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今のペースメーカーは携帯電話に影響されないらしい

2008年2月6日付朝日新聞に出ていて、へえそうなのと思った話。知ってる人には当たり前の話なんだろうけど。

よく携帯電話の使用に関して、「ペースメーカーの動作に影響がある」という話がある。だから電車内では、みたいなことをよく聞く。ペースメーカーといえば生命にかかわるっぽい話なわけで、しゃれじゃすまない。とはいえ、その割には実際何をやっていいのか悪いのか、いまひとつよくわからなかった。正直なところ、ペースメーカーを使ってる人より携帯電話を使ってる人のほうが断然多いんだから、ペースメーカーのほうでなんらか対策をとるのがいいんじゃないか、などと思っていたのだが、正面切って主張するのもどうかと思うし第一素人だし。で、この記事でせっかくいいことを知ったのでちゃんと覚えておくために書いておこう、というきわめて利己的な動機で書いている次第。

まずは記事の内容から。日本心臓ペースメーカー友の会副会長の話。

総務省は「携帯電話はペースメーカーから22センチ離す」という指針を出している。友の会は公式に問い合わせられると指針通りに答えるが、実はそれが必要なのは古い機種だけ。総会のような内輪の場では「最近の機種は影響がない」と話している。現に、多くの患者が自ら携帯電話を使っているという。

念のためだが、ここでいう「古い機種」というのは、古い機種のペースメーカーということ。具体的にどういうことかというと、同記事に、ペースメーカーなどの医療機器を販売する日本メドトロニック社(東京)のテクニカルフェローで、日本不整脈学会の電磁波に関する検討委員長の説明が載ってる。「22センチは、駅のホームの黄色いラインのようなもの」らしい。つまり:

「22センチ」は、影響を受けやすい古い機種に最大の電話をあてる最悪の条件下で設定した。その影響も瞬間的に脈が乱れるだけで、離れれば元に戻る。さらに約10年前からの機種は電波吸収フィルターが付いており、全く影響ない。日本のような車内放送をしている国は聞いたことがない…。

要するに、「電車内で電源を切るまでの必要はないらしい」のだそうな。ふうん。でもこの記事だけだと不安、という向きもあろうかと思ったので、少し自分でサーチしてみた。独立行政法人医薬品医療機器総合機構のウェブサイトに「医薬品医療機器情報提供ホームページ」というページがあって、この中の「医薬品・医療機器等安全性情報 No.226」に「1.新方式携帯電話端末による植込み型医療機器(心臓ペースメーカ及び除細動器)への影響について」なる記事が出ている。携帯電話のペースメーカーへの影響については同様の情報が何度も出されていて、新しいタイプの端末が出るたびに調べて発表しているらしい。私が見たのはその最新のやつ、だと思う。800MHz帯W-CDMA方式の携帯電話端末の安全性について、2006年5月に総務省が「『携帯電話端末を植込み型心臓ペースメーカ装着部位から22cm程度以上離すこと』などとした現行指針を適用することが妥当である」と発表したのだが、それを決めた際の調査の内容なんかについて説明したもの。

こういう結論。

今回の調査の結果,新方式携帯電話端末が植込み型医療機器へ及ぼす影響については,最大干渉距離3cmである。他方,「医用電気機器への電波の影響を防止するための携帯電話端末等の使用に関する指針」において「22cm程度以上離すこと」と規定されている。
したがって,現行の指針において示されている「22cm程度以上離すこと」を引き続き遵守することにより,携帯電話端末が植込み型医療機器へ与える影響を防止できると考えられるため,引き続き現行指針を遵守するよう患者への指導をお願いするとともに,患者が小児等の場合には,その家族等への指導も併せて考慮願いたい。

え?最大3cm?だけど結論は記事と同様、「22cm程度以上離す」という基準を維持すると。このあたりのロジックについてもっと詳しく知りたいわけだが、それについては、こう説明されてる。

植込み型心臓ペースメーカについては,ペーシング機能への影響(*1)を生じる場合があることが確認された。この影響は,携帯電話端末を遠ざければ正常に復する可逆的なもので,最も遠く離れた位置でこの影響が確認されたときの距離(最大干渉距離)は3cmであった。
(2) 植込み型除細動器については,ペースメーカ機能(*2)及び除細動機能(*3)のいずれに対しても影響は確認されなかった。
(注): 本調査では,植込み型医療機器へ及ぼす影響が最大となるよう,携帯電話端末の送信出力を最大にするなどの厳しい条件で試験をしており,調査結果(最も遠く離れた位置で影響が確認された距離等)を通常の通信状態における携帯電話通話方式間と比較することは適当ではない。

3cm以上離せば影響はないが、影響がまったくないわけじゃないんだし、まあ22cmという基準は広く知られているし、安全をみておいたほうがいいだろうから、このままにしとけ、といったところだろうか。冒頭の記事はほぼ適切に説明してたってことだ。

実際のところ、古いペースメーカーを今でも使っている人がいるのか(いるとしたらどのくらいいるのか)知らないし、そもそも素人だから勝手な判断はしにくいんだが、わざわざ他人に端末をくっつけて操作したりとかしなければ、まあ車内でメールをチェックしたり打ったりするぐらいはほとんど影響ない、という理解でよさそうだな。混雑時は気をつけたほうがいいかもしれないが、そういうときは別の理由で携帯電話をいじらないほうがよさそうだし。ああよかった。知っとくって大事、と改めて思うね。

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Tracked on June 13, 2010 at 10:19 AM

Comments

今のペースメーカーは携帯電話に影響されないらしい
『らしい』って…言い切らないと意味がないかと。
あと、『古い』ってのも…型番、最悪何年製以前とか言及しないと意味がないかと。

『素人だから勝手な判断はしにくいんだが』じゃ判断しなくて良いのでは?

