議事録つまみ食い:なかなか画期的な学校再生の提案
以下は、2006年11月8日に開催された、教育再生会議の第1回学校再生分科会の議事録。この会合は合同分科会でもあって、第2分科会(規範意識・家族・地域教育再生分科会)の人たちも参加してる。テーマは「いじめ問題、未履修問題への対応」「教員免許更新制」「全国学力・学習状況調査」「学習指導要領の改訂」の4点なんだが、この段階ですでに「いじめ問題、未履修問題への対応」の話は終わっているので、それ以下から。
ご紹介するのは、第1分科会における第2分科会の海老名香葉子委員の発言。あらかじめことわっておくが、ちゃかしたりするのが目的ではない。
繰り返すが、テーマは「教員免許更新制」「全国学力・学習状況調査」「学習指導要領の改訂」の3点。
○ 白石第1 分科会主査 ありがとうございます。それでは、それでは時間的には今から30分ほどでございますけれども、第1 分科会の学校再生のテーマについて御意見をいただいてまいりたいと思います。 資料3 に、少し目を移していただきたいんですけれども、この中で「1 . いじめ問題、未履修問題への対応」については今まで御意見をちょうだいしましたので、特に「2 . 教員免許更新制」「3 . 全国学力・学習状況調査」、そして「4 . 学習指導要領の改訂」、この3 つのポイントを中心に、これから御意見をちょうだいしてまいりたいと思います。
以下、幾人かの意見が続いた後、件の海老名委員の発言。都合のいいところだけ取り出してといわれるとやなので、全文。
○ 海老名委員 この3 年ほど前から、私は地域の公立高校の校長先生に言われまして、3回ほど、突然にうかがったことがございます。思いましたのは、私立の方も4 ~ 5 年にわたって平和についてのお話をということでうかがっておりましたけれども、全くの違いがございます。
ほほうなるほど。して違いとは。
といいますのは、公立の方は校門のところだけきれいなのでございます。中へ入りますと、教室も廊下も大変汚のうございます。ごみは散らばり放題で、これも公立の中級の高校でございます。学校の在り方と、それから、先生の授業の在り方の余りにも違いがあり過ぎてびっくりしました。
ふむふむ。確かにそういうところはあるよなぁ。事情にうといのだが、あれは学校側の維持管理に対する金のかけ方に依存する部分もけっこうあるのかなと思っていたのはちがうのだろうか。あと、記憶が正しければ、麻布中学はけっこう汚かったよなぁ。
…ちょっと待て。しつこく確認しておくが、ここでのテーマは「教員免許更新制」「全国学力・学習状況調査」「学習指導要領の改訂」だ。委員はこれを中心的なテーマとして話している、はず。ということはこの話も、これらのテーマについてのものだよね?ということは、教員免許更新要件に「学校清掃」を義務付けようというのだろうか?それとも全国共通学力テストに「掃除」という科目を?はたまた学習指導要領に「掃除」を加えようというのだろうか?
