ネット選挙運動の「事実上」
期待されたネット選挙運動解禁はいろいろあって成立しなかったわけだが、ここ数回の国勢選挙において、ネットが一定の役割を果たしてきていることは否定できまい。実際、今回もいろいろなことが行われている。何が合法で何がだめなのかについては、最終的には裁判になってみないとわからない部分があったりするので確たることはいえないのだが、いろいろな人がいろいろなことをやってる中で、これは割と平気っぽいのかなと思われるようなものがいくつかあるようなので、もちろん保証はまったくないが、メモしておこうと思う。
以下、いくつか類型を挙げて、例になるかとおぼしきものをつけてみた。マスメディアの場合は一応法的に許されてる部分があるので、ここでは取り扱わない。Togetterによるまとめがブログ貼り付けに便利なので、まあ今回はツイッター中心ということで。一応、自分のTLやハッシュタグでの検索でひっかかったものをピックアップしてるだけなので、発言の選択に政治的意図はない。あと、選挙に行こう、みたいなのはまあ当然問題ないものとして除いた。
候補者、政党関係者が、選挙や政治とまったく無関係の発信を行うこと。
これは、かつては自粛されていたものが、いまやかなりおおっぴらになってきている。法的にみても、これはどうみても選挙運動じゃないだろという内容まで規制するとは思われないし、ということで。
候補者、政党関係者が、遊説や演説の時間や場所に関する情報を発信すること。
これも、もうおおっぴらに行われてるから、まあ問題ないんだろう。
候補者、政党関係者が、選挙運動にあたらない範囲で政治的主張を発信すること。
何が「選挙運動」にあたるのかというのは、実際にはいろいろな要素があるのでいちがいにはいえないというのが「公式見解」らしい。というわけで、政党名、候補者名を出さなかったとしても、政治に関係のありそうなテーマで論評したり意見を述べたりするというのは、場合によってはかなり微妙な線もあるのかもしれないが、例がないわけではない。ここに挙げた例は、まあ選挙運動という感じではないように思う。
政党や政治家以外の者が、政党のマニフェストやその内容、マニフェストに対する意見を発信すること。
マニフェストの配布は公職選挙法上、選挙期間中でも許されていて、ネットでも配布されている。自民党はiPhoneアプリまで作ってるし、各党のマニフェストを比較一覧できるアプリを作ったNPOもあって、そうしたものに関連する情報発信も比較的多いように思われる。また最近は、いわゆるボートマッチのサービスがいくつか出ていて、自分でやってみた結果を発信したりするケースもみられる。
音声で選挙運動にあたる情報を発信し、そのファイルへのリンクをネット上に示すこと。
文書図画の頒布を伴わない音声のみによる発信は、公職選挙法による規制の対象外になっている。だからこれは合法、ということになるが、実際にやってるのは、知ってる限りで民主党の藤末議員のみ。中身を聞いてないが、実際には演説の予定なんかについての情報ぐらいらしい、というツイートを見かけたので、それほど踏み込んだ内容ではないのかもしれない。
政党や政治家以外の人が、選挙運動にかかわりなく自己の政治的主張を発信すること。
有権者としてはこの分野が一番気になるところ。法の線引きはともかくとして、政治に関する関心が一番高まる選挙期間中に、一般人が政治に関して発言できないというのはなんとしてもおかしいわけで。ここで挙げたような発言は、まあ選挙運動、ということにはならない、という理解にしてもらえないだろうか。とはいえ、これは自分の検索のしかたがよくなかったのかもしれないが、ちょっと言説が偏っているようにも見えるのが気になる。
このほか、「○○党に投票しよう」「投票するな」のような、具体的に党名、候補者名を挙げて投票を呼び掛ける、あるいは投票しないことを呼び掛ける発言も、実はたくさん見かけたのだが、これは紹介しない。法的にどうなのかは知らないが、これらの発言が政治的に大きな影響力を持つとは正直あまり思えないし、いちいちやってくのもきりがないだろうから、まあ大目に見ていただけるとよいのではないかと思う。
以上をふまえて、ちょっと感想。ネット選挙運動は、事実上、かなり「解禁」に近い状態まできているというのが実態ではないかと思う。現状で問題がまったくないとは思わないが、ネットがまったく使われなかったころと比べて悪くなったかというと、そんなこともない。もはやあの「詳細」な規制の意味は、ほとんどなくなっているといっていいのではないか。
政治家の方々は、「○○党に投票しよう」「投票するな」のような、直接的な呼び掛けがネットでなされることへの警戒感をお持ちなのかもしれないが、それは、ネットでの言説のあり方をあまり理解しておられないのではないかとも思う。直接的な、押しつけがましい言論は、ネットではかなり割り引かれる、というか、かえって逆効果になることが少なくない。上に書いたような、ここに紹介してないちょっとヤバめのツイートも、読んでて正直うんざりするという以外ない。こういう感想を持つのは、おそらく自分だけではないと思う。もう少し、国民を信用してもらってよいのではないかな。
政治家の皆さんの間ではちょっと熱が下がっちゃってるかもしれないが、「赤信号みんなで渡れば」みたいな図式は正直どうかとも思うので、選挙が終わったらぜひ、早急に、ネット選挙運動の法的な解禁に向けて作業をお願いしたい。
The comments to this entry are closed.
Comments