「ご趣味は?」「アニメを少々」っていうのはアリだろうか
日本のアニメについて、ゲームと並んで日本のコンテンツ産業の代表格であると表現するのはそれほど外れていないだろう。とはいえ、国内外で評価がそれなりに高い割に商業的な成功が必ずしもついてきていないという指摘もよくあるように思う。
いろいろな専門家の方々がさまざまな提言をなされていて、改善がなされたところやらなかなか難しいところやらあるわけだが、前からつらつら思っていることがある。実現性云々はさておき、アイデアとしてとりあえずメモ的に書いてみる。しょせん素人考えだが、専門家の皆さんが考える際のネタのかけらにでもなれば、と祈りつつ。
アニメの消費というのは一種の趣味になるかと思うのだが、趣味となる類のものを他にいろいろ思い浮かべてみると、似て非なる部分があるのではないかと思う。たとえば音楽。たとえばサッカー。そういったものとの比較しての話だ。
たとえば音楽。「音楽をやる人」のピラミッド構造みたいなものを考えてみる。トップに、いわゆるコンサートプロのような人たちがいる。人に音楽を聴かせて収入を得る人々。当然、ごく少数のはずだ。一方、裾野には、数多くの音楽ファンがいる。主として音楽を「聴くもの」として消費する人々。この「トップ」と「裾野」の差は果てしなく大きい。アニメ業界にも、こうした差はある。「作る人」と「消費する人」の差。
しかし、音楽の場合、その間に分厚い「中間層」がある。音楽を「作る人々」であるコンサートプロのすぐ下に、レッスンプロの人たち。「教える」ことで収入を得る人々。これは、コンサートプロよりずっと多い。当然、この人たちが教える相手として「教わる人々」がいる。「教える人々」より多いはず。当然ながら、こういう区別はあいまいなものであって、コンサートプロとレッスンプロの中間のような人もいるだろうし、「教える人々」も多くは「教わる人々」であったりするだろう。
さらにいえば、消費する側の人々も、単に「聴く人々」だけではない。教わるわけではなくl、単に「消費としての演奏」をする人がいる。より「能動的」に音楽と関わる人々、ということになろうか。世のカラオケ店はそうした人たちをターゲットにしている。これに対して、単に音楽を聴くだけの人は「受動的な消費者」ということになろう。ここまでをまとめると、5つの階層、ということになるだろうか。
(1) コンサートプロ(演奏する人、パフォーマー)
(2) レッスンプロ(教える人)
(3) 学習者(教わる人)
(4) 能動的な消費者
(5) 受動的な消費者
別にこの順番でなければということではないし、厳密な区分もできないだろうが、少なくとも、(2)~(4)のような層の人々がいるというのはまちがいないと思う。いいたいのは、音楽ファンの音楽への関わり方が「連続的」になっていて、それゆえに音楽に関係する人たちの層が全体として厚くなっているのではないかということだ。
こういう構造は、他の多くの趣味にも多かれ少なかれあるものだと思うし、サッカーをはじめとしたスポーツにもみられる。特にサッカーの場合は、Jリーグ創設時に、少年サッカーチームやらそのコーチ陣やら各プロチームのサポーターやらといった中間層の人々を増やすための方策を意識的にとっていったことによって、サッカー人口が増加し、選手育成の面でも各チームの経営面でもいい効果があったことが知られている。
アニメの場合も、もちろんこの「中間層」の人々はいる。ちゃんと調べてないので確たることはいえないが、教える人、教わる人はけっこういるようだし、消費者の中にもけっこう能動的な人がいる。同人活動をやっている人をどこに位置づけるかは難しいところだが、プロに近い人たちも「能動的な消費者」あたりにしたほうがいい人たちもいるんだろう。ただ全体として、音楽とかスポーツとかに比べるとこの中間層が薄いかも、とはいえるのではないか。少なくない数の教育機関から毎年出てくる卒業生たちのうち、業界に「作る人」、つまりプロとして残っていける人はそれほど多くないと思う。「それ以外の人々」が完全に離れてしまうのではなく、「中間層」としてなんらかのかたちで関わり続けていけるようになれば、人材とスキルとマネーのサイクルができてくるのではないか、というわけだ。
アニメーターの場合、基本的に集団作業だから、組織を離れるとなかなか難しそうだが、考えてみれば、音楽業界では市民オーケストラみたいなものがたくさんあるから、「市民アニメ」みたいなものがありえないと決め付けるのもどうかと思う。実際にそれっぽいものが作られているという話もどこかで聞いたことがあるような気がするが、もっと一般的にあってもいいと思うんだな。このあたり、二次創作への許諾とかの面で今よりもっと「寛容」になってくれると面白くなると思うんだけど。
それから、日本のアニメファンの間では、声優の人気がかなり高い。声優の養成学校みたいなものもたくさんあるようだし、その種の訓練を受けた人はかなりいるはずだ。学校にまでは行かなくても、アニメの絵に声をあてるという行為に楽しみなりあこがれなりを感じる人はけっこういるのではないかと思う。ならば、それを娯楽にできないものか。要するに、カラオケのアニメ版だ。音声マイナスワンでセリフがスーパーインポーズされたアニメ映像を見ながら声をあてる。カラオケが趣味になるなら、アテレコも趣味になっていいのではないか。なんならアニソンのカラオケとセットにすればいいし、ビデオにしてくれるサービスもありうるだろう。パロディでぜんぜんちがうセリフをあてたものを投稿するサイト、なんてのも面白そう。これも権利処理がネックになるわけだが、もともと正座して「鑑賞」する芸術じゃないんだし。