と申しますのは、好きな科目の先生は一生懸命教えて、生徒も一生懸命、目を輝かせて勉強しているんです。コンピュータ、それから、フランス語でしょうか、フランス語は5人ぐらいグループになって勉強していました。それで、とても一生懸命なんです。 あとのクラスは、びっくりしたことには、ひざ掛けを頭からかぶって寝ている生徒がいるんです。先生が何も言わないんです。どんどん授業を進めてしまっているんです。騒いでいる子もいました。これで成り立っていくんだろうか。公立と私立の違いが余りにもはっきり出てきたのでびっくりしました。これも両方とも中級の高校でございます。
2つのクラスについて述べている。文章の流れからすると、「好きな科目の先生」の話は私立で「あとのクラス」の話は公立、ということになるのだろうと思うが、なんか文章がよくわからんね。議事録だから、この通りにしゃべったのだろうが、聞いてる人はこれでわかったのだろうか。まあそうだとして、これは私立と公立で授業の様子がちがうという指摘。なるほど。公立じゃフランス語はあんまりやらないだろうしなぁ。してこれは、「教員免許更新制」の問題なのか「全国学力・学習状況調査」の問題なのか。はたまた「学習指導要領の改訂」の問題なのか。教員免許更新制も全国学力・学習状況調査も学習指導要領の改訂も、私立と公立で共通だよなぁ。いったいこのちがいはどこに起因しているのだろうか。
それで、私、感じますのは、これはやはり親の教育がいけなかったんだろうと思います。戦後の親が子どもを育てた間違いでございます。戦前の教育がいけないとよく言われます。軍国主義とかすぐに持ち出されてしまっておりますけれども、そうではない。戦前の修身、道徳、今の徳目を絶対的に教えなくてはいけない。これは生徒に教えるのではなくて、先生自らが教えながらそれを学んでいくんだろうと思います。先生は偉くなくてはいけないんです。偉い先生が友達であるからこそ、先生が大好きになるんです。偉い先生が少なくなりました。
なるほど。親の教育がいけないのか。戦前の修身、道徳教育を受けた親はよくて、それを受けていない今の親はだめなわけだ。とすると、私立に子どもを通わせてる親は戦前戦中の生まれで、公立に子どもを通わせてる親は戦後の生まれということか。ふうん世代対立かこりゃ根が深い。で、対策はというと、「先生自らが…学んでいく」とある。おお!学習指導要領に先生の学ぶ内容を定めるということなのか。これはなんと画期的な。
で、先生が学ぶべきことというのは「戦前の修身、道徳、今の徳目」ということになる。ふむふむ。そうすると先生は偉くなるらしい。確かに教員の「権威」が昔ほどでなくなったことへの問題意識というのはあるよな。そうか教員が戦前の修身や道徳を学べば教員の権威が復活するわけか。よかったよかった。私は戦前の学校の様子を知らないが、戦前の子どもたちはそういう偉い先生が「大好き」だったのだろうか。偉くなると好かれるなら、これはすばらしい解決方法ではないか。
申し上げました公立の高校の先生で、女性の先生でした。肌をあらわにしているんです。胸が見えそうなブラウス。今のはやりの女の子の服装をして、先生が教えているんです。そんな先生がいていいんでしょうか。先生はやはりきちんとした礼節を守って子どもたちに教えるべきだと思いました。あれでは男性生徒を挑発しているような先生だなとつくづく思いました。こんなことでいいんだろうかという感じでございました。ですから、私は徳目、修身、道徳を復活させてほしい。そんな感じです。
いや「いていいんでしょうか」といわれても私にはちょっとお答えしかねる。「まいっちんぐマチコ先生」じゃあるまいが、男子生徒的にはぜひいてほしいところだろう。とはいえまあ親の立場からは心配にちがいない。なるほど徳目、修身、道徳を復活させねばならないわけだな。…ということは、やはり徳目、修身、道徳を教えるべき相手は教員、という意見か。教員が学ぶべき内容は今の学習指導要領には書いてないから、これは大改訂、というか新設だなぁ。
それから、今、緊急の話題ではないのでございますけれども、母子手帳というのがございます。妊娠をしますと母子手帳をつくります。それから産むまで、親は一生懸命、1 か月に1 回、保健所へ行きます。おなかが大きくなると、子どもをなで、さすります。そして、一生懸命産みます。産んで、その後、予防接種まで保健所へ通います。これは、うれしさと、それから、子どもを一生懸命育てるという気持ちでございました。これが、予防接種を受けた後、一切なくなってしまいます。あの母子手帳は親にとって大切なもので、子どもにとっても大切、へその緒と同じぐらいの役目を果たしています。その母子手帳が途中で消えてしまってなくなるんです。あの母子手帳の復活でございます。予防接種で終わるのではなくて、それからが大切だろうと思います。ある期間、区の教育課でもいいですし、地域の教育課でもいいです。そちらに半年に1 回でもいいですから提出し、自分の子どもの成長、それは発育ばかりではなくて心の成長も含めて、提出して相談できるような場所をつくっておくことも肝心だと思いました。