何が言いたいのかわからないです。

Posted by: maq | February 14, 2008 at 08:59 PM

調査お疲れ様です。勉強になりました。
自分も大学の授業で「携帯の電波が患者さんに影響を与えるのは、ピタッとくっつけるぐらいの距離になったときぐらいです。」という話を聞いてからは、あまり電源を切らなくなりましたね。

Posted by: waken | February 14, 2008 at 11:47 PM

コメントありがとうございます。

maqさん
ご不満のようで、申し訳ありません。私は冒頭にあるとおり「利己的な動機」でやってますので、自分の時間の許す範囲で調べて書きました。その気になればそれほど難しくなさそうですので、ご不満でしたらご自分で調べてみてはいかがですか。ちなみに「何年製以前とか言及」については引用文中に「約10年前から」とあります。

wakenさん
恐れ入ります。この種の問題は気を遣えば遣うほどいいように思ってしまいがちですね。情報提供はそれなりになされているようなんですが、あまり気づかないのは私たちがふだん関心をあまり持たないせいなんでしょうか。

Posted by: 山口 浩 | February 15, 2008 at 01:02 AM

ペースメーカーの動作に影響を及ぼす『おそれ』があるって話なんだよね。
そもそも「携帯電話をペースメーカーに影響をあたえるかも」って論文をどっかのボケ老人が発表してからこの話が始まったんだけど、

♪よ~くかんがえよ~

もしその仮定がただしいなら、そろそろ1人ぐらい被害者でてきてもいいよねー。
まぁそういう事さ☆

P.S.
電車の中で周りに気を使いつつ、申し訳なさそうに口元を押さえながら小声で仕事の電話をしてる、日本経済を支えてるサラリーマンは全然迷惑じゃないよね。
でも、異臭を放ちながら大声でベチャクチャしゃべってるババァは、もはや公害だよね☆

Posted by: りけいのがくせい | February 15, 2008 at 07:32 AM

日本の携帯マナーは異常:
・・・いや、世界中のケータイ事情を調べたわけじゃありませんがね。

電車の中でケータイ(音声)を使えないとか、優先席近くでは電源すら切れとか、まるで時代遅れの校則に縛られソックスの長さを気にする中学生みたい。ホントに日本人は管理好き・管理されることへの抵抗感が薄いんですねぇ。

電車の中での通話を認めてくれれば、ケータイ会社の収益も伸び利用者の利便性も向上して、メリットがデメリットを大幅に上回るような気がします。

Posted by: ジン | February 15, 2008 at 01:50 PM

我がオヤジも2年ほど前にペースメーカーを入れました。その時に担当の先生(その道の権威とお聞きしました)から話を聞きました。
先生の話は、山口さんのお調べ内容と同じです。
最近のペースメーカーは、携帯を胸の上にあてるなどしなければ問題ないそうです。

ペースメーカーは10年ほどの耐久年数があり、それを過ぎると、再手術で入れ替えるそうです。手術は非常に簡単で、年寄りのオヤジでも手術は2,3時間で1週間の入院でした。

10年前後という耐用年数と我がオヤジが2年前の手術を考えると、古い機種でも10年ほど前のものかと思います。

電車などでの携帯の電源を切れというアナウンスは、少々行き過ぎのように感じます。
携帯を使うことが問題というよりは、大きな声で話すことが問題のように思っています。

Posted by: maida01 | February 16, 2008 at 09:05 AM

コメントありがとうございます。

りけいのがくせいさん
とはいえ心配になる気持ちもわかります。何せ心臓ですからね。だから知るって大事だなと思ったわけです。悪意の人はほとんどいないでしょうから、みんなが知ることで、よりよい方向に全体として流れていくといいなと思います。

ジンさん
収益が伸びるかどうかはちょっとよくわかりませんが、知っておくことは大事だと思います。電車内の通話については、電磁波はともかく、大声で話す人がたくさんいる車両には乗りたくないな、とは思いますね。

maida01さん
情報ありがとうございます。やはり交換するんですね。そろそろ古い機器は少なくなってきたころでしょうか。とはいえ満員電車の中だとちょっとこわいですね。下手すると3cm以下ってこともあるでしょうし、1人だけじゃなくてたくさんの人がいっぺんに使うことだってありうるわけですからね。

