登記事務ってのはなんとかならないか
これだけが廃止ということは、やはり「守りたいと思う力」が弱かったということなんだろう。もちろん、これで食べてる業界の人もたくさんいるわけだし、存続すべきであるという意見もあったようだが、大きな声にならなかったのは、要するにあまり「うま味」がなかったということだと思う。
こういうものの見方にはいまいち自信がないのでちがってたらご指摘いただきたいのだが、こんなあたりから平成18年度予算案の数字を拾うと、登記特別会計というのは歳入が1830億円ある。このうち一般会計からの繰り入れが707億円あるので、「ネット」では差し引き1123億円ということになるのだろうか。これに対して歳出は1698億円あるから、「単体」では575億円の「赤字」で、「親会社」からの収入補填で132億円の「黒字」、ということか。結局「母屋」の助けが必要だから、「離れ」でもすき焼きばかり食べてるわけにはいかない、という感じなんだろうな。
で、せっかく一般会計になるんだから、ぜひ検討してもらいたいことがある。登記の際の登録免許税の廃止ないし大幅な減額だ。登記をやったことがある人なら誰でも、あの登記印紙なるもののバカ高さにあきれるのではないかと思うがどうだろうか。謄本にしても1通1000円なんて「ありえねー」と思っている人が多いと思う。確かに間違いの許されない重要な仕事だし、件数も多いのだと思うのだが、本当に年間1700億円(毎年だよ!?)かけなければ維持できないサービスなんだろうか。
というのも、登記事務なるものは基本的には情報の保存と照会対応であり、はっきりいってそれほど付加価値の高い業務とはいいがたいからだ。今は登記もかなりの部分オンライン化されているわけで、サービスとしてのコモディティ化はもはや否定しがたい。細かいところを見ても、1回の処理に対して事務手数料がいくらというならまだわかるが、土地なら筆ごと、家屋番号ごとにコストがかかるというのもいかがなものか。実際の手数はほとんどちがわないはずなのに。1万歩譲って、一定のコストがかかるのはやむを得ないにしても、たとえば住民票の写し1通300円とか、戸籍記録事項証明書(全部・個人)1通450円とかそういったものの数倍の料金を正当化できるのだろうか。
このような状態がなぜ生じているかについて、詳しい事情は知らないが、改善しようとするインセンティブに乏しい環境であることはまちがいないし、それが影響したであろうことも、想像できる。こういうのは、この際思い切って合理化してしまうのがいいのではないか。なんでも民営化がいいというつもりはないが、少なくとも登記関連業務に関していうなら、これをわざわざ政府がやる必要があるんだろうかとか、もっと効率的にできるんじゃないだろうかとか、そういうことを考えるのは私だけではないだろうと思う。
もちろん、現在の法務局は、登記事務以外にも、戸籍事務、国籍事務、 供託事務、公証事務、司法書士・土地家屋調査士関連事務、訟務事務、人権擁護事務なんかをやっているわけだが、出張所ではどうせ登記ぐらいしかやらないし、その他の業務も市区町村や民間企業でもできそうなものが多い。そもそも電子化を前提とするなら、法務局がすべてをやる必要もなくて、「公権力行使」機能を市区町村に任せれば、あとはかなりの部分、少なくとも「データセンター」機能なんかは、民間のほうがうまくできるのではないかと思う。窓口機能にしても、市町村がやらなければならない場合もあるだろうが、民間でできる部分もあると思う。
いや、変な話、それこそ法務局のウェブページに広告を載せるなんてことだってできるんじゃないかと思うがどうだろうか。司法書士や土地家屋調査士、不動産鑑定士みたいな「士」業の皆さんとか、信託銀行やら不動産会社みたいな企業だって、ひょっとしたら広告を出したいと思うかもしれない。登記事務にしたってもっとコンピュータ化が進むだろうし、もっと安くなるのではないか。ともあれ、もっと工夫の余地があると思う。特別会計の廃止はいい機会だ。ぜひ「利用者」の立場から考えて、行政サービスとしてのあり方を根本から見直していただきたい。
※2007/3/7追記
トラックバックをいただいているbewaad氏より「誤りである」とのご指摘。なんか忙しいとか書いていらっしゃったように思ったのだが、こんな駄文に関わっていただいて多謝。たいへん勉強になった。上記の本文の内容は誤りを含む不適切なものであるのでくれぐれも参考にしないよう。トラックバック先をご覧いただければ。
付記するまでもないと思うが、この文章の意図は、つきつめれば、法務局でやってるあのサービスの水準であの料金はないだろう、ということに尽きる。要するに「利用者の視点」がまったくないということだ。市場化テストの対象にしたらどうかとも思うが、もし実際にやるとなったら、郵便のときと同じように、できない理由を100や200はすぐにまとめてくるだろう。
これに限らず、官僚組織が基本的には外からかなり強く言われないと動かない組織である以上(もちろんこれは官僚組織に限った話ではないし、あまり自分から動かれても困るわけだが)、これからも、的を射ているかどうか、事実に即しているかどうかに関係なく、外部からいろいろ言われ続けるであろうし、私もこのような恥をかきつつ(何の力にもならないだろうが)言い続けたいと思う。
ちなみに私も、特別会計を一般会計に組み入れることによって事態が改善するとは限らない、という点には賛成。一般会計の中身だって、外から見えにくいところはたくさんあるのではないか。登記については、本当にあれだけのコストが必要なのか、仕事自体をまじめに見直してみたらいいと思う。といっても当事者にやらせると何も出てこないのは他のところの経験上明らかだから、外部の「乱暴者」の力を借りないといけないだろうけど。
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Comments
登記業務については証明発行業務は登記業務自体の2割。のこりは登録業務で関連する法令は民法、会社法等の実態法を前提にしてそれを登記手続きするもの。
単純に証明発行ということにはならない。
たぶん法務局のことしらないんだろうね。
ときどきあるのは裁判所で判決をとったものの登記手続きにできない場合もある。弁護士の勉強不足なのだが。
オンライン申請にしても相続登記の際の戸籍関係書類をどうやって送付するのか。結局郵送にしかならないし。判決も電子署名付で電子データとして発行してもらえるんだろうか?
物事の発想が短絡的。
一度会社の登記や相続の登記を自分でやってたらわかるよ。法務局に相談せず、自分で調べて申請して、補正もなく一度で通るようならたいしたもんだ。
Posted by: とおりすがり | October 18, 2009 04:15 PM
とおりすがりさん、コメントありがとうございます。
不動産の登記も会社の登記も自分でやりました。
不動産のほうはさして難しくないですね。法人登記ではご指導を受けずにはうまくできませんでしたが、逆に先方にも指導できるレベルの知識をお持ちの方はそうたくさんはいないようにお見受けしています。
全体として、機械で対応できる仕事をわざわざ人がやっている部分がかなりあるのではないか、という観察から、このような文章を書いてみました。
2割と言われる証明書発行業務を機械化するだけでも、それなりのコスト削減にはなります。別に民間がすべていいとはいいませんが、こうした面の努力の度合いでは、民間(のうち優れたところ)に学べるものはたくさんあると思いますよ。
Posted by: 山口 浩 | October 26, 2009 02:06 PM