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銀行預金が返ってくることにほとんど不安を抱かないのになんで年金がもらえるかを不安に思うのだろうか

最近「isologue」さんと「bewaad」さんとの間で沸き起こった議論のおかげで、既裁定年金と未裁定年金(過去期間)の受給権が財産権であると考えてよいらしいとわかってたいへん勉強になった(これとかこれとかこれとか)。法解釈問題についてはbewaadさんのほうが旗色よさそうで、この種の問題の「正解」はお役人さんに聞くに限るってことだな。ただこの周辺で飛び交ってるいろいろな人のいろいろなご意見とか、マスメディアからの情報とか、身の回りの人たちの話とかをいろいろと考え合わせてみると、この法解釈問題の解決によって国民の年金問題に関する不安が解消するのかどうかはよくわからない。

私は頭が悪いし知識もないので、こういうハイレベルの議論に参戦するつもりはない。代わりに、かねがね持っていた疑問について考えてみることにする。賢い方々はおそらくすでに「正解」をお持ちなんだろうが、私なりに「納得」したいと思っていたことだ。タイトルにそのまま書いてあるが、「銀行預金が返ってくることにほとんど不安を抱かないのになんで年金がもらえるかを不安に思うのだろうか」という点。例によって、確たる根拠などない、自分の頭の中の空論だ。

銀行預金が返ってくるかどうかについて不安に思っている人というのは、少なくとも現時点ではそう多くないように思う。もちろんこの裏には預金保険だとか日銀特融だとかいろいろな国がらみの制度の支えがあったりする(金額の問題もあるだろうね)わけだが、そういうもろもろを意識しているとはとても思えない方々も含めて、一般論として銀行預金というしくみに対する不安というのはあまり見たことがない。

これに対して、国民一般の年金制度に対する不安というか不信というか、そういったものはきわめて強いように思われる。将来給付水準が切り下げられるだろうとか保険料負担が上がるだろうなんてのはおとなしいほうで、制度は崩壊寸前だとかもう崩壊してるとか、果ては詐欺だとか国営ねずみ講だとかいう人までいたりする。そもそもかなりの部分事実誤認があるだろうし、煽ってる人たちもたくさんいるし、怒りやいらだちのあまりことばが過ぎたなんてケースも多いだろうから、これらをすべて「本気」ととる必要もないだろうが、とにかく不安のレベルがけっこう高いのはまちがいないと思う。

もちろん、銀行には倒産のリスクがある。国にも財政破綻のリスクがあるという点では同じだが、どう考えても、銀行のほうが国より信用力が高いとは思われない。もちろんしくみにちがいはいろいろあるから同列に論じること自体あまり意味はないが、そういうのをはしょっておおざっぱにいえば、銀行預金を受け取る権利に不安を抱かないなら、年金を受け取る権利に不安を感じるのは、理屈の上ではあまり合理的ではないこととも思える。

なぜ銀行よりも信用力に勝るはずの国の制度である年金への信頼のほうが低いのか。上記の通り、本来あまり根拠がない部分が多いとみるのが適切なんだろうが、もし根拠のある不安というのがあるとすれば、それはひょっとしたら、国が銀行とちがって、自らルールを設定し、それを強制でき、さらに争いになった際には裁定を下す権限をもった存在であるという点に起因しているのではなかろうか。

銀行は国が決めた法律を守らなければならないし、つぶれない限り預金は返さなくてはならないし、争いになったら第三者である裁判所の判断を仰がなければならないが、国はこれらすべてを自ら行う権限を備えている。これらの諸権限は、一応「分立」しているというのが小学校で習う(だよね?)建前だが、そんなものがまさに「建前」でしかないと考えている人は多いだろう。お国はお国、なのだ。いざというときは、あうんの呼吸で助け合うのだ。国民の味方にはなってくれないのだ。少なくとも、そう思う人が少なからずいるはずだ。

つまりいいたいのは、この問題はつきつめると、年金受給権が財産権であるかどうかとか、年金資産がどう運用されているかとかではなく、さらにいえば年金制度がどう設計されているかですらなく、年金制度を「あの人たち」に任せておいて大丈夫なのか、といった不安なのではないか、ということだ。もちろん国民の側の不勉強も否定できないだろうが、それだけではないとも思う。

いくら法的な権利として確保されていても、制度がもたなくなれば、そのうち法が「改正」されることになる。切羽つまるまで放っておけば、問題が大きくなったときには、不利な変更も受け入れざるを得ないという世論ができるだろう。この手法はすでに不良債権問題のときに経験済みだ。政治家は選挙のとき以外あまり味方にはなってくれないし、そもそもどんどん入れ替わるから、お役人よりもはるかに安定性に欠ける。裁判に訴えてもたぶん負ける。国と国民との関係において、彼らが国民の味方であったことはない(追記。これはいいすぎ。なので「ほとんどない」に訂正する。これなら問題ないね)。これらの人たちは、一般の国民にとって、みんな「あちら側の人々」であることには変わりないのだ。これは、組織を解体しようが民営化しようが権限委譲しようが市民参加をさせようが、基本的には変わらない。

