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March 19, 2007

「『法令遵守』が日本を滅ぼす」

郷原信郎「『法令遵守』が日本を滅ぼす」新潮新書、2007年。

これ必読。

著者は桐蔭横浜大学法科大学院教授。元検事。しかも東京地検特捜部なんかを経験してる人。やっと法律の専門家にもこういう人が現れた、という印象。いや、個人的に話すとこういうことをいう人はけっこういた。でも、私が知らないだけなのかもしれないが、こういうことを正面切って本に書いてくれる専門家はこれまでいなかったような気がする。

帯にはこんな文章が。

企業コンプライアンス確立のためにコストをかけることは、今や経営の常識です。関連セミナーが各地で開かれ、コンサルティング会社は大盛況です。
こうして世の中が「法令遵守」に席巻されるなか、賢明な組織人であれば、コンプライアンス=法令遵守という考え方こそが組織をダメにしていることを実感しているはずです。
「そんなはずはない!」と信じている多くの方に敢えて申し上げます。あなたの法令遵守原理そのものが元凶なのです。

法律学におけるプラグマティズム、とでもいうのだろうか。「工学的発想」と呼ぶ人もいるかもしれないし、「失敗学」の考え方と共通の要素を見出す人もいるだろう。法律関係でも、「法経済学」の分野では、似たような話をするのではないかと思う。「日本を滅ぼす」というのはちょっといいすぎだと思うが、要するに現在の日本における法のあり方に対する「ノー」なわけだ(本当は日本だけでもないと思うが、本題ではないので省く)。この問題意識についてはひざを連打したい。

では今の日本のどんなあり方に対する「ノー」なのか。独断でこう解釈した。
・すべてのルールは100%厳守されなければならない最低限という考え方
・法律を守っていればあとは自由であるという考え方
・ルール違反者は徹底的に追及して厳罰に処さなければならないという考え方

上に列挙したのは、ある意味で「法律万能主義」といいかえてもいいのではないかと思う。しかし法律は万能ではないしそうあるべきでもない。法律以外にも、社会にとって重要なルールはある。これだけだと「なんだあたりまえじゃん」になるわけだが、これが2つの方向に分かれることを本書が明確に意識しているように思われる点は重要だ。つまり、「法律に対するプラスアルファとしてのルール」と「法律を一部制約するようなルール」の2つ。一見矛盾するようだが、たぶんしない。法律は社会とともにあり、社会の文脈の中で意味を持つものだからだ。

その点をふまえないと、法律は一人歩きを始める。社会のあちこちで軋轢を起こす。しっぽをつかんで馬を振り回そうとするようなものだ。法令に定めてあるから遵守するのではなく、社会にとって望ましい状態をめざす手段として遵守する。それを忘れた結果が、今起きているさまざまな問題なんだろう。

この本には、ライブドア事件や村上ファンド事件、公共工事の談合やパロマ問題、耐震偽装問題など、最近起きた企業がらみのさまざまな事件もとりあげられている。それらを通して、変化する社会に対して現在の法や当局が追いついていないさま、企業が法に振り回されて道を誤ったさまが繰り返し指摘されているわけだが、実際に第一線の捜査現場にいた人だけに説得力がある。それから、最近の検察がけっこう「世論」に影響されているさまとか、マスコミの報道姿勢が企業行動をゆがめ、それがかえって問題を悪化させていることとかについても。

基本的にこの本、企業について書かれているわけだが、政府のやることについてもけっこう似たことがいえるのではないかと思う。その意味で、企業の方にも政府の方にもいいと思う。もちろんマスメディアの方にも。要するに、「すべての組織人」にお勧め。日本を滅ぼさないために。

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Comments

いいお話ですね。私も「コンプラ=法令遵守」という定義にはかねがね疑問を感じていました。それこそまさに、法を守ってさえいれば何をやっても良いという誤った認識の温床ですよね。
法正義と倫理って、やっぱり違うと思うんです。

IT ふうに言えば「フレームワーク」ってあたりになるでしょうか。フレームワーク、つまり「型枠」にガチガチに嵌め込まれては窮屈でしょうがない。でも、型枠は一定の指針、もっと平たく言えば心の拠り所になる、というかんじだと思います。

Posted by: ふじたやすし | March 19, 2007 10:53 PM

ふじたやすしさん、コメントありがとうございます。
正しい理解かどうかわかりませんが、「法治主義」というのは「法」が治めるのではなくて、「人」が「法」を使って治めるということなんだろうと。最近はどうも「不寛容」に向かいがちになるようですが、何が大切なのかをよく考えたいですね。

Posted by: 山口 浩 | March 20, 2007 02:28 AM

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Tracked on March 28, 2007 04:57 PM

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