家の判断を狂わせ、資金を集めたという詐欺的な行為」

この部分は新規投資家うんぬんとは関係ないと思います。裁判官の言いたかったことは、偽情報で株価を吊り上げて時価総額を増やし、膨らんだ総額を元に株式交換などの手法で結果的に安く会社を買収したり、あるいは高値で売り抜けたことを凝縮して言っているのだと思います。ライブドアって粉飾当時新規増資してましたっけ?

Posted by: 佐藤秀 | March 25, 2007 09:45 PM

>わざわざ電話するのも大人げないし。
山口様ほどの方なら西山記者に考えを質した方がいいと思いますよ。

Posted by: Piichan | March 26, 2007 06:01 AM

佐藤秀さん
「新規投資家」は必ずしも増資とは結びつかないと思います。市場で流通する株式を新たに買った人も新規投資家だし、株式交換で新たに株式を取得した人も新規投資家です。

Piichanさん
私、いつから「ほどの方」になったのかよくわかりませんが、お会いする機会があればぜひ聞いてみたいと思います。

Posted by: 山口 浩 | March 26, 2007 12:10 PM

株式交換で新規投資家になったのはライブドアですが。とすると粉飾で迷惑かかったのはライブドアになっちゃいますが。もう滅茶苦茶だ。
そもそも最初から粉飾と、新規、既存投資家って何の関係もないんですが。
どうも既存株主は粉飾で高値で売り抜けたという印象をお持ちのようですが、そんなことと粉飾による資金集めとは何の関係もありません。

Posted by: 佐藤秀 | March 26, 2007 12:31 PM

佐藤秀さん
ええと、私の主旨は、この朝日記事が、ライブドアが株価つり上げを行ったために、投資家に本来あるべき価値より高値でライブドア株式を取得させた、としていることについてです。同記事では、このことを、会社が損失隠しを行って本来あるべき価値より株式を高値に保つことよりも悪質だ、としているので、なぜそういう理屈になるのかわからない、と書いたわけです。
新規株主と既存株主の話は、事実がどうかということではなく、どうやったら上記の理屈(同じ粉飾なのに片方がもう片方より悪い)が説明できるかを考える途中で出した仮説です。記事に株価つり上げを「偽情報で投資家の判断を狂わせ、資金を集めたという詐欺的な行為」とあるということは、資金集めの話であるととらえられていると。ということは、損失隠しのほうは、資金を集めない話ととらえられているのかと(だからちがう、という理屈ですね)。結局それを否定しているわけなので、新規株主と既存株主の話が関係ないというのは、私が本文で書いたことと同趣旨でもあります。…あれ?そうすると、1つ前の私のコメントはポイントをはずしてますね。すいません。

Posted by: 山口 浩 | March 26, 2007 02:03 PM

もう頭がワケワカメになりましたのでここらへんでやめます。

Posted by: 佐藤秀 | March 26, 2007 09:40 PM

佐藤秀さん
混乱させてすいません。ただ文章の本旨が、損失隠しも利益かさ上げも粉飾という点では変わらない、という点にあることはおわかりいただけるかと思います。

Posted by: 山口 浩 | March 27, 2007 03:46 AM

山口さんの意見はそのとおりと思います。

記事については積極的な不正と
追い詰められやってしまう
後ろ向きの不正というかそんな感じ意味では?

カネボウはよくわからないので
記事の論調が妥当かはわかりませんけども。

Posted by: とりばち | March 27, 2007 11:58 AM

とりばちさん、コメントありがとうございます。
「前向き」と「後ろ向き」ですか。要するに攻撃か防御か、ということですよね。それはまさに、本文に書いた「会社の「外側」にいる株主より「内側」にいる社員とかのほうが大事、という価値判断」ではないかと思うわけです。攻めるのは株主にいい顔をしたいからであり、守るは社員の仲間を守りたいからであり。どうでしょうか?

Posted by: 山口 浩 | March 28, 2007 11:50 AM

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 「質のよい粉飾決算」について考える:

» 月曜日は権利落ちの日 [株式市場放送局 株式市場の情報をキャッチ]
配当落ち分をするすると埋めるようなら先高期待が強いと見られ・・・ [Read More]

Tracked on March 25, 2007 10:49 PM

« 都知事選予測市場(3/24):接戦 | Main | 都知事選予測市場(3/25):乱戦 »