「識者」のコメントなんてそんなもんだ
佐世保の銃乱射事件で亡くなった方、けがをされた方にまずはおくやみとお見舞いを。迷惑をこうむった方はずっとたくさんいるだろう。察するに余りある。なんとも理解に苦しむ犯罪で、こわいやら腹が立つやら。
以上を前提として、ちょっとちがった方向の話。
事件を報じた2007年12月15日朝日新聞の朝刊に、「識者」のコメントが載っている。このうち、帝塚山学院大学人間文化学部教授の小田晋氏(犯罪精神医学)のコメントを全文引用する。短いし、誤解を招くといけないので全文。
まさに「ゲーム犯罪」 小田晋・手塚山学院大学人間文化学部教授(犯罪精神医学)の話 スポーツクラブに侵入した犯人は、狩猟をする感覚で銃撃したように感じる。銃は自分の力強さを誇示するものであり、無防備な水着姿の子供や大人に向けて乱射することで、自らの優越感と征服欲を満たそうとしたとも受け取れる。犯人と被害者はまったく関係がない可能性が高く、典型的な無差別殺人だ。迷彩服を着ていたとの情報もあるが、米国では大人が迷彩服姿で「戦争ごっこ」を楽しむ遊びが流行している。今回の事件は、まさに「ゲーム犯罪」と言えるかもしれない。
たぶん、言えない。同じ朝日新聞の同日の夕刊にはこう書いてある(人の名前は伏せた)。
××容疑者と○○(被害者。山口注)さんは小中高校の同級生。2人を知る男性によると、○○さん宅を××容疑者が訪ねるなど今でも親しくしていたという。 関係者によると、××容疑者は事件前、○○さんに「無料の利用券があるから」と言ってクラブに誘ったという。(中略) このため、県警には、××容疑者が○○さんを狙って犯行を計画したのではないかとの見方も浮上。ただ、水泳コーチの◎◎◎◎さん(26)も殺害していることから、動機などについて慎重に調べを進めている。
これが最終的な事実なのかどうかはわからないが、少なくとも「犯人と被害者はまったく関係がない可能性」はない。ほぼ完全に、ない。朝刊にもそれにつながるような記載は一切ないから、この「無差別殺人」というのはどうもこの人が頭の中で作り上げた構図らしい。この人以外にコメントを寄せた「識者」は2人いるが、どちらも銃の拡散や規制の提案など「銃」の問題を指摘している。銃による犯罪だからそれが自然な発想だろうと思うわけだが、この人のコメントだけは「狩猟をする感覚」「優越感」「征服欲」「典型的な無差別殺人」「戦争ごっこ」「ゲーム犯罪」と、どこにも伝えられてない一連のキーワード並べ立てていて、全体として特定の方向に印象を操作している。
たぶん、「迷彩服」だからミリタリー好き、と想像したんだろう。プロファイリングでもやったつもりなのかな。「戦争ごっこ」っていうのはたぶん、いわゆるサバイバルゲームみたいなものを意味してるんだろう(Wikipediaでみると、英語ではairsoftとかMilSimとかいうらしい。日本発、とある。まあわかるような気もするな)。そもそもサバイバルゲームは無抵抗な相手に対して銃を乱射することを目的とするものではないからそれ自体訳わかんないが、それをおくとしても、今アメリカで「流行」してるなんて話は、少なくとも私は聞いたことがない(Wikipediaにはgrowing interestとある。事情に詳しい方、ぜひご教示を)。それに日本でのこの事件に対してなんでそれを引き合いに出すのかもわからないという点でも意味不明だ。事件直後、2ちゃんねるでは「米軍人犯人説」が流れていたが、まさか2ちゃんネタに乗ったとか!?
