適切な傍聴目的ではなかろうか
2008年9月4日付の朝日新聞に「ブログに逆切れ? 茨城県議会が傍聴の規制強化」という記事があった(後でみたら、なんだかあちこちで話題みたい)ので、どれどれと見に行ってみた。
記事にはこうある。
茨城県議会での議員の言動がブログ(インターネット上の日記)で批判されたことが契機になり、議会の傍聴規則が3日改正され、規制が強化された。必要と認められると傍聴希望者は身分証の提示を求められ、写真撮影や録音の許可が下りにくくなった。全国の都道府県議会で身分証明書の提示を求める傍聴規則は初めて。ブログは情報の発信手段として近年重要視されていることから、一部県議からは撤廃を求める声も上がっている。
「言動」とあるが、ブログの言動だけでどうこうなんてことは通常ありえない。問題は「傍聴した6月定例県議会も取り上げた。常任委員会などでの県議や県幹部の言動について論評し、居眠りする県議の写真を載せた。」という部分。これに対して「一部の県議が「傍聴目的として適切なのか」と声を上げ」たのだそうだ。本人以外のどの県議なのか知らんが。
どれどれとブログを探してみた。確信はないが、たぶんこれだと思う。
茨城空港ってのは、要するに自衛隊の百里基地のこと。2010年から民間機も乗り入れするようになる予定なのだが、まだ乗り入れを表明した航空会社はないらしい。
で、おそらく問題の記事はこれ。
「2008年6月15日 茨城県総務企画委員会5〜藤島正孝自民党県議員、眠りの森の県議会議員〜 」
なるほど出ている。しかも大写しで。敵意丸出しの個人攻撃といった色合いが強いし、文章もかなり攻撃的だ。記事の内容からみて、ブログを書いているのは空港反対派の人なのかと思ったら、どうも茨城空港そのものに反対なのではなくて、この空港をLCC(格安航空会社)専用空港にすれば採算がとれる、という考えらしい。この議員やら他の人やらにかみついている理由は、ぱらぱら見た範囲ではよくわからないが、どうも県では、国内航空会社を主とした、金のかかる一般的な空港を計画しているから、ということなんだろうと想像しておく。
ともあれ、記事はどぎつくて、申し訳ないがあまりいい趣味とはいいがたい。正直、もうちょっと書きようがあるだろうにと思う。とはいえ、過激さの度合いでいったら、ブログではよくある程度のものだし、スポーツ新聞だってかなりのものだから、それと比べればまあそんなに変わらないレベルではある。それに、議会で審議中の県議がどのような態度かというのは公益性のある情報だ。傍聴内容をブログで伝える一環として審議中の議員の姿を撮影したとしても、それは適切な傍聴目的と思うがどうなんだろうか。やれネット新時代にふさわしくとかそういううわっついた議論を持ち出すまでもなく、民主主義を標榜する社会において、県議会での審議中の居眠りを撮影、公開されたことを理由に(表向きはちがうんだろうけど、どうみたって明らか)議会傍聴制限をかけるという発想は、ちょっと尋常ではないと思う。
目をつぶって考える人はよくいる。かくいう私もその1人で、会議中にもやったりするものだから、よく居眠りしていると「誤解」されるのだが、「基本的には」眠っているわけではない。昔の同僚で目を開けて座ったまま眠れる特技を持った人がいたが、そこまでいかなくても上の空の人とかはいるだろうから、目を開けているからといってまじめにやってる証明にはなるまい。それに、会議中にちょっと居眠りをするくらいのことは、人間誰しも経験があるはず。そういうささいなことで文句をいう人がいても、それは言っているほうが非常識なわけで、反論したければすればいいし、気にする必要もないものと思う。そもそもきちんと議論に参加していれば、そうした批判を受けることは少ないはずだ。その意味で考えると「クロ」、というか、件の指摘は的を射たものなのかもしれない。
朝日新聞の記事によると、改正された規則ではこんなふうになったらしい。
改正規則では、傍聴者による写真撮影や録音は、県政記者クラブ所属の報道関係者と「公益的見地から必要と認められる者」に限定。後者は市町村の広報担当者や会派関係者を念頭に置いている。 新規則に従うと、「資料のため」という目的で男性がカメラの持ち込みや撮影を希望しても、「今後は『許可できない』として処理する」(議会事務局)という。
県政記者クラブ所属の報道関係者の方にぜひお願いしたい。県議会を取材して、ぜひ議員さんたちが「真剣に審議に参加しているところ」を撮影して報道していただけないだろうか。これは、税金の使い方という重要な公益に関するテーマかと思う。私のような、茨城県に住んでいない人にとっても、納めた税金の一部が地方交付税交付金のかたちで茨城県やら地元の小美玉市やらに交付されているわけだから、少しは利害関係もあるだろう。もしここに不採算の空港ができて、そこにじゃぶじゃぶ税金が投入されるような事態になったら、さらにおおごとだ。
さらにいうなら、これは国民の「知る権利」に対する権力者からの重大な挑戦でもある。品のない話だが、政治家の職務の重大さを考えれば、彼らが議会の場で居眠りしているかどうかは、「知る権利」の中に含まれると考えて差し支えないものと思う。私は個人的にあまり興味ないが、それを知りたいと思う人が少なからずいるであろうことは充分理解できる。
もちろん、記者クラブ所属の記者が撮影することは規制されていない。しかしそれは、「素人は空気を読まないから困りものだが、プロの記者なら長いつきあいだから、多少のことは見逃してくれるだろう」と期待されているという意味だろう。つまり、記者クラブ所属のプロの記者諸氏は、事実を伝えるという点において素人以下であるとなめられているのだ。それこそ、報道人としての名誉に関わる問題ではなかろうか。
それとも、政治家さんたちの「期待」通り、「自主規制」してしまうのだろうか。
The comments to this entry are closed.
Comments
このように、問題のブログを第三者の視点から斬るように書いてくれるととてもありがたい情報源だと思う。
ただ冗長的な部分があるので半分ぐらいにまとめてもらえるとさらに読みやすくなると思います。
Posted by: 雲のパン屋 | September 04, 2008 08:38 PM
市民の血税によって雇われている議員の職務態度を市民が監視するという事は、疑いなく適切な傍聴目的だと思うのですが。
Posted by: A | September 04, 2008 09:58 PM
コメントありがとうございます。
雲のパン屋さん
「冗長的」で申し訳ありませんがこれは芸風でして、私としてはこれで無駄な部分はないと思っています。あと、何をいつどのように書くか書かないかについての指図は基本的に受けないというポリシーでやっております。例外は法令上求められる場合とお金をもらって書く場合ですが、今回はそのいずれにもあたらないかと。あ、ちなみにですが、このブログにおいて、お金をもらって書いた記事はありません。
Aさん
私もそう思いまして、そのように書きました。ただ、それを前提としてですが、「監視」があまりに厳しすぎるのもどうかと思います。権限と責務にふさわしい行動が求められるとはいえ、聖人や仙人であるかのようであって当然みたいな議論が散見されたりするのはちょっとどうかなと。今回のケースは議員として「アウト」かと思いますが。それと、リンク先のブログの記事は、表現がかなり強くて、まっとうな批判の域を超えているように見えるところも気になります。手段が目的の正当性を傷つけることもあるという点について、認識しておくべきかと思います。
Posted by: 山口 浩 | September 05, 2008 01:07 AM