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February 11, 2008

格差と格差感についてちょっとだけ考えてみたこと

まずは本題に関係ない話から。「経済格差「不満」、日本は83%…BBC・本社世論調査」という記事が出たのは2008年2月7日のこと。「読売新聞社は英BBC放送と初の共同世論調査を実施した」とある。ほほお。フルのレポートを読みたいなと思ったんだが、情報格差を保ちたいのか、日本のメディアってのは情報源を見せようとしない。しかたないのでBBCのサイトで探そうとして、「yomirui, survey, economic inequality」とか検索したんだが、やってもやっても見つからない。あきらめかけたころ、もしかして?と思って、「yomiruri」を落として「survey, economic inequality」でサーチしたら一発でヒットした。

それがこれ。「Yomiuri」なんてひとことも書いちゃいない。フルのレポートもちゃんとあって、それがこれ(「Widespread Unease about Economy a nd Globalisation: Global Poll」)。中を見たら、「Yomiuri Shimbun」を発見。BBCから依頼された世論調査会社GlobeScanの「Research Partners」の1つ。各国の調査をそれぞれの国の世論調査会社だとかの調査機関がやってて、日本ではそれが読売新聞社だったということらしい。はっきりいって、BBCから見ればたくさんある孫請けの1社じゃん。これじゃあBBCが記事に書かないのも当然。読売的には「共同」世論調査のつもりなのかもしれないが、はっきりいってまぎらわしいからやめてほしいね。

で、本題。以下、なんちゃって分析なのでそのつもりで。この調査、読売の記事ではこうある。

経済的な格差に不満を感じる人は、日本では83%に達し、サミット(主要国首脳会議)参加8か国ではイタリアの84%に次ぐ高い数値だった。調査を行った34か国の中でも4番目に高く、格差問題の広がりに、国民が不満を募らせていることがわかった。

ふうん。でもちょっと待て、と元のレポートの要旨を見る。まず基本的に、この調査の主題は「グローバリゼーションのスピード」についてのもの。はやすぎるか、遅すぎるかってこと。格差についてはこうまとめられている。

Related to this unease is an even stronger view that the benefits and burdens of “the economic developments of the last few years” have not been shared fairly. Majorities in 27 out of 34 countries hold this view — on average 64 percent.

ここに書いてあるのは「ここ数年の経済発展の成果と負担の配分に関する受け止め方」であって、「経済的な格差」そのものではなく、「経済格差一般についての受け止め方」でもない。なんか色眼鏡っぽいぞ。やっぱり元レポートをちゃんと読んだほうがよさそう。

というわけで、以下元レポートの内容をかいつまんで。

調査対象国は以下の34カ国。

アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、チリ、中国、コスタリカ、エジプト、エルサルバドル、フランス、ガーナ、ドイツ、英国、グアテマラ、ホンジュラス、インド、インドネシア、イスラエル、イタリア、日本、ケニア、レバノン、メキシコ、ニカラグア、ナイジェリア、パナマ、フィリピン、ポルトガル、ロシア、韓国、スペイン、トルコ、UAE、米国。

かなりバラエティに富んだラインアップ。で、読売の記事がいう「経済的な格差に不満を感じる人は、日本では83%に達し」というのは、この質問に対する答え。

M2. Thinking about the economic developments of the last few years, how fairly do you think the benefits and burdens have been shared in [Country]: very fairly, somewhat fairly, not very fairly, or not at all fairly?

やっぱり「ここ数年の経済発展の成果や負担の分配が公正かどうか」だ。で、結果のグラフはこう。

Fairnessofsharingeconomicbenefitsbu

なるほど。確かに記事のいうとおりっぽいんだが、これだけだとよくわからない。というわけで、とりあえずこれらの国々を1人あたりGDP(米ドル換算。名目)の順で並べてみる。1人当りGDPはWikipediaから。IMFのデータベースから引っ張ってきたものらしい。1人当りGDPとその調査年、それに上記質問で「unfair」「totally unfair」と答えた割合(%表示ね)を仮に「格差感」と名づけてみる。こんな感じ。


順位国名1人当りGDP調査年格差感
9United States45,594200652
11United Kingdom45,301200656
14Canada42,738200639
15Australia42,553200439
16United Arab Emirates42,275200623
18France40,782200678
19Germany39,650200671
20Italy35,386200584
22Japan34,023200584
26Spain31,471200667
31Spain22,073200581
32Portugal20,665200584
34South Korea19,624200685
52Chile9,698200682
54Russia8,612200677
55Mexico8,426200567
61Brazil6,842200569
63Turkey6,548200682
64Lebanon6,398200482
66Argentina6,310200575
68Panama5,767200072
75Costa Rica5,102200572
99El Salvador2,841200572
103Guatemala2,504200472
104China2,460200637
114Indonesia1,824200679
115Egypt1,739200551
117Philippines1,590200680
122Honduras1,327200172
132India965200523
133Nicaragua937200372
139Kenya851200356
140Nigeria825200342
147Ghana682N/A44

