「アマゾン市川」さんに関するたわごと
以下は、別のところに出すために書いたものに、ちょっとだけ手を加えたもの。ネットをふつうに使ってる方には「なにをいまさら」話なんだが、元の文章の読み手はそうでないと予想されたので、それに合わせた書き方になってるわけだ。
もう何年も前の話になるのだが、最初にその宅配便の不在連絡票を見たとき、何かのまちがいではないかと思った。なにしろ送り主の名にまったく心当たりがない。いったい誰なんだ「アマゾン市川」って。プロレスラーじゃあるまいし。「市川」さんという知り合いはいるが、荷物を送りつけられる心当たりはないし。拒否しようかとも考えたが、一応受け取ってみることにした。
私はそのとき、実際に荷物を受け取るまでわからなかったのだが、もうわかる人も多いと思う。アマゾンで買った本だ。「市川」はアマゾンの配送センターがある場所。「市川」とわざわざ特定しているのは、想像するに配送センターがいくつかあるからだろう。それ以来すっかりなじみになって、今やほとんどの本をネットで買うようになっているわけだ。
考えてみると、研究者にとって「本を買う」という行為は、研究活動の中でもかなり大きな割合を占める。専門書は近所の小さな本屋では買えないことが多いし、量も多いから、書店で探して買うとすると、それだけでも作業量としてばかにならない。大学教員の場合は書店の外商の方に注文することもできるのだろうが、長く企業にいた身にはなんかおこがましくて、やや敷居が高い。私の研究室にもときどき書店の方がやってきて、「ファックスで簡単に注文できます」とカタログと注文用紙を置いていくのだが、カタログで書名を調べて用紙に手で書いて、わざわざファックスで送るなんてめんどくさいこと、するわけないじゃん(いや実際のところ、こういう人が回ってくるということは、私の職場にも、こうやって本を買っている人がそこそこいるってことだ。そのこと自体驚きというかなんというか)。
そういうとき、ネット通販は便利だ。珍しい本も検索機能を使えば瞬時に見つかるし(なければないとわかるから別をあたればいい)、そのまま「ポチっとな」で注文完了。宅配便で送ってくれるから、一度に何冊買っても重い荷物を持ち帰らずにすむ。注文してからほんの数日のうちに届くし、たいていの場合は送料もかからない。それから、少なくともアマゾンの場合、納品書が領収証を兼ねているので、うまくすればカード決済前に経費精算ができて立替払いをしなくてすむというやや実務よりのみみっちい理由もある。とにかく、買う本があらかじめ決まっていれば、これほど便利なものはないし、決まっていなくても便利なことが多い。
こういうことを書くとすぐ「ネットは味気ない。書店でいろいろな本を眺めたり立ち読みしたりするのがいいのだ」とかいう人がいる。書店であれば、目的以外で面白そうな本をたまたま見つけたり、買ったばかりの本をもって近くの喫茶店でコーヒーを飲んだりといった、さまざまな「出会い」がある。それがネットではできないではないか、味気ない、つまらない、意味がない、と。
だけどねぇ。そんなことあたりまえじゃん。リアルの書店がもつ「臨場感」というかワクワク感というか、そういったものは、少なくとも今のところネットでは代替できないし、無理にする必要もない。それを味わいたいときには書店に行けばいいのだが、そういうときばかりではないのだ。急いで買わなければならないもの、探す時間がもったいないものだってある。買う必要のある本を迅速に便利に買うことができれば、その分だけゆっくり気兼ねなく書店をぶらつくことができるではないか。だいたい、本を買わなければならない用事がなければ書店に行かないなんて人は本好きとはとてもいえないと思うんだが、まあそれはおいといて。要は使い分ければいいわけで、どちらがどうとかいう話では本来ない。
そういえば、なんでも擬人化するのが好きな人たちというのがいるが、「アマゾン市川」さんがもし人間だったらどんな人なんだろう?と想像してみることもある。「アマゾネス」なんて連想をしたりするので、やはり女性なんだろうか。なんかワイルドっぽい感じの。きっと重い荷物も片手でひょい、という力持ちにちがいない。最近は不在連絡票に「アマゾン市川DC」と書かれることが多いので、「市川」はミドルネームか?という新たな「謎」も生まれて飽きさせなかったりもする。
というわけで、今日も「アマゾン市川」さんからのお届けものを心待ちにしているわけだ。今後ともぜひ懇意に、とお願いしたい。いや別に、他のネット通販がやだとかそういうわけじゃないんだが。
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Comments
いや、擬人化って萌えの要素が必ず入りますから。
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昨日、某所にて
ネットでのうわさ話で、在日米軍の司令官が、
「スタジオジブリがある限り、我々は日本を守る」
というのがありますが、それが事実であると判明。
正確には「スタジオジブリとGAINAXがあるかぎり」だったそうで、
執筆中の原稿のために収集した情報の中でも裏付けができないんじゃないかと思ってた。
他にもいろいろと確認とれたけど、情報元を公にできないのが残念。
Posted by: まお | May 27, 2007 08:23 AM
まおさん、コメントありがとうございます。
あのうわさは事実だったんですか。まあもちろん冗談でしょうが、面白いですね。ご著書の出版を待っております。
Posted by: 山口 浩 | May 27, 2007 10:06 AM
確認をとったときに、言われたのが
「火の名ところに煙は立たない」
というだめ押しでした。
誰の発言であったのかまでわかりました。
ということで、米軍の言っている日本って三鷹あたりのことのようです^^;
いざとなったときは永田町あたりは自衛隊に任せて、Any time, Any whereなひとたちは三鷹あたりに最終防衛ラインを構築するみたいです。
現在、出版社にアプローチかけていますので、どこになるかはまだ未定です。
Posted by: まお | May 27, 2007 12:25 PM
まおさん
なるほど、某国の攻撃がこわい方は三鷹に住め、ということですか。軍幹部でそうなんですから、軍の研究機関の方とかにもファンが多そうですね。巨神兵とか研究してたりして。個人的にはぜひフラップターを発明していただきたいものです。
Posted by: 山口 浩 | May 28, 2007 10:24 AM
> だけどねぇ。そんなことあたりまえじゃん。リアル
> の書店がもつ「臨場感」というかワクワク感という
> か、そういったものは、少なくとも今のところ
> ネットでは代替できないし、無理にする必要もない。
> それを味わいたいときには書店に行けばいいのだが、
> そういうときばかりではないのだ。
賛成。両方やればいいだけの話ですよね。
本には、使う本(調べたい時に、必要な箇所だけ
参照する)と、読む本がありますが、使う本は
往々にして分厚くて重かったりします。そういう
ような本を何冊も持って歩きたくないです。
そういう本を職場とか家に、配達してくれるサービス
は捨てがたい。
あと、検索機能も便利ですよね。キーワード一発
で、洋書も予約できます。これも捨てがたい。
読む本の方は、書店をぶらついて探します。
両方、やればいいだけの話。
Posted by: ひろん | May 28, 2007 04:58 PM
ひろんさん、コメントありがとうございます。
海外の書店で、売り場にいすを置いてあるのをよくみかけます。立ち読みではなく座り読み、なわけですね。スペースの問題とかいろいろあるんでしょうけど、書店の皆さんは「わざわざ書店に来る人」をどう扱うかについてもっと考えてほしいな、と思うことがあります。
Posted by: 山口 浩 | May 29, 2007 09:16 AM