「君側の奸」か「苦悩するキャリアウーマン」か
例によって「朝まで生テレビ」の音だけを聞きながら作業していたのだが、2008年8月30日放送の回はなかなか面白かった。何が面白かったかっていうのがなかなか伝えづらいうえに、いい加減に聞いてたんであんまり理解してるわけでもないんだけど、今時点で覚えてることを(まちがってたらごめん)ちょっとメモ程度に書いておく。
8月のテーマは「激論!これからの“皇室”と日本」。うわわっていうテーマ。司会の田原総一朗(敬称略。以下同様)によると「リベラル系の人から何人も出演を断られた」とか。で、こんな感じ。
皇太子さまが結婚されて15年、以来、皇位継承問題、雅子さまのご病状、ご公務についてなど、世間の関心も高くなっています。 そこで今回の「朝まで生テレビ!」では、「これからの皇室」はどうあるべきなのか、等を討論する予定です。 司会: 田原 総一朗 進行: 長野 智子・渡辺 宜嗣(テレビ朝日アナウンサー) パネリスト: 猪瀬直樹(作家、東京都副知事) 上杉 隆(ジャーナリスト) 小沢 遼子(評論家) 香山 リカ(精神科医) 斎藤 環(精神科医) 高橋 紘(静岡福祉大学教授) 高森明勅(日本文化総合研究所代表) 西尾 幹二(評論家、電気通信大学名誉教授) 平田 文昭(アジア太平洋人権協議会代表) 森 暢平(成城大学准教授) 矢崎 泰久(ジャーナリスト)
ええと、この分野は完全にアウェーなのでよく知らない人もいたりする(まあ調べりゃある程度はわかるんだけどさ)のだが、このテーマとして目新しいのは香山、斎藤の精神科医組か。いわずと知れた「例のあの問題」に関連しての人選なんだろう。専門外の人があれこれ言ってるわけだからね。
で、中心的なテーマは皇太子及び皇太子妃の問題。
西尾発言で口火を切る。このテーマで積極的な発言が相次いでいる人なわけで。「天皇は象徴ではなく元首」「皇室に人格は関係ない」等の発言は以前も聞いたことがあるんだが、いざこの問題をどうすればいいのかという意見になると、なんだか妙に遠慮してるっぽい発言に終始してまだるっこしい。皇室への遠慮、なんだろうかよくわからんのだが、要するに療養生活が長く続いている皇太子妃が気に入らなくて、それを正さない皇太子にいらだっている、ということだけはよく伝わってくる。
どうもこの人は基本的に、皇室の価値は伝統にあり、それを崩していこうとする現在の流れは皇室の存在意義を失わせ、やがて天皇制廃止につながってしまうのではないかという危機意識を持っているらしい。そういう目から見ると、いわゆる「人間宣言」も、乳母制度の廃止も気に入らない。現在の皇太子もじゅうぶんな帝王教育を受けていない、と。1935年生まれで「残り時間」の少ないこの人としては、将来が心配でたまらないのだろう。
当然この反対の考え方もあって、誰の発言か記憶がないが、要するに「皇室の価値は国民の支持に依拠しており、国民とともにあろうとする現在の皇室のあり方こそが皇室存続への道である」という類のものだ。おおざっぱな印象としては、女性の間での皇室人気というのはこの路線に近いような気がする。
この路線は、皇太子及び皇太子妃の問題については比較的「理解」がある、ということらしい。優秀なキャリアウーマンだったのに、皇室の暮らしって大変なのねぇ、というわけだ。しかしここに皇室廃止派っぽい人たちが皇太子妃の「人権」とか皇室制度そのものに内在する「非人間性」みたいな話を持ち出してくるから、「西尾派」としては「ほらみろ」みたいな感じになる。この機に乗じて皇室制度廃止論者たちがのさばってきているではないかと。一方、廃止論者からは、「なんだかまた戦前の亡霊みたいなのがよみがえってきて勢力を拡大している」となるわけで、要するにお互いが相手の影におびえてるといった印象。
で、そもそも病状はどうなのよってわけで精神科医の2人が登場する。公式には「適応障害」とされているが、2人とも、診察したわけじゃないがとことわりながら、皇太子妃はうつ病であるという前提で話していた。なんでも、新型のうつ病というのがあって、それはある特定の状況下でだけ症状があらわれるというものらしい。だから周囲からは本当に病気なのか疑われたりすると。で、そういう新型うつ病の治療としては、一般的なうつ病のような投薬とかだけではだめで、海外での転地療養みたいな、環境を変えることが必要であると。ただしそれをやったらいつ治るとか必ず治るとか保証されているわけではないと。
