再婚禁止期間は「延長」すべきではないか
民法733条が女性について定めている再婚禁止期間を短縮する法案がぽしゃったようだが、頭が悪いものでこれがどうもよくわからない。現行の半年から100日に短縮する法案を与党PTが検討していたのが、えらい人たちの不興を買ったらしい。なんで100日なのかとか(一応理由があるのはわかってるんだけどね)、なんで根回しをしとかないんだとかいろいろあるわけだが、一番わからなかったのは、今の技術なら誰の子か調べることは容易だろうになんで今さらこの規定を残したいのか、という点だった。というわけなので、報道にあった法務大臣の発言を知って、ちょっとわかったような気がする。
リンクはそのうち切れちゃうだろうから引用しとくと、法務大臣の発言はこう。
再婚禁止期間の短縮についても、「家族、婚姻制度を作り変えることに国民の理解があるとは思えない」と述べた。
ああそうかそういうことなのか。おじいさんたちはそっち方向を気にしてるわけね。確かに同じ記事で、嫡出推定に関する民法772条の「300日規定」についても、こんなことを言ってるから整合的だな。
長勢法相は6日午前の記者会見で、女性が離婚後300日以内に出産した子の扱いをめぐって与党が検討している特例法案について「貞操義務、性道徳の問題は考えなければいけない」と述べ、反対した。
私自身の考えはいろいろあるが、ここでは特にふれない。でも、もし法務大臣の発言のような考え方をするなら、やはり法改正は必要なのではないか。再婚禁止期間を「短縮」ではなく、むしろ「延長」する方向に。
といっても、女性ではなく、男性のだ。
男性の場合、再婚禁止期間は特段定められていないから、ゼロということになるんだろう。離婚届と同日の婚姻届が受理されるかどうかは知らないが、少なくとも翌日なら受理されるものと思う。これは、上記の立場に立てば、「婚姻制度の根幹」に関わる重大問題ではなかろうか。現行の制度は、正式な婚姻関係にある夫婦と嫡出子からなる、安定した家族で構成された社会を想定している。そこに価値を見出しているわけだ。これを揺るがす存在は、社会基盤を根幹から脅かす、忌むべきものとみなさなければならない。そうしたものに、必要以上の法的保護を与えてはならない。えらい人たちの考えは、こういうことだろう。
ならば、男性が離婚することも、容易であってはならない。現行規定では、男性が離婚し再婚する場合、後から妻になる女性がそれまで誰かと婚姻関係になければ、離婚後すぐに結婚できる。しかし上記の立場からすると、たとえば男性がそれまで連れ添った妻と別れて別の女性とすぐ結婚するようなことは、法務大臣のいう「貞操義務、性道徳の問題」からしても、わが国の家族制度を根幹から揺るがす実に不埒なふるまいといわざるを得ないはずだ。そうした行為を助長しかねないような制度は、容認すべきではない、ということになる。
平成13年度の国民生活白書に、離婚に関する調査結果が出ている。これをみると、確かに一般的傾向として、男性よりも女性のほうが、離婚を容認する傾向が強い(第1-21図)。しかしここでは、男が離婚を容認する度合いもそこそこあるということに着目すべきだ。どうもえらい人たちは、離婚問題を女性の問題と考えがちであるようにもみえるが、結婚が男性と女性の間でのものである以上、同じ程度に男性の問題でもある。
再婚禁止期間の規定については、女性だけが規制されるのはおかしいという反対理由もあったのではないかと思う。憲法14条違反ではないか、という意見もきっとあるはずだ。それが容認されてきたのは、「女性は妊娠・出産するから」という生物学的要因だったからだと想像する。親子関係の鑑定が難しいのであれば、それはやむを得ないというわけだ。しかし現在はもうそうではない。親子関係の判定は技術的にもコスト的にも困難ではなくなった。障害は事実上なくなったわけだ。で、法務大臣のいうとおり、問題が「家族、婚姻制度」のあり方に集約されるのであれば、もはや男女を区別する根拠はないのではないか。
わが国の「家族、婚姻制度」を守るために、女性に半年の再婚禁止期間が必要だとするなら、当然、男性にも半年の再婚禁止期間が必要だ。今がゼロだから、「延長」という表現が適切かどうかわからないが、まあ延長といっておこう。100日への短縮に反対ないし慎重姿勢を示したえらい政治家の皆さんも、よもや反対などすまい。これはわが国の「家族、婚姻制度」を守ることに役立つはずだ。再婚禁止期間の撤廃を求めてきた人たちの中で、性別による扱いのちがいを問題としてきた人たちにとっても、もちろん最良ではないのだろうが、少なくともこの点での不平等がなくなるという点では、必ずしもマイナスではないのではないかと思うんだが。
参考までに民法の条文を。
(再婚禁止期間)
第七百三十三条 女は、前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。
2 女が前婚の解消又は取消の前から懐胎していた場合には、その出産の日から、前項の規定を適用しない。
(嫡出の推定)
第七百七十二条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2 婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
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