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March 19, 2010

「鳩山政権の一〇〇日評価」を評価してみる

言論NPOという団体がある。正式には「認定特定非営利活動法人言論NPO」というらしいのだが、それはともかく、その言論NPOから冊子をいただいた。「言論ブログ・ブックレット 鳩山政権の一〇〇日評価」工藤泰志編、とある。本当はもうちょっと前にいただいていたのだが、あれやこれやの間に時間が経過してしまった。もはや賞味期限切れなのかもしれないが、ブログで論評してくれるなら送るという条件でこちらから頼んで送ってもらったものでもあるわけで、必ずしも義務ということではないのかもしれないがやはりやっときたい。まあ100日が180日になったからといって話が大きく変わるというもんでもなさそうだし、ご勘弁を。

というわけで、ひとくさり。しつこいようだが世間的には無駄に長い文章が芸風とされているらしい(本人はそうは思ってないが)ので、あらかじめ念のため。

このNPOがどういう団体なのかいまひとつよく知らないのだが、選挙前とか折に触れてマニフェスト評価をやったりしていたのは記憶している(確かこれ)。ウェブサイトのトップページのタイトルにも「マニフェスト評価の言論NPO」とあるから、他に何をやってるかは別として、マニフェスト評価はこの団体の主要な活動の1つなんだろう。「はじめに」をみると、そのあたりが少し書いてある。

ハネムーン期間といわれる一〇〇日を過ぎれば、どんな政権でも有権者の厳しい監視の下に置かれる。日本の政治にそういう緊張感ある関係をつくりたいと、言論NPOは政党のマニフェスト評価や政府の実績評価とは別に「一〇〇日評価」を公表しています。
この取り組みは安倍政権から実施し、今回で四回目となりますが、これまでと異なるのは一〇〇日時点の評価を数値で表し公表したことです。

一応、やろうとしているのは政権評価だが、今回の民主党政権はマニフェストを前面に打ち出して勝利した初めての政権だから、マニフェストから離れることはできないということになるらしい。「民主党のマニフェストの実現を追跡すると同時に、実現のために必要なインプット(財源や体制)が投入され、実現の道筋が描かれたのか、政策実行に関するプロセスで政権のリーダーシップと十分な説明責任が発揮されたのか」について評価した、とある。マニフェストを基準とした政権評価というわけだ。「言論NPOの評価基準に基づき、各分野の専門家で構成される二〇人の評価委員との議論や、二〇〇〇人の有識者向けのアンケート(回収は三二四人)を軸に行っ」た、と。

で、結果はどうかというと、もうどこかで報道されてるのかもしれないが、これがまあ見事なくらいに低いわけだ。簡単に紹介するとこう:

総合:C

経済政策:C
外交・安全保障:C
財政政策・予算編成:C
少子化対策:C
年金・後期高齢者医療制度:C
医療・介護政策:B
環境政策:B
雇用政策:B
農業政策:C
高等教育政策:C
新しい公共(雇用対策・社会的企業支援):C
新しい公共(公益法人):B

ほとんどC。AからCの三段階評価で一番下のC。大学だとその下に不可のFとかがあったりするからCは一応単位取得というわけだが、それとはちがうのだな。こうなると逆にBが何かのほうが気になったりするぐらいだったりもする。一応解説も読んではみたが、解説の文章と得点とが直結しているわけでもないので、正直ちょっとわかりにくい。医療・介護政策に関しては診療報酬引き上げや医師養成の強化など、環境政策については例の25%減、雇用政策についてはセーフティネット構築、公益法人改革に関しては事業仕分けとかが得点を若干引き上げたらしい。実際には、それぞれの内訳項目に関してさらに実績評価、実行過程、説明責任と3つに分けて評価してるから、それなりに細かな作業を行った結果といえようか。

