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December 22, 2008

「ものづくり」に「回帰」するための7つの政策(笑)

とある大学でお茶を飲んでいたら、その大学の教員らしき年配の方が話をしているのが耳に入った。「・・やれデリバティブだ何だと最近はそんなのばっかりだけど、ああいう虚業に走っちゃいかんね。ホリエモンとかムラカミとか、ああいうのがのさばってくるような世の中になっちゃってるけどさ、やっぱり日本は昔から『ものづくり』の国だったんだよ。『ものづくり』に回帰しなきゃダメだと思うね」と。ふうんそうか「日本はものづくりの国」だったのか。そりゃあ回帰せないかんだろうな。よしそのためにはどうしたらいいか考えてみようではないか。

というわけで例によって7つほど考えてみた。今回は思いつくまで15分ほどかかった。他にもいろいろあるだろうが、それはそれぞれお考えいただきたく。それでもちと長文、かつ数字がいっぱいなのはご勘弁。無粋な念押しだが、あくまでネタなのでそこんとこくれぐれもよろしく。分かりやすいようにいちいち「(笑)」をつけてあるのでまちがう人はいないだろうが。

まず考えなきゃいけないのは、そもそも「ものづくりに回帰する」とはどういうことか?ということ。厳密な定義などあろうはずもないので、勝手に考えてみる。まずは「ものづくり」。「ものづくり」は、経済産業省の所管であるらしい。「ものづくり白書」なんてのも出ている。ただ、いろいろ見ても「ものづくり」自体の定義は出ていないようだ。もちろん、なんとなく製造業を指しているらしいことはわかる。参考として、「ものづくり基盤技術振興基本法」なる法律をみるとこう。

(定義)
第二条  この法律において「ものづくり基盤技術」とは、工業製品の設計、製造又は修理に係る技術のうち汎用性を有し、製造業の発展を支えるものとして政令で定めるものをいう。
2  この法律において「ものづくり基盤産業」とは、ものづくり基盤技術を主として利用して行う事業が属する業種であって、製造業又は機械修理業、ソフトウェア業、デザイン業、機械設計業その他の工業製品の設計、製造若しくは修理と密接に関連する事業活動を行う業種(次条第一項において「製造業等」という。)に属するものとして政令で定めるものをいい、「ものづくり事業者」とは、ものづくり基盤産業に属する事業を行う者をいう。

ふむ。まあ製造業を指すと考えればだいたい合ってるか。特に何もことわってないから日本標準産業分類に従って考えればいいってことかな。製造業に入るのは、中分類でいえば次のリストのとおり。

食料品製造業、飲料・たばこ・飼料製造業、繊維工業(衣服,その他の繊維製品を除く)、衣服・その他の繊維製品製造業、木材・木製品製造業(家具を除く)、家具・装備品製造業、パルプ・紙・紙加工品製造業、印刷・同関連業、化学工業、石油製品・石炭製品製造業、プラスチック製品製造業(別掲を除く)、ゴム製品製造業、なめし革・同製品・毛皮製造業、窯業・土石製品製造業、鉄鋼業、非鉄金属製造業、金属製品製造業、一般機械器具製造業、電気機械器具製造業、情報通信機械器具製造業、電子部品・デバイス製造業、輸送用機械器具製造業、精密機械器具製造業、その他の製造業

ここで1つ重要な点を確認しておく。農林水産業や土木建設業は、この中に含まれていない。これらも一応なんらか「もの」を「つくる」ことがあったりするわけだが、「ものづくり」ということばには含まれない、ということだ。

次にいくつか現状把握。まず会社の数。「平成18年事業所・企業統計調査」をみる。日本の企業の数は合計で1,515,835社。うち農林漁業が10,616社(0.7%)、鉱業が1,743社(0.1%)、建設業が280,023社(18.5%)、製造業が258,648社(17.1%)、それ以外(いわゆる第三次産業。サービス業の他は、電気・ガス・水道業、卸売・小売業、金融・保険業、不動産業、運輸・通信業など。あと、政府サービスとか非営利部門とかも含む)が964,805社(63.6%)。

続いて就業者数。総務省統計局「平成19年 労働力調査年報( I 基本集計)」から直近の2007年の産業別就業者数の数字を拾ってみる。2007年平均の就業者数は全産業で6,412万人。うち農林漁業が262万人(4.1%)、鉱業は4万人、建設業は552万人(8.6%)、製造業は1,165万人(18.2%)、その他の産業(サービス業とか)は4,429万人(69.1%)。

最後にGDP。「平成18年度国民経済計算 (平成12年基準・93SNA)」の付表から「経済活動別の国内総生産・要素所得」をみてみる。平成18年の名目国内総生産(生産者価格表示)の合計は502兆5,492億円。内訳は、農林水産業7兆4,377億円(0.09%)、鉱業5,045億円(0.1%)、建設業32兆1,480億円(6.4%)、製造業108兆6,028億円(21.6%)、その他が360兆8,562億円(71.8%)。

