行動経済学会の発表がめちゃめちゃ面白そうなんだが
今週末、2009年12月12~13日に名古屋大学で行動経済学会第3回大会が開かれる。会員でもないのにこのことを書いてるのは、発表がなんだかえらく面白そうだからだ。というか、にもかかわらず行けないからだ。
一応、日程は2日間あるんだが、ぱっと見渡したところ、初日のほうが面白そうだったんで、こっちだけとりあげておく。予稿が公開されてるようなのでリンクもはっとく。一部ちがうのもまじってるがほぼ同じ内容っぽいので。PDFなので注意。
招待講演
「Using Decision Errors to Help People」
George Loewenstein (Carnegie Mellon University)
Loewensteinは「Herbert A. Simon Professor of Economics and Psychology」という肩書きがついてる。Intertemporal choiceの研究をしてる人。この「intertemporal」ってのが日本語で何といっていいかわからんのだが、要するに時点をまたいだ選択問題、みたいな感じ。リアルオプション理論もintertemporal choiceの一種だが、ファイナンスなので少しアプローチが異なる。従来、intertemporal choiceでは割引効用みたいな話をしてきたわけだが、それじゃ現実とあわないよ、というわけ。「Decision Errors to Help People」かあ。ひょっとしたら似てるかもしれないことを漠然と考えていたのでなんかそそる。
特別セッション「経済政策の行動経済学」
「政治的意思決定におけるマーフィーの法則」
村瀬英彰(名古屋市立大学)
「現状維持の政策決定について」
福田慎一(東京大学)
「中央銀行と民間部門の双方向コミュニケーション」
木村武(日本銀行)
青木浩介(LSE)
この中では「マーフィーの法則」に注目。アブストラクトが示唆に富んでいるので全文引用。
経済の特定部門で発生した不正不全に起因して経済がそのパフォーマンスを低下させたとき、民主主義制度の下で多数票獲得を目指す政治家は、その特定部門に対して一般投票者が抱く敵意や反感を含む処罰感情に応えるという制約に服しながら経済政策を立案しなければならない。本報告では、こうした感情制約が立案される政策のポジションや政策実行のタイミングにいかなる歪みを生じさせるのかを議論する。とくに、投票者の処罰感情は処罰的な政策がいったん実行されると充足され希薄化されるという事前・事後の変化を伴うものである点を考慮し、こうした投票者サイドの時間的非整合性に直面する政治家の政策操作が政策の振幅や問題解決に有益な政策の実行遅延をもたらすことを示す。
すごいね。まるで最近の状況をそのまま写し取ったかのようではないか。「資金制約」はよく聞くが「感情制約」というのは初めて聞いた。これ、ある種キーワードかもしれん。
行動ファイナンス
「ストックオプションと企業の収益性―オプション価格評価額に基づく実証分析―」
花崎正晴(日本政策投資銀行設備投資研究所)
「株価モメンタムと出来高の関係―投資家の株価トレンド追随行為からの解明」
三輪宏太郎(東京海上アセットマネジメント)
「昭和と平成における日本のヒット曲―流行歌の音程・音域・イクタスと経済状況の関係の分析」
保原伸弘(一橋大学)
この中ではやはり最後の「ヒット曲」論文に注目したい。「イクタス」って何じゃい?と思ったら、「本来より高い音域を楽器に奏させることにより独特の緊張感を生む効果を狙った管弦楽法を「イクタス」を使ったオーケストレーションという」のだそうで。カウンターテナーも一例なのだとか。つまり、音楽に表現された緊張感とか高揚感とかが、それが作られた時代の経済状況と関連があるかどうか、という研究らしい。ほほお。
インセンティブ・評価・労働
「隣人はあなたをやる気にさせるか?:実験室実験によるアプローチ」
山根承子(大阪大学)
「公正感とはいかなる知覚か」
江夏幾多郎(名古屋大学)
「管理職の自己評価に男女差は存在するのか?」
大薗陽子(慶應義塾大学)
この中では「公正感」が特に面白そう。いかなる知覚なんだろういったい。「実体が不透明な処遇をも公正と見なす人々の事例からは、公正感が処遇実態の妥当性への非論理的な確信であることが明らか」なのだそうだ。「ヒューリスティクスの上に成立している「反実仮想」」だ、と。で、どうも「子曰:民可使由之;不可使知之」みたいな要素があるらしい。改めてすごいね孔子って。
あと、管理職の自己評価の男女差も興味あるなあ。どうも、「「業務遂行能力、実行力」、「責任感、目的達成意識」の2項目に関しては、女性管理職の方が男性管理職よりも有意に自己評価が高かった。また、「幅広い知識・教養」、「判断力」の2項目に関しては、男性管理職の方が女性管理職よりも有意に自己評価が高かった。」らしい。ふうん、というしかないが、politically correctな反応としては、むしろ有意に男女差があらわれたこと自体に驚くべきなのかもしれない。
実証行動経済学
「Decision to get influenza vaccination: A behavioral economic approach」
筒井義郎(大阪大学)
「主観的幸福度のセルフレコーディング手法の開発:カレンダー・マーキング法」
佐伯政男(慶應義塾大学)
「仮想的質問による消費理論の検証:日米比較」
窪田康平(大阪大学)
インフルエンザのも面白そうだが、「カレンダー・マーキング法」に一票。もともと、ライフイベントを記録することで行動を望ましい方向に変えていく手法であるらしい。あ、なんだこれのことじゃないか。この方のやってたことはちゃんと裏づけがあったわけね。これを応用して、主観的幸福度を自ら評価し記録していくことで、幸福度の向上につながるか、みたいな話らしいが、少なくともこの研究の結果としてはそういう関係は見られなかった由。
ううむますます行きたくなったのだが。ううむ。
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Comments
「可」「不可」のあとの「,」は不要です。これでは意味が通りません。
Posted by: hoge | December 12, 2009 12:50 AM
hogeさん、ご指摘ありがとうございます。修正しました。
すいません。ふつうに「子曰民可使由之不可使知之」かなと思ったのですが、中国語の雑誌等をみると句点のような点が入っているので、この文章だとどうなのかなと思ってbaiduで調べたらこう書いてあるのを見かけたもので。要するにわかってないってことです。お恥ずかしいです。
Posted by: 山口 浩 | December 12, 2009 02:00 AM