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October 12, 2007

「けじめ検診」というのだそうだ

知ってる人は前から知ってたのだろうが、「けじめ検診」ということばがあるらしい。

赤枝六本木診療所院長の赤枝恒雄さんが提唱しているもの。この方のやってる「ガールズガード」運動および同名のラジオ番組については、前にこのサイトでも取り上げたことがある。

「けじめ検診」というのは、要するに、交際相手が変わったときに、「けじめ」としてHIV検査を受診しようというもの。HIVやらエイズやらの状況については、エイズ予防情報ネットにいろいろな情報が出ていて、「平成18年エイズ発生動向」をみると、2004年以降3年連続で感染者、発病者の発生報告数が1000人を超え、数も増えてきてる。要するに「どんどん悪くなってる」状態らしい。HIV感染者のほうは同性間性的接触によるものが過半数を占めているが、エイズ感染者についていうと、同性間と異性間にあまり差はない。傾向としては、男性の同性間性的接触によるものが増える傾向にある、とある。

気になるのは、これが「報告数」の動向であるからだ。要するに、検査を受けた人を対象にした調査なわけで、検査を受けてない人の動向もこれと同じとは限らない。「男性の同性間性的接触によるものが増える傾向にある」としても、そこには男性同性愛者の意識の高まりがあるかもしれないわけだ。一番「意識」が低そうなのはおそらく「男性の異性愛者」だろうから、報告数が増えていなかったとしても安心する気にはなれない。

特に若い方々はいわゆる「ハイリスク」グループに入りやすいわけで、学生さんとかは男女問わずぜひ「けじめ検診」(上記の赤枝さんのところをはじめ、保健所でも匿名で無料検査ができる)を習慣にしてもらいたいと思うのだが、そうでない方々にも無縁の話ではない。

日本は、国際的には感染者数が多い国とは必ずしもいえないが、東アジア全体でみると、けっこうたくさんいる(地図参照)。数ということでいえば、この大半は中国だ。売血が広く行われてた地方で注射針が使い回されて集団感染、という話は有名なんだが、最近なぜかかの国からこの種のニュースがあまり出てこなくなった。と思ったら一方でこんなニュースも出てきたりして。

2007年9月29日、国家疾病予防センターのエイズ予防担当・呉尊友(ウ・ゾンヨウ)主任は、新華社が主催する「大学生のエイズ予防」の講演のなかで、中国国内でのエイズ感染率について「中国の人口を考えると世界的に見ても低い」と述べた。
呉主任は、もし一般人の間で感染率が1%を超えた場合、エイズが一般に流行していると見なすとの考えを示した。

「中国の人口を考えると世界的に見ても低い」といいたいのはわかるが(アフリカと比べりゃ確かにそうだ)、一般人の間で感染率1%となると、日本でいえば100万人、中国なら1千万人レベルなわけで、これがエイズ「予防」担当者の発言ということを考えると絶句するしかない(※数字を訂正し表現を改訂。末尾参照)。中国を貶める意図はまったくないが、この国のHIV・エイズの状況で最も怖いのはここだ。実態を見ない態度、見せない態度はどの国の政府にもあるが、この国の場合は日本では考えられないようなことが起きたりするし、何か起きたときの被害もスケールが大きいので油断ならない。UNAIDSだって、いわゆるBRICsのうち「B」を除く3つの国は、「陽性率は低くても多くの感染者を抱える国」として注目してる。政府が必ずしも熱心でないというところも共通。

日本と中国の間の人の移動はどんどん大きくなってる。法的にどうみるかはともかく、中国人「労働者」はもはや日本経済にとって欠かせない存在だし、風俗産業にも多くの人たちが働いている。中国人の観光客も増えてる。こういうあたりを通して、検査への「意識」が比較的低い層の人たちの間に広まっていくおそれは、そんなに低くないと素人ながら思う。風俗産業の最大の利用者はいうまでもなく「男性の異性愛者」だ。となれば、ハイリスクグループから低リスクグループへの「アウトブレイク」だって充分ありうる。もちろん逆もあるえる。中国の人が日本で感染して本国へ病気を持ち帰るとか。日本にいる他の国の人だって同じことがいえる。要するに、誰にとっても他人事ではないわけだ。感染リスクが高いのは労働可能人口なわけで、数が増えていくと経済にだって影響が出てくる。南アフリカでは現実のこととなってるし。ロシアの長期的な経済ポテンシャルについてこの観点から懸念を示した論文を読んだこともある。

事柄の性質上、検査を受けること自体を人前でおおっぴらに言いにくい人もいるだろうけど、ほら、検査って匿名でできるし。匿名でなくてもよければ、中年以上の方は人間ドックのときにもできるし。そもそも、自分に「身に覚え」がなくとも、自分の過去の「相手」はわからないんだよ?(ほら、「元カレの元カノの…」っていう公共広告機構のCMがあったでしょ)

というわけで、「みんなで『けじめ検診』」。自分のためじゃなくて、「他の人に対する責任」と考えたらどうだろうか。

※2007/10/12訂正
「人口の1%」を1桁まちがえておりますた。かけ算を思い切りまちがえますた。こういうまちがいをやると文章全体のクレディビリティが下がりますぬ。とっても恥ずかしいですぬ。笑ってごまかすしかないですぬ。inoweさん、通りすがりさん、ご指摘ありがとうございますた。

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Comments

山口先生、おはようございます。

>一般人の間で感染率1%となると、日本でいえば1000万人、中国なら1億人レベルなわけで

こちらは一桁間違えておられるのでなかろうかと、気になりましたけど。如何でしょう。ちゃいますやろか?

Posted by: inowe | October 12, 2007 09:35 AM

一桁違いまする

Posted by: 通りすがり | October 12, 2007 09:57 AM

inoweさん、通りすがりさん
ご指摘ありがとうございました。さっそく修正しておきました。本論のスジは変わらないということで平にご容赦。

Posted by: 山口 浩 | October 12, 2007 01:51 PM

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Tracked on October 13, 2007 12:20 AM

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