なるほど。どれをとっても、製造業は約2割程度を占めるという計算になる。

次はものづくりに「回帰」という点。これまたあいまいだが、「ものづくり」が日本経済の主要な部分を占める状態、と解釈してみた。具体的にはいろいろ考えられるだろうが、現状の「2割」ではだめ、というのだから、それを上回っていなければいけないわけだ。今の言われ方からすれば、相当な水準をイメージすべきなんだろうな。で、考えてみた。次のうち少なくとも1つ、できれば3つとも成り立っているレベルならどうか、と。もうちょっとちゃんとした考え方もあるんだろうが、調べるのが面倒になるのでこのあたりで。どうだろうか。

(1)日本企業の過半数が「ものづくり」企業
(2)就業者のうち「ものづくり」に従事する人が過半数
(3)GDPの半分以上が「ものづくり」から

要するに、「半分以上」レベル、ということ。こう定義すると、「ものづくりに回帰」するというのは容易なことじゃなさそうだな。これは「本気」(笑)で取り組まなければいかんな。

以上を前提として、考えられる政策(笑)をいくつか。

(a)ものづくり以外企業パージ(笑)
「(1)日本企業の過半数が「ものづくり」企業」を実現するための最もストレートなやり方は、製造業以外の企業を強制的に解散させてしまうことだ。特に一番多い第三次産業。上でいう「その他の産業」964,805社がほぼそれに該当するから、これらを強制解散させると残りは551,030社。これでは足りないので建設業280,023社も強制解散させると残りは271,001社。これなら製造業258,648社で全体の95%を占める。ものづくり以外の企業を日本からなくしてしまう「ものづくり以外企業パージ」。おお!これでまごうことなき「ものづくりの国」となるではないか!
(※追記 もう1つ。「製造業」のペーパーカンパニーを100万社ほど作るってのもアリだな。)

(b)平成の大合併2.0(笑)
とはいえ、サービス業や建設業を日本からすべてなくしてしまうなんて実際には不可能だ。となれば、それらをすべて1社に集約してしまえばいい。たとえば「日本建設サービス業株式会社(仮称。笑)」なんてのを設立して、そこに第三次産業と建設業の計1,244,828社をすべて集約してしまうのだ。これぞ名づけて「平成の大合併2.0」!株主総会はさぞ壮観だろう。株主どころか、役員だけ集めたって東京ドームにすし詰めでも足りないぞ。

(c)平成の鎖国(笑)
しかしこれでも、日本人の過半数がものづくり以外で働いていることにはちがいないわけで、このままではいかん。製造業の就業者数をあと2,000万人ほど増やさなければ。海外で製造された製品を輸入するなんてことは言語道断。すべて国産品を使うようにしよう。そこで考えたのが、海外からの輸入を基本的に絶ってしまう「平成の鎖国」。「海外製品を持たない、買わない・輸入しない」の「ものづくり三原則」も導入しよう。それでも国内では需要が足りないだろうから、輸出は当然継続、いや今以上に促進しなければ。貿易摩擦?そんなこと知るか。稼いだ外貨は?うーんどうしよう。

(d)賃金革命(笑)
しかし、いかに鎖国しようとしても、海岸線は長い。製造業といっても、先端技術を使った高度な製品ばかりではない。圧倒的なコスト差がある中では、密輸の横行は避けられまい。地下経済が現在のレベルよりはるかに巨大化すれば、GDP統計への影響も懸念される。やはり、国内ですべてまかなうためには、製造業のコストを大幅に引き下げる必要がある。その観点からは、賃金水準の大幅な引き下げが不可欠だ。どのくらい?中国やベトナムに対抗できる程度には必要、だよな。月収1万円レベル(!)まで引き下げればベトナムにも対抗できるだろう。これはまさに「革命」級の賃下げ、ということで「賃金革命」。・・生活できるのか?

(e)平成出島(笑)
うーむ。日本に住む日本人労働者の給与をそんなに引き下げるなんて、実際にはやっぱり難しいだろうな。しかしこのままでは製造業のコストは高いままだ。もちろん、だからといって今までのように製造業が海外進出しては日本が「ものづくりの国」にならない。ではどうするか。やはりここは、海外から労働者を呼んでくるしかなかろう。3,000~4,000万人も呼べば製造業従事者が過半数になるかな。しかし、移民政策については、今のところ国民的合意が得られているとはいいがたい。これまでより圧倒的に多い数の外国人を国内に受け入れることについては、抵抗感の強い向きも多かろう。そこで考えられるのが、平成版「出島」。隔離された地域に外国人労働者を集め、そこに製造拠点を集約してしまうのだ。その中は日本国内でありながら、海外と同じ物価水準にしておく。外国人の人権問題は?労働者の海外送金はどうする?うーん。

