« 経営情報学会誌「仮想世界サービスのビジネスへの活用とその意義―「セカンドライフ」バブルを越えて」 | Main | 雑誌目次をみる:「編集会議」 »

October 20, 2008

「血液型と性格の社会史」

松田薫著「[血液型と性格]の社会史」、河出書房新社、1991年。

日本デジタルゲーム学会でお世話になっている御茶ノ水女子大学の坂元章先生に教えていただいた本。ずいぶん前のものだが、これは面白い。このテーマに関心のある人には必読。

この本のタイトルにまず注目。いわゆる血液型性格診断に医学的根拠があるという話は聞いたことがないが、日本を中心とするいくつかの国で少なくとも一部の人たちに受け入れられている。エセ科学と笑うのは簡単だが、ことはそこで終わらない。一般的な自然科学では、誰がやっても同じ結果になる法則を追求するわけだが、この分野は、根拠がなくても人々が「そうだ」と思えば実際にそうなってしまうからだ。

社会心理学者である坂元先生は以前そのあたりをご研究しておられたことがあって、それを示唆する結果を得たのだそうだが、全般的に心理学者の間ではこのテーマはあまり受けがよろしくないらしい。本書にも少し出てくるが、かつて心理学者が軍に協力して血液型による軍人の適性調査などを大々的にやっていたり、学会内の内紛で逮捕者まで出したりという「黒歴史」がトラウマになっているのかもしれない。

それはおいとくとして、要するに血液型性格診断の問題というのは、根拠が云々というより、社会の中で人々がどう考えるかという部分のほうが重要であるということ。だからこの本のタイトルも「社会史」なわけだ。

で、読んでみるとこれが実に面白い。血液型性格診断が「日本発」であることは私でも知ってるくらい有名な話だが、その起源がドイツにあって、優生学と関係があると。ぜひ原本を探して読んでいただきたいのだが、簡単に流れをまとめるとこう。

(1)20世紀初頭のドイツで、遺伝学の一環として血液型の遺伝の研究が行われていた。調べてみると、ドイツ人にはA型が多く、アジアにはB型が多い。サルもB型が多い。進化論からの連想と形質人類学の影響で、血液型の構成比率における人種間の差を人種間の優劣と結びつける考え方に発展した。日本でも、1920年代に軍と東大などが血液型による軍人の適性などを大々的に調査した。
(2)1927年、東京女子高等師範学校(現お茶の水女子大学)の古川竹二教授が「血液型による気質の研究」という論文を「心理学研究」に発表し、これが血液型性格診断の起源となった。心理学者の「参入」によって、血液型による差異は、日本では民族間の優劣ではなく個人間の差異の問題としてとらえられるようになった。これは日本人にとっては都合のいいことだったからでもある(人種として劣っているという学説はさすがに受け入れづらい)。
(3)この仮説は報道などを通じて知られるようになり、1930年代にかけて、医学・法医学研究者等の間で、血液型と犯罪、精神病等の関係を研究する動きが高まった。社会の中でも、血液型を採用、組織運営、職業選択、占いなどに応用しようとする者たちがあらわれた。しかし学界では、実証結果が検証できない等として批判も高まり、激しい論争が展開され、一連の騒動の中で逮捕者まで出る大騒ぎとなった。その後血液型は学術的関心を惹かなくなり、社会の関心も薄れていった。

以下、各ポイントについて、教えていただいたこと、調べたこと、考えたことなどから少し補足。確証はない。

(1)メンデルの法則が発表されたのは1865年。しかし注目されず、注目を浴びたのは1900年に別の研究者による研究が発表されて以降。なのでこの当時この分野は最先端領域だった。優生学も同時期に発展している。軍はいろいろ研究したが、結局血液型による部隊編成などを大規模に採用することはなかったらしい。
(2)古川論文は、当時の東京女子高等師範の女学生たちを被験者にした大規模な実験に基づいているが、元となった着想自体は古川教授の近親者などごく少数の人に対する血液型調査結果から得た独自のもの。実験ではかなりはっきりした成果が得られたが、実験を行った時点では、学生たちは古川教授の「仮説」をすでに知っており、それに合わせて回答したという事情があったらしい。
(3)日本におけるその後の経過については本書には書かれていないが、戦後、昭和40年代に血液型性格診断を復活させ、はやらせた人たちがいたらしい。この人たちは以前の経緯を「承知」の上でやったのではないかと思われる。過去の「トラウマ」もあって血液型にかかわりを持とうとする研究者は少なく、いわば「野放し」となっていたこともあって、その後しだいに血液型性格診断は社会に浸透していき、現在に至る。

なるほどと目からウロコ。この問題が例の「水からの伝言」とちがうのは、人間がからんでいる点。水は人間の気持ちを斟酌したりしないが、人間の心理や行動は影響を受ける。少なくとも現在の日本において、血液型は、それ自体が性格に影響を与えるかどうかという医学の問題というより、血液型が性格に影響を与えると少なからぬ人々が信じているという社会現象があるときに人間の考えや行動はどんな影響を受けるかという社会心理学上の問題であるということだ。

なんつうか、科学ってのは日々進歩していくものなんだなと実感。今からみれば「常識」のようなことも、その考え方がはじめから受け入れられたというわけではない。あたりまえなんだが、当時の人たちの奮闘やら激論やら、思い込みやら勘違いやらを誰が笑えようか。今もそういうのがあちこちで展開されてるんだろうな。


|

« 経営情報学会誌「仮想世界サービスのビジネスへの活用とその意義―「セカンドライフ」バブルを越えて」 | Main | 雑誌目次をみる:「編集会議」 »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference 「血液型と性格の社会史」:

» [psychology]週刊ダイヤモンド特集「使える心理学」 [Peppermint Blue]
週刊ダイヤモンド2008/11/8号の特集は「使える心理学」。ビジネス誌の心理学特集はどうも「心理学的テクニック」みたいなものに偏ることが多いという印象があり、まずはぱらぱらと立ち読みしてみたら「ヴントを心理学の父として」なんて言葉に遭遇。もしかしてこれはきちん... [Read More]

Tracked on November 07, 2008 03:06 PM

« 経営情報学会誌「仮想世界サービスのビジネスへの活用とその意義―「セカンドライフ」バブルを越えて」 | Main | 雑誌目次をみる:「編集会議」 »