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前の席に座りたまえ

小ネタ。講義の際、どのあたりの席に座るかという問題がある。一般論的には、前の席に座る人のほうが後ろの席に座る人よりまじめに聞いている、みたいな話。後ろに座っている人を前に移らせるという教員もいる。私はそこまではしないが、感覚的にはまあ似たような印象を持っていることを否定しない。

実際のところどうなの?という話についてはよくわからないが、2007年5月5日付朝日新聞にこんな記事があった。リンク先が消えているので引用するとこう。

後ろに座る学生、教員に厳しく自分に甘く 産能大調べ
教室の後方に座る学生はテストの成績は悪い一方、講義への評価は厳しかった――。産業能率大の松村有二・情報マネジメント学部教授が約140人の学生を対象に調べたところ、そんな傾向が明らかになった。調査は、05年9月~06年1月の松村教授の「調査の基礎」の受講生を対象に、ICカードを渡し、座席の端末に載せることで、誰がどこに座ったかがわかる。11回の講義で各学生の着席パターンを記録。期未試験と授業評価アンケートの結果を、前方(32人)、中央(81人)、後方(30人)の3グルーブに分けて分析した。試験の平均点では、前方51・2点だったのに対し、後方30・9点と、20点以上開いた(中央43.9点)。授業評価では、「配布資料の役立ち具合」「教員の熱意」など全項目で後方が厳しい評価をした。後方グループには、教員に厳しく、自分に甘い姿勢がうかがえる。分かりやすい講義をするために調査を始めた松村教授は「(後ろに座るのは)自分が教員から見えづらいよう、少しでも長い距離を取りたいのかもしれない。でも、見え方は同じなんですがね」と話している。

松村有二教授というのはこの人。調べてみたい人は多かったろうこの問題についてそれなりにちゃんと調べたのはご立派。「後方グループには、教員に厳しく、自分に甘い姿勢」という解釈についてはさまざまな場合、さまざまなご意見があろう。これは学生の意欲や質の問題であると同時に、教員や授業の質の問題でもあるからだ。

ある先輩教員の方が、「教室の前から後ろに行くにつれて、座っている学生の髪の色がグラデーションのようにだんだん明るくなっていく」という「法則」を教えてくれた。前のほうは黒、後ろにいくとだんだん茶色に、最後列のあたりは金色に、というわけ。個別の例をみると必ずしもそうとは限らないのだが、おおまかな印象レベルではそれなりに説得力がある話のように思う。おそらく成績についてもそうなんだろう。全体の傾向は上記のとおりでも、例外はたくさんあるはず。

アメリカのビジネススクールにわずかの間いたことがあるが、そこでは若干状況がちがった。教員の立っているフロアが一番低く、それを取り囲むように学生の席が階段状に配置されている教室を思い浮かべていただきたい。私は比較的前のほうに座っていたのだが、ディスカッションで最もこわいのは、たいてい最後列あたりに座っている学生だった。議論の全体を俯瞰したいから後ろに座っていたのだろうか。他の学生に振り向かせたいからなのだろうか。ともあれ、そういう人は声も大きくて、絶妙のタイミングで議論の流れを一気に変えるような鋭い発言をしていた。日本にもそういう学生はきっといるのだろうが、あまり目立たないのは、講義スタイルの差なんだろう。特に議論、中でも学生間での議論をすることが少ないという要素は大きいように思う。

で、こんな話をだらだら書いてるのには訳があって。

先日、とある教職員向けの説明会があって、会場に行ったら、広い会場だったせいもあるのだが、見事に全員が会場の後ろ側の席に固まって座っていたからで。おいおい学生にふだん何て言ってるんだ?と内心つっこみを入れたが、当然ながらそれは自分にもそのまま返ってくる話で。だからといって自分だけ最前列に座るつもりもなく、見事に流されて後ろの席に座って。結局、何を聞きに来てるかという問題であるわけだが。これじゃ学生に「前に座れ」といいづらいな、と。

というわけで。それでも学生さんたちには、とりあえず前に座ったほうがいいよ、とは言っておきたいのだが、それはそれとして教員としては、まず自分が興味を持たせる努力をすべきなんだよなぁ、というこれまた当たり前の結論に落ち着かざるを得ない。全員を前の席に殺到しようとするくらいにするのは難しいけど、その中で少なくとも一部に、前に座ってよく聞こうと思わせるぐらいにはなりたい。で、その割合が少しでも高いほうがいい。日々精進だね、というと面白くもなんともないオチで申し訳ないんだが。

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Comments

おいらは大学生の時に、熱意を持って講堂の前の方に座ったら「気が散るからもっと後ろに座れ」と講師に公衆の面前でいわれたことがあります。嫌な思い出です。はい、三流大学ですw

Posted by: たか | February 09, 2009 at 08:29 AM

たかさん、コメントありがとうございます。
状況がわからないので何ともいえませんが、嫌な思いをされたのはよくわかります。自分の熱意を拒否されたように感じますよね。少なくとも私には、そういうふうにいう講師の心境というのは理解できませんし、私の知る限りで、そういうことをいう教員の方も知りません。まあ、いろいろな人がいますから。あまり人が体験しないことが体験できたわけですから、経験値が上がったと受け取っておくのがいいのではないでしょうか。

