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October 09, 2009

"IQ and Stock Market Participation"

Mark Grinblatt, Matti Keloharju, and Juhani T. Linnainmaa (2009). "IQ and Stock Market Participation," Chicago Booth Research Paper No. 09-27, CRSP Working Paper.

概要
An individual’s IQ stanine, measured early in adult life, is monotonically related to his stock market participation decision later in life. The high correlation between IQ and participation, which exists even among the 10% most affluent individuals, controls for wealth, income, and other demographic and occupational information. Supplemental data from siblings is used with both an instrumental variables approach and paired difference regressions to show that our results apply to both females and males, and that omitted familial and non-familial variables cannot account for our findings.

ある程度想像がつく結論ではあるが、きちんと確かめたのは重要。フィンランドのデータでやってるというのがひとつのポイントではある。身も蓋もないこういう研究は日本ではなかなかやりにくそう。すぐ格差論とかになっちゃいそうだし。

フィンランドにおける株式市場への参加とIQとの関係を探った論文。かの国では兵役のためにみんな20歳ごろIQテスト、正確にはFAF (Finnish Armed Forces) Intelligence Assessmentというそうだが、そういうものを受けるのだそうな。その結果たるスコア、the FAF composite intelligence scoreをこの論文ではIQと呼んでいる。これは1~9の各段階に分かれている(9が最もよい)のだそうで、私たちが普通IQと呼んでいるものとはちがう。同じ能力を測ったものなのかどうかはよくわからないが、少なくとも著者はそう判断している。サンプルの規模は約16万人だそうで、フィンランドの人口規模を考えればかなり大きい。全件、なのかもしれない。

で、そのスコアがその後株式市場に参加したかどうかと関係あるかどうかを別のデータと付き合わせたというわけ。その他の属性、たとえば財産や収入、婚姻状態、子どもがいるかいないか、年齢や持ち家状況、言語、就労状況や職業、教育や居住地なども考慮している。もともとフィンランドは高等教育が無料で、人種のバリエーションも少ないから、IQの差がそうした要因によって左右される要素は比較的少ない。テストは兵役のためのものなので、テスト結果のサンプルは男性のものしかない。女性については、男兄弟がいる人を探して、その男兄弟のテスト結果を代理変数として使っている、と。

で、その結果、IQが株式市場の参加に大きな影響を及ぼす、との結果が得られたというわけ。

IQは、収入よりも株式市場への参加に大きな影響を及ぼすのだそうだ。収入の多寡にかかわりなく、IQの高い人は低い人に比べてより株式市場への参加率が高い。男女での傾向の差もみられない。考えられる他のいろいろな要因を切り離しても、IQと株式市場の参加との関係はみられたわけで、ロバストな結果というわけだ。

それから、IQの高い人ほど個別株より投資信託を好む傾向があり、また投資先の分散も進んでいる、と。つまり「理論」に沿った「合理的」な判断をしている、という含み。

著者たちは資産価格付け理論上の大きな問題であるequity premium puzzleとの関連でこの結果を論じているが、一般的にはもう少し下世話な関心を呼びそうな結論ではある。証券関係の人は、株式投資を広めるためにはもっとわかりやすい説明をしようというかもしれないし、教育関係の人は、教育にもっと力を入れれば株式市場への参加率は高まるかも、という議論をするかもしれない。皮肉屋さんなら、頭のいいやつに限ってひっかかるとかいうかも。予測市場のからみでいうと、株式市場のモデルを使う集合知メカニズムには限界があるという見方になるか、むしろ逆にそのほうが高レベルの「知」を集められるという見方になるか。パーソナルファイナンス面でいうなら、わからないものに手を出すなという意味である種健全な結果ともいえるかも。

もし日本でやったらどういう結果になるかな。こういうデータ、出てこないだろうなあ。


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Comments

IQが高い->知的集約産業に就ける->収入がわりと高い->余ったお金を投資に
っていう因果関係はみられなかったのですね。...
うーん、どうしてIQと株式市場の参加との関係があるのか私には想像がつかないです。
どうしてだろう。

Posted by: のひ | October 09, 2009 10:57 AM

のひさん、コメントありがとうございます。
ちがうんです。収入がドライバーじゃないんです。そこがこの研究のミソです。私が考える最も自然な仮説は、株式投資という行為がそもそもけっこう複雑なものであって、ある程度の知的能力がないと充分には理解できないのではないか、というものですが、他にもありうるかもしれません。いずれにせよ、いろいろなインプリケーションがありますね。

Posted by: 山口 浩 | October 09, 2009 05:34 PM

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