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October 16, 2007

Mark J. Penn & E. Kinney Zalesne著「MICROTRENDS: The small forces behind today's big changes」

Mark J. Penn & E. Kinney Zalesne著「MICROTRENDS: The small forces behind today's big changes」Grand Central Publishing, 2007.


これ、くるんじゃないかと思う。アメリカではけっこう売れてるはずだから、もう翻訳の話ができてるかもしれないけど、もしまだだったら、即交渉をもちかけるがよろしかろうと。翻訳は早晩出るだろうが、先を行きたい方はぜひ原書で。

著者のMark J. Penn氏は、私は知らなかったが、こういう人らしい。

Mark J. Penn has spent over thirty years as an adviser and polling analyst to major corporations and heads of state.

1996年にクリントン政権の下で働いていて、「サッカー・ママ」に初めて注目した人、だそうな。選挙のカギを握る浮動票層(「swing voters」ね)向けの政策策定にあたってどこをターゲットにするか、というところで、サッカー・ママというキーワードが重要であると。

要するに、社会の変化をみるときに、全体を貫くような「メガ・トレンド」を探そうとするのではなく、各所で発生している「マイクロ・トレンド」そのものに着目すべきである、ということだ。個々の「マイクロ・トレンド」はそれぞれ独自の背景やメカニズムがあって、必ずしもメガ・トレンドと整合的であるとは限らないし、互いに矛盾したものもたくさんある。健康に気を使う人が増える一方で、ダイエットくそくらえの大盛り食が人気を博したり。

それぞれに属する人の人数はそれほど多くなくとも、政策を考えるうえで、企業戦略を練るうえで、社会の動向を占ううえで、ばかにならない影響力を持ったりする。今まで着目されていなかった、こうした人たちに、うまい「名前」をつけることでスポットライトをあてることができるわけだ。この本では、こうした「マイクロ・トレンド」は、それぞれ統計で裏打ちされているので、それなりに「なるほど」と思わせる。

この中で取り上げられてる「マイクロ・トレンド」は、15のジャンルに分かれている。

1. Love, Sex, and Relationships
- Sex-Ratio Singles
- Cougars
- Office Romancers
- Commuter Couples
- Internet Marrieds

2. Work Life
- Woking Retired
- Extreme Commuters
- Stay-at-Home Workers
- Wordy Women
- Ardent Amazons

3. Race and Religion
- Stained Glass Ceiling Breakers
- Pro-Semites
- Interracial Families
- Protestant Hispanics
- Moderate Muslims

4. Health and Wellness
- Sun-Haters
- 30-Winkers
- Southpaws Unbound
- DIY Doctors
- Hard-of-Hearers

5. Family Life
- Old New Dads
- Pet Parents
- Pampering Parents
- Late-Breaking Gays
- Duitiful Sons

6. Politics
- Impressionable Elites
- Swing Is Still King
- Militant Illegals
- Christian Zionists
- Newly Released Ex-Cons

7. Teens
- The Mildly Disordered
- Young Knitters
- Black Teen Idols
- High School Moguls
- Aspiring Snipers

8. Food, Drink, and Diet
- Vegan Children
- Big Momma's Heartache
- Starving for Life
- Caffeine Crazies

9. Lifestyle
- Long Attention Spanners
- Neglected Dads
- Native Language Speakers
- Unisexuals

10. Money and Class
- Second-Home Buyers
- Modern Mary Poppinses
- Shy Millionaires
- Bourgeois and Bankrupt
- Non-Profiteers

11. Looks and Fashion
- Uptown Tattooed
- Snowed-Under-Slobs
- Surgery Lovers
- Powerful Petites

12. Technology
- Social Geeks
- New Luddites
- Tech Fatales
- Car-Buying Soccer Moms

13. Leisure and Entertainment
- Archery Moms?
- XXX Men
- Video Game Grown-Ups
- Neo-Classicals

14. Education
- Smart Child Left Behind
- America's Home-Schooled
- College Dropouts
- Numbers Junkies

15. International
- Mini-Churched
- International Home-Buyers
- LAT Couples (U.K.)
- Mammonis (Italy)
- Eurostars
- Vietnamese Entrepreneurs
- French Teetotalers
- Chinese Picassos
- Russian Swings
- Indian Women Rising
- Educated Terrorists

こういうネーミングのうまさがいかにもという感じ。アメリカの状況をよく知らないせいもあって、中身を読まないと何のことやらよくわからないものも少なくないが、名前だけですぐわかるものがけっこうある。読むとさらになるほどと。

たとえば「ママ」系で、「Car-Buying Soccer Moms」と「Archery Moms?」を取り上げてみる。前者のほうは、自動車市場におけるいわゆる「サッカー・ママ」、というか女性の重要性について取り上げたもの。実際にはずっと前から自動車購入者のかなりの割合が女性であったにもかかわらず、メーカーは男性ばかりに着目してきた、と。このあたりは日本のほうが進んでるかもしれないが、女性が小型のかわいらしい自動車を好むとは限らない、といったあたりは、へぇそうなのかぁと。

後者のほうは、別にママたちの間でアーチェリーが流行ってるということではなく、もっと一般的に、スポーツの人気が分散化してきていることと、個人スポーツへの注目が高まっていることを取り上げている。実際、アーチェリーは今アメリカで人気が最も(率的に)拡大しているスポーツの一種なんだそうだが、それ以外にも、スケートボード、カヤック、スノーボード、マウンテンバイク、バックパッキングといったものも競技者人口が急速に増え、一方で野球やアメリカンフットボール(もちろんサッカーも)といったメジャースポーツ、特に団体競技のものの人気が低下する傾向にあるとか。もちろんメジャースポーツは依然としてメジャーで、マイナースポーツは依然としてマイナーなんだが、マイナーといってもけっこうあなどれない数のプレーヤーがいる。

もちろんこれらの中に共通要素を見出すことはできる。「細分化」だ。人の興味がどんどん細分化していると。個性が尊重される時代といえば確かにそうだし、人々の興味が内向きになっているとみることもできるだろうが、いってみれば、これもまた一種のロングテール現象といえるわけだ。

当然、アメリカの状況を前提としたものなので、日本にはあてはまらないケース、時期的に前後するケースもあるが、意外に共通要素が多いんじゃないか、というのが正直な感想。タイトルだけ見てすぐ想像がつく範囲でも「Woking Retired」「Pet Parents」「Social Geeks」「Video Game Grown-Ups」「Educated Terrorists」あたりは、日本でも「あるある!」となるように思う。それ以外でも、第1章の「Cougars」(年下の男性をパートナーとする女性)を始め、同様の現象が発生している状況はけっこうある。

つらつら思うに、社会の中のクラスターってのは、いまや国境を超えて、個人の志向によってグルーピングしたほうがいいのかもしれない。それなりに自由が保障されていて、経済がある程度発達したところでは、アメリカでも日本でも、おそらくヨーロッパでも、ひょっとしたら中国の発展した地域とかでも、似たようなタイプのグループがいるのではないか。社会の動向を考えるうえでの「重要度」とかはそれぞれの国の状況によってちがうだろうが、自国の別のタイプの人よりも、他国の同じタイプの人のほうが近い、なんてことは充分考えられる。ああこういうのって「ボーダレス・ワールド」だなぁ、という気もする。

この本の中に、ある分野では日本の将来があり、別の分野では日本の現在が、また別の分野では日本の過去がある。もちろん日本とはあまり関係ないものもある。そういう目でみると、いろいろ考えるきっかけになると思う。「日本版」を作りたくなる人、けっこういるんじゃないかな。たとえば某総研あたりとかに。

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