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May 21, 2007

「MANGA SHAKESPEARE」を読んでみた

しばらく前にテレビで見かけた「マンガ・シェークスピア」。ニュースにも出ていたし、ネット界隈ではすでにあちこちで取り上げられているので話としてはすでに古いのだろうが、実物を見てみたくなって、読んでみることにした。知ってる人にはなにをいまさらな話なので念のため。

買ったのは「ROMEO AND JULIET」。こんな表紙。

表紙に出ているのが、いうまでもなく主人公のお2人。設定によると、「Romeo, rock idol and son of Lord Montague」と「Juliet, Shibuya girl and daughter of Lord Capulet」だそうだ。舞台は現代の東京。そんな名前のやついるかよと思ったら、

Present-day Tokyo. Two teenagers, Romeo and Juliet, fall in love. But their rival Yakuza families are at war.

だって。「モンタギュー一家」と「キャピュレット組」の抗争なわけね。この表紙、ぜひ拡大してみていただきたい。ロミオのほうはともかく、ジュリエットの服装がすごい。上半身はピンクの振袖ふう、下はピンクのキュロットに黒のオーバーニーソックスにピンクのブーツ。どう形容していいのかわからないが、「ガイジン」の妄想する「Cool Japan」ふう、とでもいうのだろうか。組関係の皆さんも、日本刀で戦ったりするのでなんつうか「Kill Bill」みたいなんだが、モンタギュー一家の頭はマオスーツだし、若い衆はこぞって長髪だったりもしてやけにスタイリッシュ。「任侠」というより「YAKUZA」(発音も英語ふうに)と呼ぶのがふさわしかろう。

で、この「Cool Japan」ふうの皆さんが、シェークスピアの古風なセリフをバンバン決めてくれる。「ロミオとジュリエット」で最も有名な「例のあのセリフ」はこう。

O
Romeo,
Romeo . . .

Wherefore
Art thou
Romeo?

Deny thy
Father
And refuse
Thy name.

Be but sworn
My love
And I'll no
Longer
Be a
Capulet!

古風な。まんまじゃん。これをバルコニーの上から、いまどきふうのパーティドレス姿のジュリエットが朗々と語るわけだ。ひょっとしたら、宝塚ってこんな感じなんだろうか。

注目すべきは、少なくとも最初のいくつかのシーンに「ト書き」らしきものが書かれていること。たとえば最初のシーンでは

The Capulet and Montague Yakuza families clash in the street

次はこう。

Lord Capulet enters with Lady Capulet

一応、演劇の感じを残しておきたいということなんだろうか。とはいえ、途中からなくなっちゃうんだけど。忘れちゃったんだろうかめんどくさかったんだろうか。

絵柄は表紙にもあるとおりの少女マンガふう。ところどころ2頭身キャラ化するあたりも、いまどきのマンガ文法をそれなりにふまえていらっしゃる。マンガを描いたのは、Sonia Leongという人。詳しくないが姓からみて中国系の人だろうか。こんな解説が出ている。

Sonia Leong is a core member of the UK's leading manga collective, Sweatdrop Studios. She has printed several comics and exhibited artwork in prestigeous venues (London County Hall, London Cartoon Museum, Japanese Embassy). Her artwork has featured in several manga-related publications, events, websites and magazines internationally. . .

ふうんあちらじゃ実力派なわけね。作画のクォリティについて素人の私がコメントするのはおそれおおいのだが、日本のマンガを見慣れた人の中には「!?」という感想をお持ちの方が少なからずいるだろうと想像する。それと、急がされたからのかアシスタントがいない(これも勝手な想像だが、たぶんいないんじゃないかと思う)からのか知らないが、なんか書き込み具合が物足りないな、とも。

ともあれ、本場イギリスでもこういうかたちでシェークスピアに触れる人たちが少なからずいるような時代になったということ。いろいろなところでちがいはあるにせよ、マンガという表現技法が1つのスタイルとして受け入れられていく方向の流れがあるとは考えていいんだろう。日本の人たちにも、世界市場へのチャンスは開かれている、のではないかと思う。がんばれ!…というか、がんばらないと、今は大丈夫でも、そのうち逆に世界から才能あるマンガ家たちの作品が日本にどんどん押し寄せて来るようになっちゃうかもよ?まあ、東京がマンガ界における「ハリウッド」のようになるのであれば、それはそれで悪くないのかもしれないけど。

よく知らないが、少女マンガでヤクザというと、日本ではこんなあたりか。設定もちょっと似てる?

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Comments

フランスでは、フランス革命が国王を殺しちゃったということで微妙な扱い(タブーに近いのか?)だそうで、あまり学校などでふれなかったみたいですが、今では「ベルばら」が教材として使われているという噂を耳にしました。

モーニングで連載されてる「チェーザレ」なんかはイタリアから文献を取り寄せて専門家が翻訳しながらマンガを描いているので、なんか研究書みたいになってますね。元東大総長が単行本の帯で絶賛してました。

Posted by: まお | May 21, 2007 01:55 AM

まおさん、コメントありがとうございます。
歴史を正しく描こうとするマンガがある一方で、今回の件は昔の物語を現代に焼きなおして生きながらえさせようという試みですね。いずれにせよ、メディアとしてのマンガの価値を物語る事例かと思います。

Posted by: 山口 浩 | May 21, 2007 10:06 PM

何となくタランティーノの影響も感じたりもしますが、こういうのが彼らにとっての「Cool Japan」なんでしょうか。

ところで、京都国際マンガミュージアムで、「マンガ・シェイクスピア」の編集者と作者を招いた講演会を予定しているそうです。

「Mangaがイギリスの子どもたちに与えた影響」
講師:エマ・ヘイリー Emma Hayley 氏(セルフメイド・ヒーロー社編集者)
ソニア・レオン Sonia Leong 氏(マンガ・アーティスト)
エマ・ヴィセッリ Emma Vieceli 氏(マンガ・アーティスト)

日時:2007年7月3日(火)15:00~16:30

詳細は下記URLをご参照ください。
http://www.kyotomm.jp/2007/06/kouza_009.php

Posted by: くりおね | June 29, 2007 08:40 PM

くりおねさん、情報ありがとうございます。
Sonia Leongさんも来るんですねぇ。行きたいんだけどなぁ。

Posted by: 山口 浩 | July 01, 2007 01:47 AM

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Tracked on May 24, 2007 12:56 PM

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