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September 22, 2007

メモ:仮想世界の課税

自分向けメモ。「isologue」に、「仮想現実の世界と課税」という記事が出ている。

記事中で紹介されている、横浜国立大学准教授の吉村政穂氏による「仮想現実の世界と課税」(「税理士界」2007年9月15日号)については、まだ入手できていないのでよくわからない。なんか面白そう。どうやったら手に入るんだろう?

同論文の参考文献リストを磯崎さんがリンク付きで掲載しておられたので、ざっと目を通してみた。英語文献はだいたい同様の結論で、特段新しい情報はない。去年のJEC会長ステートメントは、日本の報道ではなぜか「アメリカでは仮想資産への課税を検討」と紹介されているが、実際には課税しない方向であることが読めばすぐわかる。紹介されていた英語文献はこれに沿ったもの。要するに、「課税すべきとの意見もあるが、それは好ましくない」といったもの。日本語の文献は、JETROの方の書かれた現状レポートみたいなもの。課税問題についてはやはりJECステートメントを紹介してる。

当面、キャッシュアウト・ルールを否定するような論調はあまり支持されていないといった雰囲気か。ただ、こういう論文がいろいろ出てきているということは、逆に、「課税すべき」論が存在して、それなりの「脅威」と考えられていることを示唆しているのだろう。日本の専門家の皆さんのご意見が気になるところ。参考文献があのあたりだとすると、吉村論文の主張はなんとなく想像できそうだけど。

※2007/9/22追記
広島の税理士、井上友一様より記事を見せていただくことができた。多謝。趣旨は基本的に課税には消極的だが、課税の可能性を完全には否定しないというもの。日本の所得税法での位置づけに関する分析が参考になるので、かいつまんで(ついでにやや意訳して)ご紹介。

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(1)アイテム等の入手
ゲーム内通貨・アイテムの獲得・制作はそれ自体として現実の収入または現実の収入の原因となる権利・収益となるか?個人使用の目的で入手した資産は所得税法上の「収入」になるのか?
・自家製造の資産ととらえれば、アイテムの獲得は棚卸資産の取得であり、その時点では収入ではない。
・「収入」とは基本的に外からの経済価値の流入であり、ゲーム内でのアイテム獲得はこれにあたらない。
・ゲーム内でのアイテム等は、ゲームをする権利(アカウント)から派生した「債権的財産」であり、利用規約で通常の使用以外の利用・処分が制約されているから、経済的利益の実現とは考えにくい。この主張は、セカンドライフのように、アイテムの「権利性」を強く認めるシステムでは相対的にとりづらくなるが、いずれにせよ問題は経済的利益の「実現」のタイミングに帰着する。

(2)ゲーム内の交換・売買
ゲーム内の交換が「実現」のタイミングと認定できるか?アイテム等は独立した財・無形資産なのか?
セカンドライフにおけるリンデンドルは現実通貨との交換が容易であるが、その取得をもって現金代替物の取得とみなせるか?
・アイテム等が運営者の認めた範囲での使用が許されているにすぎないとすれば、アカウントに付随する未実現の利益でしかないから、その交換・売買のタイミングで課税するのは不適切。
・現状では、仮想通貨が仮想アイテムと質的にちがうとまではいえない。もしリンデンドルの取得を所得としたければ、政策的判断を必要としよう。

(3)政策的考慮
政策的にはどう考えるべきか?
・消費(娯楽)を直接課税の対象として取り上げることは避けるべき
消費に伴う満足を所得としてとらえることは理念上ありうるが、金銭評価して課税対象とすることは困難。それは消費のための資産減少を所得から控除しないことと同じ。
・意図的な租税回避への対抗手段を備えておくべき
キャッシュアウト・ルールだけで対応する考え方は望ましくない。現実世界で取引され、客観的価格形成がなされているケース、現金への換金が認められているケースもある以上、租税回避に使われる可能性は否定できない。よって、個別事例(納税者の活動の性格)によっては、仮想通貨・アイテムの収受をもって収入と認識することも必要。

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クリアカットな結論ではないが、現実をみた議論だからこそでもあろう。課税対象とすべき場合の「納税者の活動の性格」というのは、アイテム製造を主たる所得源とする人の場合、非常に多額の所得がある場合なんかがあたるのだろうか。

セカンドライフは他のオンラインゲームと比べてやや特殊な事情、というご見解らしい。それはまあそうなんだが、この方がセカンドライフそのものについてどの程度ご存知なのかはよくわからない。「こうしたゲームの世界では、ゲーム参加者が作り出したアイテム等をコピーして販売することはむしろ奨励される」なんて書いてあって、んなこたないよねぇ、だったりするし。リンデンドルの換金性に着目されてるが、不換通貨であるってことはご了解いただいてるんだろうか。