Posted by: 山口 浩 | February 09, 2009 at 09:26 AM

>>中でも学生間での議論をすることが少ないという要素

私はゆとり教育の洗礼を受けているので、学生間での議論というものは大学になって初めてしました。

>>まず自分が興味を持たせる努力をすべきなんだよなぁ

これは、塾の講師や、偏差値が50以下のゆとり教育下の小中高の授業を受け持つ先生がすべきことで、大学教員には当てはまらないと思います。

あと、後ろの方に座りたい人は、前の様子をうかがいたいという気持ちも強いのではないかと思います。


Posted by: 福井県 | February 09, 2009 at 11:22 PM

福井県さん、コメントありがとうございます。
「ゆとり教育」と関係あるんですか?むしろ旧来の詰め込み教育のほうが生徒間のディスカッションを軽視していたように思いますがどうなんでしょう?小学校でもホームルームとかありますよね?
「興味を持たせる努力」は大学教員にも必要だと私は思います。少なくとも自分には足りないというのはよくわかりますので。
「前の様子をうかがいたい」というのはどういう意味なんでしょう?「まじめ」に取り組むことを恥ずかしいと思う心理、ならわかりますけど。

Posted by: 山口 浩 | February 10, 2009 at 09:51 AM

はじめまして、こんにちは、現在大学生です。
田舎の国公立ともあって、真面目な生徒が多いです。でも、欠席ゼロなのに席は一番後ろ、ノート完璧なのに質問なし、型の生徒が多すぎて面白くありません。(テスト前になるとそういう方々のノートを拝借していたので悪くはいえないのですが。)
高校までならそのスタイルでいいでしょうけども、大学までそのスタイルではせっかくの醍醐味が半減するのでは、と思います。
先生方も鋭い質問をまっておられることでしょう。
山口先生が授業をおもしろくしようとなさってることは素敵なことだと思います。ですがそれも肩入れしすぎると、生徒の顔を伺う授業になってしまうのではないか、とも思います。先生のブログを読んでる限り十分におもしろいですよ。

Posted by: わたる | February 10, 2009 at 10:58 AM

わたるさん、コメントありがとうございます。
地方の国公立にはそういう学生さんがたくさんいるのですね。なるほどそういうものですか。
「面白くする」というのは、別に冗談をいうことでもなければ、ネタに走ることでもありません。そういうことをやるときもありますが、それはそういうのが私の「地」だからで、意図しているわけではありません。知ること、学ぶことをうれしく思わせるような教え方、もっと知りたいと思わせる教え方というのがあると思います。そういうふうにできたらいいな、というのが目標です。

Posted by: 山口 浩 | February 10, 2009 at 05:09 PM

意味が伝わりづらくてすみませんでした。

ゆとり=2chなどで勉強をしない人、薄っぺらい内容のカリキュラムの学習を受けた人
の意味だと解釈しています。これは、この単語を自分自身への言い訳として使いたかったので
放置させてください。

討論は、小学生でもするかもしれませんが、
個人的にそこを重要視する教育者や生徒が多くはないと思います。。

「まじめに取り組むことを恥じる心理」
という的確な言葉が見つかりませんでした。
まじめな印象を持たれたくない心理は私も

観察されている=私の経験上、そう思い込んでいるだけかもしれませんが、
以前、知り合ったばかりの人に
「講義ををよく前の席で聞いてるよね。
だから顔は前から知ってたよ。しかも前の席なのにたまに寝てるよね。」
と何回か言われたので、個人的にそう思っているだけかもしれません。

稚拙な文章へのご指摘、ありがとうございます。

Posted by: 福井県 | February 10, 2009 at 10:10 PM

訂正
× まじめな印象を持たれたくない心理は私も
○ まじめな印象を持たれたくない心理は私にもあり、
いかにも「真面目です!」という雰囲気の人を見ると謙遜してしまいます。

重ね重ねすみません。

Posted by: 福井県 | February 10, 2009 at 10:20 PM

福井県さん
「ゆとり教育」は悪くいわれることが多いのですが、もともと受験競争のための詰め込み教育に対する反省から生まれたことは思い出してしかるべきです。それに、「円周率がおおむね3」みたいな目立つところもありますが、別に教育内容が半減したとかそういうことではありませんしね。「ゆとり世代」といわれる人たちが自らを卑下する理由に使われることの弊害のほうが大きいのではないかと思います。

私は学生時代、前の方に座って寝るタイプでしたので、今学生さんたちが同じことをやっていても、文句をいうつもりはありません。ただ、そういう中でも、絶対寝ないで一心不乱にノートをとる授業があったので、ああいう教え方ができたらいいな、と思っています。

まじめにふるまう人を揶揄する風潮は、昔からありましたし、今もあるでしょうが、そういうところでは、空気を読まないほうが後悔しないですむような気がします。あとで「ああ学生時代にもっと勉強しておけば」と思う人、多いんですよ。今だと、大学3年くらいで早くもこういう感想をお持ちの学生さんも多いかもしれません。そのくらいから就職活動が始まりますからね。

Posted by: 山口 浩 | February 11, 2009 at 11:21 AM

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