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アマゾンの長いしっぽは先端のほうで切れている、という話

先日、とある書店の外商の方が来られた(関連記事)。ふだんならそういう方は速攻でお引取りいただくのだが、その人は妙に押しが強くて人懐こくて、しかもなんだかやたらに博識で話がうまい。おかげでなんだかんだと30分も話し込んでしまった。後で聞いたら僧籍をお持ちの人らしくて、ああそうかと合点がいった。こういう、妙に話のうまい坊主、もとい坊さんっているよな、というわけだが、同時に、坊さんにお世辞をいわれるのがこんなに薄気味悪いものか、ということも学んだ。

いやそんなことはどうでもよくて、本題は、その際話に出た、出版業界の「苦境」に関する話だ。

そもそもこの人、大きな書店の神戸支店の人。なんでわざわざ東京まで来るのかよくわからないのだが、なんでも大学関連をかなり広域に担当しているらしい。書店ではあまり取り扱わない全集の類を大学なんかに口八丁で(本人談なので失礼ではなかろう)売りさばくビジネスモデル。3月終わりあたりにいくと打ち上げだかなんだかで
酔っ払ってて買ってくれる教員がいるとかいう与太話も交えつつ、私の研究室の隅のほうに飾ってあった古い本の挿絵の額を目ざとく見つけて取り出したのがこの本のカタログ。

これは第1巻でしかも古本だが、これを新刊本全46巻のセットで売る。285,600円。限定200部。分冊販売はご容赦ください、だって。この人の会社は、この出版元から販売権を譲り受けて売っているのだとか。カタログによると、「江戸期の代表的な科学技術文献を精選、絵図の多いものを中心に各分野にまとめた技術大国-日本の源流を知る基礎資料」だそうだ。「採鉱冶金・農業・漁業・製紙・土木・建築・測量・天文・和算・機械・奇器・物理・本草・化学・薬学など各分野にまとめた産業・科学技術史です」とある。個人的にはめちゃめちゃツボで、金とスペースと時間に余裕があれば是非!なのだが、何せ高いし、専門外だしでいかんともしがたい。

これほど手をかけた出版物の販売権を元の出版社が手放した理由は、ご想像の通り。出版界の苦境のひとつのあらわれだ。最近、出版社の倒産のニュースをよく聞く。市場が縮小していく中で中小の会社がより大きな影響を受けるのはどこの業界も同じ。いい本を作っていた会社が消えるのが惜しい、というのはよくわかる。「情報メディア白書」を見ると、地方というよりは、出版社が集中している東京で出版社数の減少が目立つようだが、地方では地方なりのご苦労があるはず。

で、この人の曰く、一般の商業出版のものはともかく、この本のように、学術書だと、こういう200部とか300部とかいうロットのものがけっこうあるのだが、こういうのはアマゾンでは扱わないのだと。だから逆に外商のセールスマンにチャンスがあるのだと。確かに、上記の本もアマゾンが取り扱っていたのは古本のほうだった。そういえば、と思い出す。以前、自分が単著を出したときは、数ヶ月ほどの間、アマゾンでは取り扱っていなかった。

ロングテールといえばアマゾン、アマゾンといえばロングテールというくらいな勢いで、ロングテールの代表格のように言われるアマゾンだが、出版する側からみると、必ずしも本当の末端の末端までカバーされてるというわけではなかったりする。かなり長いしっぽであるのはまちがいないが、少なくとも、先のほうまでいくと、けっこう切れていたりするのではないか、というわけだ。

もちろん、アマゾンには「e託販売」なる委託販売のサービスもある。年会費9000円、売上の約4割とられるが、ちゃんとISBNを取れてる本なら、アマゾンで売ることは可能だ。販路に課題の多いそういう小規模な出版社ほど、小ロットの出版物ほど、アマゾンのようなサイトを使うべきなのではないか、ロングテールの恩恵を受けられるのではないか、と思わなくもない。その意味で、仮にしっぽの先が切れているとしても、アマゾンの責任とかそういうものでもあるまい。それに、マーケットプレイスで古本も扱えるわけだから、買い手の側から見れば、しっぽが長く、幅広く伸びているのはまちがいないし。

しかし、だからといって、私のところに来た外商の人のような売り方が古いとかだめだとかそういうことでもない。私があの本について、買わないまでもああして30分話を聴いたのは、あの人が目の前で説明してくれたからだ。仮にアマゾンで同じ本を見かけたとしても、具体的な内容がよくわからないからそれほど関心を持たなかっただろうし、そもそも見つけられなかったのではないか。先日ゼミ合宿で筑波に行った際、学生たちが初めて見た「がまの油売り」にいたく感銘を受けていたんだが、あれとちょっと似ているような気がする。典型的なリレーションシップ・マーケティングとはちょっとちがうような気がするし、こういうのって何なんだろう。「ネタ的消費」、というのとも少しちがうっぽいし。

少なくとも今のウェブでは、対面型のコミュニケーションでモノを売るというスタイルはほとんどみられない。むしろ対面式でないことのメリットが前面に出ている。アマゾン的なロングテールもそのひとつ。当然それはコスト面の必要性から来ているわけだが、将来的に、簡単に使える3Dウェブみたいなのが普及してきたら、対面型コミュニケーションを前提にしたものもロングテールの範疇に入ってくるのかもしれないな。こういうあたりはもっと深く考えてる人がきっとたくさんいるにちがいないと思う。ご存知の方ぜひご教示を。

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Tracked on March 03, 2008 at 12:03 AM

Comments

山口さん
hatakamaです。ご無沙汰しております。
久しぶりに見させていただいたので、遅いレスで失礼します。
私は一応、「ロングテール」を含むネットの流通に関して研究しておりますので、少し意見を述べさせていただきます。
アマゾンは、「e託販売」の仕組みと、レコメンデーションやアフィリエイトを組み合わせることで、「ロングテール」を利用者に見せることができていると思います。それが、利用者には「豊潤の経済/市場」のように見えることで、利用者を引きつけて売上を伸ばしている、と私は理解しています。
ただし、リアルのビジネスでも、タワーレコード・ジュンク堂・東急ハンズは「ロングテール」型のビジネスを志向して、成功しています。しかし、実店舗よりも、ネットのほうがロングテールが長いです。
ロングテール理論は、ヘッドとテールを示した図だけで理解できないと思います。私は自分のブログに1年以上前、ロングテールの本に書かれている内容に基づいて、「ロングテール理論の全体像」という図にまとめてみました。このような図をイメージすると、アマゾンの戦略も理解しやすいと思います。

Posted by: hatakama | March 19, 2008 at 05:23 PM

hatakamaさん、コメントありがとうございます。
こちらこそご無沙汰しております。ご教示ありがとうございました。リアル書店よりしっぽが長いというのはもちろん承知の上なんですが、ともすると、しっぽがどこまでも延びていると思われがちであるような気がします。当然そんなことはないわけで。アマゾンの物流倉庫はとんでもなく巨大だそうですが、それとても限りがあります。
で、もっと重要なのは、情報化社会に乗り遅れたために、あるいはむしろ戦略的に、アマゾンのルートに載せない売り手がいるという点です。今回ブログに書いたのは、「対面販売」の強みを生かした売り方とみることができます。映画「You've Got Mail」じゃありませんが、本をコモディティとして扱わないやり方ですね。当然対象は限られるでしょうが、こういうやり方もあるということです。このビジネスモデルがどのくらいサステナブルなのかについては、ちょっと興味があります。

Posted by: 山口 浩 | March 20, 2008 at 02:14 PM

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