全体としてみれば、この評価自体にさしたる違和感はない。これは予想された事態だった。もともと言論NPOは、2009年8月の衆院選前のマニフェスト評価でも、民主党のマニフェストを自民党のそれよりやや低く評価していたのだが(資料)、その際の大きなポイントだった政策間の体系性の欠如や財源への不安はそのまま100日時点での低評価につながっている。実際にもこのあたりへの不満は強いようで、内閣支持率を云々するまでもなく、現政権に対する評価は下落の一途を辿っている。こうした厳しい評価を受けてこの冊子では、政権に対して3つのことを要求している。
・マニフェストの変更について国民に説明すべき
・2010年7月の参院選までに新たなマニフェストを策定すべき
・政策実行過程を透明化すべき

マニフェストに掲げながら実際にはうまく政策に盛り込むことができなかった、あるいは不充分な結果になっているものは少なくない。そういうのは本来マニフェストに掲げる前にもっとちゃんと検討しておけという話ではあるが、作っちゃったものはもうしかたないわけで、将来に向かってどうするかをちゃんとしろ、というわけだ。

とはいえ個人的には、この部分に違和感がある。それは簡単にいえば、この評価が「マニフェスト評価」だという点に起因する。そもそも総体として有権者は、選ばれる側の意気込みにも関わらず、マニフェストを投票先の選択基準とはしていなかった。この冊子の終わりのほうにアンケート結果が出ているが、その中に「先の選挙の際に、民主党のマニフェストの政策の内容を支持したうえで投票を行いましたか」という設問がある。回答はこう(ちなみにマニフェスト自体はこれ)。

総選挙での民主党への投票について
・マニフェストの内容を支持したから民主党に投票した:13.0%
・民主党に投票したがマニフェストの内容は重視しなかった:16.4%
・民主党に投票したが、マニフェストの内容には疑問や反対の気持ちがあった:27.2%
・民主党には投票しなかった:39.2%
・無回答:4.3%

民主党に投票した理由(民主党に投票した人の中での割合)
・マニフェストの内容を支持したから、民主党に投票した:23.0%
・民主党に投票したが、マニフェストの内容は重視しなかった:29.0%
・民主党に投票したが、マニフェストの内容には疑問や反対の気持ちがあった:48.1%

じゃあ現政権に何を期待したのかというとこう。

鳩山政権に期待した役割
・既得権益に基づいた政治や行政の構造を徹底的に壊すこと:46.0%
・新しい時代に即して社会全体を組み替えること:45.7%
・行政のムダを削減すること:31.5%
・これまでの自民党政治を終わらせること:30.2%
・「官僚依存の政治」から脱却し、「政治主導の政治」を実現すること:25.9%
・持続可能な社会保障制度を確立すること:20.7%
・経済不況を克服すること:16.4%
・貧困者や失業者などのセーフティネットの整備や格差を解消すること:12.3%
・「国民との約束」に基づいた政治を実現すること:10.8%
・地球温暖化対策などで世界をリードすること:8.0%
・市場主義に偏った経済運営を修正すること:7.1%
・対等な日米関係を構築すること:3.4%
・米軍基地を沖縄、あるいは日本から移転させること:0.3%
・特に期待したものはない:6.8%
・その他:5.6%
・無回答:0.6%

上位に挙げられたものもマニフェストの一部だといわれればまあそうなんだろうが、具体的な政策というより、価値観というか原理原則の部分に近い。マニフェストなる概念は、少なくとも日本では具体的な施策、実施期限、数値目標なんかを明示して検証可能性を確保する点で従来の選挙公約とは異なると考えられてるのだろうから、これらはそういう意味のマニフェストとは若干離れるものかと思う。これが有権者の最大の期待だったわけだ。

つまり、マニフェスト自体に期待されるものがあまりない状況で、マニフェストに基づいて政権評価を行うことに意義はどのくらいあるのか、という疑問があるということになる。もちろん、マニフェストに基づく政権選択の必要性は理解できる。だからマニフェストは継続的に評価されなければならないこともわかる。とはいえ実際の政権選択はそうなってはいない。もとより言論NPOの責任ではないが、ジレンマであるにはちがいない。もちろんこの冊子をまとめた方々もその点は充分認識されてるようで、冊子の記述のはしばしから感じ取れるちょっと苦しげな印象は、そういう実情を反映したものだろう。