自分が新聞の取材というものを受けた経験からいうと、たぶんもっと長い時間いろいろ聞かれていろいろ答えた中から選び取られたのだと思う。その意味で、このコメントは記者の主観(もしくは記者が記事に反映したいと考えたある種の意見)によってゆがめられている可能性はある。あるのだが、この人の以前からのいろいろな主張なんかともかなり整合的なところからみて、答えたこと全体の論調からさほど離れていないだろうことは想像できる。
どうみても、半端な知識と貧困な空想を元に特定の図式を誘導しようとしたものとしか思えない。まちがってて恥ずかしいし、月並みでつまんないし、ミスリーディングで有害だし。これのどこが専門家の知見なんだろうか。私たち読者が「専門家」に期待するのは、こういう、テレビでみ○○○○とか○リー○○とかが垂れ流してるような、勝手な思い込みに基づいた無責任な放言ではない。もし事実関係がよくわからない段階で確かなことはいえないのであれば(そう考えるのが自然だと思うが)、勝手な思い込みに基づいたコメントは慎むのが専門家の知見ってものだろう。ひょっとして、本当は専門家ならできるはずのことを「つい」まちがえちゃったのかな。どちらにしても、コメントとしては「アウト」といわざるを得ない。
この種のコメントは、たとえ後で的はずれだとわかっても、見なかったふりをするのがマナーなのかもしれないが、少なくとも覚えておいたほうがいい。「識者」のコメントなんて、そんなものなわけだ。だいたい、私にも聞いてくることがあるくらいだしな。
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Comments
MilSim(戦争ごっこ)としてアメリカで主流なのは「ペイントボール」という、もともと牛の識別のためのインク入りの弾を発射する装置をつかった競技では?
それと別に日本発のBB弾を使ったサバイバルゲームが上陸して流行しているということなのでしょうか?
しかし日本製のエアソフトガンは本物とあまりにも似ているため米国では違法のはず。本物は合法なのに・・・。
ちなみにハリウッドでは闇ルートで日本製エアソフトガンを入手して撮影に使っているらしいです。本物より軽くて役者には好評とのこと。
Posted by: noname | December 16, 2007 10:49 PM
主流はペイントボールですが、BB弾の方も欧米にファンがいますよ。東京マルイ製のエアソフトガンは欧米に輸出されています。アメリカでも州によっては合法なのでしょう。
向こうのBB弾サバゲーのDVDを観た所、
日本と違う点は
・めちゃくちゃ広いところでやる
・手作りの装甲車とかが登場する
・やられた時はセーフティに帰らず、その場で仰向けに寝る
といったところです。
Posted by: ahogun | December 17, 2007 01:04 AM
コメント&情報ありがとうございます。
nonameさん
ペイントボールについては、Wikipediaの英語版に記載がありました。アメリカではそちらの方が主であるとも。いわゆるBB弾のほうがairsoftと呼ばれているようです。アメリカでは違法なんですか。それはなんとも皮肉な。
ahogunさん
なるほど。土地はいくらでもありますからねぇ。でも、下手にやってると州軍とかが来ちゃいそうですね。で、Wikipediaにはgrowing interestとありところからみて、「ブーム」というほどさかんだとは思えないんですがどうなんでしょう?たとえばプレイヤー団体とか、全米競技会とか、専門誌とか、そういうのはあるんでしょうか?
Posted by: 山口 浩 | December 17, 2007 12:52 PM
小田晋氏は以前からこの手の(自説云々の前に検証可能性の疑いありな)発言が幾度も有って、精神科学分野の同輩等から苦虫噛んだ顔で見られているようです。今回は…どうなんでしょうか。
BB弾を利用したサバイバルゲームは、自分の見てきた限りで言うと、日本よりもフィールド選択や雰囲気作りに力を入れて本格さを出している代わりに、割と裕福な人々がやる特殊なスポーツ(←日本でも一部はそうかも)って印象を受けています。ただ遊びの範疇を超えることはそう無いかと。エアガンを触って喜ぶだけの人もいるでしょうが、そういう人は単にフィールドに出て発散する機会が無いのでしょうし。
向こうの(元)米軍高官さんでサバゲー好きな人もおられるようです。
Posted by: beni | December 18, 2007 09:33 AM
beniさん、コメントありがとうございます。
この人自身がどうであるかはともかく、少なくともこのコメントはまずいのではないかと思いました。
まあ、サバイバルゲームにせよpaintballにせよ、「特殊」な趣味であるであることはまちがいないですよね。
Posted by: 山口 浩 | December 18, 2007 04:43 PM
たくさんくれてありがとう
Posted by: Flash Oyun | April 23, 2008 08:48 AM
Flash Oyunさん
すいません。意味がわかりません。
Posted by: 山口 浩 | April 23, 2008 04:30 PM