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「配当を減らせ」ならまだわかるんだが

ごく手短に。雇用維持のために企業が「内部留保」を放出せよ、という議論をする人がいて、聞いてるとどうも剰余金のことを指していってるふうなんだけど、ちょっと待て。

こういうのは会計の専門家の人がもっとちゃんと正確に懇切丁寧に説明してあげるのがスジだと思うんだが。

剰余金というのは企業の貸借対照表の右側にある。純資産の部の中で、資本金と資本準備金を除いたもの。いってみれば確かにこれまでに挙げた「もうけ」の部分なわけではある。

貸借対照表は左側に資産の部、右側に負債の部と純資産の部があって、左側と右側の合計額が一致、つまりバランスするようになってる。だから「バランスシート」というわけ。簡単にいうと、左側が「企業が持ってる資産のリスト」、右側が「その資産がどこから出てきたかのリスト」になってる。で、その右側で、負債は借金などあとで払わなきゃいけないものだから、残りの純資産が正味の財産、つまり会社のオーナーである「株主の取り分」。その純資産のうち、「元手」の部分を除いたのが剰余金、と簡単にいえばそうなるわけで、だから「貯め込んでるお金」みたいに見えるのかもしれないけど。

でもねぇ。
甕に入れて庭に埋めてあるわけじゃないんだよ。

「内部留保」っていういいかたは、会社が挙げた利益を株主に配当として払うか、会社の内部に残しておくかという観点からのもの。内部に残すのは、投資に回すためだ。つまり内部留保というのは、本来ならそれなりの用途に使われているはず。ファイナンス的には運転資金の増加や在庫積み増しに回すのも投資。在庫はともかく、最近は金融機関がまともに仕事をしないので、手元資金は潤沢にもっておかないとそれこそ経営が危ない。会社ってのは、赤字を出したってそうそうつぶれないけど、資金が詰まったらあっという間に倒産するからね。

というわけなので、「配当を減らせ」というならまだわかるが、内部留保を吐き出せ、という議論はちょっといただけない。配当は社外流出なわけで、重大な状況なら減るのはいたしかたあるまい。それで株価が下がったり経営者の首が飛んだり、ひいては景気の悪化に拍車をかけたりすることになるかもしれないけど、そこはバランスの問題。一方、内部留保を吐き出せという話は、それがちゃんと有効に投資されてるとすれば無意味というか有害。操業してる工場を売り払うなんてできないでしょ?繰り返すが、内部留保は配当に回さなかった利益なわけで、内部留保と配当はちがうからね?そこんとこぜひよろしく。

あと、「貯め込まれた利益」にどうしてもこだわるなら、貸借対照表でいえば右側でなく左側、つまり資産の部のほうを見ないといけない。といっても、お金に色はついていないので、内部留保がどこに隠してあるなんて探し回っても意味はない。資産の中に無駄に保有されているものはないか、なくしてもかまわないものはないか、という視点で見ていくわけだ。現預金だって、不動産だって株式だって、必要でないものがあるなら、それを現金化して人件費に充てる発想は当然ありうる。いわゆる「埋蔵金」のほうが近い話かも?あとは当然ながら、損益計算書の「費用」のところね。ワークシェアリングの話はまさにここ。

とはいえ、そうやって雇用を守ったほうが企業の競争力の維持とか発展とかにつながるなら、という留保をつけたい。もちろん、大きな企業、商売がうまくいっている企業で社会的責任が大きいなら、それなりに社会貢献の観点が入ってくるべきだろうけど、本来企業にできることには限りがある。国にも自治体にも、労組にも地域社会にも、できること、やるべきことはある。もちろん個人にも。「100年に一度」かどうか別として、本当に危機なら、誰かのせいにしてすむ話じゃないはず。だよね?

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» 誤解を招く企業の内部留保と言う言葉 [文理両道]
 最近のニュースでは、非正規労働者の雇用問題に関連して、企業の何兆円もの内部留保がやりだまにあげられることが多い。  たしかに、雇用を継続できる能力のある企業は、景気を支えるために、できる限りの雇用確保をすることが社会的責任であろう。  ただ、気になるのは、この「内部留保」という言葉が正しく伝わっているかということである。どうも「内部留保」というと、企業がお金を銀行や金庫にそのぶんだけお金をため込んでいるというように思っている人が多いのではないかと思う。  実は「内部留保」=「ため込んでいる現... [Read More]

Tracked on January 31, 2009 at 02:29 PM

» H-Yamaguchi.net: 「配当を減らせ」ならまだわかるんだが [トレフォ - 投資家のためのソーシャルニュースサイト]
ごく手短に。雇用維持のために企業が「内部留保」を放出せよ、という議論をする人がいて、聞いてるとどうも剰余金のことを指していってるふうなんだけど、ちょっと待て。 [Read More]

Tracked on January 31, 2009 at 09:51 PM

Comments

埋蔵金も貸方の話じゃないかと。

Posted by: bo_rude | January 30, 2009 at 03:36 PM

同意します。ポイントは「会計を知らずに内部留保(剰余金)と言う無かれ」「お金に色はついていない」「人に責任をなすりつけるな」の3点だと思いました。
「増税するなら用途を示してもらわないと」とか言ってる野党の方もいらっしゃいますが。うーん、何も分かってない。とはいえ、そんな政治家を当選させる有権者のレベルを反映しているわけですから、我々自身が賢くなり、また隣人を啓蒙しないといけない。「人に責任をなすりつけるな」の精神で。