さて、表をにらんでいてもなかなかイメージがわかないので、プロットしてみる。まずは1人当りGDPと格差感。こんな感じ。

Percapitagdpandinequality

うーん。一応線形近似とかも入れてみたけど、何かパターンがありそうにも思えないなぁ。というわけで、例のジニ係数を入れてみる。ジニ係数は、前に書いたときに「データが古い」だの何だのといろいろいわれたので、2005年のOECDペーパーからとってみた。上記の調査対象の国の中でこのペーパーにジニ係数が出ている国だけを選んでプロットしてみる。こんな感じ。

Ginicoefficientandinequalityoecd

ちょっと数が少ないなぁ、と思って、他の国も入れてみる。しかたないので以前書いたもので使った世銀のデータを使って埋めてみるとこんな感じ。少し傾きがゆるやかになるが、まあ似た方向性か。

Ginicoefficientandinequality


ゆるい正の相関(つまり格差が大きい方が格差感が高い)ぽく見えなくもないからさっきのより少しはましかもだが、やっぱり、ちゃんとした関係があるようにはあんまり見えないなぁ。個別の差のほうがよほど大きそうだし。ということは、格差と格差感はあまり連動しないんじゃないか、ということになるがどうなんだろう。ちなみに日本はというと、実際の格差の割には格差感が高め、という位置づけになるだろうか。

この点、さっきのOECDペーパーと比較してみると面白い。この中に、1998~2000年時点の実際の格差と格差に対する認識とを比較したグラフが出ている。これ。

Actualandperceivedinequality

棒グラフのほうが格差感で、点が実際の格差(ジニ係数ね)。やっぱりここでも、格差と格差感に強い関係はみられない。「Country differences in these various inequality indicators, however, do not match closely measures of individuals' perceptions of whether income inequality is "too high" in the country where they live.」なんて書いてある。ただし「A weak association between real and perceived inequalities also holds when using other inequality indicators.」ともあって、じゃあそれは何かというと、「政府の対応に対する見方」らしい。ペーパーの中では、「格差感が政府の格差対策への評価に強く影響する」という方向性で論じられている。

注目すべきは、OECDペーパーの中では、日本は実際の格差のほうが格差感よりも高い(追記:ごめん訂正!「低い」ではなく「高い」だ)とされていることだ。ここでの格差感は「"differences in income are too large"」に同意ないし強く同意した人の割合、と定義されている(こっちの方が今よく使われる意味での「格差」に近いかな)ので、冒頭のBBC調査の場合とは若干異なるだろうが、ひょっとすると、格差の拡大よりも早いペースで格差感が拡大しているのかもしれない。

このあたり、ちゃんと調べた人がどこかにいるはずと思うんだがどうなんだろうか。

※追記
はてブに「このプロットに線を引くのはいかがかと」とか書いてる人がいるけどさ。こっちだってわかってやってるんだからね!とツンデレっぽくしてみるテスト。ちゃんと「一応」とか書いてるじゃん。相関なさそうだよねってあたりがわかりやすくするようにあえて入れたんだからね!

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Comments

読売新聞の記事では、経済格差に「不満」を感じているかどうかを調査したものと受けとれますが、BBCの調査のそもそもの意図は、レポートをざっと見る限り、急速なグローバリゼーションの拡大に人々が「不安」=uneaseを感じるか否かを探ろうとしたもののように思うんですが、どうなんでょう?読売新聞の世論調査の実際の質問の文言が気になります。BBCの調査の意図から逸れているような気がするのですが。

Posted by: sarutoru | February 11, 2008 09:34 AM

sarutoruさん、コメントありがとうございます。
ご指摘の通り、元調査の主な意図は「不安感」を探ろうというものかと思います。読売が日本で行った調査がどんなものかよくわかりませんが、文面自体を曲げてしまうとはちょっと考えられません(発注元が専門機関ですからそんなことは許さないだろうと)。読売記事は、元レポートを日本で報道する際に、格差に着目して「脚色」したものかと推測します。そのほうが注目を集めそうですからね。

Posted by: 山口 浩 | February 12, 2008 02:00 AM

http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe6100/koumoku/

ココを見る限り、日本の調査の詳細は文書で請求せよ、ということのようです。

Posted by: ぱっくり | February 17, 2008 03:20 AM

ぱっくりさん、情報ありがとうございます。

ぱらぱらと見てみたんですが、今回の調査にあたるものは見当たりませんでした。私の探し方が悪かったのでしょうか。それとも、なんらかの理由で出していないのでしょうか。あるいは、そのうち出るのかもしれません。

Posted by: 山口 浩 | February 17, 2008 09:19 AM

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