Posted by: 山口 浩 | February 16, 2008 at 01:25 PM

私は心臓ペースメーカーの高機能版に相当するICDという装置を植え込んでいます。ICD及びCRT-D患者のことも忘れないで欲しいです。ICD(CRT-D)は簡単に言うと「心臓マヒ」状態になった心臓に超絶激烈電気ショックを与えることにより心臓の動きを元に戻そうとする機械です(AEDを植え込んでいることになります)。心臓ペースメーカーの誤作動は多少脈が乱れるくらいで済むのでしょうが、ICDの場合は超絶激烈電気ショックが作動してしまいます。超絶激烈電気ショックを意識下で受けると激烈な苦痛を感じます。ドンキーコングのハンマーで思い切り頭を叩きのめされる感覚です。電磁干渉が起きる可能性は億が一くらいの可能性しかないかもしれませんが、不適切作動は恐ろしく、念のため、携帯電話は近づけたくありません。「ペースメーカーに影響ないから電車のアナウンスは要らない」という風潮はICD患者である私にとって脅威です。

Posted by: ミミちゃんのパパ | December 14, 2009 at 12:04 AM

私は心臓ペースメーカーの高機能版に相当するICDという機器を植え込んでいます。ICD及びCRT-D患者のことも忘れないで欲しいです。ICD(CRT-D)は簡単に言うと「心臓マヒ」状態になった心臓に超絶激烈電気ショックを与えることにより心臓の動きを元に戻そうとする機械です(AEDを植え込んでいることになります)。

心臓ペースメーカーの誤作動は多少脈が乱れるくらいで済むのでしょうが、ICDの場合は超絶激烈電気ショックが作動してしまいます。超絶激烈電気ショックを意識下で受けると激烈な苦痛を感じます。ドンキーコングのハンマーで思い切り頭を叩きのめされる感覚です。

ICD、心臓ペースメーカーには心拍数の測定機能があります。これはアナログ信号です。データ誤りがあっても、パソコンならデータの再送で済むでしょうが、アナログ信号は訂正が効きません。僕の持ってる心拍計は携帯電話を近づけると途端に脈拍200とか狂った数字になってしまうし、ノイズキャンセリングヘッドフォンはノイズだらけになります。

電磁干渉が起きる可能性は億が一くらいの可能性しかないかもしれませんが、不適切作動は恐ろしく、念のため、携帯電話は近づけたくありません。もしかしたら、私のICDは電磁波シールド機構に不具合があるかもしれません。もしかしたら、私のICDは、ある携帯電話とは相性が悪いかもしれません。すべてのICDとすべての携帯電話との組み合わせでちゃんと検証されているのかが大いに疑問です。僕は一技術者として「完全にバグの無い製品を作るのはほぼ不可能に近い」と経験的に考えています。

パソコンが誤動作したら、再起動とか、再インストールとかで済みますが、ICDの場合は、そんな簡単な方法で復旧できるものではありません。そもそも誤動作は確率は低いとはいえ、死につながるものです。

「心臓ペースメーカーに影響ないから電車のアナウンスは要らない」という風潮はICD患者である私にとって脅威です。

Posted by: ミミちゃんのパパ | December 14, 2009 at 08:53 AM

ミミちゃんのパパさん、コメントありがとうございます。
なにしろ素人でよく知らないものですから、ちょっと見てみたら、いろいろなところに情報が出ていますね。内容はほぼ共通のようですので、しかるべき機関等が出した基準があるのでしょう。もちろんご存知でしょうが、1つ挙げておきます。このページには、何に準拠しているかも書かれています。
http://www.bostonscientific.jp/templatedata/imports/HTML/PatientEducation/CRT-D/index08.html#anc004

携帯電話及びPHS端末は22cm以上CRT-Dから離してください。混雑した場所では、付近で携帯電話・PHS端末が使用されている可能性があるため、十分に注意を払ってください。※3携帯電話及びPHS端末は電磁障害(EMI)発生の原因となり、CRT-Dの作動に影響を与える場合があります。
影響を受けた場合でもそれは一時的なもので、携帯電話及びPHS端末から離れるとCRT-Dは元の正常な作動に戻ります。電磁障害の危険性を減らすために、以下の注意に従ってください。

* 携帯電話及びPHS端末は常に22cm以上CRT-Dから離して携帯してください。
* 携帯電話及びPHS端末を使用する際には、CRT-Dの植込み位置と反対側の耳に当てて通話してください。
* 携帯電話及びPHS端末を携帯する際は、胸ポケットに入れないでください。ベルトに留めて携帯する場合は、CRT-Dから22cm以上離れた箇所に留めてください。
* 電話機の送信出力が3ワットを超える場合は、44cm以上CRT-Dから離してください。(本タイプの電話機は本邦においては一般に流通していません。)

ほぼペースメーカーとも同じような内容ということでしょうか。
私が本文で書いたのは、公式にはこのような見解であるらしいということを皆知っておいたらいいのではないか、という趣旨です。なにしろこの問題では素人判断は危険ですから。もしその、公式にいわれている内容に問題があるということでしたら、ぜひ厚生労働省なり何なりのしかるべき機関に陳情などして、より「適切」とお考えになっている情報が広められるようにされてはいかがでしょうか。

Posted by: 山口 浩 | December 14, 2009 at 11:15 AM

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