Posted by: hidetox | January 30, 2009 at 03:53 PM

コメントありがとうございます。

bo_rudeさん
ええと、どういう理屈ですかね。

hidetoxさん
彼らのいいたいこともわからなくはありません。要するに金はあるだろうというわけです。配当に回してる分に関しては、考えてもらってもいいんじゃないかと思いますね。このご時世に「安定配当」でもなかろうと。ただ、ちゃんと理屈がわかってないと変な話になっちゃうよ、ということですね。

Posted by: 山口 浩 | January 30, 2009 at 09:28 PM

どのお金のことを言っているのか、私も疑問でした。
しかし、記事の通り、まともに検証したら、どれも曖昧なことばかりです。
結局は「感情を共有しろ」ということなのでしょう。
それならそれでわかりますけど。

「今日、明日のめし」のことだし、「お金」のことだし、誰でもわかる本当に大切なことなんだから、相手を尊敬してまともな話をしたいのなら、そもそも話の持ちこみかたにリアリティがなさすぎる。
相手をなめているとしか思えない。
だから議論にトヨタやキャノンを引っ張りこめない。
と、思いますけど。


Posted by: 山田 利夫 | January 31, 2009 at 12:45 AM

山田 利夫さん、コメントありがとうございます。
まあ、姜尚中氏に会計の知識がなかったとしても恥ずかしいことではないと思いますが、話が混乱するので誰か言ってやってよ、ということです。あと、「昔の経営者はそんなことをしなかった」という話には「歴史も勉強したほうがいいよ」といいたくなりますね。
「トヨタやキヤノン」をあげつらう人は、私たちが直面している現実から目をそらそうとしています。それは、私たちの社会が昔も今も企業に「柔軟なコスト構造」を求めていて、そのためには「柔軟な雇用」か「柔軟な賃金」、またはその両方を必要としているということです。それをどのような制度や契約、慣行で実現するかはその時代背景や法律、人々の考え方などによって変わります。
企業側にやれること、やるべきことがまだたくさんあるとは思います。ただ、何にせよ、「原因は○○だ!」とひとことで片付けようとする言論には距離をおいたほうがいいですね。ものごとの本質からそれてしまうし、解決を難しくしてしまうしで、あまりいい結果にならないと思います。

Posted by: 山口 浩 | January 31, 2009 at 09:38 AM

私の言いたかったことがココに書かれていました。「内部留保を取り崩せ」という、よく意味のわからない主張が多い中で、この記事を見つけて少しホッとしております。

「利益剰余金」を持ち出すから、議論がかみ合わないんですよね。労働組合だけでなく政治家まで、そんなことを言い出す始末。もう少し会計のお勉強をして頂きたいところです。

中には、資本剰余金まで内部留保と思っている人もいるようですし・・・。

これは内部留保を誤解している人たちへの提案なのですが、「利益剰余金を取り崩せ」と言うのならば、素直に「雇用を維持しろ」と言えばいいと思うんですよね。人件費の増加は減益要因であり、利益剰余金の減少要因ですから・・・。

Posted by: ヨシダ | January 31, 2009 at 02:14 PM

以前、私のブログでも同様の主張をしましたが、何分弱小ブログのこと、ほとんど反響がありませんでした。
みんな言葉の響きだけで、勝手な定義を頭の中で下して議論している節がありますね。
本来マスコミは、その当りの正確な情報を伝えないといけないのですが、逆に変な方にあおっているような気がします。

Posted by: 風竜胆@文理両道 | January 31, 2009 at 02:33 PM

コメントありがとうございます。

ヨシダさん
「儲かってるんだから何とかしろ」といいたいわけですね。気持ちはわかるんですけど。

風竜胆@文理両道さん
この記事はもとより「何をいまさら」なわけです。わかってらっしゃる方はたくさんいると思います。マスメディアにもたくさんいるはずなんですけどね。業界の方々とお話しする機会があってわかってきたんですが、ああいう報道は、わかってない方が、すぐ横にいるわかってる人に聞かないでやってるようですね。で、わかってる方は、それを「わかりやすく伝える一環」として黙認してると。

Posted by: 山口 浩 | February 01, 2009 at 09:24 AM

>bo_rudeさん
>ええと、どういう理屈ですかね。

公会計は単式簿記なので、貸借の概念は無いのは承知していますが、「埋蔵金」とよばれているものは特別会計の剰余金や積立金で、複式簿記なら貸方に仕分けられるものではないか、という理屈です。

公会計では、現金収支の残りが積立金や剰余金として繰り越されるので、本来はキャッシュ裏づけはあるといってもよいとはおもいますが、特別会計の余裕金は財政融資資金に預託され、そこから地方自治体やその他の特別会計に融資されるので、個々の特別勘定に剰余金、積立金残高があるからといってすぐに使えるキャッシュは無い場合があるのではないでしょうか。

この点で、内部留保と埋蔵金の議論は同じものだと思います。

Posted by: bo_rude | February 01, 2009 at 12:04 PM

コメントありがとうございます。

bo_rudeさん
ご趣旨わかりました。私埋蔵金関係のことをよく知らずに書いてました。すいません。私の趣旨は、会計上お金があるように見えても、実際にどのような資産の状態で保有されてるかを見ないとだめよということなんですが、埋蔵金というのは実際にすぐに使える状態の預貯金とか有価証券とかで保有されてるんですか?その意味では「左側」の話でもあると思うんですけどね。

ヨシダさん
すいません隣にあったスパムとまちがえてクリックしてコメント消してしまいました。申し訳ありません。不適切なことばを使うと議論がわかりにくくなるからやめてくれ、という方向性ですね。それも同感です。

Posted by: 山口 浩 | February 02, 2009 at 09:37 AM

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