「政府がらみ」というと、郵便貯金というのもあったな。銀行預金だけではなくて郵便貯金に対してもあまり不安を抱くことはないようだから、「政府がらみ」をすべていっしょくたにするのはちょっと乱暴かもしれない。どうも年金に関して、国民はこれまで裏切られすぎた、と考えるべきなんだろう。私にはどうも、この問題の本質が「信頼の喪失」にあるのではないかと思われる。なまじ国家権力を背景にしているだけに、いくら「権利である」といわれても、いつかその力が乱用されるのではないかと不安になってしまうわけだ。それがこれまでこの問題で「期待はずれ」を続けて見せつけられた代償、ということなのではないか。isologueさんの主張が「勇み足」だったのだとすると、それはつきつめればこういうあたりへのいらだちから出ているのではないかと思われるのだ。もしそうなら、私も一国民として共感する部分は少なからずある。私は基本的に、国の制度やそれを担っている人たちに対してそれなりの信頼をおいてはいるつもりだが、実感として、やはりこの種の不安を禁じえない。

というわけで、私としては、政府の方々が、自分たちが持っている(と国民が信じている)力というものについてぜひ自覚的であってもらいたいものだと願う。国民は別に銀行の人たちを政府の人たちより信頼できると思っているわけではなかろう。しかし政府には、銀行とはケタちがいの「力」がある。その力を乱用されるかもしれない、いざとなったら何をするかわからないという不安を国民にもたれていることにこそ、政府の方々は強烈な問題意識を感じていただきたいわけだ。この点において、マスメディアの扇動も国民の無知も言い訳にはしてほしくないし、他省庁のことだから関係ないとも思ってほしくない。国民が勉強するかどうかと、政府の方々がこの面でいかに「努力」するかは無関係だ。

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Tracked on June 12, 2007 at 09:04 AM

Comments

 いや、そもそも、今の通貨が将来も流通するかもどうかと。
 祖父から新円切り替えのことを聞くと、何もかも大疑問です。

Posted by: シェルゲーム | June 11, 2007 at 12:34 PM

不安の種は、本音と建前を使い分ける人が「本当に大丈夫だ」と言っても後で「実は・・・」ということになるのを心配しているからではないですか。
また間違いを認めない傾向が感じられるので、あるひ突然違う理屈を持ち出し制度変更を行われる可能性があるということです。例えば年金給付金は下がらずとも、狙い撃ちの増税や健康・介護保険料の増額と言ったことが心配されます。年金自体の運用が健全なら心配ないのでしょうが、そのあたりは伝わってこないというスパイラルに陥っているかと。

Posted by: wood | June 11, 2007 at 12:40 PM

基本的に同意ですが、示されている計算式に現時点では考えられないような出生率とか金利とかが使われていることもあるのではないかと。
これではとても言われているような額はもらえそうにないし、その分はどう補填されるかというと、支給額切り下げ、支給年齢切り上げ、税金補填、積立額の値上げ・・・どちらにしろ国民負担ですから、実質約束している額はもらえないと言うことです。
あとインフレとかもありそうですね。

Posted by: honehakai | June 11, 2007 at 04:19 PM

銀行預金を運用するのは1民間企業。

それに対して

年金制度を運用するのは国。
国を運用するのは国民。

年金制度を信用できないのは、つまり、
(現時点および将来における)国民を信用できないということではないでしょうか?

つまりは世代間不信。

Posted by: 団塊ジュニアのちょっと下 | June 11, 2007 at 06:07 PM

年金は受給年齢を引き上げたり
支給額を減額したりの過去の実績がありますから。
銀行は手数料金が増えたりしてますが営業時間内なら
いつでも手数料なしで全額引き出せますし。
それにA銀行が不安ならB銀行へ変更も自由です。
銀行自体が不安ならタンス預金もOKです。
なのに年金は強制で悪い実績もあるのに
不安にならないというのは楽観しすぎなのでは?

つまり選択肢を奪っておきながらデタラメな事して
過去の過ちを償いもせず更に信用してくれとは
開いた口もふさがらないって事です。

Posted by: lba | June 12, 2007 at 10:43 AM

「銀行よりも信用力に勝るはずの国の制度」
ここが間違ってます。

Posted by: x | June 12, 2007 at 02:14 PM

コメントありがとうございます。

シェルゲームさん
通貨も不安、ですか。デノミはあるかもしれませんが、ドル化とかは今のところちょっと考えづらいんじゃないですかねぇ。

woodさん
ご趣旨の通りです。「うまく言いくるめられている感」を直感的に感じ取っている人がけっこういるのではないかと。説明が長い人の話はそういう傾向がありますね。だからといって説明が短い人が信用できるというものでもありませんけど。

honehakaiさん
これもご趣旨の通りです。モデルの想定については、一応専門的な見地からの検証がなされているはずですので、一般的な素人レベルの批判には対抗できるだろうとは思いますが、専門家のレベルでも議論の余地がありそうという図がもう見えてますしね。

