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August 04, 2008

最も影響力の大きいメディアの影響が最も大きいと考えるのが自然ではないか

似たようなことを何度も書いてるんだがしつこくもう一度、手短に。凶悪な、あるいは陰惨な犯罪が起きるたびにゲームやらネットやらの影響をいう人がけっこういるのだが、リアルの世界での犯罪の原因の大半はリアルの世界の中にあると考えるほうが自然だと思う。過激な表現やそれを多く伝える媒体があるのは事実だが、そうしたものに触れた者の大半は犯罪を犯さないし、そうしたものに触れていないと思われる者も多く犯罪を犯している。表現や媒体を本気で問題にしたいなら、そのあたりきちんと、実験室だけではなく疫学的に検証を行ってからにすべきではなかろうか。

以上を前提として、もちろん表現や媒体にもなんらか影響力があるだろう、というのが本題。

もし人が接触するメディアから悪い影響を受けると考えるならば、特段の事情がない限り、最も強い影響を与えるのは最も多く接触するメディアと考えるのが自然な仮説というものではなかろうかと思うのだがどうだろう。では人が最も多く接触するのは?といわれれば、それはまちがいなくテレビだ。

例はたくさんあるだろうが、NTTアドが2008年4月に行った「情報・メディア接触の実態調査」なる調査があるので挙げておく。この調査では、「ふだんの生活で利用できるメディアを1つだけ選択する場合に何を選ぶか」という質問で、若年層がテレビではなく携帯電話やPCを選んだというあたりが話題になっているが、それ以前に、「商品/サービスに関する情報源としてふだんよく見るもの」がほぼ全世代を通してテレビであり、携帯電話やPCは全世代で10位以内に入っていないということに改めて注目すべきだ。「1つ選ぶなら携帯電話」というのは、どちらかといえばテレビより友だちが大事という文脈でとらえるのが適切かと思う。情報の影響力という面では依然としてテレビが圧倒的だ。

影響を与えうる要素が複数あったら、まずその中で最も影響力の大きいものの影響を考えるのがまっとうな仮説の立て方というものではないかと思うのだが、現在のところ、最も影響力が大きいメディアがテレビであるにもかかわらず、テレビが与える悪影響はあまり問題にしないという風潮があるように思う。ごくおおざっぱにいってその背景には(例によって)3つくらいあるのだろうが、いずれも正直なところあまり説得力がないと思うので以下簡略に。

(1)「テレビは内容が制約されているから大丈夫」
テレビが伝える情報の内容や表現手法などは制約を受けているから、犯罪を誘発する原因とはなりにくい、との主張だ。ただ、考えてほしい。今年に入って通り魔事件が増えているという指摘があるが、昨年と今年で何がちがうかを考えてみると、最大の差は、通り魔事件の報道が増えたことだ。

犯罪だけではない。有名人の自殺の後には自殺が増える。こうした報道の影響はすでによく知られているはず。ニュースはともかく、情報バラエティ番組の類での伝え方が適切なのかどうかについては、現在のところ、充分に検討されているとは思えない。なんでも規制すればいいという考え方には与しないが、少なくとも検証はしておくべきではなかろうか。

(2)「暴力的なコンテンツを見ていると犯罪への願望を持つようになる」
事件の犯人の家から何々が見つかった、という話をよく聞く。それが原因だという印象を与えるためだろうが、そもそもそれは因果関係ではなく相関関係の存在を示唆しているにすぎない。暴力的な傾向を持つ人は暴力的なコンテンツを好むだろう。暴力的なコンテンツに触れた人がその影響で暴力的な行動に走るかどうかは、他のさまざまな要素からの複雑な影響を受けるはず。

そもそも、暴力的なコンテンツに触れている人も、そういうものにだけ触れているわけではない。当然、テレビは見ているだろう。ならば、影響を考えるにしても、特定のコンテンツだけを取り上げるのはおかしい。世の中にデジタルゲームが生まれるはるか以前から、凶悪な犯罪は存在した。中長期的に見れば、こうした犯罪が増える傾向にあるということでもないようだし、最近はむしろ中高年の犯罪の急増のほうが問題としては深刻ではないかと思う。中高年犯罪者はどんなコンテンツに触れているのか、なぜ調べないのか。

たとえば、「ひぐらしのなく頃に」が例として取り上げられるが、そういうことをいう人たちは、あの作品が2004年ごろからずっと人気作品であったということや、漫画化作品が累計550万部売れていることを知っているのか(ソースはWikipediaなので一応おことわりしておく)。おそらく数十万人単位でいるであろう同作品の他のファンが残虐な犯罪を犯していないという事実をどうとらえるのか。残虐な犯行が、なぜ「ひぐらし」のマンガが大ヒットした2006年や2007年(熱心なファンならもうそれ以前から何年間も接触しているはず)ではなく今年頻発しているのか。

