« 11月1日、駒大で「セカイカメラ宝探し」をやるよ、という話 | Main | セカイカメラで遊んでみた話 »

November 02, 2009

いつから結婚詐欺はネット犯罪になったのだ

こういう話は前からよくあってほんとに「なにをいまさら」な感じがする。しかしなんというか、こういうのは「Gの字」のように、ほっとくといつのまにか跋扈するようになったりするから、めんどくさいが出てくるたびにしつこく叩いておくべきだと思う。というわけでひとことだけ。

福島瑞穂消費者・少子化担当相は31日、宮崎市内で記者会見し、「結婚詐欺などのネット犯罪が話題になっている。消費者問題として、ネット犯罪をどう防げるのか検討したい」と指摘した。(毎日新聞2009年11月1日

いつから結婚詐欺はネット犯罪になったのだ。

たいていの問題はことばの定義の問題でもあるわけで、まあ一応「ネット犯罪」の定義はある程度考えとかないといけないだろうと思う。一番簡単にいえば「ネットを犯行の主な舞台とする犯罪」ぐらいになるんだろうか。典型的なものといえば、ワンクリック詐欺とかフィッシングとかかな。ネットオークション詐欺も入るか。ネットでの殺人予告なんかも入れていいだろうと思う。

警視庁のサイトに「情報セキュリティ広場」というページがあるが、この中の「ハイテク事件簿」なるコーナーにはこんな事件が載ってる。こういうのが「ネット犯罪」ってことでたいていの人は納得するんじゃないだろうか。
・日本のテレビ放送を無断で海外の顧客に視聴させていた被疑者らを逮捕
・ネットゲーム代金欲しさから、他人名義の銀行口座を買い取った少年を書類送致
・録画したテレビドラマをインターネット上に流した男を逮捕
・銀行のネットワークへ不正アクセスし電磁的記録を損壊した男を逮捕
・フィッシングを利用しネット銀行から現金を騙し取った男を逮捕
・発信元を偽り、迷惑メール約22億通を送信した男を逮捕
・オンラインゲームに不正アクセスした16歳の少年を逮捕
・電子マネーをだまし取った被疑者の逮捕
・同僚の携帯メールを無断で自己のフリーメールアドレス宛に転送した被疑者を逮捕
・ネット銀行に対する不正アクセス禁止法違反、私電磁的記録不正作出・同供用事件の被疑者の逮捕
・インターネット証券会社に対する不正アクセス禁止法違反被疑者の逮捕
・フィッシングを利用したオークション詐欺被疑者らの逮捕

ネットでの殺人予告はそれ自体では殺人未遂ではなく脅迫やら業務妨害やらなのであって、それはネット上でなされるから、ネット犯罪と呼ばれても別におかしくはない。では、たとえばネットで予告した殺人を実行したらこれはネット犯罪なのか?「そうだ」と答える人もいるかもしれないが、「そうではない」と考える人のほうが多いのではないか?いうまでもないが、よほど「工夫」しない限り、ネット上で人を殺すことはできない。殺すためにはたいてい、実際にその人に会わなければならない。

特にこの事件の場合、被疑者と被害者はネットで知り合ったとはいえ複数回実際に会っていたようだ。ネットで知り合って、会ってすぐというならともかく、その後のつきあいがあったわけだから、ネットの要素はかなり薄れているはず。これを「ネット犯罪」と呼ぶのは、被疑者が被害者と電話で話したことがあるから「電話犯罪」と呼んだり、レストランでの合コンで出会ったから「レストラン犯罪」と呼んだり、学校のクラスメイトだったから「教室犯罪」と呼んだりするのと同じことではないか。

しつこくつっこむ。この被疑者がネット上で行ったと疑われている行為で犯罪にあたるのはいったいどの部分か。複数の紹介サイトに登録したことか?紹介サイトに虚偽のプロフィールを登録したことか?真剣に交際する気もない相手とメールのやりとりをしたことか?おそらくだがいずれもちがう。交際関係(ないし交際しているとの虚偽の認識)をもとに詐取の意図をもって金を無心したことと、実際に殺害したことだ。これらはいずれも、ネットとは直接関係がない。仮に金の無心をメールで行っていたとしても、交際関係があるという前提なら、それはネット上での問題ではない。

確かにネット犯罪は数多く存在するし、増えてもいるんだろうし、解決すべき課題が数多くあることも事実だろう。しかし、だからといって、典型的な結婚詐欺や殺人を、ネットが多少からんだからといって、なんでもかんでも「ネット犯罪」と呼ぶのはやめてもらいたい。それを引き合いに出してネット犯罪対策を語るのはさらに言語道断といわざるを得ない。

これ以上話をひっぱるのもあまり意味がないと思うのでこのへんで。

|

« 11月1日、駒大で「セカイカメラ宝探し」をやるよ、という話 | Main | セカイカメラで遊んでみた話 »

Comments

下記の「ネットワーク利用犯罪」に当たるのではないでしょうか。

「ネットワーク利用犯罪の定義:犯罪の構成要件に該当する行為についてネットワークを利用した犯罪、又は構成要件該当行為でないものの、犯罪の実行に必要不可欠な手段としてネットワークを利用した犯罪をいう。」

http://www.npa.go.jp/cyber/statics/h21/pdf50.pdf

Posted by: ym21 | November 03, 2009 06:43 PM

ym21さん、コメントありがとうございます。
「ネットワーク利用犯罪」の典型的な例としては以下のようなものが挙げられています。
・電子掲示板に販売広告を掲示し、覚せい剤等の違法な物品を販売した
・インターネットオークションで、自分が持っていない品物を出品し、落札者から代金をだまし取った
・インターネットに接続されたサーバコンピュータにわいせつな映像を置き、これを多くの人に対して閲覧させた

もとより専門家ではないので法令の解釈に自信があるわけではありませんが、今回のケースがそれにあたるとは思えません。少なくとも典型的な例ではなく、ネットをどうにかすれば結婚詐欺が防げるというものでもないわけで、大臣の主張が適切なものとはいえないとの意見に変わりはありません。

Posted by: 山口 浩 | November 04, 2009 01:13 PM

The comments to this entry are closed.

TrackBack


Listed below are links to weblogs that reference いつから結婚詐欺はネット犯罪になったのだ:

« 11月1日、駒大で「セカイカメラ宝探し」をやるよ、という話 | Main | セカイカメラで遊んでみた話 »