そういうこまごまはおいといて、気になる点を1つだけ。この方に限らず、セカンドライフでは「アイテムの財産権」を認めてるっていう解説をよく聞くが、私の知る限りリンデン社が認めてるのはユーザーが作ったものの「知的財産権」なのであって、アイテムそのものに対して、所有権のような排他的な権利を認めているわけではない。利用規約に反すればリンデン社はユーザーのアカウントを剥奪することができるわけで、その際にはセカンドライフ内の通貨やらアイテムやらがなくなってしまうはず。それでも、アイテムのデザインのような「知的財産権」はそれでもユーザーのものだから、それと同じデザインのアイテムをセカンドライフ外の仮想世界や現実世界で作ってもかまわないはずだ。そういうあたりって問題の帰趨にけっこう影響するんじゃないかと思うんだけど、今までのところあまり聞いたことないなぁ。

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Comments

こんばんは、1年半ほど前 "「年功序列型ドラゴンボール経済」について" というエントリでコメントさせていただいたTKS.と申します。

あれ以降もゲーム内経済に関して関心を持ちつつ様々なゲームをプレイしていましたが、EVE Onlineというゲームがこの辺りを真剣に考えているようで、参考になればと思いまたコメントさせていただきます。

EVE Onlineの特徴は、World of Warcraftなどのコンテンツ消費系MMORPGとは違い、初期Ultima Onlineの様なワールドシミュレータ系MMORPGであることです。
ゲーム内のアイテムのほとんどはプレイヤーが生産・販売しており、恐らく全取引・流通量の98%ぐらいがプレイヤーのみの手による物です。

次のページなどが参考になるかと思いますので、よろしければご覧ください。

「EVE Online」のCCP Gamesが創立10周年記念パーティを開催。CEOが語るその歴史
http://www.4gamer.net/games/004/G000412/20070615120001/

MMORPG「EVE Online」の開発と運用に本物の経済学者が参加
http://www.4gamer.net/games/004/G000412/20070628224101/

「EVE Online」の鉱物市場動向に関するレポート公開
http://www.4gamer.net/games/004/G000412/20070906002/

個人的に「ギルド」ではなく「会社(Corporation)」なのが感動しました。実際に「利益を出す」事を主眼に、生産業や流通業、不動産業、果ては海賊業まで営んでいる会社がたくさんあります。
残念なことに株取引に関してはシステム化されていません。運営会社曰く「会計の透明性を確保する仕組みを作れていないので今のところ株取引は難しい」との事だそうです(この辺は取引システムさえ作ってくれれば経理・監査会社を起業する人が出てきたりするんじゃないかと個人的には思っていますが…)
なおこのゲームはRMTは厳しく取り締まっているので、実経済への影響という点ではほぼ無影響だと思います。

以上、御参考になれば幸いです。
長々とコメントしてしまって申し訳ありません。

Posted by: TKS. | September 22, 2007 09:03 PM

TKSさん、コメント&情報ありがとうございます。
Eve Onlineの分析については、別ルートで話を少しだけ聞いてはいます。データの開示なんかに積極的らしいですね。教えていただいた記事は参考になりました。ありがとうございます。今後とも情報等ありましたらご教示ください。

Posted by: 山口 浩 | September 23, 2007 09:17 AM

IGDA.jpの記事からリンクをたどってきました。
http://www.igda.jp/modules/xeblog/?action_xeblog_details=1&blog_id=768

以下情報紹介。
EVE Online の世界内エコノミストによるGDC08講演が以下で報告されてましたので紹介いたします。
http://t-machine.org/index.php/2008/02/24/gdc08-virtual-greenspans-running-an-mmog-economy/
アイルランドおそるべし。
GDCだけにつっこんだ質問がでている。

Posted by: S. Yamane | March 02, 2008 02:01 AM

Yamaneさん、コメントありがとうございます。
Eve Onlineの経済分析の話は、HIITのViliさんから聞いていました。具体的なものが出てきましたね。
こちらもがんばらなきゃなぁ。

Posted by: 山口 浩 | March 02, 2008 11:47 PM

おお、ヘルシンキの研究グループの代表の人ですね。それは濃い...。
http://virtual-economy.org/
DiGRA2007 Tokyoまではヘルシンキのグループについてまったく知りませんでしたが、CCPとの共同研究でメジャー感が出てきましたね。

Posted by: S. Yamane | March 03, 2008 02:39 AM

S. Yamaneさん
Digraでは発表してませんでしたね。昨年シンガポールでState of Playが開かれたときには、Viliさんといっしょに、Joshua FairfieldとRichard BartleのRMTをめぐる大激論を「傍聴」してました。

Posted by: 山口 浩 | March 05, 2008 12:01 AM

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