(3)「視聴者の要望に応える必要がある」
そもそもマスメディアの情報が信頼されるのは、それが適切にフィルタリングされ、編集されているからだ。視聴者のニーズがあれば何でもやっていいということではないし、だったらマスメディアの存在意義はあまりない。犯罪報道に関していえば、たとえば被害を防ぐために未解決事件がどの地域で起きているとか、防犯のために何をしてはいけないとか、そういう情報を伝えるのはいいが、犯罪の手口や被害の状況なんかについて詳細に伝える必要があるのか。

あと、「世間を騒がせたかった」という犯人の供述がよくあるが、騒ぐのはマスメディアなわけで、そうなると犯罪者の欲望充足の片棒を担いでいることにはならないのか。特に情報バラエティ番組の人たちは真剣に考えていただきたい。


別に、広範な番組内容規制を導入せよという主張をするつもりはない。ただ、影響があると思われる分野については、メディアの方々が自らきちんと検証したうえで、それなりの対応をとっていくべきものかと思う。いやしくも「公共性」を謳うなら、ね。いうまでもなく、これは異なる利害の調整問題だ。どちらか片方が正しいとかそういうものではなかろう。めんどくさいが、それも考える価値があればこそだ。一部のアニメやらゲームやら、問題を自分たちの外に見出して安心したい気持ちはわからなくもないが、まずは自分たちの問題として考えてみるほうが先決ではないかな。

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Comments

少し前の硫化水素自殺なんぞのように、「ネットに載っている方法で~」とテレビで報道したせいで広まってしまったものもありますね(犯罪ではないので少しあれですが)。

本文は、「その犯罪者が」ではなく「一般的に」最も影響の大きいメディアだけで語っている点が気にかかりました。
たとえば私(大学生)は新聞はとってませんし、テレビもつけない日のほうが多いです。周りの同年代はそういう人間が多いですし、個々の犯罪者がどうだったのか気になるところです。

もちろん、「この容疑者はテレビをよくみていて」なんてことをテレビが報道するとは思いませんが… ひどい情報操作ですね。

Posted by: hanpen | August 05, 2008 02:15 AM

hanpenさん、コメントありがとうございます。

おわかりかと思いますが、私の問題意識は、情報の取捨選択が恣意的で、どうも偏見に根ざしたものではなかろうかというものです。

テレビで放映された情報は、ネットを通して人の間に広まっていきます。hanpenさんがネットで得る情報もその元をたどるとかなりの部分がテレビ発のはずです。ご指摘の通り、ネット発の情報をテレビが取り上げることもあるでしょう。それはまたネットを通してさらに広まっていくわけです。

犯人の部屋から「ひぐらしのなく頃に」が見つかったら大騒ぎしてますが、ひょっとしたらそのほかに推理小説があったかもしれません。テレビでどんな番組を見ていたかも気になるところです。たとえば中高年層の男性だったら、そこそこの確率で「必殺仕事人」を見ているでしょう。犯罪の再現ドラマはいろいろな番組で登場します。「ひぐらし」はあくまで、そうした犯人が触れたさまざまな情報の1つなのであって、それだけを取り出すのはいかがなものかと問いたいわけです。

もちろんケースごとに事情はちがうでしょう。もし個別の事情に着目するなら、そこまで調べて報道するのがスジではないかと思います。一方で、報道されることで模倣犯罪が続発する恐れを考えると、そんなことまで報道するべきなのかということになります。そこがまさにマスメディアの方々が死ぬほど悩んでいただきたいところですが、現在そのような配慮をしているとはとても思えない番組が多いという印象を受けていますので、上記のように書いてみました。

Posted by: 山口 浩 | August 05, 2008 08:49 AM

極端な例えですが、通り魔とか起こした犯人(容疑者)の部屋に、
日経など特定の新聞が何年分も取っておかれたりしてても、
フジなど特定のテレビ局の連続テレビドラマのビデオテープが数百本あっても、
ひぐらしのCDが部屋の片隅にあったら、
どれをマスコミが一番取り上げそうか目に浮かぶようです。

Posted by: 名無之直人 | August 06, 2008 09:26 AM

名無之直人さん、コメントありがとうございます。
日経の連載小説が性犯罪のきっかけになったりすることってないんですかね。ってまじめに思ったりすることがあります。そもそもそういうものの影響ってそんなに大きいんでしょうか。なんか腑に落ちないですね。

Posted by: 山口 浩 | August 07, 2008 03:05 AM

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