団塊ジュニアのちょっと下さん
世代間不信の要素もあるかもしれません。ただ、私の印象では、今もうもらってる人と今はまだもらってない人の間、みたいな感じに見えますね。どうでしょうか。

lbaさん
銀行預金のほうは、「守られる」制度だという認識が広くいきわたってますよね。それはそういうふうに制度を運営してきたからで、年金についてはどうもそういう感じではないようにみえる、といったところでしょうか。

xさん
まちがってますか。これだけではご趣旨がわかりませんので、ご教示いただけますと幸いです。長くなるようでしょうから、もしブログをお持ちでしたら、そちらで書いていただいてトラックバックをいただけないでしょうか。

Posted by: 山口 浩 | June 14, 2007 at 05:58 PM

最近は、「受給開始年齢の引き上げ」「支給額の引き下げ」ばかり目につきますけど、高度成長期の頃は「支給額の引き上げ」「支給対象の拡大」一辺倒だった事もあったわけです。

当時は、選挙公約の実現という形で、当時の保険料負担に到底つりあわない給付拡大が行われましたし、保険料負担は必要以上に国会の場で値切られました。現状は、社会環境要因のみならず、その時代の反動をも背負っているという事かと思います。

あと、国民年金(基礎年金)は、法律が出来たS34から一貫して65歳支給開始で、こちらは年齢引き上げがされてないです。

Posted by: | June 15, 2007 at 10:26 AM

わたくし、素人なので、よくわかっていない
のですが、日本の年金制度で、直感的によく
わからないのが、

 少子高齢化で、これからは、日本人が
 減っていく(若者が減り、老人が増える)

にもかかわらず、

 世代間扶養

の方式で、今後、ちゃんと制度を維持できる
のか?ということです。

結局、既存の制度を無理して維持しようと
して、

 毎月、納める額を上げる、
 支給開始年齢を上げる、
 支給額を減らす、

ということを、やるのではないかと思って
います。だから、信用できない。胡散臭い。

個人的には、全て、確定拠出年金に移行して
欲しい、と思っています。

毎月、納めた額は、税金から控除する。
転職時のポータビリティも維持できる。
年金は、金融機関で管理し、金融機関は、
金融庁が監督する。

社会保険庁なぞ、必要ないのではないで
しょうか...

という気がします。

Posted by: ひろん | June 15, 2007 at 10:43 AM

コメントありがとうございます。

名無しさん
確かに昔は物価も上がってましたからねぇ。その当時はともかく、物価上昇がさほどでもなくなった後でやったばらまきは「誤解」を生んだかもしれませんね。悪くなったときのことばかりいうなというご意見もあるでしょうが、まあ人間誰しもそういうものですから、それは言い訳になりませんね。だからこそ、銀行の貸し出し金利なんかは上げるのが早くて下げるのはゆっくりだったりするわけで。いずれにせよ、何が「正解」かには関係なく、制度運用の安定性についての疑念自体はもうしっかり根付いてしまっているように思えます。

ひろんさん
年金数理上の詳しいあたりはよく知りませんが、直感的に、高齢化が進めば世代間扶養の負担が重くなってくるであろうことは誰しも想像できますよね。実際には、高齢者の就労率とかいろいろなパラメータがありますし、外国人労働者の受け入れという「劇薬」なんかもありますから、どうなるかはわかりませんけど。世代間扶養には、同一世代内の所得平準化の要素もありますから、確定拠出年金のみに移行というのは、少なくとも政治的にとりづらい選択のような気がします。

Posted by: 山口 浩 | June 16, 2007 at 08:52 PM

今、積立方式(確定拠出年金とか)への移行を考えた時に既に受給中の方についてどう考えるのかと言う社会的・政治的に非常に大きい問題が発生します。
今の受給世代の方は十分な原資が積み立てられていない訳で、そうは言っても年金がないと生活できないとおっしゃる方もおられます。
となると、福祉制度(公的扶助)費用の増大により保険料の請求書が納税通知書に変わるだけ、若しくは私的扶養の拡大という現象により、全体としての現役世代の負担は正味変わらないとも考えられます。
とはいえ、制度や実施機関が信用失墜している以上、現行制度のリセットも止むを得ないのかも知れません。
いずれにしても、年金に限らず社会保障の制度を維持できるだけの次の勤労世代を生み育てる事の必要性を軽視しすぎてきたのかも知れませんけども。

Posted by: | June 18, 2007 at 10:44 AM

名無しさん
全体としての負担は変わらなくても、個々の方々の負担は大きくちがってきますよね。ご指摘の通り、まさにそこが問題かと思います。
私は、制度のリセットは問題の解決には必ずしもつながらないと思います。ハコを変え、名前を変えておしまい、というのがこれまでの常套手段で、そのからくりもすでにお見通しですからね。回り道のようですが、情報を徹底的に公開して、私たち自身が現実を直視するところから始めるべきではないかと。

Posted by: 山口 浩 | June 19, 2007 at 04:46 AM

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