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March 06, 2008

"Why Do U.S. Firms Hold so Much More Cash than They Used to?"

Thomas W. Bates, Kathleen M. Kahle, and René M. Stulz. "Why Do U.S. Firms Hold so Much More Cash than They Used to?." Fisher College of Business Working Paper No. 2007-03-006,
Charles A. Dice Center Working Paper No. 2006-17.

米国企業のキャッシュ保有が急増しているという話は金融関係の人であれば新しい情報ではないはず。ぱらっとみただけでもこんなあたりがある。

米国企業の現金保有比率が急増している。S&P500指数採用企業の時価総額に対する現金保有比率は、2000年には10%しかなかったのが、昨年末時点で20%近くにまで上昇してきた。今後、各企業がこの現金をどのように使うかによって株式のパフォーマンスは大きく変わっていきそうだ。

堀古英司氏によるこの短いレポートでは、背景に会計スキャンダルによる資金調達環境悪化への対策、金融緩和の影響、M&A、配当増加、自社株買いなんかを挙げて、特に最後の3つを引き合いに出してエージェンシー問題への懸念を表明している。他のもぱらぱらとみたら、「企業の好業績」と「オイルマネーの流入」を挙げているものが多くて、いずれにせよここ数年の現象としてとらえているような書きぶりが目立つ。

で、このペーパーだが、上のやつなんかとはちょっとちがった見方をしている。概要はこう。

The average cash-to-assets ratio for U.S. industrial firms more than doubles from 1980 to 2006. A measure of the economic importance of this increase in cash holdings is that at the end of the sample period, the average firm can pay back all of its debt obligations with its cash holdings; in other words, the average firm has no leverage if leverage is measured as net debt. This change in cash ratios and net debt is the result of a secular trend rather than the outcome of the recent buildup in cash holdings of some large firms, and it is much more pronounced for firms that do not pay dividends and for firms in industries whose cash flows became riskier. The average cash ratio increases over the sample period because firms change: their cash flow becomes riskier, they hold fewer inventories and accounts receivable, and are increasingly R&D intensive. The precautionary motive for cash holdings plays an important role in explaining the increase in the average cash ratio; in contrast, agency considerations are not successful in explaining the increase.

ポイントは、このキャッシュ保有の増大が最近生じた現象ではなく、80年代から安定的に進行してきたという指摘。配当を支払わない企業ほど、またキャッシュフローがリスキーな業種ほど、保有比率が高いと。で、キャッシュ増といっしょに、在庫や売掛債権の水準が低下して、かつR&Dがさかんになっていると。この著者たちは、エージェンシー問題というより、いわゆる予備的動機によるものとみているらしい。私としては、リスキーな環境下ではキャッシュ保有が経営上の柔軟性を増す、という説明のほうがしっくりくる印象なんだが、まあおんなじようなことといえようか。

日本だとどうなんだろう?と思うのは自然な流れ。この分野よく知らないのでぐぐったページをぱらぱらと見た程度だが、バブル期の企業の現金保有とかエージェンシー問題関連とかが定番のテーマのようで、長期の時系列変化を分析してるようなやつはあまり見当たらなかったように思う。日本での関心の持たれ方というのは、たとえば「現金を多く保有する非効率な財務体質の企業は買収のターゲットに」みたいな感じのものが目立ったりする。

とすると、逆に米企業の場合はどうなのよそこんとこ、となる。80年代というと企業買収ブームが起きてたころだし。この論文には書いてなさそげ(ちゃんと読んでないのでわからないが)だが、買収防止策が普及して、キャッシュ保有が買収リスクを高めなくなってきたなんてことがあるのかもしれない。じゃあ欧州企業は?とかいうともはや視界の外。お詳しい方、ご教示いただければ。

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