「電脳コイル」の「タネ」技術
「タネ技術」といっても、「電脳コイル」の作者である磯光雄さんがこれをネタにしたとかそういう意味ではない。今後「電脳コイル」的な仮想世界サービスが広がっていくとして、将来それにつながっていきそうな技術やら何やらはこういうやつかな、という意味。詳しい方、もしちがってたらご指摘いただきたく。
まずはAR技術。これはARToolkitを使って例のあの「赤いやつ」(このサイズだとなんだかかわいい)を出しているというものだが、こういうふうに、一般的なARでは、なんらかのマーカーに対して3D画像を重ねる。
この場合、空間全体を貼り付けようと思ったら、そこら中にマーカーを配置しておかなきゃいけない。マーカーを使わずに、実際の風景から特徴点を見つけて空間を貼り付けるのもいろいろ研究されている。これはそれをリアルタイムで、かつパソコン1台でやってしまったということでご専門の皆さんが驚いたそうな。オックスフォード大学の人たちらしい。
AR技術の現実的な活用として現在よく取り上げられるのは、作業をアシストしたり、関連情報を表示したりという使い方。飛行機の整備なんかで、マニュアルをHMDに表示したりすることは以前から行われているが、動画が加わればもっと便利。これはBMWで現在研究されているものとか。これなら私にも車の点検とかできるかも。
これは観光方面への応用。こういう携帯情報端末を使った観光情報配信はあちこちで試されている。簡単にやろうと思ったらQRコードとかでも可能だが、ユビキタスっぽくやる方法がいろいろ研究中。確か銀座でも今試験中のはず。
これはもう少し高度。スウェーデンで研究されているもの。現実の町を歩くと、その町の昔の姿が見えるというもの。先日東大の廣瀬先生が、仮想空間を3次元+時間軸の4次元で表現する話をされていたが、これもその流れだな。
単なる関連情報表示だけではない利用が早期に実用化されそうなものの1つがエンタテインメント分野ではないかと思う。特に、テーマパークのような場所。ほら、TDLで3Dメガネをかけるアトラクションがあるじゃん?あれと同じように、パーク入口でメガネを渡されて、中ではずっとかけてるみたいな使い方。これはパックマン的なゲームの実験。GPSからの情報に無線LANの情報を加えて補正してるみたい。
前にも書いたし、あちこちで話してるが、いわゆるVRとARは融合していく方向性があるのではないか、と思う。現実空間に仮想空間を重ねる方向と、その逆方向で仮想空間の中に現実空間を作っていく方向が同時にあると。そうすると、現実空間の人と仮想空間の人がいっしょに行動する、といったことが可能になる。これはセカンドライフのアバターを現実空間に置いてみたというもの。あのアバターは現実空間の中に立たせるとキモい、という感想があるが、まあこれはご愛敬。実際には、セカンドライフの中に現実空間を作った、というものみたい。
アバターとして現実の人と直接交流するとなると、全部キーボードとマウスでコントロールするなんてまどろっこしい。もっと直観的に、自然に操作できるしくみが必要。特に重要なのは表情だと思う。これはリアルタイムで表情をアバターに伝えるというもの。
「電脳コイル」といえば電脳メガネ。電脳メガネというと、まず思い浮かぶのはHMD。HMDを使ったVR的なゲームはもう商品化されてる。任天堂にも「バーチャルボーイ」があったが、最近は頭の動きをトラックして画像をコントロールするのは当たり前。ただし現実画像に重ねるのはまだ。
テレビ画面との位置関係をWiiリモコンを使って特定して2次元画像を3次元ぽく動かす技術。なんか工作少年っぽい感じでよい。リモコンとセンサーバーを逆に使うのがミソ。カーネギーメロンの人。
電脳メガネのイメージに今最も近いものの1つはこれかな。オリンパスが試作した「モバイルEye-Trek-慧眼(けいがん)-」。完全ワイヤレス化の眼鏡型ディスプレイで、常時装着タイプのHMDということになる。
これを使って、オリンパスと中央大学が共同実験中なのが、HMDを使った情報提供システム。実験参加者はGPSや加速度センサなどを身につけ、それらからの情報を情報端末が統合し「レコメンドサーバ」に送信する。位置情報や参加者の興味などに基づき,現在地周辺のお勧め情報や豆知識などをユーザーに送信,HMDに表示するというもの。 AR的な観光案内だが、ディスプレイがふつうのメガネにぐっと近づいてる。
作中で登場人物たちがバーチャル画面とバーチャルキーボードを出してPCふうに操作する場面が随所に出てくるが、あれは正直欲しい。重いPCを持ち歩かなくてすむわけだ。あれが使えるならそれだけのために電脳メガネを買ってもいいと思う。バーチャルキーボードみたいなものは、何か固いものの上に投影するタイプならもうある。問題は宙に浮いたキーボードを叩いて場合、感触がないこと。これは磯さんの指摘。確かにそうだ。実際にああいう「バーチャルPC」みたいなものが作られるとしたら、キーボードのような機械的なインターフェースではないのかもしれない。
こういう道具って電源が必要。実験なら大きなバッテリとか持ち歩いてもいいわけだが、それはもちろん実用的ではない。ずっと使い続けるとなれば必要な容量だってばかにならない。実際のところ、電脳メガネの実用化にあたって電源問題はけっこう重要ではないかと思う。とすれば、充電したものを持ち歩くより、使いながら充電していくほうがよかろう。「自動巻き」みたいに、人間の動きを電気に変えられれば。というわけで、徒歩充電。このほか、圧電素子を使って衣服なんかで発電するしくみも研究されてる。個人的には靴の裏とかに仕込めばいいのに、と思ったりするがそういうのもあるんだろうか。貧乏ゆすりで発電できるぞ。
「電脳コイル」の物語中、重要な役割を果たしたのが「電脳ナビ。それがどんなものか、作中でははっきりとは示されなかったが。この映像は実写映像をリアルタイムで取り込んだナビ画像を生成するもの。進路が線で示されて、それに従っていけばいい、というしくみ。実際のところ、高級車のカーナビでは、フロントグラスの一部に表示するタイプのHMDが使われていたりする。全体に表示するのは現行の安全基準的には難しいんだろうか。
VICSでは道路上にビーコンとかを設置しなきゃいけないから、道路全体でやろうとするとコストがかかるが、車同士で交信して情報を共有するようにすれば、安くすむ。それがさらにすすめば、交通信号なんかとも連携して、オートパイロットの方向にいくんだろうか。すでにトヨタはカーナビ連動のブレーキシステムを開発していて、もう商品化される。
他にもあるだろうがとりあえずここまで。「電脳コイル」はエンタテインメント作品だから科学的な根拠とかに基づいて作っているわけではないし、実際のところこれは難しいだろうと思うものもあるのだが、舞台となった2026年か、それより以前に、けっこうな部分が実用化できるのではないかと素人的には想像する。もちろんそれがいいことかどうかは、社会や制度の面がどうなるかとかも考えなきゃいけないわけで、それがGLOCOMでのテーマなわけだ。ともあれたくさんの示唆を与えてくれる「電脳コイル」。もしまだ見てないという人がいたら、お勧め。
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