こういう構造ができてくれば、レッスンプロの需要も増すだろうし、コアなファンも増えて、結果として「作り手」にとってもメリットが還元されてくる、なんて流れにならないかな、というのが皮算用。ご当人たちがどう思ってるのか知らないけど。
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Comments
確かにマンガだとコミケに出展する人の層が数万から10万くらいとかなり分厚いですが、アニメとなるとぐっと少ないですね。
ただ、それでもやりたいという人の技量がとてつもないので、制作現場では買い手市場のようです。
日本のマンガ、アニメがここまで発展した理由として、消費者の目が肥えていて、しかも納得すれば躊躇無くDVD買う購買層を形成していて、買い支えていますね。
欧州で貴族が芸術家のパトロンとなって支えていましたが、日本でも同じように大量のパトロンが支えているわけです。
声優なんかは今ではとんでもなく人気の職業で、層も厚いのかな?声優になりたいという人は数万人はいるような。平野綾のように成功すれば寝る間もないほど仕事来ますから。
来年あたりからもっと顕著になると思いますが、ハリウッド映画の原作を日本が供給するという流れになるでしょう。マンガ・アニメという大量で、しかも市場でスクリーニングされた成功率の高いコンテンツが金の鉱脈のように横たわっていますから。
Posted by: まお | June 18, 2007 07:30 AM
5つの要因をみていると
なんだか、マズローと重ねて解釈したくなりますね。
この構図を上手く活用して、
ビジネスで成功しているのが
吉本興業だと思いますね。
ポイントは
トップの成功がすさまじくそれが底辺を支える。(さんま、伸介)
学校を経営して、人材発掘のコスト問題をクリアしている。
若手の発表の場が、層別にある。
場を通じてスクリーニングされる。
この様に顧客と芸人(候補含め)の間に
強力なドライビングフォースにより生まれた、
発生⇒淘汰の循環ループがあり、これが成功要因のような気がしていました。
アニメビジネスを考えてみると、
DVDなどでの議論以外に、
キャラクターグッズで儲けるというのがありますよね。
これから思うのは、能動的な消費者の質と量をいかに充実させるか、
あるいは充実しているカテゴリーを選ぶのかという事かもしれませんね。
また、中間層の新たなものとして、
『コンテンツへの投資家』などというのも狙うべきものだと考えます。
それと、カラオケについてですが、
ブログ社会の現段階では、
アフレコでなく吹き出しへの文字はめのほうが
市場があるように思います。
まずは、4コマ漫画レベルでの検証がのぞまれます。
Posted by: piecemaker | June 18, 2007 10:36 AM
大いにアリだと思います、民芸品作家が確立してますから。
伝統的な造詣といっても、やってることはフィギュア製作です。意味するところも。
Posted by: katute | June 18, 2007 11:46 AM
コメントありがとうございます。
まおさん
おわかりかと思いますが、私の問題意識は、作り手の方々が「平均して」もう少し報われるべきではないかというものです。現代の「パトロン」は力不足、なわけですね。で、作り手と消費者の中間層を増やすべきではないか、と考えました。
ハリウッドが日本の原作を採用したとしても、それは制作現場の方々の大半にはあまりメリットにはならないと思います。それに、映画化権、リメイク権が必ず実際に映画化、リメイクにつながるわけでもないでしょうし。
piecemakerさん
マズローですか。例の5段階欲求説、ですかね。吉本の学校というのは初めて聞きました。そういうのがあるんですか。関西ではみんなボケとツッコミをそこで勉強、…するってわけじゃないですよね。そういう、「作り手」と「消費者」との間がなめらかにつながっていれば、と思いました。
katuteさん
民芸品ですか。趣味で作ったりする人がいるんですかね。確かに、こけしとかって、いってみればフィギュアですよねぇ。萌え系のこけしなんてのがあったら受けるでしょうか。
Posted by: 山口 浩 | June 19, 2007 04:35 AM
トラックバックを送りした「むらログ」管理人村上です。ご指摘の「ならば、それを娯楽にできないものか。要するに、カラオケのアニメ版だ。音声マイナスワンでセリフがスーパーインポーズされたアニメ映像を見ながら声をあてる。」の部分、すでに実現していたんですね。
After Recording with Kirby カラオケでアフレコやってみました! - YouTube
http://www.youtube.com/watch?v=-haMEIOK0O4
Posted by: 村上吉文 | November 13, 2012 12:51 AM