ここから先は個人的な考え。要するにこのアンケートが示すのは、有権者の期待がマニフェストに掲げられた政策メニューというより「変化」そのもの、選挙ポスターのキャッチコピーにも使われた「政権交代」そのものにあったということだ。これはある意味当然といえば当然。民主党の中にはさまざまな政策傾向をもった政治家がいて、本来同じ党にいること自体おかしいのではないかと思われるくらいの呉越同舟状態になってる。テレビに出てる議員がいうことと、地元選出の議員が地元でいうことがどうみても相容れないなんてことは珍しくないから、ちょっと言いすぎかもしれないが政策に期待しろというほうが正直どうかしてる。しかしこれは自民党もまた同様の呉越同舟状態であることの裏返しでもあるわけで、そのことを有権者は総体としてきちんと認識していたのだろう。

その意味で2009年8月の衆議院総選挙は、「政権に居続けるという目標だけで団結していた寄り合い所帯」と「政権を奪取するという目標だけで団結していた寄り合い所帯」との戦いであり、結果として下馬評どおり、後者が前者を追い落とす入れ替えが起きたという話だったように見える。こんな変化に意味はないという議論もあるかもしれないが、意味はある。過去のしがらみから離れ、新しい目で現状がチェックされること、チェックの不在を前提とした不正や杜撰なふるまいが抑制されること、環境変化への対応がやりやすくなることなどだ。これがまさに政権への期待として上記アンケートにあらわれてる。その意味で、有権者が支持したのは民主党そのものというより、「政権交代が可能な政治体制」ということになろう。

その意味では、たとえマニフェストが実現されなくても支持率が下がっても、民主党政権の歴史的使命はまだ終わったとはいえない。思うにたぶん3つくらいある。1つめは政権交代が実効性のあるオプションだと示すこと、2つめは過去の長期政権で溜まった「膿」を切り出していくこと。1番めはいわずもがなだが(現在はまだおぼつかない)、特に2つめへの期待はいくつかの分野で大きいし、巨額の予算が必要というものばかりでもなさそうだから、ぜひここはがんばっていただきたい。最後の1つが何かについてはあえて書かないが(連想するのは全然関係ない分野だが宇宙の歴史。当初水素とヘリウムしかなかった宇宙で、なぜ地球のように鉄やニッケルといった重い元素で構成される星ができるようになったのかを考えるとよい)、同じ責務を自民党も等しく負っていて、現在民主党に先んじて少しずつ進行中のように見受けられるので、今はなかなか難しいかもしれないが民主党の一部の皆様も、ときがくればぜひ。

言論NPOに関していうと、何より「マニフェスト選挙」なるものがまだ実体を伴わない絵空事に近いという現実とどう折り合いをつけていくかが当面の課題になるのかもしれない。もちろん「べき論」は必要だし、件の選挙でもマニフェストを出させてそれを元に評価したり議論したりしたことの意味は大きいと思うが、実態がそこからかなり離れてしまっていることも事実なわけで。どこをどうしていけばいいのかアイデアは特段ないが(あるといえばある。やや暴論だが)、今のままでは同じようなことが次の選挙でも繰り返されるのではないか。今は政治家も有権者も、空約束の代名詞としての「選挙公約」に慣れすぎてしまっている。それともだんだんマニフェストが機能するようになっていくんだろうか。長期的にはともかく、短期的にはちょっと望み薄、と個人的には思ったりするのだが。

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Comments

それから、よくしらないことを「ばか」がしったかぶりするというのわよくないとおもいます。おとおさんにきいたら、「あたまがわるかったんだねえ」といっていました。ほかのちとがみるとはずかしいらしいので、はやくなおしたほうがいいとおもいまふ。

Posted by: やまぐちひろし(3さい) | March 25, 2010 09:01 AM

やまぐちひろし(3さい)さん、コメントありがとうございます。
確かによく知らないことを知ったかぶりするのは、根拠を挙げられない批判と同じくらい恥ずかしいですね。

Posted by: 山口 浩 | April 11, 2010 08:19 PM

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