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November 05, 2007

バラエティ番組の「暴力表現」について

ちょっと前に、放送倫理機構(BPO)がテレビのバラエティ番組の表現について「遺憾の意」を表明、というニュースが出ていた。

BPOが2007年10月23日付で出した「『出演者の心身に加えられる暴力』に関する見解についての話。「テレビのバラエティー番組で行われる罰ゲームなど出演者の心身に加えられる暴力・性的表現が「過激化する傾向も見受けられる」とのこと。例の熱湯に入らせるとかそういうやつ。「『(委員会の)要望が繰り返し無視されるなら、メディアの自浄作用を疑わせる結果を生み、法規制の動きを促進する恐れがある』と警告している」由。

「繰り返し」とある。BPOはバラエティ番組の暴力表現と性的表現について2000年11月29日付で「バラエティー系番組に対する見解」を出してて、その中で指摘された性的表現(「ネプ投げ」とか)については改善があった、ということなんだろう。暴力表現に絞って再度見解を出したということのようだ。

この観点からちょっと面白かったのが、この直後、2007年10月27日にフジ系で放映された「たけしの日本教育白書2007 1億3000万人とともに考える日本人の責任ってなんだ!SP」の中で行われた、出演者のビートたけしやら小倉智昭やら「爆笑問題」太田やらテリー伊藤やら久米宏やらの議論。民放の責任について話し合うというところで、上の見解にある暴力的表現について出てきたのはこんな話。

(1)民放は広告で成り立つビジネスであり、視聴率を上げるのが使命(久米宏)
(2)それでいうならゲームの暴力表現はどうなんだ(ビートたけし)
(3)テレビ番組の暴力表現は実際にはウソで、視聴者は「お約束」として楽しんでいる(テリー伊藤)

もちろんこの周辺にいくつもエクスキューズがついていて、もう少しぼかしてあったのだが、まとめると「ある程度はしかたないじゃん勘弁してよ」というわけだ。これは作り手の中でもより「出る側」に近い人たちの話なので、これが局全体の意見というわけではないかもしれないが、ある意味民放というものの本質というか「本音」ではあろう。

私がこの手の話に対してどういう考えなのかについては、たとえばこのあたりとかこのあたりとかに書いたことがある。「テレビ番組を規制しろ」派と見られるかもしれないが、これらはレトリックとして使ったもので、実際にはそういうわけでもない。基本的な考え方を「3つある」原則に従って挙げると、こう。

(1)事実をふまえ、科学的にアプローチしよう
(2)我田引水にならず、一貫した態度で臨もう
(3)人を批判する前に、自分でできること、すべきことを考えよう

(1)は大前提。私は自分の実感から、バラエティ番組自体の影響力は「黒」じゃないかと思うが、科学的根拠をもってそういっているわけではない。バラエティ番組で笑いをとるために出演者に対して行使される暴力の映像を見ることが子どもの発達に与える影響についての研究は、今回ぱらぱらと見ただけでもいくつかあるようだ(これとかこれとかとかこれとか)から、暴力性との相関関係はあるとみていいんだろうが、犯罪そのものとの因果関係を証明したというまではいってないっぽい。番組以外の要素も含めた現状もふまえた上で、規制を必要とするほど有害な影響があるかどうか、さらに研究を進めて、その成果を広く知らしめるべきだ。あくまで科学的に。

(2)は半分ネタのレトリック。要するに、他のメディアの暴力表現を批判するなら自社の暴力表現も控えるべきだし、自社の表現の自由やら広告ビジネスやらを守りたいなら、他のメディアにも同様の配慮をすべきだということ。少なくともゲームなんかではレーティングが行われてるし、出版物にも成人指定とかがあって目に見える区分けがなされてる。テレビ番組はどうなのよ、という疑問に対する答えは持っておくべきではなかろうか。いや持ってるだろうけどさ、だったらもっとわかりやすく示すべきだ。ゲームを批判するならテレビ番組のレーティングだってまじめに検討していいし、バラエティ番組の現状を肯定したいなら他のメディアを上から目線で批判するのはスジちがいだと思う。

「お約束」と主張するなら、「お約束」であることを視聴者に理解し受け入れてもらうための努力を払う必要がある。受け入れない人がけっこういるからこういう批判が出ているわけだし。「※絶対にマネしないでください」っていうテロップがアリなら、「※これはネタです」「※お約束です」っていうテロップだってアリだろう。ただ、もしBPOの見解に従うなら、

メディアツールの多様化が進む現状にあって、なおかつ、多くの青少年はテレビメディアの公共性を信頼している。そのゆえに、放送されている内容や表現はすべて、「社会的に肯定されている」と受け止められやすい。したがって、人間を徒に弄ぶような画面が不断に彼等の日常に横行して、彼等の深層に忍び込むことで、形成途上の人間観・価値観の根底が侵食され変容する危険性もなしとしないので、これらの動きが今後とも増幅されることのないよう一考を促す次第である。

だそうなので、「※絶対にマネしないでください」というテロップをつけなければならない映像を放映すること自体も慎重に考えたほうがいいんじゃないか、ということになるかもしれない。もしそうだとすると国会中継なんかも絶対放映しちゃいけないね。子どもがマネしたらたいへんだ。

(3)は割と本音。主に親向け。子どもを守る必要があるのは、子どもがなんらかの意味で弱いと考えられる存在だからだが、だからといって、守ってばかりでは問題は解決しない。一生後ろをつけて回るわけにはいかないんだし。どこかの段階で、自分で判断して取捨選択できる力を身につけるための訓練が必要だ。テレビ局を批判してすましているのでは、親として責任を果たしたことにはならない。ゲームの暴力的表現を子どもに見せたくないと考えるなら、少なくとも子どもの前で自分がバラエティ番組の暴力表現を見て大笑いするのも控えるべきだし、バラエティ番組を見せたうえで「これは悪い」といいたいなら、そばについて一緒に見て、きちんと指摘する必要がある。バラエティ番組を「お約束だから」と放置できるなら、ゲームの暴力表現も「お約束」だ。子どもの発達段階と親の考え方に応じて、態度を使い分けたらいい。親が自分のことばと態度で示せば、説得力は強いと思うぞ。

BPOってのは法規制ではなく業界が自主的にルールを決めたいってことで作られた組織なんだろうから、この見解が出たことで多少表現を「自粛」することになるのかもしれない。少なくともしばらくの間は。そうやってガス抜きをするわけだ。なんか問題の表面だけこすってきれいにしとこう、みたいな感じがしなくもない。なんだかなぁ。

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Tracked on November 08, 2007 11:21 AM

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