(f)ものづくり義務制度(笑)
なんだかだんだんあちこちで矛盾やらほころびやらが出てきて、やはり説明がだんだん苦しくなってくるな。第三次産業の企業をすべて集約なんてのももちろん無理だし。となれば、少し「視点を転換」してみよう。ものの見方で結論は大きくちがってくる。たとえばだが、すべての企業に事業の一環としてものづくりを義務付けてみたらどうだろう?名づけて「ものづくり義務制度」。で、ものづくりを少しでもしている企業は、「ものづくり企業」ということにしてしまうのだ。たとえば街のクリーニング店でも、店の片隅で縫い物などしていれば、「衣服・その他の繊維製品製造業」とする。牛丼屋は牛丼をパックに入れて売れば「食料品製造業」という具合。どうしてもそれができない企業は、「ものづくり義務」を誰かに移転する代わりにコストを払う、というしくみを作ったらいい。「ものづくり義務取引市場」(!)を創設するのだ。これで自社が製造「したことにする」わけ。

(g)「サービス」は「もの」とみなす(笑)
そこまでいくならもう遠慮はいらない。「サービス」を「もの」とみなせば、すべてのサービス業は「ものづくり」企業となる。もう全部「もの」ってことにしちゃえ!銀行だって金融サービスの「製造」をしているし、不動産業だって仲介サービスの「製造」をしている。もちろん農林水産業だって建設業だって同じ。日本銀行だって紙幣を「製造」してるぞ!官僚も法案を「製造」してるし、学校で学ぶ子どもたちだってテストの答案を「製造」している。おおお!これなら日本の企業はすべて「ものづくり」企業、全国民が「ものづくり」に携わっていることになるぞ!!(赤ちゃんも汚れオムツを「製造」してるしな) これなら日本はまごうことなき「一億総ものづくり国家」となるではないか!!!定義を変更するだけだからコストもかからないし、なんとすばらしい。

いやぁこれですべて解決した。晴れて日本は「ものづくりに回帰」できることとなったのだ。よかったよかった。めでたしめでたし。

えーと、そういえば、製造業就業者って、昔はどのくらいいたんだろう?と思って調べてみる。総務省のサイトに1953年からの長期系列のデータがあったので、それを使って計算してみると、1953年時点で製造業の就業者は全体の18.4%。この時点で農林水産業従事者は全体の約39.8%、第三次産業従事者は32.5%。製造業従事者が最高になったのは1973年で27.4%だが、そのときの農林水産業従事者は12.5%、第三次産業従事者は46.3%。

このあたりはGDP構成比で見てもほぼ同じ結論(データ)。1955年時点で名目GDPに占める製造業の割合は28.4%、第三次産業は40.1%。製造業のGDP構成比が最も高かったのは1964年と1969年で35.3%だが、それらの年の第三次産業はそれぞれ42.6%、45.3%だった。それより以前の時代というと、農林水産業の割合が高そうだしなぁ。

あれ?とすると、日本で「ものづくり」が中心だった時代って、そもそもあったのか?「回帰」すべき過去ってのは、いつなんだ? 

…いやもちろん理屈は一応わかってるから。「マジレス」不要だから。ちょ、ちょっと屁理屈こねてみたかっただけなんだからねっ!

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Comments

戦争特需(笑)

とか

円安誘導(笑)

とか

どうでしょう?

Posted by: hidetox | December 27, 2008 03:46 AM

hidetoxさん、コメントありがとうございます。
あくまでネタですから、冗談にならなくなりそうなものは避けました。
本文の趣旨はおわかりいただけると思いますが、ネタ優先であまりまじめに書かなかったので、あえて付け加えておきます。経済はものづくりだけで成り立つのではありません。「ものづくり経済」信奉者の方が理想に思う(であろう)高度成長期には、金融契約としてのデリバティブはそれほどなかったかもしれませんが、代わりにメインバンク制や終身雇用制その他、さまざまなシステムが、事実上のデリバティブ契約のように働いて、企業や労働者をリスクから守っていたわけです。そのあたりの「自覚」があまりにないのはちょっと「痛い」のでは、ということですね。

Posted by: 山口 浩 | December 27, 2008 11:29 AM

> 「ものづくり経済」信奉者の方が理想に思う(であろう)高度成長期

やはりそうですよね!

コメントに書こうかどうか迷って消したのですが、私も「ものづくり」という言葉が使われる文脈によっては、それは「古き良き高度経済成長期」を意味すると思っています。それは未だに「バブルよ、もう一度」と思ってるオッサンと同じくらいイタい老害だと思っています。

>そのあたりの「自覚」

ひとことで言えば no free lunch ですね。トレードオフなのだから、得ようとするものの代償として、何を手放す必要があるのか分かってるのか?と。

Posted by: hidetox | December 28, 2008 02:54 AM

hidetoxさん
日本のものづくりがこれまでと変わってきていて、そこに問題があるという認識自体を否定するものではありません。ただ、どうも老人のよくやる「昔はよかった」論に近い匂いが感じられてしかたがない、と。日本の産業構造が製造業からサービス業にシフトしてきた原因の少なくとも大半は、市場万能主義でも金融工学でも構造改革でもホリエモンでもありません。「言ってることの意味わかってますか?」と言いたいわけですね。

Posted by: 山口 浩 | December 28, 2008 09:44 AM

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