で、これに西尾がキレる。皇太子妃としての責任を果たせないではないかというわけだ。猪瀬が「海外でオリンピック招致活動でもさせたら」とか我田引水な話を向けるが聞く耳をもたない。どうもこの人、そもそも「病気」自体を疑っているようで、そのあたりの「本音」が、後半に入ってだんだん出てくる。まとめるとこう。
・皇太子と皇太子妃の結婚は失敗だった
・皇太子妃が優れた官僚だったというのは幻想で、実は劣っていた
・皇太子妃はすでに病気ではない
・いつまでも病気を理由に公務を休むなら離婚しろ
・皇太子妃と小和田家が皇太子に迷惑をかけている
ようやく言いたいことが言えてよかったねというわけだが(ここまでいうかみたいなところもあるが)、あっという間に誰だかに「そういうのを『君側の奸コンプレックス』っていうんだ」と一刀両断にされてたのはちょっとかわいそうでもあったな。個人的には、「権威や権力の周辺にいる人たちはその中心にいる人たちよりも権威や権力の維持や行使に熱心という現象をなんて呼べばいいんだろう」なんて思ったりして。「『虎の威』シンドローム」なんてのはどうかな?西尾は「皇室にかなり近いスジ」から情報を得ていると語っていて(宮内庁のことは悪く言ってたから宮内庁の人じゃないんだろう。なんか妙に自慢げな口調だったからどこかの宮家とか旧宮家とかなのかな?)、つまり内部情報のリークがあるわけだ。こういう中にいる人たちって大変だよなと真剣に思う。
あと、猪瀬が「王権の維持にはトリックスターの存在を必要とする」みたいなことを語っていて興味深かった。今は皇太子妃がトリックスターだというわけだが、実際にそうかどうかはともかくとして、言いたいことはなんとなくわかる。雨降って地固まるっていうし、いいにつけ悪いにつけ話題になるってことは忘れられるよりずっとましだしね。実際、この番組でいろいろな人が侃々諤々やってるのも、皇室の存在感の大きさのひとつのあらわれなわけで。
最後に田原が「政治家が腰が引けてる。なぜ論じないのか」としめくくったのは同感。まあ思考停止ワード満載の領域だし、下手すると大騒ぎになるから、うかつに手を出しにくいのはわかる。それに、そもそも政治家が「今」やんなきゃいけない問題なのかってこともあるな。もう残り時間が少ない人は焦るんだろうけど。見てて思ったのは、こういう問題は、考えのちがう人同士でもっと話し合うべきなんじゃないかな、ということ。この問題だとすぐアツくなったりキレたり相手をばかにしたり極論に走ったりする人が多いけどさ、そうじゃないと思うんだよな。何せ「日本国民統合の象徴」の一家なんだから。
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Comments
・皇太子妃はすでに病気ではない
僕は、運悪くこの番組を見逃したのですが、西尾さんがこのような発言をしているのは残念です。私は昔、西尾さんの著書を面白いと思って読んでいたのですが、歴史教科書以降なんかつまらないというか、読んでいません。
あと香山リカと斉藤環の二人は異端というか精神分析よりかなあと思います。要するに精神医学の王道からはかなり外れています。
離婚すればかなりの問題が解決されると思うのですが、なにぶん皇太子が一生守ると宣言して結婚したので離婚は無理なのでしょう。
Posted by: effexor | September 07, 2008 10:20 PM
effexorさん、コメントありがとうございます。
私の知る限り、西尾氏はドイツ文学者だったように思います。少なくとも医学の専門家ではないですよね。香山、斉藤の両氏が異端かどうかは知りませんが(精神分析ってのは異端なんですか?)、少なくとも西尾氏よりは精神病に関する判断能力がありそうに思えます。どの方も実際に診察したわけではありませんしね。「病気ではない」発言は、医師2人の「判断」を否定したわけで、いかなる根拠に基づいたものなのか、多少ですが興味がありますね。
このケースでは、何を「問題」とみるかは立場によってずいぶんちがうと思います。というのもつまり、何が「守るべき価値」なのかについての社会的合意が必ずしもできていないからです。意見のちがう人の意見を冷静に聞くことが必要と思うんですが、なかなか難しいですね。
Posted by: 山口 浩 | September 08, 2008 01:04 AM