おお!学校再生には母子手帳。これを画期的といわずして何を画期的というのか。これを大人になるまで、ということか。しつこく確認しておくが、ここでのテーマは「教員免許更新制」「全国学力・学習状況調査」「学習指導要領の改訂」だ。委員はこれを中心的なテーマとして話している、はず。学習指導要領の中に母子手帳をつけることを盛り込む、のかな。それとも全国学力・学習状況調査の一環として母子手帳の内容を把握したりするんだろうか。
それから、学校に保健室がございます。保健室には、今、先生が1 人ですけれども、私がうかがいました公立の学校には保健室に先生が2 人いらっしゃいました。若い先生の方には生徒さんがいろいろな悩みを相談しに来ます。それで友達同士のような感覚で相談しているんだろうと思います。これはよかったと思いましたけれども、もう一人、女性の年配の先生ですけれども、その先生のところには、生徒が相談に来るのではなくて、先生がちょっと時間をつくってくださいと言って相談に来るそうです。それを聞きまして、私は保健室の大切さを知りました。いじめの子があったり、いじめられる子を先生や親が少しでも知ったら、保健室の先生に相談し、そして、しかるべき、校長先生なり学校会議なりを開いて話し合っていただけたらいいと思いました。
これまた画期的。保健室には教員2名はいいとして、うち1名は先生の相談を受け付ける担当という提案だ。保健室登校する先生もいるんだろうか。ここで例に挙げられた学校は公立らしいのだが、公立の学校も保健室については学ぶべきところがあるらしい。この保健室はよくても公立の学校はやはり汚いわけで、私には、対策になってるのかなってないのかよくわからんが、分科会の委員の皆さんはきっとわかったんだろう。
で、締めくくりは
最近の高校につきまして、私立と公立の違いが余りにも差ができているので驚きました。 少し改善してほしい。そんな思いでございます。
だそうだ。「少し改善してほしい」どころか、わが国の教育を根本から変える一大変革ではないか。
わからないなりに、提言内容をまとめてみた。
(1)教員免許更新要件に「学校清掃」を義務付け、全国共通学力テストと学習指導要領に「掃除」を加える
(2)学習指導要領に教員の学ぶ内容(修身および道徳)を定める
(3)大人になるまで母子手帳を持たせ、その内容を学校が把握する
(4)保健室に教員2名をおき、うち1名は先生の相談を受け付ける担当とする
いやこれを画期的といわずして何を画期的というのかというくらい画期的な提言。これで教育再生だ!これほどの「爆弾」提言を受けて会議は議論百出、侃侃諤諤になるかと思いきや、このあと議論は、何事もなかったかのように進んでいく。この生温かいあたりなんともいえない風情なので、ぜひ議事録の現物を読まれたい。
教育再生会議でのさまざまな議論について、こういうのもありではないかというあたりは以前書いたのだが、こういうのがあると、専門家の価値を再認識するいい機会になる。皆さんがんばっていただきたいね、いろんな意味で。
この文章にこういうリンクをつけるのもなんとも不謹慎なんだが。ケン太の数々の狼藉はともあれ、この「私立あらま学園」、なかなかいきいきとした学校だったように思う。学校再生を考えるヒントに、…ならないか。
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Comments
海老名香葉子委員には、何を言いたいのかきちんと考え、まとめてから会合に参加してほしいですね。あと、委員は専門家から選んだほうが議論が進むような気がします。
Posted by: のひ | May 18, 2007 02:06 PM
のひさん、コメントありがとうございます。
海老名委員には独自の存在価値があるのだろうと思いますが、まああの議論の流れからは少し離れてましたね。
個人的には、前にも書いたことですが、教育よりもむしろ政治改革の分野で同じことをやってもらったほうがはるかにいい仕事ができるのではないかと思います。
Posted by: 山口 浩 | May 19, 2007 12:38 AM